ヒトであることに賛美を   作:ツム太郎

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終わりを迎え、始まることとなった。


終了

 

終了

 

「クソッ、こんなものだったのかよ…僕たちが作ったモノは…!?」

 

誰もいない空間、ただ一人オーバーロードたるモモンガはそう叫んだ。

右手をテーブルに叩きつけ、顔を伏せてただ嘆く。

今の彼には、それ以外できることがなかった。

 

ナザリック大墳墓。

それはかつて、彼をリーダーとした組織「アインズ・ウール・ゴウン」が総力を挙げて作り出した超巨大な地下ダンジョンである。

 

ユグドラシル。

 

それが今、彼がトップとして君臨するアインズ・ウール・ゴウンが存在する世界、正確にはゲームであった。

自分をコンピュータ内で作成したキャラクターとして、リアルに動かすことが出来ることで人気を博したゲーム。

 

そのゲームが、本日をもってサービスを終了することとなったのだ。

彼は苦労を分かち合った仲間たちと最後の時を楽しみたかったのだが、つい先ほど居なくなった一人を除き、残っているのは彼一人だった。

 

彼はその事実が許せなかった。

これほどまでに苦労して作り上げたモノは、彼らにとって何の意味も無かったというのか。

そう思うと、己の中の負の感情を抑えきれなかったのだ。

 

 

 

「仕方のない事だ、誰も責めることは出来ん」

 

 

 

そんな時だ、彼しかいないはずの空間に、彼以外の誰かの声が響いた。

その声を聞き、モモンガはハッと顔を上げると、彼の座る位置と正反対の椅子に軍人服を着た見目麗しい女性がいた。

 

「…美穂…さん」

 

「おいおい、公共の会話で本名を出すのはマナー違反であろう? 誰もいないとはいえ、いささか馴れ合いが過ぎるぞ、化け物」

 

モモンガが座る最奥の席、その正反対の場所に彼女はいた。

白基調の軍服、帽子、胸元にはいくつかの勲章、腰には細身の剣。

腰まで伸ばした煌びやかな黒髪、恐ろし程に整った顔立ち、メリハリのついた女性らしい体つき、そして凍てつく寒さを感じさせる瞳がそこにあった。

 

「す、すいません。 貴方もログインしていたんですね、少佐さん」

 

「沈んでいるか、無理もない。 気にするな」

 

少佐と呼ばれた女性は彼の謝罪を聞いて満足そうに微笑み、くつろぐように体の緊張を緩めた。

 

「…ここに入るのは久しぶりだ。 いつ見てもその荘厳さに心躍る…あれは大戦以来か」

 

「えぇ、まさか進行中の軍全てが囮だとは思いませんでしたよ。 問題なくこの部屋に入れたということは、そのネックレスの効果は健在、ということですか?」

 

「あぁ、アインズの司令塔が集うこの場所に直通する唯一のワープ装置、座標の獲得から素材の掻き集めまで、最後まで苦労させてくれたな貴様たちは」

 

「そうですね、結局は時間切れで引き分けに終わりましたが…本当にいい勝負でした」

 

お互いに思い出すところがあったのか、くつくつと笑い出す。

化け物、戦争などと物騒な言葉がある割には、まるで世間話でもするかのように楽しそうである。

 

「ヴェアヴォルフ・カンプグルッペ、ミレニアム、ラスト・バタリオン…。 貴方のグループは、様々な名前が付けられていましたね」

 

「まぁ、テーマがテーマだからな。 皆呼びたいように呼びたかったのだろう」

 

「ユグドラシルが企画した数少ないコラボ…そのうちの一つを極めたのが貴方たちだった」

 

「あぁ、このゲームの中であの企画は群を抜いて完成度が高かった。 武器や装備、NPC、果ては拠点となる飛空艇でさえも完璧に再現されていた。 全く、ファンとしてはたまらないよ…フフ」

 

遥か昔に作成された数々のアニメーション。

ユグドラシルはその遺産の中から跳び抜けて異色を放つ作品をコラボ対象として取り上げていた。

多くのプレイヤーがその特典を手にするため躍起になったが、そのために必要な資金、労力、時間を前に挫折していった。

 

目の前の女性を除いて。

 

「人であることを重視した、ある男の組織を模した組織…にしては、吸血鬼や狼男の類が多かったと記憶してますよ?」

 

「…まぁ、あくまでそれはユーザーに限ったことだ。 NPCくらいはテーマに合わせてもよかろう。 元々、あれはヒトとして生きることが出来なかった者たちの物語なのだからな」

 

「ハハ、違いありませんね。 あのアニメには、色々考えさせられる所もありました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少し、二人っきりで談笑をした後に彼女は徐に立ち上がった。

 

「…さて、そろそろ帰ろうか」

 

大佐はそう呟くと、椅子から立ち上がり踵を返した。

まさか帰るとは思っていなかったモモンガは、ソレを見て焦りながら話しかける。

 

「えっ、か、帰っちゃうんですか? せめて最後くらい一緒に…」

 

「ふっ、馬鹿者。 敵同士がどうして仲良く最後を迎えねばならんのだ。 それこそ、我々の歴史に泥を塗る行為だぞ」

 

「…ここには、貴方と私しかいません。 それに、此処に来たということは、貴方も…」

 

寂しそうにモモンガは呟く。

そこにはオーバーロードであり、組織のトップである威厳はなく、ただの人間のソレでしかなかった。

ソレを見て大佐は少しだけ目を細めるが、直ぐに元に戻して歩き始める。

途端、彼女が着けていた指輪が起動し、彼女の姿が消え始める。

 

「あまり…センチメンタルなことを言ってくれるな。 我らは最後まで相容れない、少なくとも、ゲーム内ではそうだろう。 まぁ、異形と人間だからな」

 

そう言うと、彼女はワープ装置を起動させ、一瞬にしてその姿を消した。

本当に一人きりとなったモモンガは、また深くため息を吐くと、何かを思い出したかのように立ち上がりその場を後にした。

 

「…確かに僕たちは敵同士だった…。 でも、僕は貴方と居たかったですよ、美穂さん…」

 

虚空に向かって呟き、目の前にある黄金の杖を片手に歩き続ける。

目指すは、自分が居た玉座。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく…」

 

地上から離れた遥か上空、雲の上にソレはあった。

巨大な飛行船、竜か何かと間違えてしまうほどの。

その一室に彼女は戻ってきていた。

 

「どっちがセンチメンタルだ…まったく…」

 

寂しげにそう呟く。

広い広い指令室、そこがこのゲームにおいて彼女のすべてだった。

ここで仲間たちに命を下し、時には共に戦場を掛け、あのオーバーロードと剣を交えた。

そんな思い出の場所に、もう彼女以外誰もいない。

 

「まぁ、射撃スキルは最後まで最低だったがな…ククッ。 やはり下手すぎるぞ、大佐殿」

 

そう言って瞳を閉じる。

脳裏に自らが模した、あの男が浮かんだ。

小太りの人を食ったかのような表情、そしてどこまでも狂気を孕んだ瞳。

彼女がその人物像に果てしなく憧れを抱いた男。

ゲームの中でくらい、彼みたいになりたいと心から望んだ姿。

 

「…そうだ」

 

皆を呼ぶか。

ふと、そう思った。

 

「皆…指令室に集まりたまえ」

 

指をパチンと鳴らし、そう呟く。

するとどうだろう、いきなり目の前の扉が開かれ、そこからゾロゾロと軍服を着た兵たちが部屋に入ってきた。

 

同時に視界の一部が歪む。

空間がブレ、そこから大鎌を持つ異様な形相をした短髪の女性が現れる。

 

どこともなく、猫耳を付けた短パンの少年が現れる。

 

変わったメガネを付けた、白衣を着た男が現れる。

 

兵たちと共に、身に余るほどの大きなライフル銃を持った女性が現れる。

 

部屋の影より、シルクハットを被った紳士が現れる。

 

別の影より、金髪を腰まで伸ばした男、そしてバンダナを付けた色黒の男が現れる。

 

天井より、赤い目を光らせた寡黙な男が現れる。

 

 

 

 

 

「…皆、よく来てくれた」

 

NPCが全員集合したことを確認し、ふと彼女は声を漏らした。

コンピュータに話しかけるなど無意味でしかないと分かっている、しかしユグドラシル終了間際にも関わらずこうして集合した面々に感謝の気持ちを抑えられなかった。

 

「諸君らに何を言っても意味がない事は重々承知している。 だが…こうして集まってくれた事に敬意と謝意を表したい。 皆…よく集まってくれた」

 

「………」

「………」

「………」

 

当然、何もしゃべらない。

無言のまま、無表情のままである。

 

「フフ…ここまでガン無視だとかえって清々しいな。 まぁいい、仕方のない事だ。 ここに来てもらったのはな、単に私の自己満足なんだ」

 

少しだけ顔を伏せて微笑み、そしてもう一度周りを見渡す。

自分たちが作り上げた愛しい傑作たちを見つめる。

 

「あの作品とのコラボレーション…聞いた時には心臓が高鳴ったものだ。 アッチの友人たちも巻き込み、給料を掻き集めてよくもまぁここまで仕上げたモノだ」

 

今度は瞳を閉じて、かつての光景を思い出す。

ヒトはもちろん、化け物相手にも死力を尽くし、自らの軍力をユグドラシル全体に知らしめた。

一夜にして一つの勢力を打ち滅ぼした時は、大人げなく身を震わせた。

そんな、何年も続いた喜びが脳裏を駆け巡る。

 

「だが、それも今日で終わりだ。 諸君、グラスを前に」

 

そう言って、彼女は右腕を前に差し出した。

するとどうだろう、NPCたちも同じように右腕をあげ、その手元に少量の白ワインが入ったグラスが出現した。

コラボNPCにのみ行える、アクションの一つであった。

 

「こうして出会えたこと、そして楽しめた数年…私は決して忘れない…。 ハハ、馬鹿げてるかな、ゲーム相手に…。 だが、今日くらいは良いだろう、なぁ諸君。 …乾杯」

 

乾杯、その一言を合図にNPC達は一斉にそのグラスを手から離した。

広い空間にいくつものグラスが、虚しく鳴り響いた。

 

そして最後に彼女がグラスを放し、その音を鳴らした。

 

「なんともあっけない…乾いた最後だな…」

 

そう言うと、彼女はその場を去り、ある場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛空艇、展望台。

 

空から世界を一望できる、彼女のお気に入りの場所である。

 

「…やはり美しいな。 現実じゃあ、もう一生拝めない世界か…」

 

感嘆と悲哀を込めたため息をつき、そう呟く。

 

「あんな汚れきった世界で、一体何を望めばいいのか…くだらないな。 最早自然も少なく空気は汚れ、台地は乾き生物の大体が死滅…本当に、何を楽しめというのだ。 …借りるぞ、大尉」

 

武器召集、モーゼルM712。

そう虚空に向かって呟くと、彼女の手元にサーベルと見紛うほどに長い長身銃が現れた。

 

彼女はソレを遥か上空に向け、数発か撃ち放った。

 

「祝砲…何と問われれば、きっと答えることなどできない。 しかし、あえて言えば…そうだな…自分自身にか」

 

そう言って瞳を閉じた。

もう見ることが無いだろう美しい世界を前に彼女はこの世界に別れを告げた。

 

0:00:00

 

日が変わり、全てが終わる。

案外呆気ないものだな、彼女はそう思い意識を放し

 

 

 

「少佐殿ォッ!!」

 

 

 

ふと、後ろから声が響いた。

なんだ、こんな時に五月蠅い。

鬱陶しそうに後ろを見ると、そこには見慣れた男がいた。

真っ白な白衣、痩せ形の長身、長い白髪、変わったメガネ。

 

医療部門、化学部門、開発部門、三つの部の長を任せていた、頼れるNPC。

 

「ドク…?」

 

「いきなり大尉の武器を撃ち放つなど…まさかまた何処かの国を滅ぼすのですか? これ以上敵を作るのは好ましくないとあれ程進言したのにどうしてこうも戦争好きなのか…」

 

「う? お? …え?」

 

目の前には、素敵に馬鹿げた光景が広がっていた。

 

 





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