PEST   作:リボーンズ

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第7話です。
ちょっといつもより長めかもしれません。


償いの理由

真っ白な照明に照らし出される一機の蜂型のMMS。

『MMS-C-001-1アントレーネー』である。

人類が開発した初期型MMSとは別に開発が進められていたコミュニケーター専用MMSの初号機。

 

ハンガーの中に、その機体を見上げる二人の少女の姿があった。

 

「お姉ちゃん、この蜂さんにあたしたちが乗るの?」

 

二人の少女のうち、幼い方の少女が姉の服を掴んでそう問いかけた。

姉は膝を曲げて視線を妹に合わせ、優しく答えた。

 

「うん、そうだよ。私たちがこの蜂さんに乗って、人々を守らなきゃね。」

 

「うんっ!」

 

このとき、彼女たちを巻き込む運命の歯車は既に動き出していた。

 

 

 

当時15歳のクーデリカ・マナロフと7つ年下の妹、ニーナ・マナロフは人類の中でも希少とされるコミュニケーターという存在である。

二人はその中でも優秀とされ、特に妹のニーナは脳波が強力であり、人類で最も優れていたコミュニケーターであった。

 

彼女らは幼いうちにP.E.S.T技術開発局に被験体として受け渡され、その後コミュニケーターの研究に大きな進歩をもたらした。

 

その研究により開発されたのがコミュニケーター専用MMSアントレーネーである。

 

送信型のコミュニケーターによって操ることのできる自律攻撃端末『ホーネット』を主武装とし、理論上は単機で大規模なAAPの群れと渡り合える性能を誇る。

 

ホーネットを操ることになるニーナはまだ幼く、MMSの操縦も満足にできないため姉のクーデリカも同時に乗り込む複座式のコクピットが採用され、機体には多くのセンサーを搭載し受信型コミュニケーターのクーデリカが機体の制御を行うこととなった。

 

「最終確認は以上です。何か質問はありますか?」

 

訓練機はさんざん乗りこなしてきたクーデリカとニーナであるが、実戦機の扱いは初めてである。

念入りな説明が行われた。

 

「いえ、大丈夫です。私たちならなんとか扱えます。」

 

クーデリカの返答に満足そうな表情を浮かべたエドガー・スタインズは、ふと思い出したようにこう付け加えた。

 

「ニーナさんの脳波は強力ですが不安定な面もあります。くれぐれもその辺、気をつけてくださいね?」

 

 

 

単機で多数のAAPと戦えるとはいえ、彼女たちは実戦経験はない。

そんな彼女らを戦場でまともに動かすためには、隊に編入させる必要があった。

 

そこでクーデリカとニーナの二人は、当時最強と言われた小隊の補充兵として配属されることになった。

配属先は第1MMS小隊。

 

エドガーの後についていくと、各小隊に与えられた部屋の前にたどり着いた。

標札らしきプレートには『アスタルテ隊』と書いてある。

 

アスタルテ隊。

最も多くのAAPを葬ったとされる最強の戦闘車両部隊であると聞いたことがあった。

今はMMSの配備に際し、戦闘車両部隊からMMS部隊へと変更がなされているようだ。

 

そんな隊に、実戦経験の少ない自分が配属されて大丈夫なのだろうかという不安が頭を過ったが、エドガーに促されて部屋の中に入った。

 

「お、来たな噂の補充兵。」

 

部屋の中には顎髭を生やした性格的に軽そうな男と、その傍らにはやたらと露出度の高い服を着た女性、そして部屋の奥には大人しそうな若い男が座っていた。

ニーナはクーデリカの服を掴んで後ろへ隠れている。

 

「クーデリカ・マナロフ准尉とニーナ・マナロフ准尉です!よ、よろしくお願いしますっ。」

 

思わず声がひっくり返ってしまいながらも、クーデリカはなんとか挨拶をした。

その様子に顎髭の男はにやにやとした表情を浮かべる。

悪意のある表情ではなく、純粋に初々しいクーデリカとニーナを微笑ましい気持ちで見ていたようである。

 

「アスタルテ隊の隊長を務めるシルヴィオ・ラヴロック大尉だ。よろしく頼むぞ。」

 

顎髭の男はそう名乗り、手を差し出す。

クーデリカはすかさず握手に応えて両手で握りしめた。

 

「そう緊張しなさんな。気楽に行こうぜ?」

 

シルヴィオはクーデリカの後ろに隠れたニーナを覗き込んだが、すぐにニーナは反対方向へ逃げてしまう。

 

「ニ、ニーナ、隠れてないで挨拶しなさい。」

 

おずおずと前に進み、小声でニーナは挨拶をした。

 

「ニーナ・マナロフです、よろしくお願いします...。」

 

「随分と可愛らしい補充兵さんねぇ。」

 

シルヴィオの向かいに座っていた露出度の高い服を着た女性が、クーデリカとニーナのところへ向かってきた。

 

見た目に似合わず優しそうな微笑みを浮かべてニーナの頭をポンポンと撫でた。

 

「こいつは俺の愛人のカサンドラ・コーマックだ。仲良くしてやってくれ。」

 

シルヴィオがその女性を紹介するとカサンドラと呼ばれた女性はクーデリカとニーナに手を差し出した。

 

「よろしくね。一応、この隊の副官やってるから何でも私に聞くんだよ?シルヴィオはアテにならないからねぇ。」

 

がっくりと項垂れるシルヴィオをよそにカサンドラは笑っていた。

 

「あ、ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」

 

カサンドラは後ろを向き、部屋の奥に向かって声をあげた。

誰かを呼び出しているようだ。

 

「ユーリー!あんたも挨拶しな!」

 

すぐにユーリーと呼ばれた若い青年が顔を出す。

やや照れながらもクーデリカたちのところへ来て、自らの名を名乗る。

 

「ユーリー・ネクラソフ少尉です。よろしくお願いしますね。」

 

大人しそうで、優しそうな青年だった。

クーデリカもニーナも、瞬間的に顔を赤らめる。

 

「ちょうど良かったじゃないか、ユーリーは妹を欲しがってたからねぇ。可愛い妹が二人もできて万々歳だね。」

 

カサンドラが悪戯っぽい表情を浮かべて肘でユーリーの横腹をつついてみせた。

 

「いやいやいや!そんなことは―」

 

照れ隠しなのか赤面しながら必死に弁解するユーリーを無視してシルヴィオが彼に追撃を加えるかのように言った。

 

「クーデリカ、ニーナ。彼のことはお兄ちゃんって呼ぶんだぞ?」

 

クーデリカはやや躊躇ったが、恥ずかしがりやなニーナは意外にも躊躇いなく実行した。

 

「お、お兄ちゃん...。」

 

ニーナは上目遣いで、しかも語尾にハートでも見えそうな声色でそう呼んでみた。

 

「か、可愛い...!」

 

ユーリーはニーナに悩殺されてしまった。

 

 

 

 

クーデリカとニーナが第1MMS小隊『アスタルテ隊』に入ってからの1ヶ月間、彼女らにとってはかけがえのない時間となった。

噂に聞く最強の戦闘車両部隊であったアスタルテ隊のメンバーは、クーデリカが予想していたイメージとは全く異なっていて、皆温かい人物であった。

 

整備の合間、訓練のあと、アスタルテ隊の中には笑い声で満ちていた。

 

ユーリーとニーナがじゃれ合っているのを、シルヴィオとカサンドラとクーデリカが笑いながら眺める。

 

クーデリカとニーナには親の記憶がなく、家族というものを知らない。

しかし、家族とはこんな温かなものなのではないかと、クーデリカは心の奥で感じていた。

 

 

 

ある日、クーデリカは隊で使用している部屋の棚の上に1枚の写真を見つけた。

写真の横には一組のピアスが置かれている。

 

「隊長、この写真は...?」

 

写真に映っているのは、やんちゃそうな雰囲気の金髪の男性。

軍服の襟元にはアスタルテ隊の紋章がつけられている。

 

「エミールのことか?こいつはな、今は天国って場所にいるが俺の大切な仲間であり家族だ。」

 

写真に映っている男性はエミールという名前らしい。

シルヴィオの言葉から、すでに彼はこの世を去ったということが伝えられた。

 

「ちょうどクーデリカとニーナが来る数日前だったな。ちょっと戦闘でしくじりやがってな。」

 

「悲しく、なかったんですか?」

 

クーデリカとニーナがアスタルテ隊に入隊したとき、シルヴィオたちは悲しい雰囲気を見せなかった。

そもそも補充兵として入隊したのだから、そのことは違和感でしかない。

 

「悲しくなかった、と言えば嘘になる。だけどなクーデリカ。逝っちまってもあいつと俺らの繋がりは切れはしないんだ、永遠にな。それが仲間であり、家族ってもんだ。」 

 

これが、仲間。

これが、家族。

 

「仮に俺やカサンドラやユーリーが死んでもな、あまり悲しむことはするなよ。クーデリカもニーナも、もう俺らの家族なんだから。繋がりは、ずっと切れねぇよ。」

 

「縁起でもないこと、言わないでください!」

 

思わず声を張り上げた。

悲しむな、と言われてもできるはずがない。

クーデリカもニーナも、家族というものがどんなものかと、ようやく理解してきたのだ。

シルヴィオたちが死んでしまうのが、怖くなった。

研究施設にいた頃にはニーナ以外に感じたことのないこの感情。

 

「ははは!悪かったな。」

 

クーデリカの頭を優しく撫でたシルヴィオの顔は、どこか寂しげで、哀しげだった。

 

 

 

2061年6月 第二世界樹攻略作戦が決行される。

本作戦は戦闘車両部隊によって第二世界樹を取り巻く樹海の制圧を行い、新型兵器であるMMSを世界樹内部に侵入させて内部から破壊する、というものである。

 

投入されるMMSは全21機。

P.E.S.Tが開発した新型兵器MMSの初期型、『MMS-01-1パウーク壱式』20機とアントレーネー1機である。

パウーク壱式は蜘蛛をモチーフとしたMMSで、複数のカメラや多脚による安定性を備え、射出される強力なワイヤーを使うことによりアクロバティックな戦闘を行うことができる。

 

これらの戦力を以て、人類の反抗作戦が開始された。

 

攻撃目標である第二世界樹は中国南部に位置し、軍隊は南シナ海を渡り、中国本土へと上陸、戦線を押し上げていった。

 

着実に戦線を押し上げていっても、戦況は決して良いとは言えないものだった。

AAPの数が多く、戦闘車両では対抗しきれずに撃破されていくオルーガも目立つ。

 

入り乱れた戦いの中、航空機による爆撃も味方を巻き込む可能性を危惧して使用不可。

予定よりもかなり早い段階でMMSの出撃を決定することとなった。

 

「というわけだ。俺らの任務は世界樹までの進路を作ること、そして世界樹の破壊だ。」

 

予定よりも早まった出撃を隊のメンバーに伝えるシルヴィオ。

普段通りの声色、しかし焦りの色もクーデリカには感じ取ることができた。

 

その後すぐに出撃要請のアナウンスが流れ、ついにアスタルテ隊の出撃の時がやって来た。

クーデリカとニーナはアントレーネーのコクピットに乗り込み、機体を起動させた。

クーデリカとニーナの脳波を機体とリンクさせ、戦闘モードへと移行させる。

 

「お姉ちゃん、あたしたち、これから戦うの?」

 

不安げな顔をするニーナは後ろに座るクーデリカを見て、そう問いかけた。

 

「そうだよ。私たちの力で、皆を守ろうね。」

 

コンテナが解放され、大型輸送ヘリから見下ろす広大な戦場が視界に映り込んだ。

クーデリカは1つ深呼吸をして、精神を落ち着かせる。

絶望の大地へ、今飛び込もうとしているのだ。

 

「各員、生き残ることだけを考えろ。死んじまったら、後味悪いからな。」

 

「素直じゃないねぇシルヴィオは。」

 

出撃前の、短いやり取り。

少しばかりか緊張が解れ、冷静になれた気がした。

 

「う、うるせぇ!アスタルテ隊、出るぞ!」

 

シルヴィオの号令と共に飛び出すパウークとアントレーネー。

降下用パラシュートを展開するパウークの後をアントレーネーが追った。

 

着地と同時にパラシュートを切り離し、樹海の中へと進軍するアスタルテ隊。

クーデリカは精神を研ぎ澄ませ、AAPの気配を感じとる。

蠢く多数の生き物の気配。

 

「前方、多数のAAPが来ます!」

 

間もなくAAPの群れがアスタルテ隊に襲いかかってきた。

鳥型、木から手足が生えたような巨人型、多種多様なAAPが一斉に現れたのだ。

 

「ひっ!」

 

「ニーナ、落ち着いて!いつも通り、ホーネットを使うの!」

 

怯えたニーナを落ち着かせ、普段通りの行動をとらせる。

腹部から射出されるホーネットはやや直線的に動いてAAPを迎え撃った。

 

シルヴィオたちのパウークもワイヤーを駆使したアクロバティックな戦闘スタイルで確実にAAPを葬っている。

 

アスタルテ隊は他の小隊と共に進軍を続け、簡易式の電波塔を設置しつつ世界樹から数十キロの地点まで戦線を押し上げた。

 

この時点で残っているMMSはアントレーネーを含めて9機。

脚部損傷、大破、疑似無限機関の残エネルギー切れなど理由は様々だが、現戦力でこれ以上の戦闘継続は難しいと思われた。

敗退も覚悟しなければならないとそう考え出したとき、P.E.S.T本部から各隊の隊長へ連絡が入った。

 

連絡を受けたシルヴィオはアスタルテ隊のメンバーに内容を伝えた。

 

「各機へ通達。これより増援機の護衛及び世界樹への進撃を再開する。」

 

「こんな戦力でかい?増援ってのも怪しいし、いったい上は何を考えてる!?」

 

増援機、どれほどの規模の増援なのかは定かではないが彼らに撤退の選択肢はなかった。

間もなく、遥か上空の輸送ヘリから、増援機と思われるMMSが降下した。

 

「増援機って...1機しかいないじゃないですか!」

 

ユーリーも思わず声を上げるが、それも無理はない。

増援機というのは、やや大型の装備を纏ったパウーク壱式であった。

いくら重装備を持っていようと、単機で世界樹を撃破できるわけがない。

 

「仕方ないだろ。あいつを世界樹まで送り届けてやらねぇとな。」

 

 

 

足場の悪い樹海を進むこと数時間、ついに残存部隊は世界樹の根本へと到達した。

AAPの発する謎のジャミングも濃くなっており、非常に通信が困難となっていたが恐らく最後の指令であろう通信が彼らのもとへ届いた。

 

「これは...!?」

 

「隊長、どうしました...?」

 

シルヴィオの驚愕の声色に、クーデリカは不安を隠せない。

指令の内容とは、なんだったのだろうか。

 

「どうやら、増援機ってのが戦略兵器と一体化した特別仕様の機体らしい。」

 

増援機として送られた重装備型パウーク壱式は、通常1機辺り1つの疑似無限機関を搭載しているところを、5つ搭載しているらしい。

活動に使う1つを除いた4つの疑似無限機関の出力を暴走させてそのエネルギーを強制的に抑え込み、臨界に達したところで解放することで爆発を引き起こすという、言わば特攻兵器であったのだ。

 

そして残存部隊に与えられた最後の指令は、世界樹の内部でその機体が臨界に達するまで防衛せよ、というものであった。

 

生存の確率は、0に等しい。

臨海の直前で撤退を初めても、恐らく間に合わないだろう。

 

クーデリカは、急に体が震えだした。

怖い、自分やニーナが死ぬのも、シルヴィオたちが死ぬのも。

 

「まずは、中の様子だけでも見ねぇと始まらねぇ。」

 

特務仕様のパウークが背部に装備したミサイルで、世界樹の外皮に大きな穴を開けた。

爆風が止み、内部の様子が見えてくる。

 

世界樹の内部に侵入したのはアスタルテ隊と増援機の計5機のみ。

残りの機体はシルヴィオの指示で退路の確保へと向けられた。

 

直径数百メートルに及ぶ世界樹の中心部へ行くことは、さほど苦労はなかった。

まるで生き物の中に入っている感覚。

どこか不気味で、恐怖が彼らの心を支配した。

 

世界樹の中心部には、本体を支えているかのような太く長い柱が聳え立っていた。

これを増援機、いや、疑似無限機関の爆弾で吹き飛ばそうというのだ。

 

柱に集まってくる無数のAAP、そして爆破シークエンスを開始した特務仕様パウーク壱式。

 

アスタルテ隊は必死に抵抗を見せるも、群がるAAPの数は一向に減らず、無限に涌き出ているのではないかと思えてくる。

 

爆破までの残り時間すらわからず、彼らは戦い続けた。

 

「お前ら、よく聞け。」

 

突如としてシルヴィオが各機へと通信を入れる。

 

「後は俺でなんとかする。お前らは撤退しろ、今ならまだ間に合うかもしれねぇ。」

 

「あたしゃ無理だね。機体のパワーが撤退まで持たない。だから、付き合うよシルヴィオ。」

 

はぁ、と溜め息をこぼすシルヴィオは、どこが嬉しそうな表情をしていた。

 

「ユーリー、クーデリカとニーナを送り届けてやれ。」

 

ユーリーは、答えに迷った。

シルヴィオたちを置いて撤退したくはない、だがクーデリカたちも守らなければならない。

 

そして、クーデリカ自身も迷っていた。

アントレーネーのパイロットが自分だけなら迷わずここに残ることを決めただろう。

しかし、ニーナがいるのだ。

幼い彼女に死を強要するわけにはいかない。

 

「隊長、全員で撤退しましょう!もう、十分に戦いましたよ!命を捨てることも、ないじゃないですか...!」

 

クーデリカは声を上げて訴えた。

誰かを失うのは嫌だ。

特務仕様パウークのパイロットも、今なら十分に脱出する時間はある。

皆で、生きて帰らなければ意味がないのだ。

 

「ダメだ。ここで撤退したら世界樹の殲滅が失敗する。この作戦で死んだ奴らに、申し訳ない。」

 

「でも...!」

 

それでも諦めきれないクーデリカに、カサンドラが声をかえた。

 

「クーデリカ、男の覚悟に水を差しちゃいけないよ。シルヴィオも言っていただろう?あたしたちの繋がりは、永遠に切れないんだよ。」

 

特務仕様パウークの疑似無限機関の色が、赤く染まってきていた。

臨界のときは、そう遠くない証拠である。

ユーリーはついに決断した、クーデリカたちを連れて帰ると。

 

「隊長、カサンドラ姐さん、ご武運を。」

 

そう言うなり、マニピュレーターでアントレーネーの腕を掴もうとするユーリー。

 

「待ってユーリー!でも、隊長たちを置いてくなんて私には...!」

 

「今は退くんだよ!僕だって、ツラいけど!」

 

ユーリーは、泣いていた。

クーデリカやニーナよりも長くシルヴィオやカサンドラと過ごしてきた彼は、クーデリカよりもこの決断はツラいものに違いなかった。

 

世界樹の侵入口を突破し、樹海の中を突き進むパウークとアントレーネー。

後ろからは足の早い中型AAPが迫ってきてきた。

 

「お姉ちゃん、隊長は?カサンドラさんは?」

 

事態を飲み込めていないニーナはクーデリカに聞いた。

大丈夫、シルヴィオたちならきっと、なんとか..!

最悪の結末を想像せず、あくまで希望にすがるクーデリカをよそに、ユーリーのパウークが急に転回して迫り来るAAP群に向かい合った。

 

何、してるの...?

 

「クーデリカ、ニーナ。僕はここまでです。真っ直ぐ飛んだら開けた場所に出るから、上昇して樹海から脱出するんだよ。あとは上手く、逃げて。」

 

ユーリーのパウークは、迫るAAPの群れへと突っ込んでいった。

嫌だ、嫌だ、なんで、こんなこと...。

 

ニーナもこのことは理解していたようだ、声を上げて泣き出した。

繰り返し『お兄ちゃん』と何度も何度も呼んだ。

 

ユーリーを助けようとニーナがホーネットを射出しようするが、残エネルギー量が危険域に入ったと警告ランプが点灯する。

助けることも叶わずに、ユーリーのパウークは徐々に原型を失っていった。

 

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

 

泣きじゃくるニーナと、恐怖によって冷えていくクーデリカ。

それが、大きな油断を作り出すことになる。

 

パウークを乗り越えてきた中型AAPの触手が、猛スピードでアントレーネーに襲いかかったのである。

 

しまった――。

 

気づいたときには羽を折られ、地面に叩きつけられていた。

衝撃でニーナは頭部を負傷、そして脳波が大きく乱れてホーネットとのリンクが途絶した。

 

沈黙したパウークを踏み越え、次々と奥からAAPの群れが迫ってくる。

 

「お姉ちゃん、助けて!痛いよぉ、怖いよぉ!」

 

完全に取り乱したニーナは既にホーネットを操ることができず、ただ泣きじゃくる子供へと戻っていた。

ニーナを抱き締め、怪我の具合を確かめる。

ひどく出血し、早く逃げないと命に関わるものと判断した。

 

早く逃げないと、その本能的思考だけが彼女を支配する。

 

動け、動け、動け!

 

アントレーネーを必死に動かそうとするも、触手に囚われて上手く動かせない。

さらに残エネルギーがついに底を尽きようとしていた。

 

動け、動け、動いてよ!

 

どれだけ神に祈っても、その願いが届くことはなかった。

 

「お姉...ちゃん...。」

 

ニーナの瞼がだんだん閉じていき、そして、息を止めた。

 

「いやぁぁぁああああ!!」

 

自分の声とは思えないほどの叫び声。

シルヴィオたちも、ニーナも、守れなかった。

自分がもっと強ければ、もっと責任を果たしていれば、こんなことにはならなかったのではないかと、悔やんでも悔やみきれなかった。

 

呼吸を止めたニーナの体を抱き締めて、クーデリカは声を上げて泣き続ける。

 

迫るAAPにも気を向けず、ただ愛する妹の体を守るかのように強く抱き締めていた。

 

クーデリカ自身、ここで死ぬのだと覚悟を決めた。

機体の残エネルギーも底を尽き、自分に成せることはもうないのだと悟った瞬間であった。

 

だけど。

 

だけど、もし生き延びられたら、この命を誰かを守るために使いたい。

守れなかったニーナや、私たちを守ってくれたシルヴィオ、カサンドラ、ユーリーたちに対する、せめてもの償いをしたいと思った。

 

薄れ行く意識の中で、クーデリカは生きることを望んだのだった。




第7話でした。
けっこうカットしたんですけどね、長くなりました。
後半は急ぎ足になってしまったので後々修正していこうかなと。
誤字脱字は普段よりも多いかもしれません。
発見したらすぐに直しますのでご了承くださいm(__)m
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