PEST   作:リボーンズ

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第9話です。
遅くなるかと思いましたが普段より早かったです。


翠緑の海

「はぁ...どうしよ...。」

 

隙間からわずかな日光が差し込むだけの薄暗い樹海の中、ゼシルはかすかに覗く空を見上げて一人呟いた。

 

昨夜、ニュージーランド攻略作戦で北部の偵察に訪れた第88独立機動中隊は突然の嵐に見舞われ、さらに運の悪いことにAAPの群れに襲撃されて散り散りになってしまっていた。

飛び出したクーデリカとノエルを追うように自らのプレディカドールも出撃させたのだが、戦闘中に暴風で機体のバランスを崩しそのまま地上へと落下した。

クーデリカもノエルも見当たらず、部隊の輸送ヘリもAAPから受けたダメージを考えると、恐らく墜落しているであろう。

状況は最悪、その一言に尽きた。

 

暗闇の中をプレディカドールで捜索を行ったため、機体の残エネルギーも心許ない状態であった。

我ながら馬鹿なことをしたと自覚しているゼシルであったが、何より仲間の安否が心配なのだ。

しかし捜索も虚しく誰も見つけることができず、そのまま朝を迎えて現在に至る。

 

「どこだよ、ここ。」

 

『樹』が発するジャミングの影響だろうか、プレディカドールのレーダーも通信も使い物にならない。

味方の位置どころか自分の位置すら把握できていなかった。

 

幸いなことに、どうやらゼシルのいる周辺にはAAPの姿は見当たらなかった。

もっとも、AAPが多いとされるのは『樹』の周辺か、以前に攻略作戦が行われた場所であろう。

特に、交戦があった場所周辺では破壊された兵器と同化したタイプが多い。

できれば単機で遭遇したくはない。

 

それはさておき、ゼシル自身としては早く誰かと合流したい気持ちがあった。

一人で『樹』の位置を特定しても撃破できるとも限らない上に、どちらにせよノエル達の捜索は行わねばならない。

 

プレディカドールのコクピットの中に収納してある自動小銃を手に取り、再び外に出る。

プレディカドールのエネルギーの消費を抑えるためにここからは自らの足で捜索するのが得策だと判断したのだ。

 

「たぶんそんなに離れてはいないはずだ...。よしっ。」

 

一人で静かに気合いを入れ、ゼシルは薄暗い樹海を歩み始めた。

 

 

 

何時間歩いただろうか。

太陽は空高く登っており、ようやく昼を迎えたようである。

 

「ふぅ、ここら辺の雑魚はもういないかな。」

 

途中、四足歩行型の小型AAPを数体見つけて自動小銃で応戦した。

遮蔽物の多い樹海では思うように銃弾が当たらなかったが、それでも射撃スキルには自信があるゼシルである。

AAPの接近を許さずに殲滅を完了させた。

 

これだけ歩いても、当然と言えば当然なのだが誰も見つけることができなかった。

喉も乾き、空腹も強く感じるようになっている。

 

食料は全て輸送ヘリに置いてきているし、辺りを見渡しても木の実も見つからない。

もっとも、木の実は見つけても極力食べないようにと教えられている。

ごく稀にだが、AAPが木の実に擬態しているらしいのだ。

それを知らずに食した者が内部からAAPに同化され、そのまま体を乗っ取られるという事件もあったという。

想像するだけでも恐ろしい、ゼシルは食料のことより飲み水のことを考え始めた。

 

サバイバルのようなこの状況、まずは水の確保は優先しなければならない。

喉が渇いてからでは遅い、というのはよく聞くことであり、その点から考えるともはや手遅れなのだが。

 

川を探すか、樹液を集めるか。

 

例によって樹液の採取にも注意を払わねばならない。

もしかすると、その樹木がAAPという可能性も...。

そう考え始めるとキリがない。

AAPの出現はサバイバルをより厳しい物へと変えていた。

 

結論として、川や池を探すことにした。

運が良ければ魚でも釣れるかもしれない、そう期待を抱いてゼシルは歩を進めた。

 

 

ようやく水場を見つけたのはそれから数十分後のことである。

途中、昨夜の嵐で土砂が混ざっている川を見つけたのだが、それは無視して極力綺麗な水場を求めて探し歩いた。

そしてようやく綺麗な水場を発見することに至ったのだ。

 

「助かったぁ...。」

 

嬉し涙でも流しそうなほどに感極まり、周囲の安全も確認せずに川の中へと顔を突っ込んだ。

緩やかな流れが心地よく、渇いた喉を一気に潤した。

生き返るとはまさにこのこと、ここまで水を美味しく飲めたのは恐らく訓練時代以来であろう。

 

ふと、視線を逸らすと遠くの方に何かを見つけた。

肌色で細長く、それは上へと垂直に伸びていた。

まるで、人の足のようであった。

ん、人の足?

 

驚いてゼシルは咄嗟に顔を上げると、そこには一人の人が立っていた。

飛び散る水飛沫の中、ゼシルの目に飛び込んできたのは何故か半裸姿のノエルであった。

ひきつった表情で、その手には拳銃が握られている。

 

「お、お、お久しぶりです中尉殿。」

 

ゼシルの言葉に返事はなく、代わりに全力の回し蹴りが飛んできた。

 

 

 

 

「いきなりでびっくりしたわよ。AAPかと思って危うく撃つところだったのよ?」

 

「水に夢中で気づかなくて、ごめん。」

 

近くの茂みに腰を下ろし、とりあえず状況の報告も兼ねていろいろと話した。

どうやらノエルはこの付近に不時着し、そのままこの水場を見つけて魚取り兼水浴びをしていたらしい。

 

「ところで、マナロフ少尉はあの後どこに?」

 

昨夜、真っ先に飛び出したクーデリカを追ってノエルも出撃したのだ、何かわかるかもしれない。

しかし。

 

「見失ったわ。ほんと、あいつの行動には振り回されるわね。」

 

クーデリカの行動理念を知っているゼシルは、一概にクーデリカを責めることはできなかった。

当然、ノエルの苦労も理解できるのではあるが。

 

「マナロフ少尉も心配だし、輸送ヘリもたぶん墜落してるからボマーとクイーガー達も心配だね。」

 

「マナロフ少尉はどうでもいいわよ。勝手に突っ込んでるだけだし、もうどうとでもなればいい。」

 

ノエルは相当腹を立てているみたいだ、口調がだんだん荒くなっていくのがわかる。

ノエルは何も知らない、故に仕方のないことなのだが、過去を知っているゼシルにはそれがもどかしい。

 

「マナロフ少尉は、責任感が強すぎるだけだよ。」

 

「出会って数日で、よくそんなことがわかるわね?」

 

ノエルに痛いところを突かれた気がした。

わざわざクーデリカが能力を行使してまで他人に聞かれないようにした過去の秘密。

たぶん、勝手に誰かに話していいものではない。

 

ノエルにクーデリカの行動理念を少しでも理解してもらうには、やはり本人達が直接話すしかないのだ。

 

「まあ、いいけど。」

 

黙りこんだゼシルに対してそれ以上の追及はせず、ノエルは立ち上がった。

樹木に立て掛けていた自動小銃を手に取り、川とは逆の方向に歩き始めた。

 

「中尉、どこ行くの。」

 

突然歩き出したノエルに驚き、ゼシルもすぐに後を追う。

 

「プレディカドール取りに行くのよ。すぐそこに停めてあるから。」

 

木々に隠れるようにしてノエルのプレディカドールが見えた。

しかしその瞬間、ゼシルは何か嫌な空気をかすかに感じ取った。

 

「ん...?」

 

一瞬、ノエルのプレディカドールのメインカメラのランプが赤く点灯したのが見えた気がした。

勝手に起動しているのだろうか?

 

「あれ?あたしこんな所に停めたっけ?」

 

ノエルのその言葉で、ゼシルはその嫌な空気の正体を理解した。

MMSは勝手に起動することはあり得ない。しかもノエルの機体は個人的にパスワードを設定しており、本人以外に起動させることはできない。

 

ならば、残る可能性はただ1つ。

 

「ノエル、伏せて!」

 

ゼシルはノエルに向かって走り、勢いを殺すことなく茂みの中へとノエルを押し倒した。

その直後に聞こえる銃声。

葉の隙間からガン・シックルの銃弾を放ったノエルのプレディカドールの姿が確認できた。

 

「あたしの機体、同化されてる...!?」

 

ノエルの話ではこの辺りのAAPは一掃したらしいのだが、恐らく取り零しがいたのだろう。

 

「どうしようか...?」

 

咄嗟に回避行動を取ったゼシルだが、この先のことは何も考えていなかった。

到底、プレディカドールから逃げ切れるとも思っていない。

そんな中、やや神妙な面持ちでノエルは思考をフル回転させていた。

 

「ねぇゼシル、まだ走れる体力ある?」

 

まさか走って逃走するつもりだろうか?

そんなことは不可能だと知りながら、まだ動ける旨を伝えた。

 

「じゃあ、二人だけなんだけど、対大型AAP戦術を実行するわよ。」

 

対大型AAP戦術。

本来は5人程度で行う、大型AAPを白兵戦で撃破するという作戦である。

もっとも、とある理由から極力避けるようにと言われているのだが、今回のようにMMSが使えない場合にはやむを得ない。

 

「あたしが前衛に行くから、フィニッシュは任せたわよ。」

 

率先して前衛を引き受けようとするノエル、しかし彼女は

右腕が本調子ではないのだ。

数日前の、インド洋上での第5連隊救出の際に艦内での戦闘で乗組員と同化したタイプのAAPに右腕を撃たれていた。

怪我をしている人を前衛に向かわせるほど、ゼシルは情けなくない。

 

「ダメだよ。俺が前に出るから。中尉、怪我してるよね?」

 

「これくらいは大丈夫。注意を引き付けるくらい余裕よ。」

 

余裕といっているノエルだが、ゼシルが押し倒した際に傷口が開いてしまったようである。

僅かに赤い染みが見えた。

 

「言い合っても仕方ない、俺が出る。」

 

半ば強引に結論を出し、ゼシルは自動小銃を構えて立ち上がった。

ノエルもこれ以上ゼシルの主張に反論する余地はなく、大人しく従うことにしたようだ。

 

「無理だけはしないで、絶対。」

 

「わかってる。でも、なんとかこの状況を切り抜けて見せるよ。」

 

不安そうな表情のノエルを残し、すぐに茂みを飛び出してAAPと化したプレディカドールの前へ姿を晒した。

プレディカドールがゼシルを狙うかのように向きを変える。

 

まずは敵の注意を引き付けることに成功、次に取るべき行動はAAPと同化された接合部の発見である。

前から見たところ接合部は見当たらず、間違いなく背中のコクピットユニットの脱出ポッド射出口辺りにでもくっついているだろう。

そこに強力な攻撃さえ叩き込めれば勝機はある。

 

簡単に言うならば、接合部にくっついているAAPさえ殺せばプレディカドールの行動を止めることができるということだ。

ただし同化されたら基本的に分離することはできず、ノエルのプレディカドールを再び使えるようにするのは無理だろう。

同化されたポイントが腕や足などの四肢ならばそのまま切り離すことで解決するのだが、恐らく今回はシステムの中枢部にまで同化されている。

ノエルには悪いが、この機体は破壊するしかない。

 

プレディカドールの背後に回り込むように、機体の右側から走る。

プレディカドールが放つガン・シックルの銃弾がゼシルの足元の地面を抉り、地面の欠片と砂埃を巻き上げた。

 

「くっ!」

 

自動小銃で威嚇しつつプレディカドールの背後を取ろうとするも、そう簡単にはいかない。

ガン・シックルの銃弾がゼシルの顔をかするように通り抜け、背後の樹木に大穴を開けた。

 

一気に吹き出る冷や汗、ガン・シックルの弾に当たれば間違いなく人体など吹き飛んでしまうことだろう。

 

そのとき、AAPがノエルの姿を捉えてしまった。

注意を引き付けるはずが、ゼシルからノエルへと注意が逸れてしまったのだ。

 

「中尉っ!くそっ!」

 

このままだとノエルの身が危ないと判断したゼシルは背中を晒したAAPに銃弾を浴びせた。

立て続けに火を吹く自動小銃。

その狙いは中枢部に取り付いたAAPの本体である。

 

取り付いたAAPはすぐに堅い木質の殻を生成する特性がある。

通常の弾丸では当然ダメージは通らない。

しかし、再びAAPの注意を引き付けることには成功した。

 

両腕のガン・シックルを構え、ゼシルへ弾丸を放つAAP。

左足に弾丸がかすり、ゼシルに激痛が襲いかかった。

かすっただけとは言え金属すら撃ち抜くことのできる弾丸である、人体へのダメージは大きい。

 

「まだ、倒れるわけには...!」

 

追撃の射撃を転がるようにして回避するが、再び体勢を立て直したときにAAP本体から触手が伸び、ゼシルの足を絡め取った。

 

触手に捕らわれて回避行動が取れないこの状況で、二挺のガン・シックルは真っ直ぐにゼシルを狙っていた。

 

だが、AAPの動きが止まるこの瞬間を待っていたのだ。

ノエルの位置からプレディカドールと同化したAAPの接合部は直線上にある。

そして、そのAAPはゼシルに気を取られてノエルにまで注意は向いていない。

 

「ゼシル、息止めてっ!」

 

ノエルの叫び声が聞こえ、すぐにゼシルは呼吸を止め、腕で顔を守った。

直後に聞こえる銃声、そして爆発音と共に撒き散る白い粉塵。

これは植物を枯らす際に用いられる化学薬品を強力化した、特殊な薬物を使用した攻撃である。

強力化した化学薬品を大量に弾丸に込めてAAPに撃ち込む、対AAPにおいて必殺の攻撃手段。

当然、環境と人体への害は非常に大きく、普段はほとんど使用することはない。

緊急時の対大型AAP戦術のときのみに使われるのだ。

 

接合部に命中した特殊弾丸は化学薬品を撒き散らし、それを受けたAAPは大きく体をうねらせた。

狙いも定めずに腕をめちゃくちゃに振り回し、狂ったように暴れた後、プレディカドールと同化したAAPは活動を停止した。

 

勝った...。

 

その場に座り込むゼシルの所へノエルが駆けつけてきた。

 

「ゼシル、足は!?」

 

弾丸がかすった場面を見られていたようで、ノエルは必死にゼシルの怪我の様子を訊ねる。

かすり傷なのだが予想以上に出血していた。

 

「大丈夫。中尉は怪我はない?」

 

「あたしは大丈夫よ。それより、あんたの手当てしないと。」

 

自らの衣類を破き、その布切れを川の水で濡らしてゼシルの足の傷口を縛った。

ノエルは普段は気の強いのだが、やたらと心配性な一面もある。

部下の身の安全を優先するのはこの性格からくるものだろうが、根本的な部分としては対立しているクーデリカと似ているような気がする。

 

「はい、終わり。痛いのは我慢してね。」

 

「ありがとう。これなら何とか動けそう。」

 

余裕を見せてノエルに笑いかけると、ノエルは何故か顔を赤らめて背けてしまった。

 

 

 

 

その日の晩、結局ノエル以外のメンバーは見つからず、水場の近くで野営することとなった。

偶然捕まえた魚と川の水で空腹を凌ぎ、翌日に備える。

 

「なんか、訓練兵のときを思い出すわね。」

 

訓練兵最後の年は実地試験としてサバイバルの課題が与えられた。

広大な樹海の中に放り込まれ、期限までに指定されたポイントへ到達するというものだ。

 

「あのときも二人で迷ったんだっけ。」

 

「ゼシル、泣きそうだったわよね。」

 

「あ、あれは仕方ないよ!そもそも中尉だって俺のこと言えないよ?」

 

ゼシルとノエルとシエルとボマーの4人で指定されたポイントへと向かっていたのだが、途中でシエルとボマーとはぐれてしまった。

途中、小型AAPの群れに襲われて命からがら逃げ延びたのだが、そのときには既にゼシルもノエルも泣きそうな顔をしていた。

今となっては笑い話にできる程度の思い出である。

 

暗闇の中で思い出話に花を咲かせていると、真っ黒な空に一筋の光が走ったのを見た。

 

「ん、なんだあれ?」

 

様々な方向から放たれる光の筋、あれはホーネットが撃ち出す高エネルギー圧縮照射砲に似ていた。

 

「あれ、マナロフ少尉の機体じゃない?」

 

ノエルの言う通り、あの光はノーヴィアントレーネーが放ったものだろう。

だとしたら、ここからそう離れていない場所にいたということだ。

 

しかしその瞬間、ノーヴィアントレーネーが放つものとは違う光の筋が暗闇を照らし出した。

その光の筋はノーヴィアントレーネーに直撃し、その直後にはノーヴィアントレーネーが噴煙を上げて墜落していった。

 




第9話でした。
今回はさほど進展はなく『樹』の攻略は次回を予定しております。
拙い文章にお付き合いいただきありがとうございましたm(__)m
では、また次回に。

10話突破しましたら一度用語や人物や機体等の解説も本編とは別として投稿する予定です。
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