PEST   作:リボーンズ

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今回は比較的早く投稿できました。
珍しくやることが少なくてラッキーな週でした。
さて、最終回までもう少しですし、テンポ良くいきたいところですね。


本当の自分に

「2番機、3番機は左右に展開しろ。相手は1機だ、挟み込んで撃破する。」

 

海上を飛翔する3機のプレディカドール弐式。

保安局の鎮圧部隊が出撃させた機体である。

P.E.S.T本部管轄のMMSハンガーから1機のプレディカドール壱式が奪取されるという事件が発生したのだ。

内部に協力者がいたのか、いとも容易く逃走され、今はこうしてMMSを用いて追跡しているというわけだ。

 

「しかし命令は捕獲です、撃墜なんてしてしまったら!」

 

「構わん。相手はあの88中隊のパイロットだ。殺す気でかからないと逆に墜とされるぞ。」

 

88中隊、そこに所属するパイロットはほとんどが凄腕のパイロットであると聞く。

バニミール姉妹、狙撃手、爆撃機、狂戦士、予見眼、コミュニケーター。

現状のP.E.S.T内においてトップクラスの隊であることは間違いない。

 

「目標、射程内に入りました。」

 

「よし、各機攻撃開始!」

 

3機のプレディカドールから無数の弾丸が吐き出された。

闇夜が火花に彩られ、争いの開幕を告げる。

 

壱式は旧型機であるため、反応速度が弐式に追いつかない。

通常のパイロットなら機体性能の差のみで勝負がついてしまうだろう。

ましてや、こちらは弐式を3機も投入しているのだから。

 

しかし、今回は話が別である。

エースパイロット、88中隊所属ゼシル・ミラーガ中尉が搭乗しているらしい。

初陣にて大型種を単機で撃破、ニュージーランド攻略作戦にも参加した凄腕のパイロット。

 

そんなパイロットと交戦するのは気が引けるが、こちらは数で優勢だ。

いかにエースパイロットでも、旧型機で新型機3機を相手にするのは厳しいものがあるだろう。

本気でかかれば十分に勝てると想定していた。

 

「えぇい、ちょこまかと!」

 

壱式はこちらの射線を読んでいるのか、機体性能の差を感じさせない程に軽々と避けてみせた。

 

そして急転回し、ほとんど狙いも定めずに反撃の弾丸を撃ち出した。

 

「ぐあっ、カメラがっ!?」

 

「狙撃技能の高さは噂通りか...!」

 

その狙いも定めない弾丸が、こちらの機体の頭部のみを撃ち抜いた。

敵パイロットは狙撃技能を同期内ではトップレベルの成績を残したらしい。

厄介な者を敵に回してしまった。

 

「突撃する、3番機は援護を!」

 

弐式の1機がガン・シックルをシックルモードへと切り替え、一気に加速して逃亡者へと迫る。

機体速度はどう足掻いたとしても新型機には敵うわけがない。

容易く距離を詰め、斬り裂かんとばかりに凶刃を閃かせる。

 

「いくらエースパイロットと言えどもっ!」

 

反応速度が芳しくない壱式は、一瞬だけ迎撃行動が鈍る。

この距離では回避できない、こちらの勝利を確信した。

 

金属同士がぶつかる音が響き、わずかな抵抗感を覚えた後、敵機の片腕を斬り裂いたことを確認する。

 

だが、同時に1番機のパイロットは見てしまった。

 

壱式のコクピットが開かれており、内部のパイロットがこちらに何かを放り投げたのを。

 

「しまった――」

 

次の瞬間モニターに目映い光が広がり、視界を奪われる。

パイロットが放り投げた物が閃光弾であることに気付いた時には既に遅かった。

 

次いで襲いかかってくる強い衝撃。

蹴られたか、体当たりされたかはわからないが、機体が一気に落ちていくのを感じる。

 

視界の回復を待っていては逃げられてしまう、レーダーを頼りに追跡を続行させようとするが、追撃の弾丸により羽を破壊されてしまった。

 

「くそ、くそ、くそぉ!3番機、必ず奴を仕留めろ!」

 

「だ、ダメです!武装をやられました!」

 

たった1つの小細工で、一瞬の内に2機の弐式を無力化されてしまった。

 

ただ唖然とするしかない。

これがエースパイロットの実力、完全に侮っていた。

 

視界が戻る頃には壱式の発する疑似無限機関の光が小さくなっていた。

 

 

 

 

僕は何者なのだろうか。

その問いは数年間、ずっと頭の隅に存在していた。

何故、化け物の動きが読めるのか。

失った記憶と何か関係があるのではないか。

ずっとそれを考え、それでも答えが見つからず、苛立つ時さえあったのだ。

 

しかし、唐突にその答えは姿を現した。

 

先日のフォートレス戦でのことだった。

 

クーデリカに不調が見られ、彼女に寄り添うゼシル達。

フォートレスを撃破したと思い込み、油断していた時にフォートレスが最後の一撃を放ったのだ。

 

もちろん、僕は予見眼の能力で完全にその攻撃を見抜けた。

だがゼシル達にその能力は無く、僕が危険を知らせたところで間に合うとは思えない。

 

だから、僕は彼らの盾になった。

 

フォートレスの放つレーザーはコクピット付近に直撃。

いや、半分はコクピットに当たったと言ってもいい。

 

AAPが体内に溜め込んだエネルギーを熱エネルギーとして放出するその攻撃は容易くコクピットの外装を溶かす。

そして、僕の左腕も一瞬の内に奪われた。

 

迸る激痛と僕を包み込む灼熱で、死を覚悟したくらいだ。

 

落下していくプレディカドールの中、朦朧とする意識に不意に割り込む何かがあった。

視界の端に、赤く凶暴な光を発する蝶の姿。

 

エネルギー光、現代文明の叡知の光。

 

その瞬間、脳内に大量の情報が流れてきた。

それは失われた記憶の全貌。

僕が何者なのか、予見眼の力の意味、何を成すべきなのか。

全ての答えが繋がる。

 

同時に本能的な衝動のように、その蝶の赤い光を求めた。

壊れた箇所を復元する生命エネルギーとして、その光を欲していた。

 

間もなく、奪われた左腕を再生することに成功する。

人間とはかけ離れた生命力。

生えてきた腕は、人間の皮膚ではなく木のような固い組織で構成されていた。

まるで、そこだけ植物になっているかのような。

 

しかしそれも、僅かな時間で人間味を帯びた皮膚へと変貌する。

 

僕はそういう存在なのだと、改めて実感した。

 

「――少尉、ハーネ少尉。話聞いてました?」

 

溜め息混じりに困った顔でこちらを見るのはエドガー・スタインズ。

 

「え?あぁ、僕の取り調べでしたね。」

 

急激に意識を引き戻される。

ようやく記憶を戻し、少しばかり脳内を整理したかったのだが技術開発局は待ってくれない。

 

「取り調べとは人聞きの悪い。単なる面接と思ってくれて構わないのですがねぇ。」

 

本日から技術開発局直属の特殊部隊の一員となったエーベルは、現在こうしてエドガーと話をしていた。 

 

既にニュージーランド仮設基地に到着した第一陣はしばらくの間ここに駐留する。

何やら、エドガーの言う『最終浄化』が近いかららしいが、勿論これは技術開発局の中でも知る者は少ない。

 

何故、そんな機密をエーベルに話したのかは不明だが、これはエーベルに取ってはチャンスなのだ。

彼が成さなければならないこと、記憶が戻ってようやくはっきりとした。

そしてそれは、最終浄化と関係する。

 

一方で、何やらエドガーは今更になって予見眼の能力に興味を持ち始めたようである。

以前にはこの能力がコミュニケーターと無関係だとわかった途端、興味を失っていたくせに。

少し不可解ではあるが、そういった理由で今回エーベルを連れ出したのだろう。

 

「ところで、最近奇妙な写真を見つけましてねぇ。これに見覚えはありませんか?」

 

急に、エドガーは話題を変えてきた。

わざとこちらの興味を引くかのように、エドガーは勿体ぶった手付きで懐から1枚の写真を取り出す。

 

やけに古い写真のようである。

 

その写真を覗き込むと、そこに映っていたのは...。

 

「っ!?」

 

「表情が変わりましたね、エーベル・ハーネ少尉。やはりこれに、見覚えがあるのですね?」

 

動揺を隠しきれなかったことに悔しさを感じるが、無理もない話だ。

なにしろ、その古い写真に映っていたのはエーベル本人だったのだから。

 

「ちなみにこれ、ノア・シュタインベルグの書物から出てきたんですよ。えぇと、確か人工生命体の書物でしたか。クローン技術に類似したものです。何か、繋がりでもあるんですかねぇ?」

 

不敵な笑みを浮かべながら問う。

エドガーの中では、既に結論が出ているのだろう。

 

ノア・シュタインベルグが造り出した人工生命体。

意図的に生み出された存在、それがエーベル・ハーネ。

エドガーの推測は恐らくそういうものだろう。

 

「仮にそうだとしたら、どうするつもりですか?僕が造られた存在だとして、主任さんに何かメリットでも?」

 

至って平然と答える。

 

「あなたが造られた存在だとすると、全ての辻褄が合うんですよ。私の仮説が正しいことになる。」

 

「その仮説とやら、聞かせて欲しいものですね。」

 

エドガーは席を立ち、スクリーンに多数のウィンドウを出現させた。

複数の写真ファイル、何かの設計図など、たくさんある。

 

「まず、AAPが出現したのはここ最近の話ではないということです。――実を言いますとね、AAPは2000年代に入る前に出現していたんですよ。」

 

2056年、世界多発地震によって多数の『樹』が出現、それに伴ってAAPが出現した。

これが表向きの経緯だ。

しかし、これは偽りだということか。

 

ウィンドウを拡大させ、1枚の画像を表示させる。

映っているのは小型の四足歩行型のAAP。

 

「これが最初に確認されたというAAP。1970年代、ノアが発見したそうですよ。」

 

ノアの日記に、それらしき記述があったことも確認済みらしい。

 

「ノアとAAPの出会いが、偉大なる技術を生み出すことになるのです。彼はAAPを単なる害獣ではなく研究対象として捉えました。」

 

さらにエドガーは画面を切り替える。

今度はAAPの構成図のようだ。

解剖されたのであろうAAPの、細かなスケッチの画像。

 

「本来植物は光合成の他に根からも養分を吸い上げます。ところがAAPの多くは根を持たず、それでいて自由に動き回るだけのエネルギーが必要でした。それだけのエネルギーをどこから獲得したのか、そこにノアは目をつけました。」

 

手にしたペンでスケッチの、とある部分を示す。

AAPの体内にある、種のような形をした物体。

 

「ノアはAAPのエネルギー源は別の場所にある、という仮説を立てました。どこかにあるエネルギーを生成する天然の装置、そしてエネルギーはこの『種』が無線式に受容していた、ということです。」

 

画面がまたも切り替わり、次いで現れたのは『無限機関』の予想図。

完全に再現はできていないが、人類は無限機関の開発を未だに諦めていない。

 

「それと全く同じ原理で開発されたのがノアの最高傑作『無限機関』だと私は考えます。彼が開発したのは無限にエネルギーを生成する魔法の機械ではなく、既にある天然のエネルギー源を無線式に繋ぐ回路に過ぎません。」

 

そこでようやく、エーベルが口を開く。

立ち上がって、反論するかのような形相である。

 

「では人類が模倣した『疑似無限機関』はどういうことですか?原理がわかっていながら、現代文明で再現できないものですか?」

 

「そもそも人類は、『無限機関』が無制限にエネルギーを生成する機械だと勘違いしています。だから必死にその『魔法の機械』のような物の再現を試みてはいますが、そもそもノアでさえ、無制限にエネルギーを生み出す装置を作り出せてはいないのです。だから『疑似』として単にエネルギーの大元を無線式に繋ぐだけの機械を造りました。それが、『疑似無限機関』。

しかし実態は、ノアが作り出したとされる『無限機関』も現代の人類が作り出した『疑似無限機関』も大差ない物だということですよ。肝心なのは、その天然のエネルギー生成装置が何なのか、ということです。」

 

天然のエネルギー生成装置。

むしろ、これこそが『無限機関』だとも言える。

だが、ノアが作り出し無限機関と名付けた物は、天然のエネルギー生成装置から単に供給を受ける器に過ぎない、エドガーはそう言っているのだ。

 

「ノアはその答えを知っていた。当時は地面に埋まっていたのであろう『世界樹』の存在さえもノアは確認していたそうです。世界樹の根本に位置するその装置と、そのエネルギーを受け取る『種』を持つAAP、この繋がりに気づいただけのこと。私も不思議だと思っていたんですよ。無限に大量のエネルギーを生み出す装置など、人間に作れるはずがないとね。確かにノアは天才ですが、無限機関だけは、自然に頼った偽りの作品だったということです。」

 

話を聞き終えたエーベルは、小さく溜め息をつく。

その表情は真剣なもので、エドガーの仮説を整理しているようでもあった。

 

「その『種』さえあれば、不死身の生命を造り出すことも可能でしょう。ハーネ少尉、あなたのような長く生きられる人間も造れる、というわけです。」

 

エーベルは『種』を持つ人工生命体だとエドガーは考えている。

そして、それは――

 

「さすがに鋭い考えですね、主任さん。見事な推理です。」

 

肯定するしかなかった。

エーベルはノアに生み出された人造人間。

彼の研究を引き継ぐために、永遠の命を与えられた存在。

 

今もなお、世界樹からエネルギーを受容し続けている。

 

仮説が確信に変わった瞬間、エドガーから不敵な笑みが溢れた。

勝利を確信した決闘者を思わせる、歪んだ笑み。

 

「ならば、私に協力していただきたい。ノアの近くで真実を見た君なら、理想の世界を作れるかもしれませんねぇ。」

 

いきなり、エーベルが左腕を前に突き出した。

その腕は半ばから人間的な肉体から植物の触手のようなものへと姿を変えていた。

その触手が、エドガーの首の真横の壁に突き刺さる。

 

「僕はあなたの理想に付き合うつもりはない。単に、僕の役目を果たすだけ。そのために今はあなたについていく、それだけのことです。」

 

エドガーは不意に高笑いをして見せた。

全く恐怖を感じていないのか、やけに自信に溢れている。

 

「くはははは...!面白いですねぇ、本当。さすがはノアの使い。せいぜい目的のために頑張ってください。でも、我々の邪魔だけは許しませんよ?」

 

それだけを言い残し、その場を立ち去った。

 

 

 

ニュージーランド仮設基地、現在は運用可能を目指して多数の作業部隊が駐留している。

本来他の部隊はまだ配備されていないのだが、技術開発局は裏の指揮系統を用いて先行的に拠点としている。

 

ゼシルはプレディカドール壱式を駆って当基地へと向かっていた。

疑似無限機関の生み出すエネルギーが減少し、限界に近づいていた。

使い続けるとオーバーヒートしてしまうため、無理に使うわけにはいかない。

 

「そろそろタイムリミットか...。」

 

プレディカドール壱式がオーバーヒートを警戒して自動的にシステムをダウンさせる。

ここからは徒歩で基地まで移動しなければならないが、もう目の前である。

 

簡単に武装し、機体から降りてひたすら駆けた。

本部から逃げてまる2日、太陽も沈もうとしていた。

暗闇に紛れて接近、隠密性の高いスーツを着用していたおかげで簡単に基地の内部へと侵入する。

もっとも、仮設段階の基地であるためセキュリティ面が弱いということもあったのだが。

 

道中、シエルが技術開発局の情報システムにハッキングを仕掛け、そこから盗み出したデータを受け取っていた。

仮設基地の技術開発局に宛がわれる区域の内部図。

小型の端末で確認しつつ、クーデリカのいる場所を目指した。

 

元々、軍事基地ではなかった空港を利用しているため内部の構造は複雑ではない。

配置されている兵も少なく、内部を歩き回るのも難しくなさそうである。

 

しばらく歩き、目的の場所へと辿り着く。

 

この壁の向こうに、クーデリカがいる。

生きることを諦めかけた彼女に、何と声をかけようか。

 

「迷っちゃダメだ。」

 

考えるよりもまずは動く。

出来る限り音を立てずに、その扉をノックする。

しかし、当然と言えば当然だが扉は開かない。

 

当然と言えば当然だが、閉じ込められているのだから自由に開け閉めできるわけじゃない。

 

ゼシルは天井を見上げ、その上に人が通れそうな空間があることを確認した。

 

「よし。」

 

基本的にこういった空間は各部屋へと繋がっているものだ。

昔見たスパイ映画でも、こうした空間を通っていたのを見たことがある。

 

天井裏の通路を通り、丁度クーデリカが収容されているであろう部屋の真上に辿り着く。

侵入する前に、シエルから貰っていたシステムハッキング用のプログラムを用いて監視カメラを掌握する。

数時間前の映像を上書きさせ、侵入したことに気づかせない算段だ。

 

鉄格子を蹴り落とし、部屋へと侵入を果たした。

 

「だ、誰!?」

 

声を聞いてクーデリカだとすぐにわかった。

しかし、こちらはマスクをしているため不審者にしか見えないだろう。

騒がれるのも面倒になるため、足払いを仕掛けて床に倒し、口を押さえ付けた。

 

「驚かせてごめんね?」

 

少々外すのが面倒なマスクをやっとのことで外し、顔を見せる。

 

「ゼシル少尉?なんで...?」

 

驚いたような悲しそうな、そんな表情を浮かべていた。

 

「君の気持ちを、もう一度聞くために来た。」

 

「私の気持ち...?」

 

フォートレス戦で、彼女の心の叫びを聞いた。

既に死んだ者の予備として生み出された存在、抱いてきた信念さえもが造り物であったと知ったときの、絶望間。

 

そして彼女は命を絶とうとした。

 

だけど、その中に感じた僅かな生きたいという意思を、ゼシルは見逃さなかった。

 

生きたいという気持ちと、生きている価値がないと決めつける気持ちが混在し、葛藤していたのだろう。

 

「このままスタインズの駒にされるか、ここから逃げて自由に生きるか。それを聞きに来た。」

 

クーデリカは僅かに涙を浮かべ、ゼシルの襟に掴みかかった。

 

「自由に生きるなんて、許されるわけないじゃないですか!役目を与えられた人形が、役目を放棄したら存在価値が無くなるんですよ...!せめて、信念も希望も尽き果てた今は、人形としての役割を果たさないと...!私の価値が、無くなってしまうんです!」

 

本物のクーデリカではない、それを知った彼女はもはや、その存在意義がないと決めつけているようだ。

 

そんな、悲しいことはあってはならない。

 

「もう私はクーデリカじゃない。主任の駒として生きるしか、その存在を許されない!私を必要としてくれるのは、生み親の主任だけですから、最後の拠り所から、離れたくないんですよ..!」

 

「君は本当に、それでいいの?」

 

静かに、だが強くゼシルは問いかける。

自分の気持ちを抑えてまで存在意義を求める。

それは、幸せなのだろうか?

 

「だって、私は...!」

 

クーデリカとして、或いはスタインズの忠実な駒としてのみ、存在を許された少女。

そんな彼女に何とか救いの手を差し伸べたい。

 

「まだ、『クーデリカとして』生き続けたかった?」

 

「かつての仲間は、オリジナルを生かそうとして、死にました。でも、私がクーデリカとして生きていたら、それは裏切りになってしまいます。偽って生き延びたって、彼女の死は消せない。クーデリカは、彼女だけだから。私はその時点で同じ存在にはなれないんです。」

 

同じ存在にはなれない。

それを理解してもなお、同一化を強要された彼女は辛いものがあっただろう。

 

理解しているとはすなわち、自らの存在意義を否定することに繋がるのだから。

 

「私は、生きていても仕方のない存在ですから。駒として役目を全うして、散りたい。」

 

それが、彼女の願いなのか。

いや、違う。

一瞬でも生きたいと感じたのなら、まだこの世に未練があるのだ。

 

「君の命は、君のものだよ。誰かになろうなんて、誰にも出来やしない。誰が何と言おうと、生まれついたその瞬間から命は君だけのものだ。クーデリカになる必要もない。役目なんて、そんなの勝手に人が決めたことだろう?」

 

クーデリカの目から、大粒の涙が溢れる。

まるで小さい子どものように、その少女は泣きじゃくった。

 

「君がオリジナルになろうとしたら、それまでの君自身は存在しなかったことになる。そんなの、ダメだよ。自分の存在は自分で誇らなきゃ。記憶を引き継いでいたって、それら全てが今の君を構成しているなら、それでいいじゃないか。全部まとめて、俺らには大切な仲間なんだから。」

 

「私は、自由に生きても、いいんでしょうか...?」

 

誰かに強制された生き方なんて、生きているとは言えない。

存在意義に固執した彼女を待ち受けるのはきっと、過酷な道だ。

 

人ならば誰でも持っている自由さえも奪われた彼女を救うには、こうして歪んだ存在意義の必要性を壊すしかない。

 

「君が君自身であり続けるために、ここから逃げ出さないと。帰ろう、皆のところに。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございますm(__)m
エーベルとクーデリカ、二人に焦点を当てた回でした。
今回は少し情報量が多くて分かりにくかったかもしれません。

次回からはいよいよ最終決戦に向けて動き始めます。
新型機も投入しようか、迷っております。
2週間後くらいになるかもしれませんが、引き続き頑張っていきます。
では、また次回m(__)m
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