PEST   作:リボーンズ

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Restart  (後編)

大型種をなんとか撃破することに成功した第88独立機動中隊は、補給を受けた後すぐに次の階層へと進んだ。

デーヴァを失い、作戦通りの侵攻とは異なるものであったが、人工的な建造物らしき防壁は難なく突破することができた。

 

次の階層に広がっていたのは入り組んだ迷宮を彷彿させる空間だった。

所々、壁に光がラインを走るように点灯し、まるで異世界に来てしまったのではないかと思わせる。

 

「世界樹の中にこんな場所があったなんて...。」

 

1つ前の階層においても、その造りは人工的であった。

ただ、新しいものではないようでやや古いものに見える。

 

天然物でないのなら、いったい誰がこんな物を造ったのだろう?

いや、そもそも別の目的として造られた塔に、AAPが同化して世界樹を形成したのか。

 

思考を巡らせる度に、謎は多くなる。

 

それより、今は考えている場合ではない。

その正体が何であれ、世界樹を殲滅する以外に人類が生き延びる術はないのだから。

 

 

 

 

捜索を始めて数十分。

彼ら88中隊は捜索範囲が広いことを理由に各機別行動を取ることになった。

下の階層へのルートを見つけ次第、仲間と合流して次の階層へと進む算段である。

 

もっとも、今や電波干渉が激しく遠くのメンバーとの連絡はほとんど取れない状況となっているのだが。

 

フィーネアントレーネーを駈るクーデリカは、微かな光源のみの暗い通路を静かに飛翔していた。

途中、小型種と鉢合わせたが、仲間を集められる前にその場で撃破。

 

それ以外の発見もなく、来た道を引き返そうとした時のことである。

 

「っ!?」

 

突如、脳内に何かを感じ取ったのだ。

 

なんだろう。

懐かしく、暖かい。

だが、それと同時に冷たさと恐怖を感じる。

 

ただ、何者かがこちらに接近してきているのはわかった。

 

コクピット内のレーダーにも、こちらに迫る影が映し出されていた。

AAPではなく、所属不明のMMSのようであった。

 

やがて、その正体がクーデリカの前に姿を表す。

薄暗いため、はっきりと全貌を確認することはできないが、クーデリカにははっきりとその姿を捉えることができたのだった。

 

「あの機体は..。」

 

彼女が、いや、彼女の記憶の中にある『クーデリカ』がかつて搭乗したというコミュニケーター専用MMS。

その姿に酷似しているMMSが、目の前にいる。

 

「懐かしいでしょう?あなたのかつての愛機ですよ。」

 

その機体から、通信が入る。

クーデリカと同じ顔をした少女と――

 

「ニーナ...!?」

 

モニター画面に映っていたのは、死んだと思っていた妹の姿。

――いや、そんなはずはない。

クーデリカが複製されたように、ニーナもきっと、造られたのだろう。

 

「そんなことをして、私が動揺するとでも思いましたか?」

 

至って平然と答える。

冷静に思考を巡らせれば必然的に答えは見えていた。

私はクーデリカの複製品として造られた、でも、私の命は私なのだから。

そして、アントレーネーに乗っているニーナも、別の存在だ。

邪魔をするなら、容赦はしない。

 

2機のアントレーネーが交錯する。

狭い通路でホーネットを使用することは困難なため、必然的に近接戦となっていた。

 

「少し動揺してるんじゃないですか?私に隠し事はできませんよ?」

 

「そんなことっ!」

 

思わず声を荒くして返してしまう。

だが、それは認めているようなものである。

 

動揺、していないはずがないのだ。

 

せっかく、過去の記憶は別の人のものだと割り切れたのに。

『クーデリカ』ではなく、別の個人として生きていこうと決めたのに。

 

あの子が、手の届きそうな場所にいる気がして。

そっくりに造られた別の存在だと、頭ではわかっている。

 

それでも、もう一度ニーナの顔が見られるなら、私も過去の存在に戻ってもいいのかも知れないと、そう思ってしまう自分がいた。

 

たけど、そんなこと許されるのだろうか?

いや、許されるはずがない。

 

オリジナルの『クーデリカ』にも、仲間達にも、自分自身にも、それは裏切りになってしまうのではないか。

 

そうだ。

目の前にいるのは敵なのだ。

偽りの存在として私を惑わす、歪んだ秩序を生み出すエドガーの駒。

 

「ホーネット!」

 

狭い空間で、ホーネットを一斉に射出した。

終わらせる、これ以上哀れなクローンを造らせる訳にはいかないのだ。

 

それさえも、彼女にとっては単なる言い訳なのかもしれない。

本当は、簡単に揺れ動く自分の心を、もう見たくなかったから。

 

簡単に惑わされ、決意すらも揺らいでしまう。

そんな自分の弱さに、蓋をしたかったのかもしれない。

 

ホーネットが一直線に敵機へ向かって突進する。

 

だが、その瞬間。

ニーナの声が聞こえた気がした。

 

―――お姉ちゃん、わたしを撃つの?―――

 

思わずホーネットを止めてしまう。

その一瞬の隙を、敵機が見逃してくれるわけがなかった。

 

あっという間に距離を詰められ、勢いはそのままに体当たりを受けてしまう。

大きく後ろへ吹っ飛び、その衝撃で頭を傷つけてしまったようだ。

どろっ、とした嫌な感覚を感じ取り、頭から流血したのだとすぐにわかった。

 

「私は...こんなにも..」

 

情けないのか、と。

泣き出したいくらいに、自分の弱さを思い知らされた。

 

アントレーネーの腹部から、いくつものホーネットが吐き出される様子がモニターからも見える。

その攻撃端末は、こちらに狙いを定めていた。

 

だめだ、避けられない。

 

「あなたが死ねば、ようやく私はクーデリカになれる。やっと、自分の居場所が得られるんです。仲間を得られたあなたには、予備の私の気持ちなんてわからないでしょう?」

 

もう一人の『クーデリカ』のクローンは、単に居場所が欲しかっただけなのか。

私には仲間がいる、だが彼女には『クーデリカ』の役割を全うするしか居場所がない。

その両者を奪った私は、憎しみの対象でしかなかったのだろう。

『クーデリカ』としてではなく個人として生きる、その選択さえも彼女にはないのだ。

唯一の居場所が、エドガーの傍なのだから。

 

「私があなたを、連れ出してあげられれば...。」

 

彼女に居場所を分けられたのではないか。

そう思いながら、迫り来るホーネットの衝撃を待った。

 

「クーデリカ、そのまま動かないでっ!」

 

突如として、そんな声が割り込んできた。

その声の直後に無数の弾丸が、倒れたフィーネアントレーネーの上を通り過ぎていく。

そして、襲いかかったホーネットを次々と破壊していく。

 

「クーデリカさん、大丈夫ですか!?」

 

どうやら、ノエルとシエルが助けにきてくれたようだ。

驚いて声も出ない内に、フィーネアントレーネーの横をノエルのプレディカドール弐式カスタムが通過していく。

両腕のツインガン・シックルの刃を展開させ、対峙するアントレーネーと衝突した。

 

「また会ったわね、そっくりさん。」

 

 

 

 

 

 

世界樹より遥か上空。

そこにはエドガー・スタインズ率いる技術開発局の輸送艇団の姿があった。

 

「アントレーネー・レプリック、目標と交戦を開始した模様。」

 

二人目のクーデリカ、今となってはエドガーを邪魔する『不良品』でしかない。

単なる無能ならば放っておいたのだが、少し彼女は優秀すぎた。

敵に回るなら、あらゆる手を尽くしてでも始末しなければならない。

 

そのために用意したのがアントレーネー・レプリックである。

コミュニケーターと言えど、まだ17歳の少女なのだ。

精神面においてはまだ未熟と言わざるを得ない。

初期型のアントレーネーはもはや彼女にとってのコンプレックスとも言えるだろう。

それを利用して、彼女を動揺させて確実に仕留める算段であった。

 

「さて、残りの機体も出してしまいましょう。早いところ世界樹の内部も制圧したいですし、邪魔物も始末しないといけませんし。」

 

エドガーが指示を出すと、MMSコンテナが扉を開いた。

 

「『メリッタ』発進用意。繰り返す――」

 

MMS-C-002 メリッタ。

 

コミュニケーター専用MMSアントレーネーシリーズの簡易量産タイプとして開発された機体である。

 

機体の半分以上がAAPの本体で占められており、世界樹からのエネルギーを原動力とすることで実質、活動時間は無限に等しい。

また、パイロットは『Nシリーズ』と呼ばれるニーナ・マナロフのクローン達。

ディアンケヒトに開発を任せた特殊薬品を投与することでAAPに認識されない存在となり、さらにコミュニケーターの脳波を用いてAAPを内部から操作する。

それはまさに生物兵器と言えるMMSであった。

 

「Nシリーズ、2番から15番までのリンクを確認。機体状態良好、いつでもいけます。」

 

輸送艇より14機のメリッタが飛び立ち、世界樹の内部へと降下していった。

 

 

 

クーデリカのクローン。

一度だけ交戦したことがあるのをノエルは覚えていた。

あの時感じたコミュニケーター独特の雰囲気、クーデリカに似た雰囲気が、今でもはっきりと思い出される。

 

「クーデリカ、あんたは下がってて。」

 

理由はいくつもあるのだろうが、恐らく今のクーデリカでは目の前の敵に勝つことができないだろう。

何かの精神影響なのか、或いは撃つことができないのか。

 

だからこそ、ノエルは彼女に代わって目の前の敵を倒さなければならない。

 

プレディカドール弐式カスタムのブーストを吹かし、ツインガン・シックルの刃を閃かせた。

敵機、アントレーネーも腕からブレードを展開させ、ノエルの攻撃を受け止める。

 

パワーではノエル機の方が有利であるのは明確であった。

確実に押し込んでいき、動きを抑え込む。

 

しかし、向こうも素人ではないのだ。

腹部からホーネットを放ち、ノエル機を貫かんと襲いかかった。

 

「シエル、援護して!」

 

「う、うんっ!」

 

シエル機のガン・シックルからの銃弾がホーネットを撃ち落とし、その間にノエルは脚部からブレードを展開させ、一気に蹴り上げた。

 

アントレーネーの片腕が宙を舞い、次いで小爆発が起こる。

 

状況は既に不利だと判断したアントレーネーが撤退しようと距離を開けようとした。

しかし、それを逃すノエルではない。

射出式アンカーがしっかりとアントレーネーの本体を捕らえていた。

 

「逃がさない!」

 

次の瞬間、ノエルの脳内に直接声が入ってきた。

テレパシー、いや、コミュニケーターの能力か。

 

―――殺さないで、死にたくないよ――――

 

「な、小さい、女の子...?」

 

ノエルの脳に語りかけてきたのは、幼い少女の声だった。

予想外の事態に、ノエルは一瞬の隙を生み出すことになる。

その声の主が、指示されたように動くだけの人造人間だとも知らずに。

 

「っ!」

 

アントレーネーから射出されたホーネットが、一直線にノエル機の後ろを目掛けて突進していったのだ。

その狙いはクーデリカでもなく――

 

「シエルっ!」

 

ホーネットは勢いを緩めること無くシエル機に向かっていった。

突然のことに迎撃することもできず、呆然と立ち尽くすシエルのプレディカドール。

 

その時、ノエルは考えるよりも先に、機体を動かしていた。

 

シエル機にホーネットが到達する寸前、その射線上にノエルが割り込んだのだった。

 

「お姉ちゃん...?お姉ちゃんっ!?」

 

「間に合って、良かった...。」

 

ホーネットは、ノエル機のコクピットを貫いていた。

ノエル自身、コクピット周りの破片に全身を切り裂かれ、血にまみれている状態である。

 

「いや、いや...!自己犠牲は、単なる自己満足に過ぎないって!お姉ちゃん言ったよね...!?」

 

今にも泣きそうな声で、無茶をしたノエルを責める。

シエルの言うことはもっともだ。

だけど。

 

「そう、ね。でも...それで、いいの。だって、私達は...姉妹でしょ...?姉が妹を、守るのは...当然、よ。」

 

機体の破片が内蔵を傷つけたのか、ついにノエルは血を吐いた。

ノエルは残りの力を振り絞り、これ以上自らの無様な姿を見せないように通信を遮断し、目を瞑る。

 

死ぬな、と命令した自分が真っ先にこうなるなんて。

身勝手な姉を、許して欲しい。

 

「皆、どうか...。」

 

世界を救ってください。

 

その言葉を言い終わる前に機体からいくつもの爆発が巻き起こり、やがて、プレディカドール弐式カスタムの反応がレーダーから消失した。

 

 

 

 

「あ....あぁ...。」

 

シエルの嗚咽が、クーデリカの元にも聞こえてきた。

それも、無理のない話である。

目の前で姉が散った瞬間を見てしまったのだから。

 

フィーネアントレーネーのモニターに、自分の脳波の状況が映し出されている。

それが、徐々に乱れ始めていた。

 

「怒りに、悲しみに呑み込まれてはいけない...!」

 

自分に言い聞かせるように、何度も同じ言葉を繰り返した。

だが、悲しみに呑み込まれたのはクーデリカではなく、シエルであった。

 

荒い呼吸と、啜り泣く声が聞こえる。

それでいてどこか落ち着いていて、敵機への純粋な殺意が感じられた。

 

突如動き出すシエルのプレディカドール弐式。

普段からは想像もつかない、荒れた動きで、アントレーネーへと急迫する。

ガン・シックルの刃を縦横無尽に振り回し、声も無くひたすらに攻撃を続けていた。

 

「シエル中尉、ダメです。感情に呑み込まれたら...!」

 

「わかってます!でも...!」

 

それは、『クーデリカ』からの警告。

感情に呑み込まれたら、持てる力も発揮できない。

冷静にならなければ、今度は自分が窮地に立たされるのだ。

 

今のシエルに、普段の冷静な判断力はないだろう。

それが命取りに繋がってしまうのだ。

 

シエル機の刃が振り上げられ、残るアントレーネーの腕を切り落とす。

そして、両羽、頭を切り裂き、アントレーネーは地に這いつくばる形になってしまった。

 

だが、シエルは油断していたのであろう、全方位から迫るホーネットの接近に反応することができなかった。

 

「あっ」

 

目を見開き、自分の死を覚悟したシエル。

だが、今度はクーデリカがシエル機の前に立ちはだかった。

 

「シエル中尉。感情に任せて戦っては自らを殺してしまいます。悔しくて悲しくても、今だけは、耐えてください...。」

 

襲いかかったホーネットは、フィーネアントレーネーを貫くその寸前で動きを止めていた。

クーデリカが強力な脳波で相手の発する脳波へ干渉し、そのコントロール権を奪おうとしているのだった。

 

やがてホーネットはその穂先を、元の主へと向けた。

 

クーデリカが攻撃の意思を強く念じると、コントロール権を奪われたホーネットが一斉にアントレーネーに向かって飛んでいく。

機体の至るところにホーネットが突き刺さり、パイロットも意識を失ったのかアントレーネーは完全に行動を停止した。

 

と、同時に機体が崩れ落ちたのはシエルのプレディカドール弐式。

クーデリカはフィーネアントレーネーから飛び降り、すぐにシエル機のコクピットを開放させに向かった。

 

「シエル中尉...。」

 

コクピット内で、生気を失ったかのように虚ろな表情で、シエルは泣いていた。

近づき、その体を抱きしめる。

 

シエルの悲痛な叫びが、その空間を満たしていった。

 

 

 

 

一方、ゼシルは単機で次の階層への入り口を発見していた。

仲間に伝えようにも電波干渉が激しく、通信ができない状況であった。

これでは、仲間の無事も確認できない。

 

しかし、流暢に仲間を待っているわけにもいかないのだ。

 

「仕方ない、か。」

 

一人呟き、漆黒のプレディカドール弐式カスタムはその扉から次の階層へと降りていく。

次の階層は、その底面まで吹き抜けの構造となっており、底面に大きな扉があった。

 

「なんだ、あれは。」

 

レーダーに映るのは、複数のAAP反応。

しかし、蠍に似た姿の大型種と思われるAAPが、群がる小型種、中型種を次々と殺していく。

 

やがて、蠍型以外のAAPがいなくなり、今度はこちらを向いた。

反射的にマルチMMSガン・シックルを構え、戦闘体勢に入る。

 

しかし―――

 

「来てしまったんだね、ゼシル。予想はしてたけど。」

 

その声にゼシルは驚きを隠せなかった。

 

「エーベル..?」

 

その声の主は聞き間違えるはずかなかった。

かつての88中隊のメンバー、エーベル・ハーネの声だったのだから。

 

蠍のようなAAP、いや、あれはMMSなのか。

レーダーにはAAPの反応があるが、どういうことだろう?

 

「この扉の先には、僕一人で行かせて欲しい。」

 

エーベルが、そう言葉を放った。

エーベル自身も何か目的があって世界樹の根元に向かうという話は知っていた。

そして、そのために技術開発局に協力しているということも。

 

「この先にあるものを、知っているんだね?」

 

ゼシルは問い掛ける。

エーベルも、技術開発局も、この先の何かを求めて行動しているのだ。

それが何なのか。

AAPの中枢に、何が隠されているのか。

 

「これは僕一人の問題だ。『彼』の過ちを、僕が再び裁かなければならない。」

 

「『彼』って誰のことだ?裁くって、何のことだ?」

 

その問いに答えてもらう前に、邪魔物が割り込んできてしまった。

レーダーに映る14のAAP反応。

それらが上の階から舞い降りてくる。

 

「先に、あれを片付けないとね。」

 

舞い降りてくるAAP、それはアントレーネー系のMMSに似ていた。

あれも、MMSということか。

コミュニケーター専用機らしきものが14機、想像するだけで恐怖する。

 

一斉にホーネットを射出させ、ゼシルとエーベルに襲いかかった。

この時点で、エドガーにとってはエーベルは用済みだということなのだろう。

 

マルチMMSガン・シックルをマシンガンへ切り替え、狙いも定めずに乱射する。

いくつものホーネットを撃ち落とすが、全てをカバーしきれるわけではない。

 

エーベルの蠍型MMSも、両腕のクローを使って迎撃していた。

クローからは樹木の強靭な蔓のようなものが伸びており、その蔓が伸縮することで遠距離までクローが届くというものらしい。

攻撃端末に近いものであった。

 

クローが敵機の頭部を捕らえ、そのままクローに内蔵された粒子砲が火を噴いた。

頭が宙を舞い、機体が落下していく。

 

しかし、落下の途中で体勢を立て直し、さらには頭部を再生させたのだった。

 

「自己修復したっ!?」

 

機械的な外装ではなく、植物らしき表面のものであったが、その失われた頭部を再生させていたのだ。

世界樹からエネルギーを供給され続ける、不死身の兵器。

技術開発局の研究成果の恐ろしさを見せられた。

 

 

どれくらい戦っていただろう。

エーベルの機体も再生を繰り返し、それでもパイロットへの負担は大きなものであった。

ましてや、ゼシル機には再生能力などなく、確実に機体が削られていった。

 

マシンガンからショットガンへ切り替え、接近する複数のホーネットを一撃で撃破する。

そして今度は銃身を伸ばして遠距離の敵機を撃ち落とした。

 

どんなに攻撃を加えても、一向に結末は見えてこない。

敵機もほとんどの外装を失っているものの、再生した植物のボディが際限無く補修されていくのだ。

 

これでは、先に進むこともできない。

どうしようかと思考を巡らせていたそのとき。

 

「選り取り見取りじゃねぇか!ヒャハハハハハ!」

 

上の階層から、2機のプレディカドールとフィーネアントレーネーが現れたのだ。

クイーガーは狂ったように声を上げ、敵機の群れに突っ込んでいく。

 

「ゼシル、大丈夫かよ?」

 

ボマーがゼシル機と背中合わせの位置に舞い降り、牽制射撃を行いながらそう聞いてきた。

 

「ああ、なんとか。でも、このままじゃ埒が明かない。あの敵機は、無限に再生するんだ。」

 

クイーガー機が敵機に組み付き、コクピット付近を力任せに引き裂いた。

 

「敵は敵だぁ!情けなんざ要らねぇよっ!」

 

ほとんど原型を保っていないほど、滅茶苦茶に切り刻む。

ガン・シックルを乱射し、背後から迫るホーネットさえも見ずに撃ち落とす。

 

「ゼシル中尉、ここは我々が引き受けます。」

 

クーデリカがフィーネアントレーネーを駆り、数種類のホーネットを放った。

迫る敵機のホーネットを防御型ホーネットで受け止め、射撃型ホーネットがレーザーを撃ち、光の網目を形成する。

 

「ゼシル、ここは俺らを信じてくれよ。たまには俺だって活躍したいんだぜ?」

 

ボマーが不敵に笑い、その本心は強がりであることがはっきりとわかった。

だけど、そんな彼らが今はとても心強く感じられるのだ。

 

「わかった。全てを終わらせて戻ってくるから。」

 

そう言い残し、ゼシルとエーベルは最後の門を開いたのだった。

 

 

 

 

「エーベル、聞かせて貰えないか?君の目的を。」

 

最後の扉をくぐった先には、真っ暗な空間が広がっていた。

遥か下の方に、赤く輝く光が見える。

恐らくは、そこが目指すべきゴールなのだろう。

 

「ここまで来たら、もう隠し事も何もないね。わかった、君には全てを話そう。」

 

ゆっくりとエーベルは話し始めた。

 

「ノア・シュタインベルグ。かつての天才科学者は知っているかい?」

 

ノア・シュタインベルグは誰もが知っているであろう天才科学者である。

現在の技術はほとんどが彼の発明によるものとされている。

 

「先に言っておくと、僕は彼の研究を引き継ぐための、人造人間なんだよ。しかも、人類がAAPと呼ぶ存在をベースとした造られた生命。簡単に言えば、人の皮を被ったAAPってところかな。」

 

いきなりの告白に、ゼシルは理解が追い付いていない様子だった。

たが、思い当たる節はあったのだ。

エーベルの予見眼の能力。

AAPの発する微弱な信号を無意識の内にキャッチしていたのだとしたら、それで説明がつく。

 

「ノアの後継ぎ?でも、AAPって...。」

 

ノアとAAPの繋がりをわかっていないためか、余計に理解が難しい。

 

「最初にAAPが出現したのは、まだノアが生きていた時のことだ。やがて彼の研究は、AAPと密接に関係していくようになっていった。」

 

赤い光が近づき、その近くに1機のMMSが鎮座していた。

コクピットハッチは開けられ、パイロットは不在のようであるが。

 

「おっと、先客がいるみたいだ。話の続きは先客の方にも聞いてもらおうか。」

 

先客、恐らくは技術開発局主任エドガー・スタインズであろう。

ゼシル達が14機のMMSに手間取っている間に、先を越されていたようである。

 

機体から降り、拳銃を構えて周囲を見渡した。

そこには、無数のチューブに繋がれた巨大な赤い球体があった。

 

「これが、世界樹の中枢か...。」

 

これではまるで、世界樹は自然界のものではなく、人工物のようではないか。

 

「『トゥテラリィ・システム』。久しぶりだね。」

 

赤い球体、トゥテラリィ・システムと呼ばれたそれは、光を点滅させて何やら信号を送っているようにも見えた。

 

「追っ手が来てしまいましたか。14機でも始末できないとは、所詮は複製品ってところですかねぇ。」

 

赤い球体の正面に、一人の影があった。

 

「スタインズ...!何がしたいんだ!?」

 

ゼシルは拳銃を向け、エドガーを睨み付けた。

クローン軍団を作り上げ、世界樹の中枢へ入り込み、世界を手に入れようとした男。

 

「人類を進化させるために、この世界樹に眠る天然の『無限機関』を手に入れようとしたんですけどねぇ。―――ですが、明らかに自然のものじゃないですね?」

 

赤い球体を見て、エドガーはそう言った。

 

「主任さん、あなたの仮説は根本的な場所から間違っていた。ノアがAAPの仕組みから『無限機関』らしきものを作り上げた、それは違う。」

 

続く言葉に、ゼシルもエドガーも、目を見開いた。

 

「ノア本人が、無限機関を開発し、それをエネルギー源に作り上げた人工生命体、それが君ら人間が『AAP』と呼ぶ存在だ。」

 

ノアがAAPを生み出した。

それは、人為的に人類が滅びの道を辿っているということだ。

 

「それって、ノアが人を滅ぼそうとしたってことなのか!?」

 

エーベルは否定も肯定もしなかった。

 

「ノアはある時、自分の発明が地球を破壊してしまうと思ったんだ。数々の殺戮兵器と、環境を壊す物を創ってきたからね。だから、人類が殺し合い環境を汚していき、愚の骨頂を迎えたときに、彼は地球をリセットしようと考えた。そのために生まれたのが『トゥテラリィ・システム』。人工AIによって地球と人類を監視し、ノアが危惧した状況に陥った時に、AAPを世界に解き放ち人類を滅ぼす。それが、ノアの計画だ。」

 

エーベルは左腕を前に伸ばし、その腕を植物らしき触手へと変貌させた。

彼がAAPをベースとした人工生命であることは、もはや疑う余地もなかった。

 

「僕はノアの後を継ぐためだけの存在だったのに、感情を持ってしまったんだ。それも、ノアを否定する感情をね。だから、僕は彼を止めるために、殺したんだ。だけど、ノアに忠実な研究者達がその計画を実行に移してしまった。当然、僕は記憶を消されて封印されちゃったけどね。」

 

一連の話を聞き、突然、エドガーが笑い始めた。

狂喜に満ちたような不気味な声で。

 

「くはははは...!ノアはやはり天才でしたか。でも、彼はどうしようもなく愚かです。なぜ、それを人類の発展に活かせなかったか?これさえあれば完璧な秩序の元、人類は進化の道を辿ることができる!この際、世界樹が天然物だろうが人工物だろうが関係ありません。ただ、私が人類を導くだけ!ようやく、人は前に進める...!」

 

エドガーは赤い球体に向けて腕を広げ、狂喜に満ちた笑い声を上げ続ける。

だけど、そんなものが本当に人類の為になるのか?

ゼシルには、どうしても認めることはできなかった。

 

「やはりあなたも、ノアと同じく神を気取るんだね。人類は自分の意思で前に進まなきゃいけないんだ。スタインズ、あなたは間違っているよ。」

 

エーベルの触手が、エドガーに向かって襲いかかった。

だが、それと同時にエドガーも懐から拳銃を取り出す。

 

そして、一発の銃声が鳴り響いた。

 

 

 

14機のMMS、メリッタは依然として数を減らすことはなかった。

ボマー、クイーガー、クーデリカの3人は、途中から合流したシエルと共に戦い続けるものの、既に弾薬、エネルギーが底を尽きそうになっていた。

 

クイーガーが敵機のコクピットにガン・シックルを突き刺し、逆の腕でもう1機、そして挟み込むようにもう1機をがっちりと捕らえた。

直後、クイーガー機の全身にホーネットが突き刺さる。

 

「痛ぇな、このクソ野郎がっ!」

 

破片がクイーガーの体を傷つけ、だが、そんなものに構っている暇はない。

再生速度を上回る早さで、木端微塵に吹き飛ばす。

それが唯一、撃破する方法なのだった。

 

「ヒャハハハハハ!でっけぇ花火だっ!」

 

クイーガーはプレディカドール弐式の自爆コードを入力した。

その直後、クイーガー機から大爆発が起こり、捕らえられていたメリッタが木端微塵に吹き飛んだ。

もはや再生することもできず、完全に消滅したと言える。

それと同時に、クイーガー機の信号がロストした。

 

「クイーガー!?なんで、なんでだよ!?」

 

ボマーが悔恨の声を上げる。

だが、そんな暇もなくメリッタは彼らに襲いかかった。

 

残されたミサイルを発射させ迎撃するが、数機のホーネットがボマー機の腕を奪い去った。

 

もはや残された武装は近接戦闘用のMMSナイフのみ。

だが、ボマーは悲観的にならず、目の前の敵を睨み付けた。

 

「ゼシル、信じてるぜ。」

 

ボマーはプレディカドール弐式のブーストを吹かし、敵機に突撃していった。

 

 

 

 

「くっ...!」

 

一発の銃声。

エドガーが放った銃弾がエーベルを貫き、膝から崩れ落ちた。

と、同時にゼシル達の背後から銃声が響く。

エドガーが撃ち抜かれ、膝をつき、銃声の方向を見る。

 

「ステラ、貴様...!」

 

エドガーを撃ったのは、クーデリカのクローン、ステラであった。

その姿を見たエドガーは驚愕と憎しみの表情を浮かべた。

 

「『二人目』の始末に失敗しました。もはや私は、不要ですか?」

 

ステラはエドガーに問い掛けた。

 

「無能な者に、用はありません...消え失せろ...!」

 

やはり、とステラは思った。

駒としてしか見られてない。

『本物』になっても、兵器として価値が無ければ簡単に捨てられる。

勝手に生み出され、勝手に捨てられた。

 

「ごめんなさい、主任。」

 

彼を殺して、ようやく私は人になれる。

居場所はもう要らない、せめて人として死にたかった。

 

またしても銃声。

エドガーから血が溢れ、その命が消えていく。

 

そして今度はその銃口を自分に向けて――

 

「待って!」

 

ゼシルがステラを制止する。

だがステラは止まらなかった。

泣きそうな表情を浮かべたまま、トリガーを引き絞り、その少女もまた命を散らせたのだった。

 

「くっ、そ...!」

 

止められなかった。

その悔しさが、ゼシルを追い詰める。

しかし、視線の端に倒れたエーベルの姿が映り込んだ。

急いで駆け寄り、体を起こす。

同時にゼシルは拳銃から銃弾を放ち、その弾丸はエドガーの体を撃ち抜いたのだった。

 

「エーベル!しっかりしろ!」

 

「...どうやら、特殊な、弾で、撃たれた...みたいだ...。」

 

対AAP用特殊弾。

通常の弾丸ではエーベルを倒せないと判断したのであろう。

 

「今なんとか手当てするから。動かないで。」

 

傷口を塞ごうとするゼシルを手で制し、エーベルは最後の頼みを伝えた。

 

「人類は、自力で...前に進んでほしい...。ノアでもなく、誰でもなく..自分達の足で...前へ行け...。人類の可能性を、僕は信じたい...。だから、早く『トゥテラリィ』を、破壊して、くれ...。」

 

それを最期にエーベルは二度と目を開けなかった。

エーベルの目的、それは、ノアの『トゥテラリィ・システム』を破壊することだったのだろう。

自分がノアを止められなかった責任を感じ、一人で解決しようとする。

それがエーベルの成し遂げたかったことなのだ。

 

だから、ゼシルは彼の代わりに、トゥテラリィを破壊する。

プレディカドール弐式カスタムに乗り込み、全ての弾丸を撃ち尽くした。

 

 

 

 

「敵の動きが、止まった...?」

 

もはや中破したプレディカドールの中で、ボマーが小さく声を出した。

残る9機のメリッタは突如その行動を停止し、地面に落ちていく。

 

「やったな。ゼシル。」

 

ゼシルは終わらせたのだ。

長い戦いにピリオドを打ち、散っていった全ての人がようやく報われる時が訪れた。

 

最終浄化は発動せず、人類の未来は守られたのだった。

 

 

 

 

「長きに渡るAAPとの戦いは、ようやく終わった。ここから、人類は新たなスタートを切り、さらに―――」

 

第一世界樹の中枢が破壊されてから数日後、正式に全世界に向けて非常事態宣言の解除が報じられた。

また、対AAP特務組織P.E.S.Tはその任務を戦後の後始末へと変更された。

 

第88独立機動中隊所属ゼシル・ミラーガ中尉は重要参考人として国際連合会議に招集され、AAPのもたらした悲劇と、これからの世界平和について訴えた。

 

それから数ヶ月が経ってからも、地球には自然が溢れ返り、人類が本土へ戻れる日は数年後のことになるそうだ。

大きな傷跡を残したこの争いは、永遠に語り継がれるであろう。

だが、それは世界平和を維持するためには必要なこと。

 

皮肉にもAAPの出現は、かつてない程に人類を結束させた。

 

2063年、人類は新たな未来へ向けて、再スタートを切ったのだった。

 

 

 

 

夕日に染まる部屋の中、ゼシルは鉢に植えられた花に水を与えていた。

かつての仲間の、遺産の1つである。

 

「ねぇゼシル。あんた、花育てる趣味あったの?」

 

ベッドの上で上半身だけ起こしている少女、ノエルがそう話しかけた。

 

「病室に一人じゃ寂しいでしょ?」

 

「何それ、変な理由ね。」

 

クスクスと笑うノエル。

第一世界樹の内部で、シエルを庇って負傷したノエルは重傷を負いながらも帰還した。

全身に傷があったものの、今の医療技術においてほとんど治ったも同然だった。

しかし、脊椎を酷く損傷しており、歩けるようになるには半年以上の治療が必要となっていた。

 

「これからどうするかは決めたの?」

 

ゼシルが問い掛けると、ノエルは自信満々に答えた。

 

「士官学校からやり直して、裏方に回ろうかなって思ってる。もう、パイロットとしてはやっていけないし。」

 

歩けるようになったとしても、元の運動神経や反射神経までは戻らないだろうと言われていた。

だけど、命があるだけ良かったのかもしれない。

 

「じゃあ、俺は全力で応援してるよ。」

 

ノエルは顔を赤くして視線を逸らした。

 

「あんたも頑張って。明日からまた復興作業に行くんでしょ?」

 

夕日に染まった空はどこまでも美しく、切ないものだった。

戦いの傷跡を見る度、戦闘の記憶が甦る。

クイーガー、エーベル、他にも散った多くの人を想い、それでも彼らは前に進む。

 

彼らの未来は始まったばかり。

真の平和への一歩を、明日も明後日も、その先も、永遠に歩んでいく。

それが彼らにできる、最大限の努力なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお付き合いいただき、ありがとうございますm(__)m
ようやく完結いたしました。
読んでいただいた皆様に心からの感謝を申し上げます。
約半年かけての完結です。
続けられたのも、コメントを下さる読者様や、読んで下さる方々のお陰です。
本当にありがとうございました!
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