PEST   作:リボーンズ

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第6話です。
投稿までにやや時間がかかりました、ごめんなさいm(__)m



追憶の扉

「お姉ちゃん、助けて!痛いよぉ、怖いよぉ!」

 

辺りが紅蓮の焔に包まれた中、幼い少女は姉に助けを求めた。

死にたくない、その一心で。

 

動け、動け、動け!

 

姉は神に祈った。

しかしどれだけ願っても、その想いは神に届くことはなかった。

繰り返し表示されるエラーの文字列。

 

「お姉ちゃん..助け...。」

 

傷を負ったその幼い少女は、それでも姉にすがるように声を絞り出した。

 

動け、動け、動いてよ...!

 

「お姉...ちゃん...。」

 

最後の力で姉を呼んだ少女は、ついにその魂を肉体から離してしまう。

燃え盛る焔の中で、尊い1つの命が、その輝きを失った。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 

大量の汗をかき、不快な冷たさを伴ってクーデリカは目を覚ました。

時刻は朝の6時。

インド洋での作戦から一夜が明け、僅かな休息をもらっていたため普段よりも寝過ごしてしまっていた。

 

それにしても、嫌な夢を見たものだ。

 

ノエルとの価値観の違いによる対立がきっかけなのは間違いない。

時折見る、忘れてはいけない残酷な記憶。

それはクーデリカ自身の生きる意味や戦う意味そのものでもあった。

 

「ふぅ...。」

 

1つ溜め息をつき、不快な汗を流すためにシャワールームへと直行する。

服を脱ぎ捨て、浴室に入るなり熱めのシャワーを頭から浴びた。

嫌なことはシャワーとともに流し落とせるはずなのだが、どうしてもこの記憶だけは流すことができない。

いや、忘れてはならないのだ。

 

弱々しく姉を呼んだその少女の声がずっとクーデリカの頭の中に響き渡っていた。

 

 

 

 

 

次の作戦までの数日間、第88独立機動中隊は束の間の休息が与えられていた。

ゼシルとノエルとボマーはこの機にシエルのいる病院へと見舞いに訪れていた。

 

「わざわざありがとうございます。私なんかのために...。」

 

「いいのよ、こいつらもどうせ暇なんだし。」

 

「勝手に暇人扱いにするなっ。」

 

ボマーの反論も虚しくゼシルもボマーも暇人認定されてしまっていた。

クスクスと静かに笑うシエルの様子からも容態が回復に向かっているのが見受けられる。

しかし完全には治っていないため、しばらくMMSの搭乗は許されていなかった。

 

「私が欠けた分のMMSはどうなるんでしょうか?このままだと1機足りないですよね。」

 

「シエル中尉がいないのは不安だけど、クイーガーが代わりにMMSに乗るらしいよ。」

 

ゼシルがそう言うなり、シエルは安堵の表情を浮かべた。

少なからず自分が欠けて戦力を減らしてしまったことに責任を感じていたのだろう、やや血色が良くなった気がする。

 

「え、クイーガーなのかよ!巻き込まれて死なないようにしなきゃな...。」

 

ボマーの言うことも尤もである。

もともとクイーガーはその狂暴な戦闘スタイル故にMMSの使用を避けるように言われていた。

しかし、昨日の第5連隊救出の際に保護対象の確保を成功させた手柄のために本人の希望に答えてプレディカドール弐式を与えることとなったらしい。

 

「マナロフ少尉に加えてクイーガーまで引っ張らなきゃいけないのは、正直骨が折れそう。」

 

今後のことについてもいろいろと話しているうちに、面会時間の終了が近づいてきた。

ノエルは特例としてそのままシエルのもとにいることが許されたのだが、ゼシルとボマーは退室を余儀無くされた。

 

「じゃあ、俺らは帰るぜ。」

 

「あ、ありがとうございました。早く復帰できるように頑張りますね。」

 

病院から出ると、すでに時刻は昼を回っているようだった。

AAPとの戦いという苦しい状況とは思えないほどに居住区域は活気に溢れている。

P.E.S.T総司令本部は人工島を分厚い壁で囲み、その内部に居住区域、そして中央にP.E.S.Tの指令基地がある。

強固な要塞の中にいるというその事実故に、居住区域で暮らす人々はAAPという脅威を忘れて安心しているのだ。

世界各地には守られた都市部に入れないまま、AAPの猛威に恐れながらひっそりと暮らす人もいる。

それを考えると、ゼシルは手放しでこの休暇を喜ぶことができないでいた。

 

「ゼシル、この後どうする?どっかパーっと遊びに行く?」

 

悪気はないのだろうが、ゼシルの気持ちを知る術もないボマーは遠慮もなしに聞いてきた。

遊びに行きたい気持ちもない訳ではないのだが、ゼシルには1つ別の約束があったのだ。

 

「悪いなボマー。ちょっと別の用事があってさ。」

 

その瞬間、ゼシルの返事に血相を変えてボマーが肩を掴んできた。

 

「デートか!?デートなのか!?俺より先に女作りやがって~!」

 

用事があると言っただけでデートだと決めつけるのはどうかと思うが、普段から誘いを断らないゼシルが今日に限って断ったその事実故に思考回路が狭まっているようだ。

 

「あ、いやそういう訳ではないけど、その...。」

 

ゼシルの弁解も聞かずにボマーは走り出した。

キラキラと輝いたのは恐らく涙であろう、よほどゼシルに先を越されたのが悲しいらしい。

 

一人残されたゼシルは道にポツンと立ち尽くした。

小さくなっていくボマーの背中を見届け、1つ溜め息をつく。

 

「まあ、これはこれでいいかな...。」

 

 

 

 

薄暗いP.E.S.T本部の会議室。

中央に位置する大型モニターにはインド洋で行われた第5MMS突撃機動連隊の救出及びAAP殲滅作戦の映像が映されていた。

 

「まずは無事に帰還してくれたことを嬉しく思うよ、カース大佐。」

 

幹部の一人が昨日の戦闘で救出された第5連隊の指揮官、アルバード・カース大佐に言葉をかけた。

他の幹部もカース大佐の帰還を喜ぶ声を上げている。

 

「大変ご心配をおかけして、申し訳ありません。失った兵や艦、MMSの損害も甚大でございます。」

 

目を伏せ、自らの失態と失われた兵を想い表情を暗くするカース大佐。

それでも上層部はカース大佐の失態を咎めようとはせず、少ない兵力で派遣した自分達を悔やんだ。

 

「こちらもAAPの規模を侮っていたようだ。隊が全滅しなかっただけ良しとしなければなるまい。」

 

「それより、ニュージーランド戦線の報告を聞かせてもらおうか、カース大佐。」

 

はい、と返事をしたカース大佐は席を立ち、大型モニターの前へと歩を進めた。

幹部の視線が集まるなか、カース大佐は報告を始める。

 

「我々、第5MMS突撃機動連隊は第3連隊とともにニュージーランド南島に上陸、北上して北島の制圧を試みました。」

 

画面が切り替わり、観測機が撮影したであろう映像が映し出された。

画質は悪いが、大型のAAPに加え同化されたと思われる戦闘車両『オルーガ』や戦車、初期型のMMSの姿も多数見られる。

 

「これは...。」

 

幹部の数人が思わず声を上げた。

 

「恐らく数ヵ月前のニュージーランド防衛戦時の撤退に間に合わなかった者たちが同化されたと考えられます。」

 

「その地域一体を統括する『樹』の位置はわかっているのかね?」

 

『樹』とは3本の世界樹の出現の後に起こった世界同時多発地震の際に現れた数十本以上に及ぶ大型の樹木である。

世界樹と比較すると小柄ではあるが普通の樹木とは比べ物にならない巨大さを誇る。

 

近年の研究でこの『樹』が世界樹からの何らかのシグナルを受け取ってAAPに指示を下す、言わば中継地点のような役割を果たしていることがわかっていた。

 

「南部はある程度制圧しましたがそのような物は確認できませんでした。ジャミングで衛星も航空機の策敵も使えない現状ではMMSによる策敵で発見するしかないと思われます。」

 

「南部にないというのなら、残るは北部の島だな。」

 

その後の話し合いで具体的な作戦案が出され、ニュージーランド奪還の目処がようやく立ってきた。

本作戦ではニュージーランド北部に大型輸送ヘリ部隊で接近、MMSを降下させてジャミングを無効化させる装置を設置しつつ目視にて『樹』の発見、及びMMSの殲滅を行い、その後に航空機による爆撃で『樹』の撃破を試みるというものであった。

 

「指揮権は引き続きカース大佐に預けよう。シドニー支部に応援を要請した。そこで部隊を整えて再度ニュージーランド攻略に向かってもらう。」

 

幹部の承認のもと、カース大佐率いる第5MMS突撃機動連隊のニュージーランド攻略が決定された。

 

「南米の第一世界樹攻略のためにもニュージーランドは重要な足場となる。戦果を期待するぞ、カース大佐。」

 

会議に出席した上層部の者より期待を込めた拍手が送られる中、カース大佐は真剣な眼差しと敬礼でそれに応えた。

 

 

 

ボマーと別れたゼシルはそのままP.E.S.T本部の宿舎へと戻っていた。

宿舎のロビーにはゼシルと約束がある人物が座って待っている。

 

「ごめんね、待った?」

 

ゼシルが駆け寄り、待ち人に声をかける。

待ち人は立ち上がり、嬉しそうな顔をするわけでもなくあくまで平静に返事をした。

 

「いえ、私も先程来たところです。」

 

「良かった。じゃあ行こうか、マナロフ少尉。」

 

そう、ゼシルが約束した相手とはクーデリカ・マナロフ少尉であった。

ボマーが言ったようなデートなどという甘酸っぱいものでは断じてない。

 

昨日、作戦中の待機時間に聞きたかったこと。

身を危険に晒してまで守ることに固執するその理由を、今日改めて聞こうと思っていたのだ。

 

ゼシル自身、人を守りたいと願ってP.E.S.Tへと入隊した者の一人であるが、クーデリカほど守ることに固執したことは、正直ない。

身の危険を感じたら退く、守れなかった人々もたくさんいる。

クーデリカが同じ状況だったらどうしただろうか?

 

ノエルの主張する価値観も大切であるのは疑いなく、むしろゼシル自身はそちらよりである。

 

しかし初心に返ると、求めた強さはクーデリカのように身を危険に晒してでも人を守る、そういうものであった。

 

二つの矛盾する価値観。

どちらも欲するゼシルには、何が正しく何が間違いなのかわからない。

 

クーデリカの話を聞いて、何かを理解するきっかけが欲しかったのかもしれない、そう思ってクーデリカに頼んだ。

 

「はい。じゃあ、私の部屋へ。」

 

背を向け歩き出すクーデリカだが、少々ゼシルは困惑した。

 

「え、いや、話なら部屋でなくても。」

 

「あまり他人に聞かれたくないですし。何より、コミュニケーターには言葉よりももっと伝えやすい方法がありますから。」

 

ゼシルの躊躇いを無視して部屋へと向かうクーデリカを、ゼシルは追いかけた。

女性の部屋に入るのはほとんど経験がなく、あるとすればノエルの部屋に行ったことくらいだ。

もちろん、シエルもボマーもいたのだが。

 

部屋に入ると、全体的に白を基調とした色彩が目に飛び込んできた。

机と椅子と棚と、ベッドくらいしか部屋には物がなかった。

 

本当に女子の部屋なのだろうかと疑いかけたそのとき、棚の上に一枚の写真立てを見つけた。

 

「この人たちは...。」

 

髭を蓄えた陽気そうな男、その男の腕に腕を絡めて笑顔を見せる大人びた女性、写真慣れしていないのか、どこか恥ずかしげにしている若い男。

そして、長いポニーテールをした色白の少女と、その少女によく似た小さな女の子が写真に映っていた。

 

このポニーテールの少女はクーデリカであろうか?

 

「私を仲間として扱ってくれた、心の家族みたいなものです。」

 

その写真を哀しげに見つめるクーデリカは視線を落とし、唇を噛んだ。

心の家族。

そう呼んだのには、どんな経緯があるのかはわからないが、コミュニケーターとして実験対象としか見られなかった彼女にとってとても深い意味を持つのだろう。

 

「この人たち、今は?」

 

クーデリカの表情から見ても、もはや彼らがどうなったのか想像するのは容易であったが、ゼシルは確認せずにはいられなかった。

我ながら、残酷な質問をしたとすぐに後悔する。

 

「死にました。あの子を殺したのは、ほとんど私です。」

 

あの子、とは写真に映っている幼い女の子であろうか?

クーデリカによく似ており、妹だと推測する。

 

「ゼシル少尉、ベッドに横になってもらえますか?」

 

いきなりクーデリカにそう言われ、ゼシルは思わずびっくりする。

 

「な、何を...?」

 

「コミュニケーターといっても、送信型と受信型があるんです。もともとも受信型の私は、こうしないと相手に鮮明なイメージを伝えられなくて。」

 

そう言うなり、ゼシルの顔にクーデリカ自身の顔を近づけた。

ますます困惑するゼシルに構わず、お互いの額をコツン、とぶつけた。

 

その瞬間、ゼシルは自分の脳内に大量の情報と映像が一気に流れ込んできたかのような感覚を味わう。

 

「私、第二世界樹攻略作戦に参加したんですよ。」

 

なんだ、これ...?

 

薄れゆく意識の彼方からクーデリカの声が聞こえたがそれも徐々に薄れていき、まるで何かの夢を見ているかの感覚であった。

 

再生される、クーデリカの記憶。

 

時は現在から2年前の2061年。

疑似無限機関搭載型の戦闘兵器MMSの量産に成功した人類は、『第二世界樹』に対して攻撃作戦を発動しようとしていた。




はい、第6話でした。
今回は戦闘パートはありませんでした。
次回はけっこう戦闘の場面あります。(主に回想編ですけども。)
ご指摘、ご感想、ご意見など言っていただけると幸いです。
では、また次回m(__)m
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