終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

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新たな展開に入ります。
クレハの過去もまた少し明らかに!



第10話 真昼に見る夢

選抜術式試験2日目。

 

今日は早めに自分の試合、つまり二戦目が終わったので、

ある試合が始まるのを待っている。

その間、特にすることもなく、一人で屋上で空を眺めていた。

少ない雲が流れて行くのを目で追うわけでもなく、ただ風を感じながら見上げていた。

が、そうしていると、屋上の扉が開いた。

 

「ここにいたのか」

「……暮人」

 

暮人は歩み寄り、私の隣に来ると眼下の校庭に目をやった。

「今日は1年生の試合を見ないのか?」

「見るよ。ここから」

「双眼鏡も持ってないようだな。どうやって見るつもりだ?」

私は自分の右眼を指して答える。

「眼球に術式が刻まれているから視力が良いの」

「今日は機嫌が悪いな」

せっかく答えたのにスルーされる。

顔には出していない筈なのに、何故か彼にはいつも見透かされているような気がする。

だからあえて、思いっきり不機嫌そうに

「やっぱりここは嫌なところだ」

「今更どうした」

昨日、自分の試合を終えた後のことを思い出す。

私は花依小百合 対 柊征志郎の試合を見ていた。

 

見た目はチンピラにしか見えないが、流石、柊家。征志郎は小百合を圧倒していた。そしてもう勝敗は着いたように見えた。

だが、征志郎は攻撃をやめない。嬲り、辱めることを止めなかった。

それを周囲も、監督官さえも止めなかったのだ。

柊真昼が止めに入るまで。

結果小百合は、そのまま入院してしまうほどの重傷を負ってしまった。

 

Padre(父さん)はこんなこと、許さなかった」

「父親?それは___」

「あ!始まる!」

 

入り込んだ話をするわけではないのでわざと大きな声をあげる。

校庭の一部分に広がる一つの試合場に、今ちょうど、柊征志郎が出てきていた。

相手は一瀬グレンだ。

だが、様子がおかしい。

一瀬グレンは試合場に入ろうとしない。代わりに深夜が征志郎の前に出ていく。

その周囲がざわめき始めている。

「どうした」

声を掛けてきた暮人の方を見ずに、一瀬グレンに意識を集中させる。

「……おれはしあいをじたいするんだ」

「…読唇術か」

ここからは校庭での会話は聞こえない。だが口の動きが見えさえすればどうにかなる。

確かに、グレンは"試合を辞退する"と言った。

理由は分からない。

その後も、周囲が彼を笑っているのが見えるだけで、試合をする様子がない。

グレンは嘲笑をよそに、へらへらと笑って空を見上げた。

と、そこでちょうど私と目があう。

異変はそこで起こった。

 

グレンのへらへらした顔が、突如はっとした表情になり、私から視線を外して、空を見つめた。

と、同時に空に違和感を感じる。私も咄嗟に空を見上げた。

横目で見ると暮人も空を見上げている。

違和感を感じた方を見る。

するとそこには赤い光が見えた。そしてその光は校庭に向かっている。

あれは……まずい。

 

「校庭にいる生徒が…」

「ここからでは間に合わない。『帝ノ鬼』の主力部隊を呼ぶのが先だ」

 

爆発が起きる。

大地が揺れる。

轟音が鳴り響く。

校庭に悲鳴が溢れる。

 

そう私達が言う間にも、十を超える光が校庭に降り注ぎ、生徒達を薙ぎ払っていく。

おまけに時間が経つにつれ、校庭は白煙にまかれて様子が見えにくくなっている。

 

だが奇襲の爆撃は終わっていなかった。

屋上を一筋の光が襲う。

二人とも即座に反応し直撃を避ける。

が、屋上の一部が崩れて、私は浮遊感に襲われた。

 

「……あ」

 

手を伸ばすも、柵は既に無く。崩れた部分を指先が掠めることもない。

(嫌……)

目の前を揺らぐのは、あの時最後に見たイタリアの青い空。

崖の荒れた岩肌。

そして……

「クレハ!!」

「……暮人っ」

伸ばした手が強い力に引っ張られる。浮遊感はそこで止まった。

ああ、これも。これもあの時と同じ。

 

上を見上げると、暮人が、崩れた所から身を乗り出して私の手を掴んでいた。

必死さと、安心が入り混じったような表情で私を見ている。

なのに。

なのに脳裏をよぎるのは昔のあの場面。

あの、慈愛に満ちた表情で、落ちる私の手を掴んだ美しい女の顔。

正しく聖母が手を差し伸べてくれた、と感じた。

 

あの時、私はほっとして、引き上げられるのを期待して、自らもその手を頼りに崖上に戻ろうとした。

けれど。

「ああ、伝え忘れてた。Padre(ボス)、貴女はもういらないって」

そう言って、

 

女は笑って私の手を振り払った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Side 柊暮人

 

もう救援は呼んだ。もうじき到着するだろう。

その間にも、校庭の生徒は死んでいるかもしれない。

だが、今はそれどころではない。

あと一歩で、目の前でクレハを死なせるところだった。

 

手は届いた。

だが、自分の今いる所も不安定だ。

後は引き上げるだけだが、気を付けなければここも崩れるかも知れない。

今、始めて知ったが、幸いクレハは異常に軽い。

クレハが自分の腕を掴んで這い上がるのをサポートして、速やかに安定した足場に移動しよう。

そう考えていた。

 

「クレハ?」

 

ところが、クレハは動かない。

 

普段の彼女ならこの程度で取り乱す筈がない。危険への対処は軽々と行える筈だ。なのに、

 

握る彼女の手は震えていた。

顔は完全に青ざめて、恐怖に引きつっている。

空のように澄んでいた青い目はゆらゆらと揺れている。

そして、今にも泣きそうな声で、

「嫌……お願い……」

 

「お願い……もう離さないで……!!!」

 

『もう』

それは以前、手を振り払われたことがあるのだろうか。

お前は必要ないと、捨てられた記憶が。

 

その悲痛な叫びに体が反射的に動く。

力を込めて一気に、クレハを引き上げ、抱えて屋上の損傷が無い所に移動する。

そして、倒れ込むクレハを力強く抱きしめる。

その細い体は氷のように冷えきっていた。

いつもの、刀を振るう力強さも無く、折ってしまいそうな気さえした。

 

「離すものか。一生離さない」

 

離すはずがない。

もう彼女は昔見た幻ではない。

目の前にいるのは形をもった最愛の人。

なら、もう2度と、あんな顔はさせない。

この世界に彼女の敵がいるなら。

潰して世界の覇権を奪うまで。

それがいつになるかは分からないが……。

 

しばらく抱き締めていると、彼女の震えが止まる。

彼女の鼓動と吐息だけが聞こえる。

そして小さな声で、

「……ありがとう」

そう言って立ち上がった彼女の目は、既に強い光を放っていた。

「行かなきゃ」

「大丈夫か」

「もう大丈夫。手が届いたから」

 

「ねぇ」

「なんだ」

「暮人は生徒達の無事を望む?」

「当たり前だ」

「分かった」

 

そう言うと、彼女は辛うじて残っていた屋上の扉から、校舎内に駆けていった。

自分も下に降りて、もうすぐ到着する主力部隊の指揮をとらなければ。

 

『手が届いたから』

そう言った彼女は少し、笑っていて。

 

「は、はは」

もう自分は充分惚れ込んでいると思っていたが、まさか、まだ先があるとは。

 

「ちゃんと笑えるじゃないか」

流石の俺でも、やはり、分からないことが多いものだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一時の気まぐれかも知れないが。

今の私の方針は、より多くの生徒を救う、ということで固定された。

 

まだ、あたたかさが体に残っている。

もう震えは無い。

もう過去には怯えない。

もう離さないと言ってくれたから。

 

二階まで一気に階段を駆け下りると、もう、すぐ下で、生徒が何者かに殺されそうになっているのが見えた。

窓を開けて、足をかける。

そして、懐に隠し持っていたナイフを抜いて構える。

ヴォルガスに幹部入りした時に与えられた銘入りナイフ。

強力な副作用に引換えて、絶大な力を与える呪いのナイフ。

大丈夫。覚悟は決めた。

 

「…私を呪え。力を寄越せ」

 

全身に呪詛が渦巻くのを感じる。

と、同時に、体の中から大勢の悲鳴と怨みと共に力が湧き上がるのを感じる。

 

窓枠を踏みしめ、一点に集中する。

 

そして、

眼下の敵に向かって跳躍し、一気に距離を0にする。

狙うは首のみ。

すれ違うように掻き切り、地面に降り立つ。

「が……ぁ……」

相手は一コンマ後に、ようやく切られたことに気付き、血飛沫をあげて倒れた。

それを顔に浴びた生徒は、「ば、化け物……」と言うと気絶してしまった。

 

顔をあげて辺りを見回すと、校庭の一部が、煙幕で隔たれたようになっている。

そこで何か、この襲撃の根幹に繋がることが起こっているかもしれない。

けれど、

「先ずは皆殺しにしないと」

全く。この学校の生徒は吠えずらかいている割には、平和のぬるま湯に浸かっているのか、てんで使えないようだ。

もう既に多数が殺されているが、まだ襲われながらも生きているものも多い。

中には、自力で何とかなっている実力者もいるようだが、周りを守るまでには至っていないようだ。

とりあえず、私を認識した敵が複数寄って来たので、自分を囲うように地面から大きな氷の棘を出現させる。

やはり術の行使速度や、効率、威力なども呪いにより格段に強化されている。

だが数人は、それで体を貫かれて息絶えたが、いくらかは、棘が触れた体の部分が霧状になり、あまり効いていないようだった。

普通の人間とは思えない。

「なら……」

私の操る氷には今、既に私にかかっているものと同じ呪いが混じっている。

敵の体を通り抜けた棘の呪いを、そのまま暴発させる。

すると、敵の体が爆発四散した。

体の内側からなら効くようだ。

校庭を駆けて、極力弱い生徒を襲っている敵から優先的に殺す。

その間に気付いたが、このナイフは、問答無用で急所をきちんと切り裂けるようだ。

懐かしい、ナイフを握り、切る感触。

ああ、やはりこれが手になじむ。

だがもう今の身体能力は昔のそれでも、昨日までのそれでもない。

風が走り抜けるように、クレハは鮮やかに次々と躊躇いなく敵を倒す。

『もっと、もっとたくさん僕達と同じ目にあわせてよ』

その最中、頭の中に声が響く。

1人じゃない。大勢が泣き叫び、憎み、不幸を笑う声が。

それは、ナイフが血を吸うごとに大きくなっていった。

 

『こんなに恨んでいるのに!まだ殺すか!この醜い殺人鬼!許さない許さない許さない!!!』

『返して!帰して!出来ないならお前も苦しめ!』

 

首に呪詛が回り、切られたような痛みが走る。

その時、大勢の人間が走ってくる音と、共に、歓喜の声があがった。

 

「『帝ノ鬼』の主力部隊がきたぞ!」

「こ、これで助かる!」

さらに別の方向からは、

「ま、真昼様が、捕らえられた!」

「た、助けろ!おまえら命にかえても、真昼様をお助け……ぎゃあああ!?」

 

悲鳴があがる方を見ると、這いつくばっている重傷の生徒がいたが、まだ生きているようなのでそちらに向かう。

一瞬でその生徒の前に出て、敵が反応する間もなく切り殺すと、また声がした。

『俺の仲間を殺したお前を許さない!お前も自分の仲間を殺して自分も死ね!!』

それを無視して周りの状況を確認する。

応援が来たお陰で、まだ多少の敵は残っているものの、生徒ばかり狙われることは無くなったようだ。

今なら、煙幕の中を確認しに行ける。

煙幕の中に入り、魔術を使って熱を感じ取る。

一番近い熱源に向かって突き進むと、煙幕が晴れてきた、と思えば、前方に1人のスーツ姿の男が見えた。

「斉藤……」

ならばやはりこの襲撃は《百夜教》のものか。

一歩で距離を詰めて切りかかる。が、斉藤の身体から現れた鎖に阻まれる。

背後からの奇襲だったのに気付かれるとは……。

ちょっと殺気を出しすぎたかも知れない。

「もう、勘弁して下さいよ。私は今刺されたばかりなんですよ?」

見れば斉藤の胸が真っ赤に染まっている。

刺したのは誰か、と斉藤の奥を見れば、二人の人間が斬りあっているところだった。

「グレンと……真昼?」

さっき真昼が攫われたと聞いたが、目の前でグレンの相手をしているのは長い灰色の髪の少女。雰囲気からしても間違いなく真昼本人だ。

「…その姿。貴女も鬼呪を?」

斉藤に言われて彼に視線を戻す。

「鬼呪?」

《鬼呪》自体は知っている。私の研究内容に関わるものだから。

《鬼呪》は、呪いの中でももっとも扱いの難度が高いもののことだった。

直接、《神鬼》や《黒鬼》と呼ばれる、鬼の神を呼び出し、それを神器に封印して、使役する。

封印するための器はたいていの場合、武器だ。

剣。

斧。

弓など。

何年もかけて祀られ、清められた武器に、《鬼》を封印して、遣う。

だが、それは、理論上は完成していても、現代の呪術科学ではまだ、到底実現不可能とされていたものだった。

しかし、斉藤は貴女も(、、、)、と言った。

また、ちらりとグレンと真昼に目をやる。

真昼の持つ漆黒の刀身の日本刀と、グレンの持つ真紅の刀身の日本刀が何度もぶつかり合う。

技術的にはグレンが上手だ。だが、真昼の剣が速すぎる。グレンは徐々に押されていた。

真昼の剣。

「あれが鬼呪の武器か?」

「…ええ。では、貴女のそれは何です?」

自分で見える範囲、自分の腕や足の半分以上が黒く蠢く呪詛に覆われている。

「マリアから聞いてないのか?」

「…ああ、マリアさんですか?あの人は何も教えてくれませんよ。前も言ったでしょう。ただちょっとした知り合いだと」

確かに試験の前にスーパーの前で話した時、そう言っていた。

だが、ただでさえ得体の知れない、百夜教の人間なのだ。加えてマリアの知り合いなど、こいつもろくな奴ではないのは間違いない。

「…マリアは何を企んでいる?」

「だから知らないと__」

「じゃあお前は何を企んでいる?」

「何も企んでなんかいませんよ。柊家が禁忌を犯そうとしているのでそれを___」

「《百夜教》のことじゃない。お前は……」

 

そこまで言いかけて、斉藤が何かに反応するように後ろを向いたので、斬りあっていた二人の方を見る。

真昼はグレンに手を伸ばし、

「私と一緒に来ない?私と来たら、あなたにも力をあげる。私と一緒に、この力を完成させま……させ……さ……」

が、何故か途中で、その言葉が途切れる。

彼女は急に苦しげに、セーラー服の胸の部分を、押さえる。

そして突然、声のトーンが変わる。

もっと幼い、泣きそうな声音で、

「きちゃ、だめ、グレン。もう私は……私は、鬼に取り憑かれ……《鬼呪》は、この実験は、失敗……わ、私は……私はもう、いな…………黙れ黙れ。私は取り憑かれてない。私にはもっと力がいるんだ……もっと力が……」

などと、言う。

そこで、真昼の右腕が震える。

がくがく震える。

そして、漆黒の刀から、黒い模様が蠢き、真昼の腕に移っていく。

まるで呪うように。

真昼を呪うように、刀が、真昼の腕を侵食し始める。すると腕の形が変わる。指先は爪が長く伸び出し、まるで獣のような形に変容していこうとして、

「おーっとまずい」

斉藤は目の前の私がいるにも関わらず、鎖を放ち、真昼の右腕をぐるぐる巻きにする。

「時間が立ちすぎましたねぇ。そこまでです、真昼さん。まだこれ以上は、その武器は使えない」

その言葉に、真昼の表情が戻る。

冷静な顔に。

「……ええ、そうね。戻りましょう」

が、グレンはそれに、斉藤のほうをにらんで言った。

「てめぇ、真昼に何をした?」

すると、斉藤が答える。

「詳しく知りたければ、あなたも《百夜教》に……」

が、無視してもう一度、

「真昼になにしたのかって聞いてんだよ!」

と、グレンは飛び出した。真紅の刀を掲げ、一直線に斉藤に振り下ろそうとする。

だがそれを、真昼が邪魔をする。

と、同時に斉藤はこちらに鎖を放ってきた。

ナイフで受け止める。

斉藤はこちらに振り返って、

「さっきから何もせず見ているだけですけど、私を殺しに来たんじゃないんですか ?」

と聞く。

実際のところ、最終的に《百夜教》を退けられればいい。

それだけなら殺してもいいが、こいつがマリアを知る唯一の人物である以上、聞かなければならないことが沢山あるのだ。

「聞きたいことがある。素直に知っていることを吐けば殺さない」

「……はぁ。聞きたいこととは何です?」

斉藤はため息をつくが、構わず続ける。

 

それは、私が今、どうしても知りたいことだ。

 

 

 

 

 

 




次回、続きます
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