幻想入りしたら下僕にされたんだが?   作:朱雀★☆

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第三話・門番の過去話を聞く下僕

 紅魔館には門番がいる。

 フリルの付いたチャイナドレスを着た赤い長髪の女性で、緑色の帽子を被っている。体は出るところは出て、締まるところは締まっているナイスバディの持ち主だ。

 雰囲気ものほほんとしていて接しやすいタイプで、一見門番という役目は出来ないよう見えるが、実はそんなことはないのだ。

 彼女は妖怪でありながら武術の達人なのだ。なんで妖怪が武術の達人なのかという俺の疑問はこの際おいておく。

 それに、単に武術の達人だからという理由だけで強いという訳ではない。さっきも説明したが、彼女は妖怪だ。人間の身体能力を遥かに上回り、無尽蔵の体力を持つ武術の達人、想像しただけで凄いことはわかるだろ?

 

 そのはずなんだが……。

 

「おい、美鈴寝るな。また咲夜さんに怒られるぞ」

「んぇ!? 咲夜さんきたの!?」

「いや、来ていないが、寝てたらヤバいだろ」

 

 呆れた口調で俺は目の前の居眠り門番に言う。

 (ほん) 美鈴(めいりん)、彼女が紅魔館の門番である。まぁ、門番とは名ばかりで、こうやって居眠りをしては咲夜さんに怒られるのが日課の残念美人さんなのだ。

 

「なんだ、咲夜さん来てないのね。それならもう少しだけ……」

「ダメだっつうの。てか、門番が寝るな。役目放棄するな」

「えー……ジンがいるから私が起きていなくても平気ってことで」

「よくない」

 

 あまりのやる気のなさに、俺は呆れを通り越しちゃうわ。

 これは咲夜さんに怒られるのも無理はない。というか、よく門番という役職から解雇されないよな。案外お嬢様の懐って広い? それとも期待をしていないだけなのか……。

 

「俺が今日ここにいるのは、お前の監視だからな。それと美鈴の仕事ぶりを俺が咲夜さんに報告する役目がある。この意味、わかるよな?」

「うぇ!? ちょ、ちょっと待って、さっきまでのこと咲夜さんに報告するの!?」

「お前が寝るなら、まぁ仕方ないよな」

「わかった、わかったから咲夜さんに居眠りしていたの報告しないで」

 

 必死な形相に、俺は若干ひきながら頷く。

 そんなに怖いなら寝なきゃいいのに。

 まぁ、天気が良い今日みたいな日は眠くなるのはわかるが、それでも門番が居眠りするのはいかんだろ。

 

「はいはい。んじゃあ俺はそこで休みながら見てるから」

 

 庭にあるベンチに指をさして言い、俺は歩こうとした時、右腕を美鈴に掴まれる。

 

「なんだ?」

「せっかく二人いるんだし体を動かそうよ?」

「遠慮する。掃除で足腰痛いし」

 

 そう言いながら俺は腰を手で撫でる。

 

「若いんだから言い訳しない! それに頑張ったら褒美をあげるから、ね?」

「褒美?」

 

 美鈴の気になる言葉に、思わず反応する。

 

「そうそう」

「ふむ、まぁ聞くだけ聞くか」

「そうこなくちゃ!」

 

 嬉しそうに飛び跳ねる美鈴。美人が無邪気に喜ぶ姿って、いいな。

 一人うんうん頷いていると、美鈴が明るい声で言う。

 

「じゃあ組手しよっか」

「はぁ?」

 

 美鈴の口から組手と言われる単語が発せられた瞬間、俺は物凄く嫌な予感を感じた。

 そんな俺に気づかない美鈴は笑みを張り付かせながら俺の肩を叩く。

 

「く・み・て・だよ。二人いるから出来る事!」

「待て待て待て!! お前は武術の達人だろ? 俺は武術の武の字もないんだぞ。そんな俺を相手に組手だと?」

「大丈夫。教えながらやるから」

「全然大丈夫じゃねぇよ」

 

 笑みを崩さない美鈴に、俺はほとほと困る。

 そもそも俺は運動系はあまりやってこなかったんだ。苦手っていうよりは、単に面倒だったというのはあるがな。そんな運動してない俺に、武術とか無理に決まっている。

 何とかして話題を逸らさなくては……。

 

「あ~あれだあれ、庭があるんだし、庭の事を教えてくれよ」

「庭はいつでも教えられるから後でいいじゃん」

「いやいや武術も一緒だろ!?」

「まぁまぁ細かいことはいいでしょ?」

「細かいことではないだろ」

 

 軽く睨みながら言うが、美鈴は横に顔を向けて下手な口笛を吹いて気づかない振りをする。なにしてんだが。

 

「あぁもうわかった。やればいいんだろ?」

「ジンは話が分かる男でよかった」

 

 晴れ晴れとした表情で言う美鈴に、俺はもう投げやりである。

 痛いのは嫌いなんだがな~。

 憂鬱な気持ちで、俺は美鈴に向き合うような立ち位置に着く。

 

「それじゃあ、かかってきて」

 

 手を後ろに組んだ状態で、彼女は言った。

 これは完璧に嘗められているわ。まぁ相手は武術の達人だし、これぐらいのハンデがないと逆に勝負にもならないか。

 相手の動向を見ながらも、俺はじりじりと近寄っていく。

 べ、別に怖いから少ししか近づかないようにしているわけじゃないぞ。達人相手に飛び掛かっても返り討ちになるのは目に見えているんだから、こうやって隙を窺いつつ、慎重に動く方が利口だと思ったのさ。

 

「そんなへっぴり腰じゃ、いつまでも私に攻撃できないよ?」

「このやろっ!」

 

 挑発に俺は簡単に引っ掛かり、勢いよく拳を美鈴に向かって振りぬくが、あっさり横に躱された挙句、足を払われ、転倒する。

 いってぇぇ……。

 

「そんな隙だらけの攻撃じゃ何年経っても私に当てられないよ?」

「う、うっせ!」

 

 クスクスと笑われながら言われ、俺は恥ずかしさを誤魔化すように吠え、懲りずに拳を振るう。

 

「このっ」

「あまいあまい」

 

 ヒョイっとこれまた簡単に躱され、背中を軽く押されて前のめりになる。

 俺は何とか踏ん張り、続けて拳を振るうが、また躱される。美鈴に当たる気配がしない。

 

「く、くそ……」

「ジンは拳を振るう時、大げさにしすぎだよ。脇は締めて大振りにならないようにしないと。あぁでも、脇を締めるのに力んじゃダメだからね。あくまで脱力した状態でだよ?」

「こ、こうか?」

 

 軽く脱力しながら、脇を締めた状態を作り、ファイティングポーズをする。

 

「うんうん。そんな感じ。後は拳を振るう時は一発で決めようと思わないで、何発も連続して攻撃するのがいいかな。手数で攻めるんだよ」

「ほほう、流石は武術の達人、言うことが違うな」

「ふふん! すごいでしょ!」

 

 胸を反らして言う美鈴に、俺は思わず腰を引く。

 美鈴の胸は大きいから胸を反らすとこう、ぷるんっと揺れてヤバい。若い男の目に毒だわ。あの爆弾パイパイ。

 

「ん? またへっぴり腰になってる。ちゃんと構えて」

「ま、待て、これはあれだ、心の準備的なあれだ。だからちょい待て」

 

 片手で待ったをしながら、俺はなんとか時間稼ぎをする。このままだとバレる。そうなったら俺は美鈴に顔を合わせられん。

 考えろ、考えろ俺、ここで打開策を見つけないと感づかれる。

 そうだ。お腹が痛いと言えばいいのか! 俺の頭冴えてるわ。

 

「ちょっと腹が痛くてな。休憩しないか?」

「ん~まだ体を動かしたいけど、お腹痛いなら仕方ないか。それじゃあそこで休憩しよっか」

 

 美鈴は俺を疑う素振りも見せず、俺の提案を承諾してくれた。よ、良かった。

 チョコチョコと歩きながら美鈴の後ろについて行き、庭にあるベンチに座ることでなんとか落ち着いた。

 

「そんなにお腹痛かったの?」

「ま、まぁ痛かったけど、ちょっと良くなってきたかも」

 

 うぅ、嘘を吐いて良心が痛む。美鈴は純粋に心配してくれるから、余計に……。

 心の中で美鈴に謝りながら、俺は表面上は冷静な顔で話題を振る。

 

「そう言えば、美鈴はいつからここで門番しているんだ?」

「いつから、う~ん、どれぐらい前だっけ……」

「そんなに前なのか?」

「少なくても、数百年単位はあるかな?」

「数百年!?」

 

 数百年前って、どんだけ生きているんだ。なんか普通に接しているから忘れていたが、美鈴は妖怪だもんな。

 なんか人間みたいだからつい忘れちまうな。

 

「なんかきっかけとかあったの? 門番になる理由とか」

「あぁ、それは今でも鮮明に覚えているわよ」

 

 楽しそうな声音で話す美鈴は、空を見上げながら、それこそ鼻歌でもしそうなほどご機嫌に話し出す。

 

「あれは忘れもしない夜。満月が夜空を照らしていたな。実はね、私はその時とにかく強い妖怪と戦いたくて、各地の妖怪に戦いを挑んでいたんだよ」

「ほぉ、今の美鈴よりも随分と好戦的だな」

「まぁね。あの時は自分よりも強い奴なんていないとか思っていたのもあるのよ。まぁ天狗になっていたってこと」

 

 苦笑しながら言う美鈴に、俺は意外に思った。美鈴の性格上、そういった事はなさそうに見えたからだ。あぁでも、昔ならそういうこともあるのかもな。

 

「話を戻すね。私は戦いに飢えていた訳だけど、風の便りで面白い話を聞いたんだよ。紅い館に、小さくも強力な力を持つ吸血鬼がいるとね」

「それはもしかしなくても、レミリアお嬢様か?」

「そう、お嬢様。私は自分の力に自信を持っていたから、吸血鬼相手でも勝てると思った。直接紅魔館に乗り込んだんだよね。我ながら無鉄砲だったな~」

 

 あはは、と笑っているが、かなり大胆なことしているな。今の美鈴がどれだけ丸くなったかがわかる話だわ。

 驚きながらも美鈴の話を聞く。

 

「紅魔館に乗り込んだ私は、その時いた門番や配下をぶっ飛ばしながら進んでいたわね」

「え? 紅魔館に配下とかいたのか?」

「いたよ。確か人狼だったかな。数はかなりいたんだけど、まぁ全員倒したけどね!」

 

 ドヤ顔している美鈴だが、俺としては本当にすごい事をしていると思った。まぁあくまで想像上のことしかわからないが、人狼と言えば、ホラーアクション映画で見たことがある。あんなのを複数相手に余裕をもって対処出来るとか、マジですげぇな。

 改めて美鈴が妖怪なんだと思わされる話に、俺はいつの間にか話に夢中になっていた。

 

「それで、ある程度配下を倒したら、お嬢様が現れたんだけど、その時お嬢様はこう言っていたな。“揃いも揃ってやられるなんて、使えない駄犬だわ”ってね」

「昔からお嬢様は厳しい方だったのか」

「どちらかと言うと今より前の方が厳しい方だったかな」

 

 なるほど、お嬢様はあれはあれで丸くなったほうなのか。だとしたら、俺は運が良い。昔のお嬢様なら俺は生きていなかったかも。

 そう考えると恐ろしくて背筋が凍るぜ。

 ぶるりと震える俺に、美鈴はクスッと笑いながら、話を続ける。

 

「お嬢様に戦いを挑んだ私は、最初に驚いたのは単純な身体能力だった。素早い動きで私を翻弄し、私よりも力がある拳で襲い掛かる。私は自分の目で追うことが出来ない相手に初めて会い、驚愕していたよ」

「そのままやられたのか?」

「いや? 私もそこは長年続けてきた武術の技と感で対処したよ。どんなに早くても、単純な攻撃なら幾らでも対処は出来るからね」

「なるほど」

 

 俺が相槌を打つと、美鈴は話す。

 

「でも、当たらなかった攻撃が突然当たるようになったのよ」

「ん? でも避けれてたんだよな?」

「そのはずなんだけど、これは恐らく、お嬢様の能力のせいだと、今では思うかな」

 

 お嬢様の能力、確か“運命を操る程度の能力”だっけな。話だけを聞いたら胡散臭い話だが、もしかしたら本当に運命を操ることが出来るのかも知れないな。

 

「運命を操る程度の能力か?」

「そう、その能力で、私が避ける未来を無理やり捻じ曲げて、私が避けない未来を作ったのかも知れない。じゃないと、説明つかないと私は思うわね」

「てことは、そっからは防戦一方になったのか?」

「そうね。そっからはもう反撃することも出来ずにやられたわ。あの時は本当に悔しかったな~」

 

 昔の事を思い出して難しい顔をする美鈴は、ホント、感情豊かな奴だぁと思う。

 それにしても、レミリアお嬢様の能力はかなり反則的な力を持っているな。いくら美鈴でもそら敵わんな。

 

「負けた後、どうなったんだ?」

 

 一番気になることを聞くと、美鈴は満面の笑みで言った。

 

「貴女、意外にやるわね。どう? 私の門番として働かない? ってお嬢様に言われたの。まぁつまり、勧誘されたんだよ」

「ふむ、じゃあそれに美鈴は頷いたってことか」

「そうよ。お嬢様の強さに惚れた私は、それから何年も何年も今日まで門を守ってきたってこと」

 

 話は終了と言うように、彼女は背筋を伸ばす。

 そんな彼女を見て、俺は物思いに耽る。

 妖怪はやはり、人間では想像もつかない存在だと思う。話を聞いても、どこか作り話のように聞こえてしまうのだ。戦争もない平和な世界で暮らしていた俺が美鈴の昔話を聞かされても、映画や漫画の世界に思えてしまう。全く現実味がないんだ。美鈴には申し訳ないんだけどな。

 今でも、妖怪の存在を認めるのに抵抗がある。目の前に実物がいても、そう思ってしまう。

 見た目が人間に近いせいで余計そう思うのかもしれん。

 

 それと、ここ、紅魔館に住む住民は、なんだか絆的なものを感じる。まるで家族のような……。

 俺が欲しくて、でも手に入れられなかったもの……。

 

「……き……おき……起きてる?」

「んお!?」

 

 しばらくボーっとしていたのか、美鈴の顔が間近に迫るまで気づかなかったようだ。

 

「すまん、少し考え事をしていたわ」

「全く、私にあれだけ寝るなって言ってたジンがそれじゃあ、監視役は務まらないよ?」

 

 ふふんと、鼻を鳴らして言う美鈴に、俺はムッとする。

 まさか美鈴にこんな事を言われるとは、男、仁、一生の不覚。

 

「別に寝てないからいいんだよ」

「まぁそうかも」

 

 否定しないのか。ただ言ってみただけかい。

 はぁ、と、俺が溜息を吐くと、美鈴は笑いながら腰に触れてくる。

 な、なな、なにしてんのこいつ!?

 

「お、おま」

「褒美だよ。組手する前に言ったでしょ? 腰が痛いって言ってたし、これで良くなるよ」

 

 腰に指が突き刺さり、暖かい感覚がした瞬間、腰の痛さと重さが消える。

 うお、まじですげぇ。高級マッサージよりもいいかも。俺が驚愕した表情を見せると、悪戯が成功したような顔で、美鈴は颯爽といなくなる。

 残った俺は、あまりの心地よさにその場で深い眠りに誘われ、瞼が閉じる。

 最後の最後にやられたぜ……。

 

 

 

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