PEST   作:リボーンズ

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しばらく開いてしまいましたm(__)m
書いてたら普段の3倍くらいの文字数になってしまいまして(笑)
前編後編に分けてます。
ということで今回で完結です。
前編後編合わせて長いですが、ご了承くださいm(__)m


Restart  (前編)

「第一攻撃部隊、攻撃を開始した模様!映像出ます!」

 

ニュージーランド仮設基地に第一世界樹攻略作戦本部を設置したP.E.S.Tは、技術開発局に送り込んだ諜報員からの報告を受け、すぐに第一世界樹への攻撃を開始した。

諜報員からの報告には技術開発局の目的も含まれており、P.E.S.T本部は保安局にエドガー・スタインズの逮捕の指令を与えた。

しかし、一部の上層部が反対の意を示し、本部内部においても対立構造が出来上がっていた。

 

「ふん、癪だが技術開発局が生んだ偵察カメラは高性能だな。『樹』によるジャミング効果を受け付けないとは。」

 

モニターに映し出された映像には南米に聳え立つAAPの真の母体、『第一世界樹』の姿があった。

無数の小型、中型種のAAPに加え、世界樹を取り囲むように多数の『樹』が鉄壁の守りを生み出している。

 

10機の戦闘機から編成される第一攻撃部隊は積み込んだミサイルを発射した。

対AAP用の特殊なミサイルであるが、『樹』から放たれる熱線攻撃に呆気なくミサイルは落とされる。

加えて、戦闘機も1機残らず殲滅された。

 

「第一攻撃部隊、シグナルロスト!」

 

映像も途切れ、全滅したことは疑う余地もない。

無人機であったのが唯一の救いというところであるか。

 

「世界樹の様子はどうなっている?」

 

「世界樹上部より高エネルギー反応を感知、『最終浄化』の準備段階と思われます!」

 

その報告を受け、作戦本部内はざわめき始めた。

ついに、人類滅亡までのカウントダウンがスタートしたのだ。

地球を汚染した元凶たる人類を滅ぼし、地球を保とうとする自然界の最終防衛システム、それが『最終浄化』。

 

地球にとっての『Pest』(害虫)である人類は、それでもその存在を守るために、未来を掴むために、抗い続ける。

 

「降下部隊に通達。第2フェイズへ移行せよ。繰り返す――」

 

 

 

「全員、揃ったわね。」

 

大型輸送機のMMS格納コンテナ内に、第88独立機動中隊の面々があった。

不安に翳る表情を浮かべつつも、彼らは最後の戦いへ身を投じる戦士なのだ。

故に、その瞳の奥には決意の光が宿っていた。

 

「この戦いで全てが終わるわ。この面子で、ここまで来れたの。だから、決着の瞬間も全員で迎えたい。」

 

隊長であるノエルは、隊の全員を一人ずつ見ながらそう言った。

不安なのは皆同じだ、だけどノエルはそれを必死に隠そうとする。

最後まで隊長らしさを保とうとしていたのだ。

 

「絶対に死なないこと、這ってでも生き残ること。それがあたしからの最後の命令。いいわね?」

 

その命令は、絶対なのだ。

破る訳にはいかないのもわかっている、しかし、今回ばかりは自信が持てないのが彼らの本心であろう。

ノエル本人でさえ、隠そうとする不安が僅かに溢れて見える。

 

不意に、ゼシルが手の甲を上にして腕を突き出した。

メンバーが不思議そうな表情で、ゼシルを見つめる。

 

「俺からも言いたい。怖いのは皆同じだ。だけど、その恐怖は捨てないで欲しい。最後に自分を守るのは、恐怖から生まれる防衛本能だ。カッコ悪くても、自分が正しいと思える判断なら、それが絶対の正しさだ。カッコつけないで、本能のままに動いて欲しい。そしたら、きっと皆で帰ってこれるから。」

 

ゼシルの手に、ノエルの手が重なる。

そして、少しだけ震えるノエルの手に全員の手が重なった。

 

「そ、そうだな!本能のままに暴れて、本能のままに逃げ帰るぞ、俺は!」

 

ボマーの極端な宣言に、小さな笑いが起こる。

だが、それでいいのだ。

 

「身勝手なカッコつけは、ノエル隊長に散々怒られましたからね。私も『人間として』の本能に従って、世界を救ってみせます。」

 

「わ、私も!本当は怖くて逃げたいですけど、皆さんと一緒に最後まで戦いたい気持ちはあるので、が、頑張ります!」

 

「あんま馴れ合いってぇのは好きじゃねぇけど。この面子なら悪くねぇか。ヒャハハハ!」

 

少しだけ、彼らから余分な緊張が溶けていく。

適度な緊張を保ちつつ、無駄な緊張を消していく。

彼ら88中隊の戦闘前の変わらない光景がそこには広がっていた。

 

『第一次降下部隊、発進準備!繰り返す、第一次降下部隊――』

 

コンテナ内に出撃要請アナウンスが流れる。

ついに訪れる決戦の時。

だが、彼らの顔には戦士としての表情が浮かんでいた。

 

「全員、出撃用意っ!」

 

ノエルの号令に応えるように、コンテナ内に鬨の声が響き渡った。

 

 

 

大型輸送機から降下した複数の部隊は、迫るAAPの群れに対して迎撃行動を開始していた。

第一次降下部隊には、第88独立機動中隊も参加しており、その姿は他の隊と一線を画すものであった。

 

中でも、ノエルとゼシルが駆る新型機『ウェナトリア弐式』は一際存在感を示していた。

本機はニュージーランド戦において試験運用された拠点攻撃用大型MMSウェナトリアの後継機に当たる機体である。

見た目は大きく変更されておらず、機体上半身には防衛ユニットとしてプレディカドール弐式を連結させている。

特徴となる装備はあらゆる攻撃を防ぐ鉄壁の防御システム『アイギス』。

ニュージーランド戦では『樹』の放つ熱線攻撃を耐え抜く実績を上げた装備である。

 

「各機へ通達、あたしが前に出るから皆は下がって。」

 

他の機体が揃ってウェナトリア弐式の後方に回る。

と、次の瞬間に攻撃が迫るアラートがやかましく鳴り響いた。

 

世界樹を取り囲む多数の『樹』から放たれた熱線攻撃である。

 

ノエルがアイギスを起動させ、ウェナトリア弐式を全方位カバーするようにリフレクターが展開された。

アイギスは熱線攻撃を一度に受けるも、全く動じることはなかった。

 

「凄い、この盾...。」

 

説明は受けていたが、まさかこれ程とは。

多数の熱線を一度に受けても機体の温度上昇も確認されず、一切のダメージを負っていない。

 

「しばらくは熱線攻撃も来ないから今のうちに仕掛けるわよ!各機、突撃っ!」

 

『『了解!』』

 

ウェナトリア弐式の背後に回った機体が一気に散開し、最大速度で世界樹へ向けて突撃を開始する。

勿論、AAPもそれを許すことはなく、世界樹の上部に開いた大穴から無数の小型、中型種を放出した。

 

「さーて、『爆撃機』の異名は伊達じゃないってところを見せつけないとなぁ!」

 

ボマーのプレディカドール弐式が先頭を切って世界樹へと向かう。

彼の機体は特務仕様となっており、武装だけでも機体の数倍の大きさとなっていた。

 

背中に背負う大型ミサイルポッド、及び腰に装備する3連装ミサイルポッド、そして両腕に備えた2連装誘導弾発射筒から一斉にミサイルが吐き出され、迫るAAPへ襲いかかった。

着弾と同時に爆炎が巻き起こり、焼け落ちるAAPが闇を彩っている。

 

一方で、技術開発局から奪取してきたクーデリカの新機体、フィーネアントレーネーもその実力を惜しみ無く発揮する。

腹部から射出される3種類のホーネット。

それぞれ射撃用、突撃用、防御用の3タイプに別れており、1つの役割に特化した端末へと進化していた。

射撃用ホーネットは一度に3方向へのレーザー攻撃を可能とし、突撃用は先端部が発熱することでより貫通力を上昇させているらしい。

また、以前は備わっていなかった防御端末を用いることで比較的安全にホーネットのマインドコントロールを行うことができる、優れた兵装となっていた。

 

88中隊のメンバーは流石エース候補の集まりと呼ばれるだけあって、造作もなくAAPを撃破していく。

だが、他の隊の機体はAAPの圧倒的な数に翻弄され機体の一部を失っていく。

その内の数機は既に撃破されていた。

 

「このままじゃ世界樹に入る前に部隊が壊滅するか...」

 

ゼシルが小さく呟き、ノエルは必死に思考を巡らせる。

このままAAPの相手をしていても消耗するだけだ、ならば一点に集中して力づくで突破するしかない。

 

「皆、聞いて。今から世界樹の入り口に600㎜エネルギー砲を撃ち込むから、AAPの群れに穴が空いたら一気に突っ込んで。」

 

ノエルがそう言うと、すぐに行動を開始した。

胴体に直接埋め込まれた内蔵式のエネルギー砲口から目映い光が漏れる。

間もなく、ウェナトリア弐式の胴体から赤に輝くエネルギー砲が発射された。

 

その光は真っ直ぐに世界樹の入り口に向かって伸び、射線上にいたAAPは一瞬で蒸発する。

運良く回避できた個体も多かったが、それは世界樹までの突破口を開けてしまったことでもある。

 

「全機、突入!」

 

一瞬の隙を見逃さず降下部隊は世界樹の内部を目指して加速する。

やがてAAPの防衛ラインを突破することに成功、背後から追ってくる化け物に気を留めず、ひたすらに世界樹へと向かった。

 

 

 

光の粒子が漏れだす世界樹の入り口を抜けると、そこには空洞となった異界が広がっていた。

エネルギーの粒子光が辺りを照らしているため、視界には困らない。

 

「思ったより化け物はいないみたいね。」

 

ノエルが周囲を確認しつつ、そう呟いた。

 

「油断は禁物だよ。敵の巣窟なんだからね。」

 

ゼシルは警告を込めてそう返したのだが、ノエルは少々ご不満の様子だ。

 

「わ、わかってるわよ!それより、先に報告しないと。」

 

ノエルは作戦の第2フェイズを完了させた旨を報告する。

残るは最深部を目指し、根元から世界樹を破壊するのみ。

 

「第2フェイズの完了を確認。これより第3フェイズへ移行、各機は速やかに世界樹の最深部へと侵攻して下さい。」

 

本部からの連絡を受け、休む間もなく再び行動を開始する。

 

コクピットのモニターにスキャンした世界樹の構造図を表示させ、現在位置を確認した。

第一世界樹は他の世界樹と異なり、いくつかの階層構造から成り立っている。

ゼシル達がいるのは最上部の階層、そして目指すは5つ下の最下層。

もっとも、予測部分もあるため実際にはその下にも続いているのかもしれないが。

 

世界樹の階層を区切る仕切りを物理的に破壊し、最深部を目指す他に成功の道はない。

AAPを倒しながら、その仕切りを破壊する、それは困難を伴う作戦に他ならない。

 

それでも、彼らはやるしかないのだ。

 

「各機作戦通りに動いて。もたもたしてるとあたし達も蒸発よ!」

 

「隊長、『デーヴァ』の使用許可が欲しい。」

 

『デーヴァ』。

ウェナトリア弐式に搭載されたアイギスと並ぶ特徴的な武装である。

守りのアイギスに対し、デーヴァは攻めの役割を与えられており、その攻撃性は非常に高い。

その危険度から実戦配備は見送られてきたのだが、本作戦において例外的に実戦投入されたというわけだ。

 

「...わかったわ。あんたの腕を疑うつもりはないけど、誤射だけは絶対にしないで。目標に必ず当てること、いいわね?」

 

ノエルの忠告を受け止め、それでもゼシルは怖じ気づくことはなかった。

狙撃能力において自信はある。

それ故にウェナトリア弐式のパイロットに選ばれたと言っても過言ではない。

ならば、期待に応えるしかないではないか。

 

「わかってる。失敗はしないから。」

 

ウェナトリア弐式は大きくブーストを吹かし、安全圏まで上昇した。

世界樹入り口から追ってくる無数の小型種を、両腕のロングガン・シックルで確実に仕留めつつ、狙撃ポジションまで移動する。

 

「くっ、この数に邪魔されたら流石に狙いが狂う...!」

 

AAPの攻撃を避ける度にモニターが大きく左右に揺れ、狙撃は困難となっていた。

 

「シエル、クイーガー!雑魚の掃除お願い!」

 

ノエルが近くにいたシエル機、クイーガー機に通信を入れ、すぐに2機はウェナトリアを取り囲んだ。

 

2機がゼシル達を守っている間に、ゼシルは機体の背中から大型のMMS用ライフル『デーヴァ』を取り出した。

 

「『デーヴァ』起動。システムの使用許可を確認。――認証に成功しました。発射準備を開始します。チャージ完了まで180秒。」

 

電子音が鳴り、デーヴァの銃口が光を発し始める。

周囲を見ると、各機がそれぞれ厳しい戦いが強いられているのが見えた。

ゼシルがデーヴァによる攻撃に失敗したら、世界樹の攻略は不可能に近いだろう。

仕切りを破壊するどころか、AAPの相手で手一杯の状況である、先に消耗しきってしまうのはこちらであろう。

 

180秒、体感ではかなり長く感じられた。

今か今かと発射の瞬間を待つ。

 

そして――

 

「『デーヴァ』発射準備完了。慎重に狙いを定め、目標を排除してください。」

 

電子音が発射の時を知らせる。

そしてゼシルも、射線上に味方が現れないように声を上げた。

 

「各機、射線に注意して!デーヴァによる攻撃を開始する!」

 

スコープから覗く狭まった視界。

ちらほらと小型種が入り込むものの、それすらも避けて撃たなければならない。

 

小型種の動きを予測し、通りすぎた直後にトリガーを引く。

それだけをイメージし、ゼシルはトリガーに指をかけた。

 

「―――今っ!」

 

カチッとトリガーを引く音が響く。

同時にデーヴァから凄まじい速度で光の球体が撃ち出され、それは底面に向かって一直線に突き進んだ。

 

小型種が飛び交う中、その攻撃は何者にも邪魔されることなく目標地点に着弾した。

 

着弾地点から爆発が巻き起こり、近くにいたAAPを巻き込み、その爆風が機体を揺らす。

 

モニターから着弾地点を見ると、そこには大穴が空いていた。

デーヴァによる攻撃、それは着弾地点とその周囲を分子レベルにまで分解し、その対象を排除するものであった。

 

「すっごい...。」

 

ウェナトリアの下半部のコクピットからその状況を眺めていたノエルが、思わず声を漏らした。

 

ぽっかりと空いた大穴から、次の階層が見える。

長く現在地に留まっていると消耗するだけで先に進まない、彼らはすぐに大穴に飛び込み、次の階層へと進出した。

 

 

 

 

「いやー、やりますねぇ。新型機まで拵えただけのことはあります。こちらもそろそろ動かないと、先を越されてしまいますねぇ。」

 

世界樹から遥か上空を飛行する輸送艇のブリッジで、技術開発局の主任を務めるエドガー・スタインズが一人声を漏らしていた。

情報がP.E.S.T本部に渡ったことは彼にとっても不意を突かれる事態であったが、それすらも彼は楽しんでいるようにも見受けられる。

 

「さぁて、まずはあなた達に先行して貰いましょう。」

 

指名されたのはステラとエーベル、そしてひどく幼いもう一人の少女。

 

「お姉ちゃん、これから何するの...?」

 

幼い少女はステラを姉と呼び、不安そうに服の袖を掴んでいた。

ステラは何も言わず、ただ優しく頭を撫でるだけ。

 

幼い少女、ニーナ・マナロフのクローン。

第二世界樹攻略戦において投入されたコミュニケーターのコピーである。

優秀な生物兵器としてしか見なされない、哀れなコミュニケーターだったマナロフ姉妹の模倣品とも言える存在。

 

だが、模倣品とはもう言わせない。

『二人目』のクーデリカが離反した今や、本物はステラ自身なのだ。

そして、妹のニーナもやがて記憶を移植され、唯一無二の存在となる。

 

やっと、オリジナルになれたのだ。

『二人目』を抹殺して、『クーデリカ』という存在を唯一のものにする。

 

研究員に促され、ステラとニーナはMMSコンテナへと向かった。

彼女らを待ち受けていたのは、一機のMMS。

 

「アントレーネー...。」

 

ステラはその機体を見上げてそう呟いた。

 

型式番号MMS-C-001-1RE、アントレーネー・レプリック。

 

第二世界樹攻略戦時に投入された最初期のコミュニケーター専用MMS、アントレーネーの後継機。

見た目はほとんど酷似しており、性能面において強化された機体である。

 

複座式コクピットも継承した機体に乗り込み、複製された姉妹は世界樹へ向けて飛び立った。

 

 

 

デーヴァによる攻撃で仕切りを破壊することに成功した88中隊は、次の階層へと進んでいた。

世界樹入り口からは第二次、第三次降下部隊がこちらに向かっており、上階は完全に制圧したと言っても良いだろう。

 

だが、そんなことに安心している場合ではなかった。

次の階層へと進んだ彼らは、すぐに自らの目を疑うことになったのだった。

 

「これは、どういうことだ..?」

 

辺りを見渡し、ゼシルは誰に言ったわけでもなく一人問い掛ける。

 

「どうなってんだ、こりゃ。」

 

「いきなりワープなんて、そんなファンタジー的な展開だとは思いにくいんだけど..。」

 

ワープした、という訳ではないのだが、彼らの目に飛び込んできたのは無機質な金属壁に囲まれた空洞化された空間であった。

わかりやすく言うならば、世界樹がいきなり人工的な建造物になったというところか。

 

とにかく、世界樹の第一階層を突破した途端、現れたのは人工的な塔の内部のような空間であったのだ。

 

「でも、別にワープしたって訳でも無さそうだな。化け物もいるみたいだし。」

 

ボマーにしては珍しく、冷静な指摘をしてくる。

レーダーにはAAPの反応があり、急速にこちらに向かっているのがわかった。

 

「各機注意して、大型種よ!」

 

大きな翼を広げ滑空してくる飛行型の大型種AAP。

頭部には10以上にも及ぶ食虫植物の景観が見て取れる。

 

それぞれの首が伸縮可能な攻撃端末として、88中隊それぞれの機体に襲いかかった。

 

「的が大きいと撃ち落とすのも容易だわ。」

 

地面に着地したウェナトリア弐式の胴体からエネルギー光が溢れだし、臨界を迎えたところで600㎜エネルギー砲を発射した。

大型の飛行タイプは翼を撃ち抜けば対処しやすいため、この戦法は鉄則と言える。

 

しかし、迸るエネルギー砲が大型種に直撃する寸前に、大型種から何やら粉塵が巻き起こった。

その粉塵は向かい来るエネルギーを霧散させていき、完全にその攻撃を防いでしまった。

 

「攻撃を、無力化した...!?」

 

こちらに狙いを定めたのであろう大型種のいくつもの頭部が、ウェナトリアへ向かって襲いかかる。

 

ウェナトリアの上半身に搭載されたプレディカドールから、無数の弾丸が吐き出され、迫り来るいくつもの首を狙い撃つ。

しかし、動きが速い上に不規則であり、命中率は芳しくない。

 

「ノエルっ!」

 

「わかってる!」

 

ノエルがウェナトリアの防御システム『アイギス』を起動させ、その本体をプロテクターが包み込んだ。

その直後、大型種の頭部がプロテクターと衝突。

 

こちらに気を取られている間に、味方機に撃破させる算段である。

 

言葉にせずともその意図を汲み取った仲間が、一斉に大型種へ攻撃を開始する。

 

クーデリカの放つホーネットや、重装備型のボマー機からの圧倒的火力を誇るミサイルが大型種に襲いかかる。

 

「終わりだ、化け物っ!」

 

だが、その攻撃すらも別の頭部が盾なり防がれてしまう。

フィーネアントレーネーから射出された射撃型ホーネットからのレーザー攻撃も、例の粉塵によって無力化させられてしまった。

 

「やばい、アイギスが...!」

 

均衡を保っていたアイギスのプロテクターと大型種。

しかしゼシルは逸早くその異変に気づいた。

 

プロテクターに大型種の頭部が少しずつ、だが確実に食い込んでいる。

 

元々、『樹』の熱線攻撃を耐え抜くための防御システムである故、物理的な防御には向いていないのがこの『アイギス』という装備である。

そのため、大型種の物理攻撃を防ぎ切れなかったのだろう。

やがてプロテクターを貫き、その多くの頭部がウェナトリア本体に食らい付いた。

 

大きな衝撃と共に、ノエルからの通信が入れられる。

 

「ゼシル。この化け物、離さないで。」

 

「...わかった。」

 

ノエルが考えることくらい、わざわざ聞くまでもない。

ゼシルは何も言わず、両腕のガン・シックルで獲物を捕らえる。

 

その間にも大型種はウェナトリアの下半部に食い付き、ついには同化を始めた。

 

だが、それでいい。

 

ゼシルとノエルは、ほぼ同じタイミングでそれぞれの脱出ポッドを射出させた。

それから間もなく、ウェナトリアが自爆。

大型種は予想外の攻撃に対処することもできず、その爆炎に包まれ、やがて行動を停止した。

 

 

 

「ノエル、怪我は?」

 

脱出ポッドから降りたゼシルは、ノエルの元へ向かった。

この場所は先程の大型種のみしかAAPがいなかったため、比較的安全な地帯である。

故にこうして束の間の休息を得ることもできた。

 

「大丈夫よ。でも、始末書ものね。また壊しちゃったし。」

 

以前にもウェナトリアに搭乗したことがあるゼシルとノエル。

そのときにも機体を失ってしまい、引き続き今回も機体を破壊してしまった。

 

「怪我してない上に始末書で済むなら安いものだよ。――本当に良かった。」

 

ゼシルが心底安心したような様子を見せると、ノエルは何故か恥ずかしがって顔を背けた。

 

「あたしの心配より、自分の心配しなさいよ。」

 

ノエルの視線の先には88中隊所属機に守られるように降下してくる2機のMMS。

上層を制圧した補給部隊からの補充機である。

 

1機は白に塗装されたノエル専用のプレディカドール弐式カスタム。

そしてもう1機は、漆黒に染められたプレディカドール。

 

ゼシル・ミラーガ専用プレディカドール弐式カスタムである。

格闘性能に特化させたノエル機に対し、ゼシル機は射撃性能に特化させている。

 

メイン武装は『マルチMMSガン・シックル』。

ガン・モードへの切り替え形態が複数存在し、状況に応じた射撃武器への変形を可能とした上位型のガン・シックルである。

護身程度に従来のシックル・モードも継承され、単機でも近~遠距離戦を可能としている。

 

漆黒の蟷螂を見上げ、ゼシルは小さく呟いた。

 

「今度はお前の力を、俺に貸して欲しい。」

 

仲間を、人類を守るため。

ゼシルは新たな乗機に乗り込み、その赤い眼を点灯させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後編に続きます。
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