PEST   作:リボーンズ

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やっと5話です。
中隊を取り巻く人間関係も徐々に変化が現れます。



守るべきもの

「2番機中破!離脱します!」

 

インド洋で繰り広げられているAAPとの海上戦は終盤に差し掛かろうとしていた。

 

ノエル達の中隊やクーデリカ、そして他の隊のプレディカドールの活躍もあり、第5MMS突撃機動連隊を襲った多数の鳥型AAPの群れは確実に小さくなっていった。

 

しかし、それに対する派遣されたP.E.S.Tの第1突撃機動連隊も少なからず戦力を消耗している状況である。

既に何機ものプレディカドール弐式が中破、あるいは大破し、残る機体の方が少なくなっている事態にまで陥っていた。

 

「さて、どうするべきか。」

 

艦のブリッジで戦況を見ていた第1MMS突撃機動連隊の指揮官、エーリッヒ・アイヒンガー大佐は一人呟いた。

プレディカドールは数機しか残っていないのにも関わらず、AAPの群れの親玉であろう大怪鳥型AAPが未だに健在であるのだ。

 

「機体の補給作業はどうなっているか?」

 

エーリッヒは次の作戦を考えつつ艦長席の左下に座っている副官に補給作業の進み具合を尋ねた。

 

「ノーヴィアントレーネー及び第88独立機動中隊のプレディカドールの補給は15分程で完了するとのことです。」

 

再出撃まで15分、やや長いと思わずにはいられないエーリッヒであったが、副官の報告に対しエドガーが言葉を返した。

 

「補給作業はノーヴィアントレーネーに集中させるよう伝えなさい。」

 

「待てスタインズ主任。ノーヴィアントレーネーだけでどうにかなる問題では―」

 

エーリッヒが反論しようとするも、笑みを湛えたエドガーはその反論すら捩じ伏せる。

 

「既に大半の小型AAPは片付いていますし、あとは残党狩りと大型AAPの相手のみですよ大佐。コミュニケーターであるマナロフ少尉ならばそれくらい可能な範疇です。」

 

「先程は危険だったな、バニミール中尉がいなければ今頃どうなっていたか。」

 

「まぁまぁ、あれは機体のエネルギー量の問題ですよ。予備バッテリーを付けとけばまだまだ戦えたはずです。」

 

クーデリカ・マナロフ少尉に絶対の信頼を寄せているだけなのか、それとも単なる道具としか見ていないのか、エドガーの言動には何か裏があるように感じられる。

しかし、ノーヴィアントレーネーにそれが可能ならば作戦開始までの時間がかなり短縮できるのは確かだ。

 

第5連隊の残された人の危険ももはや時間の問題である。

手段は選んでいられない。

そしてエーリッヒは決断するのだった。

 

「ノーヴィアントレーネーの補給を最優先させろ。大型AAPの注意を引き付けている間に他の隊で艦内を制圧、生存者の救助を行う。」

 

 

 

 

ノエルとクーデリカはMMSハンガーの一角で互いを見続けていた。

怒りの瞳とただそれを見返す瞳、二人の間の空気は温度を感じさせない程に冷たかった。

 

「命令無視して、勝手に飛び出して、さっきの戦いなんなの?」

 

先に口を開いたのはノエルの方だった。

声色からも怒りの感情が読み取れるほどに低く、静かな声。

しかし、臆する様子を見せないクーデリカは至って平然と答えた。

 

「私は私の戦い方をしただけです。コミュニケーターと普通のパイロットは違う。」

 

いきなり、ノエルはクーデリカの胸ぐらを掴んで乱暴に壁へ押し付けた。

冷えた空気が、ハンガー全体へと広まっていくのを感じる。

 

「違うからって連携を崩していいわけじゃない!コミュニケーターだから命令無視していいの?...そんなの、身勝手すぎる...!」

 

声を荒げてクーデリカの行動を非難するノエルだが、それでもクーデリカの態度は変わることがなかった。

 

「私にも、譲れないものもあります。あなた方のような慎重さも大切でしょうが、度が過ぎればただの臆病でしかありません。それでは何も守れない。」

 

声は小さかったが、一歩も譲るまいとする強い意思が籠った言葉だった。

二人の視線は一瞬たりとも逸れることがない。

 

「あたしが、臆病ですって...?」

 

ノエルが絞り出した声にクーデリカは否定を示さなかった。

それは、肯定を意味するとも受け取れる反応。

その反応を受け、ノエルは先に視線を逸らしてしまった。

クーデリカの胸ぐらを掴んだままノエルはうつむき、拳に思いっきりの力を込めた。

目には、僅かばかりの涙が浮かんでいる。

 

「保護対象を守ることが大切なのはわかるわよ...。でも、自分達が死んだら、意味ないじゃない...!あんたの行動で隊全体に危険が及ぶこともあるのよ!?」

 

先程の戦闘では現にクーデリカは窮地に立たされていた。

中型飛行タイプのAAPに捕らわれたあの時、ノエルが助けに行かなければどうなっていただろうか。

 

「あのとき助けてくれたことには礼をいいます。シエル中尉にも謝罪をしなければいけませんね。」

 

でも、とクーデリカはさらに言葉を続けた。

 

「私が無茶をしなければ、第5連隊の人は助けられません。あなたもMMSのパイロットでしょう、守る側の立場を考えてください。」

 

視界が赤くなったかのような感覚をノエルは味わった。

それは、怒り、葛藤、悔しさからくるものであった。

握りしめた拳を振りかざし、クーデリカへぶつけようとしたノエルであるが、その瞬間、ゼシルがノエルの腕を掴んでいた。

 

「ノエル中尉、もうやめよう。争っても何も解決しないよ。」

 

隊長として、隊員の命を守ることを優先するノエル。

そして強者たるコミュニケーターとしての責任を遵守しようとするクーデリカ。

二人の価値観は交わることはない。

 

「もう、いい。」

 

ノエルは力を抜き、涙を溜めた敵意の視線をクーデリカへ向けたあと、その場を立ち去った。

おどおどとした様子のボマーがゼシルを見て、そしてすぐにノエルの後を追いかける。

ボマーの目は、クーデリカを頼んだと言ったようにゼシルは感じていた。

 

「マナロフ少尉、君はずっと哀しい表情をしているね?」

 

自分達と歳もさほど変わらないであろう少女の、綺麗な顔立ちだからこそその哀しい表情は似合わなかった。

 

そして、クーデリカが固執する『守る』ということ。

哀しい表情とその執着に、何か関係があるのだろうか?

 

「過去に、何かあったの?」

 

その質問にクーデリカは顔を背けた。

噛んだ唇から、血が流れている様子からも何かあったのは間違いない。

ゼシルはやや踏み込みすぎたと反省したが、それでもこの哀少女のことが知りたかった。

 

「私は仲間を、あの子を守れなかったんです。そして――」

 

クーデリカが話始めたそのとき、作戦再開を知らせる艦内アナウンスが流れた。

 

「クーデリカ・マナロフ少尉はMMSにて待機!他の第88独立機動中隊員は至急ハンガーに集合せよ!」

 

タイミングが悪いとはこのことだ。

それでも今はやるしかない。

 

「ゼシル少尉、この話は後日改めて。」

 

 

 

 

 

「ノーヴィアントレーネー発進後、他の隊員は空中バイクで第5連隊の艦に接近、そこからは白兵戦で航空機用の滑走路からハンガーへ侵入し内部の制圧及びブリッジにいる生存者の救助にあたれ。」

 

エーリッヒ・アイヒンガー大佐からの指示は以上だった。

第5連隊の乗組員のうち7割以上は侵入してきたAAPに殺され、中には同化された者もいるという。

ゼシルはこれから行われる白兵戦に思いを馳せて、憂鬱な気持ちになった。

 

「ノーヴィアントレーネー、発進を許可する。」

 

ハンガーに響き渡る艦内アナウンスとともにクーデリカが駈るノーヴィアントレーネーはふわりと浮上、一気に加速して再び大海原へと飛び出した。

 

「こっちも出るわよ。第88独立機動中隊、出撃!」

 

先程の喧嘩など気にも止めない様子であくまでいつものノエルであった。

ゼシルはそれが逆に気になったが、隊に遅れを取らぬようすぐに空中バイクを発進させた。

 

吹き荒れる風と潮の匂い。

P.E.S.TとAAPの戦いが行われているその海は、場違いな程に青く美しかった。

 

 

 

ほとんどのAAPを殲滅し終えたため、第5連隊の艦への接近は難しいことではない。

また、この群れの親玉であろう大型飛行タイプのAAPはクーデリカが引き受けてくれる。

ときおり襲ってくる小型AAPの残党を造作もなく撃ち落としながら、ゼシル達は出撃から数分で第5連隊の艦へと到着した。

 

「各員セーフティ解除してね。二手に別れて内部を制圧するわよ。」

 

「「了解!」」

 

ノエルの指示を受け、第88独立機動中隊のメンバーは艦のハンガーへと進んだ。

ゼシルはヘルメットの横のカバーを開き、ボタンを操作して内部の熱源を探知した。

 

「このフロアだけでも20体近くか。人と同化したやつも数体いるみたいだ。」

 

ゼシル達が身に付けているのは通常の戦闘服ではなく、対AAP用の特殊戦闘スーツである。

ヘルメット内部には今のような熱源探知に加え、空間をスキャンして暗闇でも戦闘が行えるような暗視システムも装備されている。

首から下のスーツは柔らかくも丈夫な素材で構成されており、対AAP用の特殊コーティングが施されAAPに取り付かれても同化されにくいという優れた機能を持つ。

 

「ヒャハハハハ!白兵戦は熱くなっちまうなぁ!」

 

ハンガーへ侵入した中隊を見つけ、中にいたAAPが扉を突き破ってこちらに襲いかかる。

もともと白兵戦を好むクイーガーはハンドガンとアサルトナイフを携えてAAPと交戦を開始した。

 

人と同化したタイプにも容赦することなく蹴りを入れ、仰け反った頭に追撃の銃弾を叩き込む。

クイーガーが取りこぼしたAAPはボマーや他数名のメンバーが自動小銃で撃破、確実に数を減らしていった。

 

「私たちはあっちの扉を。」

 

ノエルが示した二つ目の入り口の扉からも例外なくAAPが溢れ出てきた。

乗組員の死体に寄生したAAPを、躊躇いながらも撃ち殺すゼシルとノエル。

赤い飛沫が、ゼシル自身に罪悪感をもたらすのだ。

 

「うっ!」

 

そのとき銃撃の音が鳴り響き、同時にノエルが銃を手放してうずくまった。

 

「ノエル中尉!」

 

恐らくノエルは腕を撃たれた。

その証拠にノエルは左手で右腕を庇っていた。

すぐにノエルを機材の後ろに隠れさせ、ゼシルは自動小銃を構えて狙いを定めた。

 

「や、やめてくれ!俺はまだ死にたくない!助けてくれぇ!」

 

迫り来るのは、AAPと同化した乗組員である。

プレディカドールと同化したことからもわかるが、AAPは同化した相手を分析し、学習して人工物を使いこなす。

先程の銃撃は、乗組員と同化したことによりAAPが銃の使い方を学習したのだろう。

 

ゼシルは引き金に指をかけ、銃弾を放とうとした。

しかし、彼には撃つことができなかった。

 

「嫌だ!撃たないでくれ!死にたくない!俺は、俺はぁ!」

 

人としての意識があるものを殺す必要があるのか?

保護して、助けることだってできるかもしれない。

だから――

 

再び鳴り響く銃声。

頭を撃ち抜かれ、崩れ落ちるAAP。

撃ったのは、ゼシルでもなく、ノエルでもなかった。

 

「甘いぜぇゼシル。」

 

ゼシルとノエルの後ろから銃弾を放ったのはクイーガーであった。

 

「引き金くらい機械的に引けよぉ。じゃねえと、誰一人、自分自身すら守れねぇぜ?」

 

そのままクイーガーはその場を立ち去った。

どうやらボマーたちは他のルートから内部に侵入したらしい。

 

「ノエル中尉、大丈夫?先に引き上げた方がいいよ。」

 

ノエルは止血の処置を行い、なんとか立ち上がった。

 

「大丈夫よ。上手く戦えるかは、わからないけど。」

 

「俺が、守るから。」

 

そうだ、敵に情けをかけては誰も守れはしない。

ノエルを守ると心に決めたと同時に、ゼシルは自分も強くならなければならないと、心に強く思った。

 

「部下のくせに、生意気。」

 

ヘルメットがなければ、ノエルは赤くなった顔を晒すことになっていただろう。

普段は暑苦しくて好まない戦闘スーツであるが、この時ばかりはヘルメットに感謝するのであった。

 

 

 

その後二人はエレベーター付近を制圧しハンガーのあるフロアから内部へと侵入、ブリッジのある階層へと急いだ。

 

「ボマー、そっちの様子は?」

 

「思いの外AAPが多くてな。今足止めくらってる!」

 

ボマー達はおそらくブリッジに辿り着くまでにかなりの時間がかかるだろう。

となると、クイーガーかゼシルとノエルがブリッジまで辿り着かなければならない。

 

ゼシルとノエルはエレベーターに乗り、ブリッジのあるフロアへと到着した。

扉が開くと同時に背中合わせの状態で通路へ銃を向けた。

 

「このフロアは比較的に敵が少なそうだな。」

 

「でも熱源は感知してるわ。気を付けて。」

 

ヘルメット内部の熱源探知では、通路の突き当たりを曲がったところに1体のAAPがいることを示している。

 

おそらくは人型。

 

ゼシルは唾を飲み込み、覚悟を決めて通路の突き当たりまで進んだ。

ノエルに待つようにと指で合図し、自動小銃を構えて突き当たりを曲がった。

 

「ひゃっ!?」

 

まだあどけなさの残る少女の声だった。

名前は知らないが、艦のオペレーターだろうか。

左腕がしっかりとAAPと同化しているのを確認したゼシルは、再度銃を構える。

 

「そこの人、逃げて!体が勝手に動いて、あなた達を殺してしまう!」

 

オペレーターの少女は叫んだ。

自分の身よりも、他人を意識せずに殺してしまう恐怖に蝕まれていたのだ。

 

再びゼシルの心に迷いが翳った。

 

本当に、殺すべきなのか?

AAPと同化した人間は、敵と見なして殲滅すべきなのか?

 

――引き金くらい機械的に引けよぉ。じゃねえと、誰一人、自分自身すら守れねぇぜ?――

 

クイーガーの言葉が頭の中を何度も木霊した。

 

何も、守れない。

さっき決意したばかりなのに、頭では理解しているのに、心のどこかでそれを拒絶している。

 

だから―――。

 

「ノエル中尉、待っててね。すぐに終わらせるから。」

 

そう言ったゼシルはナイフを取りだし、オペレーターの少女のところへと駆け出した。

 

いきなりの行動に対しオペレーターの少女は、いや、彼女を乗っ取ろうとしているAAPが触手と化した左腕を伸ばして攻撃してきた。

 

狙いはゼシルの頭部、しかしゼシルは反射神経をフルに活用し、ギリギリでその攻撃を避ける。

 

右腕による追撃は無し、伸ばした触手はすぐに戻せず彼女とゼシルを阻むものは何もない。

 

そのままの勢いで少女に突っ込み、床に押し倒して触手と化した左腕をナイフで床に縫い付けた。

 

「な、なにを...?」

 

「大丈夫、君を助けるから。」

 

ゼシルは内側のポケットから1本の注射器を取り出した。

中にはAAPの動きを一時的に停止させ、それと同時に同化の進行を遅延させる薬が入っている。

 

彼女に同化したAAPは激しく抵抗するも、ゼシルは注射器を触手部分に打ち込んだ。

 

「ゼシル、何がどうなったの?」

 

事の一部始終を見ていたノエルであるが、具体的に何をしたのかまでは理解していないらしい。

 

「見た感じ、この女の子は左腕から同化されてるけどまだ進行は進んでない。早いうちに左腕の切断と再生治療を行えば、この子は助かるよ。」

 

敵となった人間も躊躇いなく始末する、その考えにゼシルは納得しなかった。

たしかに、クイーガーの言うことも一理ある。

しかし、ゼシルは救える命は救い、そして周りも守る、そんな戦い方が自分に合っているのだと結論を出した。

 

 

 

「隊長さんよぉ、例の生存者の保護、完了したぜぇ。」

 

まもなく、クイーガーから任務完了の連絡が入れられた。

報告ではブリッジに身を潜めていた全員は無事、13名のクルーとアルバード・カース大佐の確保に成功したらしい。

 

「クイーガーお手柄ね。各員に通達、任務完了。直ちに撤退せよ。」

 

ゼシルは気を失っている少女を担いで立ち上がった。

負傷しているノエルに手を差し伸べ、それに応えたノエルが手を握り立ち上がる。

 

「隊長、帰ろう。」

 

「うん、そうね。」

 

 

 

 

第5連隊の艦から脱出した第88独立機動中隊は保護対象とともに大型ヘリでその場を後にした。

ヘリが高く舞い上がったそのとき、第1連隊の艦の主砲が火を噴いた。

砲弾はAAPと同化した第5連隊の艦を撃ち抜き、そして艦は内部から爆発を起こしてインド洋に沈みつつあった。

 

その光景を見ていた全員が敬礼をし、AAPに捕らわれた戦艦の最期のときを見守っていた。




はい、第5話でした。
今回は作戦の続きと、価値観の違いによる対立のお話でした。そして、主人公の決意も。
さて、拙い文章にお付き合いいただきありがとうございましたm(__)m
ご指摘、ご意見、ご感想など言っていただけると大きな励みになりますのでよろしくお願いいたします。
では、次回に続きます。

前回の第3連隊やら第5連隊やらの数字が混ざった箇所がありました。
気づいたところは修正しましたが、まだ他の箇所も違うかも知れません。
ほんと、ごめんなさい(;つД`)
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