本当はもう1話ほど挟めれば字数も平均的になるのですが、後は駆け抜けるだけって感じなので今回含めて残り2話で完結させる予定です。
「見てごらん、これが『トゥテラリィ』だ。美しく、壮大な光だろう?」
赤く光を発する、大きな球体。
それを一人の男が惚惚と見つめていた。
トゥテラリィ。
守護者を意味する言葉を冠したその球体を、男の隣で一人の少年もまた、見つめていた。
「これは、トゥテラリィは、世界を救うのでしょうか?」
小さく少年は言葉を洩らす。
「ああ、世界は救われる。最初の形で、いつまでもね...。」
ニュージーランドの仮設基地へと侵入したゼシルは、無事にクーデリカの元へと辿り着くことに成功した。
生きることを、希望を捨てようとした彼女を救うために。
彼女の命は彼女個人のものであると、伝えるために。
決死の思いで無茶をしたのだ。
ノエルやシエルにも迷惑をかけた。
恐らく、今は保安局に取り調べを受けているだろう。
勿論、ゼシルも本部へと戻ったら囚われの身となる。
だが、彼はそれでもいいと思っていた。
仲間が訳のわからない研究機関の実験体とされてしまうくらいなら、規則違反などお安いご用である。
今は、ひたすらこの施設から脱出することだけを考える。
「本部に戻ったところで、私はまたこっちに送り返されるんじゃないですか...?」
突然、クーデリカがそんな事を聞いてきた。
元々は上層部の一部の者からの命令でクーデリカは技術開発局に戻されたのだ。
そこから逃げ出して本部に戻ったところで、無意味なのではないかと彼女は心配しているのだ。
「大丈夫。技術開発局の研究には色々と疑惑がかけられているから、きちんと上層部に掛け合えば戻されることはないよ。」
こんな時でさえ、P.E.S.T本部の内部では派閥による対立があったのだ。
エドガー・スタインズの技術開発局を支持する派閥も、当然ながら存在する。
彼が非人道的な研究を続けられたのも、支持する上層部がいたからだろう。
恐らく技術開発局直属の特殊部隊の設立も、彼らスタインズに加担する上層部の独断だと思われる。
掛け合う相手さえ間違わなければ、クーデリカはきちんとした場所にいられるということだ。
どこか不安げな表情を浮かべたままのクーデリカを引っ張り、来た道を引き返す。
プレディカドール壱式の残エネルギー量も気になるが、極力エネルギーの消費を押さえて帰るしかない。
だけどその前に、ゼシルにはもう一人、話をしたい相手がいたのだ。
88中隊の元メンバー、今は自ら技術開発局に身を寄せているパイロット。
エーベル、何故スタインズに協力するんだ?
君の果たさなきゃいけないことって、何なんだ?
彼は言っていた。
スタインズは自らのやり方で世界を救い、人類を新たなステップへ導くのだと。
エーベルは、その考えに賛同したと言うのか?
非人道的な研究を繰り返す、そんな奴らが人類を救うなど、考えたくもない。
「ハーネ少尉を、探しているんですか?」
コミュニケーターとしての能力が感じ取ったのか、クーデリカが口を開いた。
もしかしたら、彼女ならエーベルの居場所を掴めるかもしれない。
「うん。エーベルの居場所、わかる?」
クーデリカは目を閉じ、彼の居場所を探る。
広域に渡る能力の行使は負担かもしれないが、今は彼女の能力に頼るしかない。
「わかりました。でも、これは...?」
「どうかしたの?」
クーデリカは何かを考えるかのように表情を険しくした。
何かを必死に感じ取ろうとしているような。
「いえ、なんでもありません。こっちです。」
クーデリカの反応が気になったが、大人しく彼女についていくことにした。
「やっぱり来てたんだね、ゼシル。」
クーデリカに導かれ、エーベルの居場所へと辿り着く。
いつもと変わらず、悠々としている。
「エーベル、聞かせてくれ。君は何がしたいんだ?何のためにこんなところにいる?」
ゼシルは納得したかったのだ。
自分を勇気づけてくれた人が、こんな所に自ら身を置くなんて信じたくなかった。
「そう怖がることないよ。僕は別にスタインズの思想に共感した訳じゃない。僕には僕の、理想があるからね。」
「だったら君の目的は、何なんだよ。」
ゼシルは尚も問い詰める。
不思議なオーラを纏っているエーベル。
どこか普通の人とは違うような、そんな雰囲気の彼だからこそ、彼の考えを知りたかった。
「僕は最後の世界樹の根元に用があるんだ。」
「世界樹の、根元に...?」
「そう。根元には、AAPのエネルギー源があるんだ。スタインズはそれを掌握しようと、世界樹への突入を企んでる。」
AAPのエネルギー源、それが世界樹の根本にあるというのだ。
技術開発局は、そのエネルギー源を手に入れて、世界をどう導くと言うのか?
「それは使い方によって、世界を救うことも世界を滅ぼすことだってできる。」
訳がわからず、聞きたいことは増えていく一方だ。
だが、そのときになってようやく施設の警報が鳴り響いた。
クーデリカの監禁されていた部屋の監視カメラの映像を偽造して時間を稼いでいたのだが、どうやら時間切れのようである。
「まったく、施設のセキュリティも酷いものだね。でもそろそろ追っ手が来る。早く逃げた方が身のためだよ。」
エーベルは部屋を立ち去ろうとする。
どうやら、ゼシル達を見逃すつもりらしい。
「ああ、そうだ。MMSハンガーはあっちだから。」
親切にMMSハンガーの方向まで教えてくれる始末。
もっとエーベルに聞きたいことはたくさんあった。
だけど、仕方ない。
ゼシルはクーデリカの手を引いて、示された方向へと走っていった。
「まんまと侵入者を逃がすなんて、何を考えているんですか?ましてや、彼女まで逃がすことになるなんて...。」
カチャ、という音と共に突き付けられる銃口。
エーベルは静かに手を上げる素振りをする。
「そんなことより、追いかけなくてもいいのかい?サリンジャー少尉。」
エーベルの悪気もない態度に腹を立て、ステラは銃口をさらに押し付けた。
「何様です?主任の駒にしか過ぎないあなたが、勝手な行動をして許されると思わないことです。」
「ふっ。本当はマナロフ少尉に消えて欲しかったんじゃないのかな?そうすれば、自分が『クーデリカ』になれる、予備ではなくなるってね。」
その瞬間、エーベルの視界が一瞬にして回転した。
どうやらステラの逆鱗に触れたようで、馬乗りされて銃口を顎に突きつけられた。
「死にたいんですか?」
あくまでも淡々とした口調。
だが、元々感受性溢れるエーベルにとっては人の心を読むなど容易いこと。
彼女は相当腹を立てているようだ。
図星を突かれた、と言ったところか。
二人目としてのクーデリカが消えれば、三人目の自分が本物になれるのだ。
予備としての不毛な人生にピリオドを打てる、絶好の機会。
だが、侵入者と逃亡者を逃せば、自分はスタインズへの忠誠を裏切ることになる。
その葛藤が、彼女を苦しめた。
だからこそこの少女は哀れなのだ。
「そんな玩具で僕を殺せると思わないでほしいな。」
そう言った途端に、急にステラはエーベルと距離を取った。
何やら、異常な何かを感じ取ったのか。
「人じゃ、ない...?」
エーベルはゆらりと立ち上がり、ゆっくりとこちらに向かってくる。
その左腕は少しずつ変化し、まるで植物の一部のようになった。
「まさか、あなたは...。」
エーベルの左腕が凄まじい速度で伸び、その触手がステラを絡めとり、宙吊り状態へと持ち込んだ。
「うっ。」
苦しそうに悶え、必死に触手を引き剥がそうとしている。
特殊な訓練を受けているのか、ドーピングか、とても少女の力量とは思えない程の強さである。
「いつまでも存在意義とかに拘ってるから苦しんだって、気づかないのかい?少なくとも、逃げ出した子はその呪縛から抜け出したようだけど。」
オリジナルになりたい。
ステラは予備として生み出されたクローン。
だから、予備としてではなくなる早くオリジナルの役目を果たしたいと思うのは、ある意味仕方のないことなのかもしれない。
だが、それはあまりにも悲しすぎる願いだ。
個人の命は、その個人のものである。
誰もが無意識の内に忘れている、基本的なことをゼシルはしっかりと認識していたのだ。
だからこそ、クーデリカを連れ出したのだろう。
「僕もね、目的があって生み出されたんだ。しかも中身はこんな化け物だよ。だけど、僕は当初の目的のために生きている訳じゃない。自分の意思で自分のしたいことを、全うするだけだ。」
触手からステラを放し、床へ落とす。
激しく咳き込むステラを見つめ、尚も言葉を続けた。
「怖いんだろう?居場所がなくなるのが。これからは自分でそれを見つけなければいけない。クローンとしてじゃなく、一人の個人としてね。」
「あなたは、生み出された目的に沿わずに生きていて、怖くないんですか...?」
確かに怖いと思った時もあった気がする。
自分の意味も居場所も、自ら棄てるようなことだから。
それでも僕は、自分の正しいと思うことをする。
「思考を止めちゃ未来はない。自分で考え、自分で動く。そうしたら、怖さよりももっと大きな何かを感じることができるから。」
そう言ってエーベルは背を向けた。
残されたステラは、ただ呆然と虚空を見つめているだけだった。
銃弾が頬を掠り、血が流れるのを感じた。
ゼシルとクーデリカはエーベルに教えられた方向へ進み、MMSハンガーへと到達していた。
予想はしていたが、ハンガー内は人が多く、武装した警備兵もいる。
警報が鳴り響いているため、警備体制も強化されてた。
一瞬の隙を突いて、二人は一番近くにあったMMSへと乗り込む。
「この機体、新型か?」
プレディカドールとは違い、どちらかと言うとアントレーネー系の造形であった。
アントレーネー系の操縦はしたことはないが、今は時間がない。
システムを起動させようとするが、すぐにエラーが表示された。
「こんなときに!なんで...!」
システムが起動しなければ機体を動かすこともできない。
警備兵達も警告を発しながら、こちらへ向かってきている。
「もしかすると、生体認証かもしれません。」
クーデリカが横からモニターを覗き込み、そう言った。
生体認証ならば、専用のパイロットでなければ起動できないということだ。
「どうしたら...。」
「私と交代してください。私なら、もしかすると動かせるかも。」
クーデリカはモニターを操作し、システムの詳細情報を表示させた。
「フィーネアントレーネー、パイロットは...ステラ・サリンジャー。」
どうやらこの機体名は『フィーネアントレーネー』というらしい。
アントレーネー系統の新型機ということだ。
そして、パイロットはステラ・サリンジャーという人物。
「このパイロット、私のクローンです。」
「えっ。じゃあ、もしかして...。」
クーデリカは小さく、だが力強く頷いた。
そのパイロットとまったく同じ遺伝子を持つクーデリカなら、生体認証を突破することができるだろう。
クーデリカがシステムを起動させると、今度は上手くシステムが起ち上がった。
全周囲モニターが映し出され、機体の状況を示すウィンドウが次々と現れる。
「行きますよっ!」
頭部の高エネルギー圧縮照射砲を開き、ハンガーの扉を溶解させた。
大穴が空いたその扉から二人を乗せたフィーネアントレーネーは空へと飛び上がり、果てしない大空を飛翔し始めた。
P.E.S.T本部へと帰還したゼシルとクーデリカは、大勢の人々に囲まれながら機体を降りた。
「ゼ、ゼシルゥゥウ!心配したぞ、勝手にいなくなるなんてぇ!!」
ボマーが涙と鼻水を垂れ流しながら、こちらへ突進してくるのが見えた。
咄嗟にクーデリカを盾にしようかとも考えたが、そんな事はできない。
「ボマー、それだけは...!」
奴の力は馬鹿にできない。
抱きつかれたら骨の一二本はお釈迦になりそうだ。
だが、幸運にもボマーはゼシルに辿り着く前に保安局に取り抑えられ、連れていかれた。
「俺は何も!何もしてなーい!」
助けを求める表情をするが、ゼシルは苦笑いでその光景を見つめていた。
だが、その苦笑もすぐに失われる。
「保安局だ。ゼシル・ミラーガ中尉とクーデリカ・マナロフ少尉だな?」
覚悟はしていたが、やっぱりこうなってしまうのかと思わずにはいられなかった。
「ミラーガ中尉。理由はどうあれ、MMSの無許可発進、友軍機への攻撃は規則に反する。同行願いたい。」
ゼシルはその後、独房入りを命じられた。
ただ、非人道的実験の実験体にされる可能性を危惧し、味方を救出したという人道的行動を評価され、重い罰は免れることができた。
担当者が反スタインズ派の人物であったことも幸いしたのだろう。
荒々しく独房に押し込まれ、残るのは沈黙のみであった。
後悔はない。
これで、クーデリカが生きる希望を持ってくれるなら。
「けっこう早かったわね。ちゃんとクーデリカ連れ戻したの?」
突然、隣の独房からノエルの声が聞こえてきた。
どうやら、彼女も独房入りの刑を受けていたらしい。
「ああ、ちゃんと連れ戻したよ。――ていうか、本当にごめん。巻き込んじゃって、独房入りまで...。」
「役目を果たせたんなら、それでいいわよ。あたしも後悔してないし。」
呆れる程にバッサリとした性格だ。
だが、今はその性格に感謝してもしきれない。
「ノエル、その、ありがとう。」
謝るより感謝を伝えたい。
彼女の協力無しでは決して成し得なかったこと。
シエルへの協力も、恐らくノエルが頼んだのだろう。
本当に、ノエルは頼もしい。
「べ、別にいいわよ!感謝されたくて手伝ったんじゃないし!あたしが勝手にしただけ!」
心の辞書を捲ると、そこにはツンデレの文字があった。
ノエルの様子を見て、この状況にも関わらず声を上げて笑ってしまった。
「あれ、そう言えばシエルは?」
ふと、この場にシエルがいないことに気がついた。
技術開発局の情報システムに無断で侵入したのだ。
何かしらのお咎めがあっても不思議ではない。
いくら上層部の中に反スタインズ派がいたとしても、勝手が許される訳ではないだろう。
「シエルはあたしに脅されて仕方なく協力したことになってるから。あの子の心配は要らないわよ。」
いやいやいや。
ノエルはわざわざ自分の罪を肥大化させたと言うのか。
ハンガー内の管制室への無断侵入、室内の人員への暴行、そしてMMS無許可発進の手助け。
さらに脅迫までも重なったら、ゼシル程ではないがかなり罪が重いことになる。
「ホント、ノエルは無茶ばっかり。」
溜め息混じりにそう言った。
当初はクーデリカと衝突を繰り返していたノエルも、今はお互いに信頼できる仲間なのだ。
仲間のためなら無茶をする、ノエルはそういう面がある。
仲間の無茶は嫌うくせに、自分は無茶する、わがままな女王様である。
「それにしても、いつここから出られるんだろう?」
自業自得とはいえ、やはり独房生活は辛いものがある。
ノエルがいるから多少はマシだが、それでもこの狭い空間には慣れそうにない。
「案外すぐ出られるんじゃない?」
「何の根拠があってそんな事が言えるんだ...。」
楽観視しているノエルに半ば苦笑しながら答える。
ましてやゼシルは重大な違反をしている。
本来なら組織を追放されても良いレベルだ。
独房入りだけで済まされるだけ、ありがたいと思わねばならない。
「うーん。女の勘、かな。」
予想していた返答にゼシルはまたも笑ってしまう。
だが、ノエルの根拠の無い勘は見事に的中することになる。
「第88独立機動中隊所属ノエル・バニミール大尉以下5名、ただいま出頭いたしました!」
ノエルの声と共にゼシル達は一斉に敬礼する。
数日で独立入りを終えたゼシルとノエルはすぐに中隊に復帰、上層部からの呼び出しを受け、現在この状況に置かれていた。
「ご苦労。まずは無事に復帰できたこと、喜ばしく思うよ。」
形式上の言葉を受け、ゼシルとノエルの二人は深々と頭を下げる。
「さっそくだが本題に入りたい。まずはこれを見たまえ。」
モニターに大きな画像が映し出される。
何かの内部構造を表しているのか、他にもMMSらしき物の設計図も映されていた。
「技術開発局に送り込んでいた諜報員から連絡があってね。どうにもここ数日、動きが怪しいそうだ。以前君らからの報告にあった『最終浄化』という現象が近い内に起こる、それに乗じて技術開発局は何かを企んでいるということだ。」
『最終浄化』。
ディアンケヒトの研究施設で見つけたノートに記されていた言葉。
それは何なのか、地球がどうなるのか、こちらはあまりに情報が少なすぎた。
恐らく技術開発局は全てを知っているのだろう。
そして『最終浄化』に乗じて世界樹の根元を目指す。
目的は何であれ、彼らは間違いなく世界樹への攻撃を開始するはずだ。
「信用に足る人物からのリークだ、本部はこれを機に第一世界樹への攻撃を決定した。技術開発局への疑惑も強まってはいるが、今はそれよりも先に『最終浄化』を止める必要がある。」
「その『最終浄化』とはどんな現象なのですか?」
ノエルが口を開き、質問を投げ掛けた。
「その前にこちらからも聞こう。君ら88中隊にも本作戦に参加を要請したいのだが、その返答を聞きたい。」
第一世界樹への攻撃作戦。
AAPの母体とされる世界樹の内の、最後の1本。
人類は、ようやく争いから抜け出せようとしているのだ。
危険かもしれない。
自分が死んでしまうかもしれない。
仲間が命を落とすかもしれない。
それでも彼らは躊躇うことなく、ノエルを見つめて力強く頷いた。
そしてノエルも決意の眼差しで応える。
「望外の名誉です。喜んで拝命いたします。」
「よろしい。ならば『最終浄化』についてわかっている情報と、本作戦の全貌を聞かせよう。」
「スタインズ、実験体を逃したそうじゃないか。ましてや、フィーネアントレーネーまで奪取されるとは。計画に支障は無いのか?」
エドガー・スタインズは暗い大部屋で、複数のモニターを前に顔をしかめていた。
彼を支持する上層部とのオンラインミーティングの始まりと共に、先程の失態を突かれたのだ。
「問題ありません。彼女は単なる戦力の一端です、予備ならあります。」
暗い部屋にモニターを出現させ、ホログラフィーとして存在する上層部に向けて示した。
「ご覧ください。新型MMS『メリッタ』も既にロールアウトしております。パイロットとなる『Nシリーズ』も培養を完了させ、すぐにでも出撃可能です。」
蜂を模した造形のMMS。
アントレーネー系統とは別系統の、新設計された新鋭機である。
「『メリッタ』は実用レベルにまで達しているのか?機体の半分以上のパーツはAAPのボディなのだろう?暴走を起こされたら...。」
そう、新型MMSメリッタは従来の機体のように全てが機械である訳ではない。
技術開発局が数多の実験の果てに生み出した、人とAAPとの合成技術。
そしてさらに機械との合成を試みて生み出されたのがこのメリッタである。
「いくら新型を15機用意したとして、世界樹の根元に辿り着くことができるのか、不安なものだ。もう一度、君の計画を聞かせてもらいたい。」
エドガーの口元が微かに不適な笑みを浮かべた。
もう何も怖くない、敵などいないという自信に溢れているようだ。
「第一世界樹は他の第二、第三世界樹とは規模も機能も違います。第一世界樹にのみ備えられたもの、それが『最終浄化』。簡単な例を挙げるなら噴火に近いものです。但し噴出するのは溶岩ではなく、世界樹の根元から生み出される高エネルギー粒子です。それが地球文明を滅ぼします。地球を汚す人類を『浄化』する、いわゆる文明のリセットです。火山にも噴火口があるように、世界樹にも高エネルギーを放出する門があります。『最終浄化』発生の何日か前にその門が開かれると予測しており、我々はそこから世界樹の内部へと侵入します。」
「我々が心配しているのは侵入した後だ。中はAAPの巣窟なのだろう?」
巣窟に15機のMMSで挑む、その無謀さを心配しているようだ。
「言ったでしょう?メリッタは半分以上がAAPと同じものなのです。異物と判断されることはありませんよ。」
後はひたすら最深部を目指すのみ。
エドガーの仮説では、世界樹の根元に『無限機関』の大元となるものがある。
それを手に入れ、世界を裏から統制し、適度なストレスを与え続け、人類を次のステップ、すなわち進化へと導く。
「失敗は許さんぞスタインズ。君の理想に共感した我々の期待を裏切ってくれるなよ。」
「心配は要りません。必ずや、人類を明るい未来へとお連れします。」
「おねーちゃん、おねーちゃん、おねーちゃん、おねーちゃん。」
ひたすら同じ言葉を繰り返す幼い少女。
その傍らには複数の研究員の姿があった。
「『Nシリーズ』自我の安定まで残り3分。」
「2番から15番までは自我の安定工程を省け。すぐに薬物の投与を行う。」
培養液から取り出される多数の少女の裸体。
Nシリーズと名付けられた彼女らは、新型MMSのパイロットとして生み出された。
それを見物に来ていたのはエドガーとステラであった。
何でも、ステラに妹ができるといって呼び出したらしいが。
「どうです?これから妹ができるという気分は。」
「実感がありませんね。私が、クーデリカになれたという実感も、いまいちわかりません。」
二人目のクーデリカが逃亡したことで、ステラはようやく予備ではなく、本物として扱われることになった。
ずっと願い、ようやく叶ったというのに。
彼女は素直に喜べないでいた。
エーベル・ハーネに言われた言葉を思い出す。
一人の個人として、他の誰でもない個人として生きなければ、辛いのだと。
そんなことはないと、完全に否定しきれない自分がいたことに苛立ちを覚えた。
小さく頭を振り、目先のことを考える。
もう少しで、愚かな人類の歴史は幕を閉じる。
その後はスタインズ主任が人類を導き、そして素晴らしき進化の道を辿ることができるのだ。
そのために、私は生まれた。
そうだ、迷っている暇なんてないのだ。
無理矢理にでも自分を納得させることで、彼女は心のざわめいを鎮めさせていた。
次回はようやく決戦です。
世界樹の底にある戦いの真相がついに明らかになります。
次回の字数は想像がつきません。
もしかすると普段の倍以上になるかもしれませんが、恐らく更新ペースは普段と変わらず2週間後くらいです。
では、また次回m(__)m