PEST   作:リボーンズ

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今回も遅くなりましたm(__)m
思うように時間が取れませんが、今回も無事に更新です。


光蝶

2年前。

その少女が目を覚ますと飛び込んできた光景、それは白衣に身を包んだ数人の大人たち。

彼らは少女が目を覚ますと大いに喜んだ。

 

体を起こそうとすると、とえも体が重く感じられた。

まるで、今初めて体を動かすかのような、不思議な感覚。

ぼんやりとした頭には一切の記憶はなく、いったい何故自分が病室らしき部屋にいるこかもわからない。

 

そのとき、少女の脳に鋭い痛みが走った。

 

ああ、そうだ。

彼女はすぐに記憶を取り戻す。

自分はコミュニケーターとして、そしてMMS『アントレーネー』のパイロットとして戦場に駆り出されたのだった。

激闘の果てに人類の敵AAPの母体の1つとされる第2世界樹を撃破したこと。

そして、大切な仲間と妹を失ってしまったことも。

 

生死の境で見た、光の蝶。

あの蝶は美しくそして荒々しくて。

私に迫る化け物を一瞬の内に焼き払った。

どこか懐かしさを感じさせるその光蝶に私は助けられたのだ。

 

流れ落ちる雫を見た研究者たちは、不謹慎にも満足そうに頷く。

 

私の仲間や妹が死んで、満足なのか。

 

戦闘データがたくさん取れて満足なのか。

 

いかなる犠牲を出してでも第二世界樹を殲滅できて満足なのか。

 

悔しさが込み上げ唇から血が滲むほどに強く噛んだ。

自分の弱さが招いた悲劇。

 

拳を握りしめ、さらに悔しさを体に刻みこもうとしたそのとき、体の違和感に気付く。

 

手を動かしたときの感覚、それがまるで自分の体ではないように感じられたのだ。

義手でもなく、体温のある生身。

手だけではない、体全体が自分じゃないようなそんな感覚。

 

しかしその違和感は、時が経つにつれて少なくなりやがて完全に無くなってしまった。

 

 

 

前代未聞の超大型AAPフォートレスを防衛都市内部へ誘導することに成功した第88独立機動中隊。

フォートレスから吐き出される無数の小型AAP、レーザー攻撃に対して苦戦を強いられている最中にあった。

 

疑似無限機関のリミッターを解除し一時的に機体のスペックを底上げしたとしても到底敵う相手ではない。

むしろ、フォートレスから放たれる小型の群れを迎え撃つのが限界である。

 

「8時の方向から戦闘機型2体来るよ。5秒後にはフォートレスからレーザーが撃たれる。」

 

エーベルの予知能力のおかげで今のところ誰一人として大きな損傷を被ってはいない。

しかしどんなに敵の動きがわかっていても、人間には体力の限界があるのだ。

無限の体力に近いAAPはどこまでも追ってくる、故に確実に仕留めなければあっという間に群がってくる。

 

弾薬がほとんど尽き、機体の残エネルギーも3割を切ったところでレーダーに友軍機の姿が映った。

識別番号から考えるに、クーデリカのノーヴィアントレーネーである。

 

「皆さんすみません、遅くなりました。」

 

クーデリカの到着に士気が高まるも、クーデリカを除く各機に1つの連絡が入れられた。

そこ内容は、撤退命令であった。

 

「クーデリカを置いてあたし達だけ逃げろって言うの...?」

 

ゼシル達は単にフォートレスを都市内部へと誘導する任務が与えられていた。

その後はクーデリカを含む友軍機による部隊と交代し、場合によっては自分達も参戦してフォートレスを殲滅するものかと思っていたのだ。

 

しかし送られてきた援軍はノーヴィアントレーネーのみ。

新装備らしきものを背負ってはいるが、あまりに心許ない。

 

「皆さん、早く撤退を。ここは私がなんとかします。」

 

「馬鹿言うな!クーデリカ一人で勝てる相手じゃない!」

 

思わずゼシルも声を上げた。

どんな装備なのかはわからないがフォートレスを単機で撃破するなどできるはずがない。

 

「皆さんを巻き込むわけにはいきません。だから、早く。」

 

フォートレスはその間にも小型種を次々と生み出していく。

 

「シエル、皆を連れて撤退して。」

 

ノエルが突然、そんなことを言った。

それはノエルは一人でも残るという意思表示に他ならない。

 

「で、でも!」

 

「ノエル、俺も残る。一人で危険な目に遭うのはダメだ。」

 

ゼシルもノエルの発言には拒絶を示した。

大切な仲間を置いて逃げる訳にはいかない。

周りを考えず闇雲に危険の中に飛び込むのは蛮勇に他ならない。

しかし、大切な仲間を信じて1つにまとまることさえできればどんな困難にだって立ち向かえる。

 

ちっぽけな存在であるゼシルはエーベルに教えてもらったのだ。

自惚れや傲慢かもしれないがどんなに小さな範囲でも自分が守れる最大限のものを守ればいいと。

そこには仲間がいて大切な人がいる。

 

だから――

 

「クーデリカ、俺達も手伝う。君を一人にはしないから。」

 

 

 

ゼシルの言葉に、自分は一人じゃないという実感が込み上げてきた。

クーデリカ自身、何やら嫌な予感が頭から離れずに不安であったのだ。

 

仲間の大切さを教えてもらった88中隊のメンバーにクーデリカは大きな感謝をしていた。

今ならわかる、一人の限界の存在。

それを補い合うのが仲間であるのだと。

 

だから、もう怖くない。

 

迫り来るフォートレスの前にノーヴィアントレーネーを飛翔させ、その進路を塞いだ。

その間にも無数の小型種が群がり、ホーネットを射出して迎撃する。

ゼシル達の援護射撃も加わりなんとか攻め込まれずにいるが、一向にAAPは数を減らさない。

 

「皆さん、私から距離を置いてください。近すぎると巻き込む可能性があります。――援護は任せます。」

 

少し前のクーデリカなら絶対に言わなかったであろう言葉。

仲間に背中を預けることなど、かつての彼女は考えもしなかっただろう。

 

だが、今は仲間がいる。

 

相互の信頼関係こそが何よりも強い力なのだ。

 

「パーピリオシステム、起動。」

 

コクピット内のモニターが瞬時に赤く染まり、ノーヴィアントレーネーの操縦システムが別のものへと切り替わる。

機体の背中に搭載されたパーピリオブースターのリミットが次々と解除され、目映い程の赤い光を一気に放出した。

 

やがてそれは羽の形を形成し、その姿は光の羽を持つ蝶に見える。

 

その様子に臆することなくAAPは再び攻撃を開始した。

しかしAAPがノーヴィアントレーネーに近づく前に、光の羽から放たれるエネルギー粒子によって一瞬の内に蒸発してしまった。

 

今度はフォートレスの体中の砲口が開き、体内から溜め込んだエネルギーを同時に撃ち出す。

10本以上に及ぶ高エネルギーのレーザー。

 

直撃の寸前、ノーヴィアントレーネーが大きく羽ばたく。

 

撒き散らされたエネルギーの粒子が、フォートレスからのレーザー攻撃を完全に相殺したのだ。

鉄壁の守りを持つ凶暴で美しい光の蝶。

 

「この光の羽は...。」

 

コクピットの中でクーデリカは呟いた。

クーデリカはこの光の蝶に見覚えがあったのだ。

そう、あれは第二世界樹攻略作戦のとき。

大破した当時の乗機『アントレーネー』のコクピットから見上げていた、あの光の蝶だ。

それは幻覚でもなく、実在していたということ。

 

出撃前にエドガーが言葉を濁した理由は、既に一度クーデリカはこれを見たことがある、ということを言いたかっからだろうか?

 

「うっ...。」

 

コクピット内のモニターに映される光の羽を見ていると、不意に頭に激痛が走った。

 

脳内に駆け巡る、いつかの記憶。

いつの記憶だったか、いまいちわからない。

だが、それは自分がMMSのパイロットになってからだということはわかった。  

大破して地面に倒れる蜂型MMSを、宙に浮遊するMMSのコクピットの中から見下ろしている、そんな一瞬の記憶。

 

あれ...?

 

蜂型MMSはアントレーネーであろう。

かつての乗機だからそれは間違いようがない。

複数機存在していたという記録もなく、唯一のアントレーネーに乗っていたのは他ならぬクーデリカ本人だ。

 

では、この記憶はなんだ?

 

なぜ自分が乗っているはずの機体を、別の機体から見下ろしているという記憶があるのだ?

 

「なに、これ...。」

 

その記憶が脳内に現れたのを契機に、次々と別の記憶が頭の中に流れ込む。

今まで経験したことのない記憶、そして、クーデリカ自身の今までの記憶が揺らぎ始めた。

 

その瞬間、クーデリカは全てを理解した。

いや、全てを思い出した。

 

2年前のあの日、第二世界樹攻略作戦。

大破したアントレーネーに乗っていたのは、マナロフ姉妹。

 

そして、彼女はマナロフ姉妹救出のため、極秘に開発されていたMMSで出撃した。

 

エネルギー粒子を羽に持つ、光の蝶。

その機体でアントレーネーを救出しようとしたのだが、既に手遅れだった。

アントレーネーに群がる大型、中型種は容赦なく機体のコクピットを潰した。

間違いなくパイロットは死亡しているだろう。

 

やめて、やめて...。

 

体の震えが止まらない。

 

「私は、誰...?」

 

アントレーネーに乗っていたパイロットは、助かっていないだろう。

彼女の目の前で、そのコクピットを潰されたのだから。

 

では、今ここにいる私は何者なのか?

 

同時に起きた2つの記憶が、1人の頭にあるはずがない。

どちらかが夢か、あるいは...。

 

そうだ、あの記憶は夢だ。

私は紛れもなくクーデリカ・マナロフ本人で、あの日を無事に生き残り、失った仲間や妹に対して償うために今を戦い続けている。

 

嫌な考えを振り払うためにも、目の前の敵に集中しなければ。

 

しかしクーデリカ本人に対して、その記憶は単なる夢として片付けることはできなかった。

何しろ、このパーピリオシステムを使ったときの感覚に既視感を覚えずにはいられなかったからである。

 

エドガーが出撃前に放った言葉。

 

『あなたは既に一度...いえ、何でもありません。』

 

クーデリカがかつてパーピリオブースターを使ったことがあるというのなら、辻褄が合う。

 

仮にそれが事実だとして、その場合今ここにいるクーデリカは何なのか。

 

考えたくもない、だけど、私は...。

 

「どうです、2年ぶりのパーピリオシステムは?」

 

そのとき、コクピットのモニターに一番見たくない顔が現れた。

エドガー・スタインズからの通信である。

 

2年ぶりのパーピリオシステム、やはりクーデリカは2年前にこれを使っていたということだ。

 

「当時は自作段階のシステムでしたからねぇ。ですが、少しは色々と思い出しました?」

 

「何、言ってるんですか...?」

 

目の前にフォートレスが迫っているのにも関わらず、体が動かない。

全身が冷えていく感覚がはっきりとわかった。

 

「もうじき『最終浄化』が始まりますから、決戦に向けてあなたを回収しようと思いまして。ですが、普通に言ってもあなた言うこと聞きませんよねぇ?変な友情やら仲間意識やらを植えつけられてしまって。だから、本来のあなたに戻ってほしいと思いましてね。」

 

エドガーはさらに言葉を続けた。

 

「2年前、まだあなたは私に忠実でした。ですが、クーデリカ・マナロフが死んだあの日以降、あなたは変わってしまった。もっとも、貴重なコミュニケーターが死んだとなれば上層部もうるさいですし、仕方なくクローンのあなたにオリジナルの記憶を移植したわけです。まあ、性格までオリジナルそっくりになってしまって困りましたけどね。」

 

クーデリカ・マナロフの死亡、クローン、記憶の移植。

 

その言葉だけで全てを悟った。

私は、造られた存在なのだと。

今まで戦い続けてきた理由も、全ては私の意思ではなく、造られた記憶から生み出された幻想。

 

オリジナルのクーデリカが死ぬ瞬間までの記憶を、クローンの私に植え付けて、本人に限りなく近い存在となった別人、それが私。

 

「いや、いや、いやああぁぁっ!!」

 

その瞬間、ヒトとしての心が、壊れた気がした。

全てを拒絶し、自分すらも拒絶し、この世界さえも拒絶する。

造られた価値観のために、造られた信念のために、私は悩み苦しみ、戦ってきたというのか。

それは、私という存在を否定するに等しい。

 

私という人格は不要で、必要なのはオリジナルの予備としての私。

 

彼女の心に共鳴するかのようにパーピリオシステムは暴走を始めた。

出力の限界値を越え、それでもなおエネルギーの放出は止まらない。

 

ヒトとしての心を失いつつあるクーデリカは、涙を流しながら自嘲気味に自らを笑った。

 

 

 

クーデリカの異変に逸早く気づいたのはゼシルであった。

先程から動きが止まり、それでいて突然、ノーヴィアントレーネー背部の装備から高エネルギー反応が急速に増大したのだ。

 

「クーデリカ、どうしたの?何かあったの?」

 

必死に呼び掛けるも、返ってくる言葉ない。

代わりに流れてくるのはしゃくり上げるような泣き声と、不安定な笑い声。

 

「ノエル、クーデリカの様子が変だ。」

 

「でも今は近づけないわ。せめてあの化け物をなんとかしないと...。」

 

スピーカーからクーデリカの狂ったような笑い声が流れ、それと同時にノーヴィアントレーネーの光の羽から無数の光の筋が現れる。

連射の利く高エネルギー圧縮照射砲といったところか、それどころかその光の筋が意思を持っているかのようにうねり、フォートレスに襲いかかった。

 

計数十本に及ぶ光の筋は、たちまちフォートレスを無力化していく。

生み出された小型種もノーヴィアントレーネーに近づくことさえ叶わずに空気の塵となっていった。

 

「これが、クーデリカの力なのか...?」

 

一瞬の内にフォートレスは体の8割以上が失われ、ついに活動を停止する。

しかし、それでもクーデリカの攻撃は止まらなかった。

 

もはや手当たり次第に光の筋を撃ち込み、破壊の限りを尽くす。

 

「クーデリカ、止まれ!何やってるんだ!」

 

ゼシルがプレディカドールをノーヴィアントレーネーへ向けて飛翔させた。

だが、その光の筋はゼシルにさえも襲いかかったのだ。

 

「クーデリカっ!?」

 

プレディカドールの右腕が蒸発し、思わずゼシルは動きを止めてしまう。

尋常ではないクーデリカの様子に戸惑いを隠せなかった。

 

彼女の身に何があったのか心配でならないが、まずは彼女を止めることが先決だと判断。

 

プレディカドールを最大速度でノーヴィアントレーネーへ向けて飛ばす。

ノエルの制止の声が聞こえたが無視した。

後で怒られるとわかってはいるが、今は立ち止まってなどいられない。

何度も攻撃を向けられるも、ゼシルの反射神経ならば難なく避けることができた。

 

勢いを殺すことなくノーヴィアントレーネーへ体当たりをかまし、機体を組みつかせる。

 

「クーデリカ、しっかりして!」

 

「私は、私は...!」

 

錯乱しているのか、言葉がはっきりとしていない。

精神が壊れてしまったかのように、泣き声と笑い声が同時に発せられている。

 

プレディカドールの左腕をノーヴィアントレーネーの背中に回し、コクピット同士の距離を極限まで近づけた。

受信型のコミュニケーターのクーデリカを信じて、ゼシルはひたすらに念じた。

 

「クーデリカ、目を覚まして」

 

やがてクーデリカの泣き声と笑い声が止まり、言葉がはっきりとしてきた。

ゼシルの想いが届いたのか、ようやく彼女は落ち着きを取り戻しつつあった。

 

「ゼシル中尉、私は...。」

 

その瞬間、ゼシルのコクピット内に声が響いた。

 

「ゼシル、危ないっ!」

 

機体の警告アラートが鳴り響き、咄嗟に背後を振り向く。

沈黙したはずのフォートレスの砲口から光が溢れ、やがてレーザーを撃ち出した。

 

クーデリカもゼシルも咄嗟に動けるはずはなく、その光が徐々に近づいてくるのを呆然と見つめていた。

 

しかし、それを遮るように何かがゼシル達の前に姿を晒す。

 

「もっと早く、気づければ...。」

 

エーベルのプレディカドールが彼らを庇うように立ちはだかり、そして、フォートレスのレーザーに撃ち抜かれた。

 

 

 




クーデリカをメインに置いた回でした。
ここからは88中隊の絆が試されます。
また、エーベルにも危機が訪れ、その詳細は次回ということになります。
次回も更新は遅くなるかもしれませんが、よろしくお願いいたしますm(__)m
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