終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

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前話から間が空いてしまい、申し訳ありません!
選抜術式試験開始です。



第9話 試合観戦

Side 一瀬グレン

 

選抜術式試験の前日の夕暮れ。

街が赤く染まる。

学校からの帰り道。

人があまりいない。住宅街の中にある、小さなスーパーの前。

小百合と時雨が夕飯の買い物をしている間、スーパーの外の、ガードレールに腰をあずけ、腕組みをしてグレンは待っていた。

と、そこで、

「斉藤さん!斉藤さん!ほんとにお菓子、なんでも買っていいの!?」

嬉しそうな、少年の声が聞こえる。

ふと、グレンはその声のほうへと目を向ける。するとそこにはやはり、一人の少年がいた。

金髪の髪をした、色白の、綺麗な顔の少年。おそらく、日本人ではないだろう。もしくは異国の地が混じっているか。

その少年は嬉しそうに笑顔で言う。

「孤児院のみんな、喜ぶかなぁ?ねえ斉藤さん、アイスってっ買っても院長先生、怒らないと思……」

少年は、話しかけていた斎藤、と呼ばれた男の隣に立っていた女に気づいてそちらに向き直った。

「あ、あの時のお姉さん!斉藤さんの知り合いだったの?」

グレンがそちらに目を向けると、セーラ服姿の高校の副生徒会長が屈んで、少年に目線を合わせていた。

「ああ……覚えていてくれたんだ。随分前にぶつかっただけなのに」

「あんまり外国の人は見ないから、見てすぐ分かったんです!」

「そっか、嬉しいな。じゃあ、私はそろそろ行かなきゃ」

「さようなら!」

「さようなら」

そう言うと、クレハは結局1度もこちらを見ずに立ち去った。

彼女は先程まで斉藤と何やら話していたようだ。あまり愉快気な雰囲気ではなかったが。

まさか彼女も百夜教と繋がりがあるのだろうか。

いや、様子からしてあちらに組みしているというわけでもなさそうだ。

ああ、そう言えば、クレハにはいつか、タオルを返さなければ。

クレハを見送ると、斎藤は少年に向き直って会話を続けた。

「アイスだったね。どうかなぁ。あの孤児院って、冷凍庫は……」

「あるに決まってるじゃん」

「じゃあ、大丈夫じゃないかな。院長先生にも、お菓子のことは許可取ってあるし」

「やった!」

「ほら、じゃあお金渡すから、スーパー行っておいで。1人で買える?ミカエラ君」

その問に、ミカエラと呼ばれた少年が、

「あたりまえじゃん。僕、何歳だと思ってるの?8歳だよ」

と、笑う。

それから斎藤が差し出した一万円札を見て、

「え、こんなに……」

などと、驚く。

それに斉藤は笑う。

「みんなの分だから」

「でも、一万円も、いいのかな」

「いいのいいの。ほら、行っておいで」

「うん!でも、そんないっぱいお菓子買うなら、茜ちゃんも連れてくれば良かったなぁ」

なんて言いながら、目をキラキラさせて、ミカエラとかいう少年はスーパーの中へと入っていく。

そして、それを、グレンは腕組みしたまま、見つめる。

それから、斉藤という名の、男へと目を移す。

その男は、10日程前、グレンに襲撃且つ勧誘をしてきていた、《百夜教》から来た刺客だった。その時は木島、と名乗っていたが。

「ここでは斉藤とお呼びください。ミカ君に聞かれると混乱させてしまうので」

刺客は笑って、そう、言った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

斉藤と話した時側にあった、ガードレールの裏に描いておいた、魔法陣の効果が切れた。

この魔術は、イタリアで叩き込まれた、初歩的なものだが、一定時間で消える盗聴器として使える、中々便利なものだ。

家路を急ぎながら、頭の中に、直接聞こえたことを整理する。

盗聴出来たこととしては、

・《百夜教》が人体実験をしていること

・このままではウイルスが蔓延し、世界が滅びること

・そのウイルスをまくのは『帝ノ鬼』だということ

・そして《百夜教》はそれを防ごうとしていること

・一瀬は《百夜教》とは手を組まないこと

・10日後、《百夜教》と柊家の戦争が始まるということ

 

ほとんど斉藤の言ったことなので、真偽は分からない。

けれど、

二人で釣りに行った日。私が、世界の滅亡へ心当たりがないか聞いた時。

暮人、あなたは何を考えていたの?

 

10日後に起きる戦争。

ウイルスによる世界の滅亡。

 

マリアが言っていたのは……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

斉藤に会った翌日

選抜術式試験は、朝8時から始まった。

 

場所は校庭___とは名ばかりの、軍事訓練も出来る広大な演習場。

そこに全校生徒が集まっている。

選抜術式試験は、それこそ各学年の全校生徒同士の勝ち抜き戦になるため、一週間もの期間をかけて行われることになっている。

と言っても、人数の少ない上級生が先に試験を終える訳では無い。

人数の差を考慮して、下級生に試合場を優先して回すようにしているからだ。

ちなみにクラスメイト同士は、数回勝ち上がらないとぶつからないようになっているために、最初のうちはちょっとだけクラス同士の対抗意識のようなものまで存在している。

まあ、私の組の担任はもう既に勝利を確信しているようだが。

 

もう試合は始まっていて、各所が騒がしい。

ちなみに試合は、完全に実践形式で行われる。

勝利の条件やルールは____

 

監督官が価値だと思った方を勝ちとする。

監督官が、能力が上だと思った方を、勝ちとする。

相手を殺してしまった場合は、逆に評定が下がる。

たった、これだけ。

このルールの中なら、どんな武器を使っても、どんな呪術を使っても、許される。

相手を殺しても、罪に問われない、完全な治外法権。

ここでは、あまり、人を殺すメリットもないのだけれど。

 

自分の試合まで、まだ少し時間がある。

今回は合間を使って、まだ、実力を把握していない中でも、注意すべき生徒の試合を見て廻るつもりだ。

事前に全校生徒の対戦表は確認しているので、それを元に見る順番は決めていた。

 

まず最初は……

 

「1年2組・雪見時雨。前へ」

 

監督官の呼びかけに、一瀬グレンと会話中だった雪見時雨が前へ出た。

グレンもこの試合を観戦するらしい。

続いて、彼女の相手の名前が呼ばれる。

 

「1年9組・十条美十。前へ」

 

十条美十が前へ出る。彼女は自分が十条の人間だと誇るように、赤い髪をそっとかき上げる。

そしてそれに、時雨が冷たく言う。

「権威主義者が」

すると美十が、強気そうな、それでいて綺麗な笑みを浮かべ、

「二流の言葉は聞こえませんねぇ」

「殺す」

「あなたには無理です」

その、美十の言葉が終わる前に、時雨が手を、後ろに回す。すると袖から、武器が降りてきた。

 

「暗器遣いか……」

 

戦闘スタイルの中でも、力の強さより、技術の精度と頭の回転の速さがものをいう戦い方だ。

真っ向から仕掛けてもさほど効果はないが、多彩な使い方が出来るうえ、使い方次第では下手な暴力より力を発揮する。

私も昔はよく使ったものだ。

と、それは置いといて

 

美十の方も、何か小さく呟いている。おそらくは、柊の呪法だ。十条家は__呪いで身体能力を限界まで跳ねあげる。以前、深夜が使っていた、神懸かり法の発展らしいのだが、すでに赤い髪の上に、その髪よりもさらに赤い、三角の火輪光(かりんこう)が浮き上がり始めていた。

あれが、火輪光か……。金剛夜叉明王呪かな。

と、クレハが考えているところで

監督官が前に出る。

両者に、試合についての注意事項を話す。

試合終了の合図について。

相手を殺したら評価が下がることについて。

生徒達の中にいた、金髪の男。確か五士家の…だったか、がへらへら笑って呟くのが聞こえる。

「おーおー、すごい。美人同士の戦いはやっぱ、見がいがあるなぁ」

 

そういえばヴォルガスの幹部にも女の子好きの奴がいたな。あいつは幼い私にも声をかけるほど見境がなかったが。

イタリア人は大抵陽気、言い換えれば能天気な人が多いけれど、まさにそれを象徴したような性格だった。

印象に残っているということは、私の周りでは珍しかったのかもしれない。

 

続いて柊深夜が言う。

「……これは、一瀬の呪法が見れるかな」

 

見れないと思うけど。

時雨の主であるグレンが手の内を隠そうとしているなら、彼女はそれを遵守するだろう。

だが周囲は深夜のような目で見ているものも少なくない。

とそこで、監督官が言った。

「始め!」

刹那、時雨と美十が、動き出す。

呪術で増幅された美十の動きは比較的速い。やはり十条家の人間は身体能力がずば抜けているようだ。

ヴォルガスの幹部や深夜、グレン、暮人の動きには劣るが、まあ、充分だろう。

そして、時雨もそれにきちんと反応出来ている。後方へ下がる。手を振るう。するとその、手の袖から、無数の短刀__いわゆる、クナイと呼ばれている刃物が飛び出す。そのクナイの柄に糸がついていて、それが宙を舞う。

詳しいことはまだ分からないが、糸に触れない方がいいのは確かだろう。

だが、美十はそれを見下ろし、

「なるほど、暗器遣いか……姑息な一瀬家には、お似合いの能力ね」

突進をやめない。

一瞬で張り巡らされた罠を無視して、真っ直ぐ進む。

スカートから伸びた美十の細い足が糸に触れる。瞬間、呪術符が爆発する。クナイが跳ね上がり、糸に触れた者へと飛んでいく。

しかし、それをあっさり、美十はかわしてしまう。

さらに次々クナイが跳ね上がっていくが、そのすべてをかわし、避けきれないものは手でたたき落としながら、前に進む。

 

時雨は罠の張り方が少々甘い気もするが、この歳でここまで暗器を使える者もそういまい。

それに、実戦ならば美十が叩き落としたそのクナイには、致死性の毒が塗られているだろう。

 

美十が時雨との間合いをあっさり詰める。

「はい、これで終わり」

と笑って、拳を突き出そうとする。

だがそれに、時雨も笑って、

「残念。その傲慢さが、あなたを殺しました」

右手の指を、ぱちんっと鳴らす。途端、美十の放とうとしていた拳を、クナイの後ろから伸びていた糸がぐるぐる巻に拘束してしまう。

それで美十の動きが、

「ぐぅっ」

止まる。

おそらくあの糸に、触れた相手の動きを止める呪いでも込めているのだろう。

とどめを刺そうと時雨が、もう1本クナイを取り出して放つ。

それは真っ直ぐ美十の首へ向かう。

試験官が慌てて、やめ!と叫ぼうとしながら足を踏み出したが、遅い。

ここは私が出て、クナイを切るべきか……

 

だがその前に、

「うごっけぇえええええええ!!」

美十が、叫んだ。赤い頭の上で、さらに赤く輝く火輪光がぐるんっとまわる。そしてそのまま彼女は、拘束されている糸を無視して、更には、クナイを避けて、拳を突き出してしまう。

「なっ!?」

時雨の驚いた顔に、美十の拳がぶつかる。

「があっ」

うめきながら、時雨はクナイを投げ、しかしそれは美十の頬を掠めただけだった。

時雨は吹っ飛び、地面に落ち、動かない。

 

勝負はあった。

監督官が美十の勝ちを宣言し、グレンと時雨、美十が何か話すのを横目に、その試合場を去る。

 

美十の最後の動きは、やや目を見張るものがあった。

今のを見る限りでは、例え、あの2人が私に敵対しても相手にならないと思うが、ここから成長してもそうだとは限らない。

私も、今回の演習で、また、術の精度を高めなければ。

 

次は……と。

五士家の長男、なんだっけ、典人だっけか…の試合がちょうど始まったところの試合場を見る。

相手の生徒が刀剣を掲げた。だが掲げた瞬間、その剣が消えていた。

そして典人が、剣の持ち主の後ろに立っている。相手の生徒の剣を持って、それをゆっくり、生徒の首筋に当てながら、

「終わりでいいかな?」

と、言う。

相手の生徒は、一歩も動けなかった。

典人が使ったのは幻術だ。

なるほど、今まで見てきた一般生徒のものより遥かに出し入れがスムーズだ。

私自身は、実はそこまで幻術が得意ではない。

幻術への対策は多々あるが、私が今一番頼りにしているのが、精神力の高さでガードする方法だが、もっと確実な方法を探すべきだろうか。

今、もし、怨嗟の呪いが悪化して、その間に彼のような、いや、暮人のような柊家レベルの幻術をかけられたらどうなるのか。

考えてはおくべきだ。

 

典人の試合の後、同じ場所で柊深夜の名前が呼ばれる。

そのまま見るために、その場を動かない。

つもりだった。

 

「クレハ」

 

と、後ろから声を掛けられて振り向くと、暮人が立っていた。

「お前の試合がもうそろそろ始まるぞ」

 

もう、そこまで進んだのか。

暮人は試合場の様子を見て頷くとわざわざ伝えに来てくれたらしい。

ありがとう、とだけ言って二人で並んで指定の試合場に向かう。

 

「暮人はもう一戦目、終わったのよね。退屈だったのでは?」

「まあ、将来の部下がどれだけ使えるかを見るのも大事だよ」

「そう」

「お前は1年生を見て回っていたようだな」

「……うん」

「珍しいな」

「そう?」

「今までは他人に興味が無かっただろう?」

 

確かに。

だって、今までは弱い者しかいなかったから。警戒する必要はなかった。

だが、今年は最上級の名家の子供が多い。

私がいざ裏切る時に、対抗された場合、人質にとる場合。

それで相手に敵わない、なんてことがあっては困るのだ。

 

「今年は、豊作だと聞いたから」

「だがお前ぐらいだと、学べることはないだろう」

「…………」

「なあ、クレハ」

「…………」

「お前は何をしようとしている?」

「…………」

 

目的の試合場に着いた。

ちょうど私の名前が呼ばれて前に出る。

その前に、半歩後ろにいる暮人に振り向く。

 

「なにも。なにも出来ないよ」

 

今の私はマリア相手に何も出来ない。

彼女と共に、マフィアに戻る気もない。

けれど、イタリアに戻らなくてはいけない。

なぜなら私は…………

 

 

前に視線を戻して、対戦相手の前に進み出る。

 

「始め!」

監督官が試合の始まりを告げた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

明日起こることを誰もが知る由もなかった

 

 

 




次回、続きます
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