終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

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原作に繋がる話が本格的に始まります。

それではさっそく、どうぞ!


第11話 序章の始まり

白い煙幕の只中。

 

「『天使の鎖』とはなんだ?」

 

クレハは斉藤の目を見据えて問いかける。

それに、斉藤は何の感情も読み取れない表情で返す。

「…天使の鎖、とは?」

 

その問いに、クレハは黙ったまま、間髪入れずにセーラー服のリボンに手をかけ、しゅるりと解いて躊躇わず制服の前を開けた。

「何をして……これは…………」

驚いた斉藤の目が一瞬見開き、クレハの胸にあるものに釘付けになる。

 

下着で少し隠れているものの、はっきりと見える、白い肌に広がる黒い呪詛。

よく見ればそれは、胸の一点、ちょうど心臓のある辺りから広がっている。

そして、さらによく見ればそこには、

「天使……ですか……」

 

翼を広げた天使が、鎖に全身を拘束されている姿に見える黒い刻印が刻まれている。

クレハの全身に回っている呪詛は、まるで、この鎖が伸びて重なりあったもののようで。

クレハは口を開く。

「マリアはこれを、『それは天使を縛る鎖の呪いだ。貴女達の命が、天使の現界を阻んでいる』と言っていた」

続けて、問う。

「天使とはなんだ?」

「さあ、それは私にも___」

クレハは斉藤の視線の一瞬の揺らぎを見た。

こいつは何かを知っている。

そう判断したクレハは片手でナイフで斬り掛かる。

と、見せかけて、もう片方の手に、氷の日本刀を瞬時に形成して、斉藤の胸に突き出した。

心臓に、届く。

 

しかし、そこで信じられないことが起こる。

「おおっと、これはちょっと危なかった」

おどけたようにそう言いながら斉藤は、なんと、素手でその日本刀を指で挟むようにして止めたのだ。

いくら呪術があるとはいえ、明らかに人間の所業ではない。

 

と、そこで、真昼が私達の横を、ひょい、ひょいっと後方へと、舞うように下がっていく。

そしてにっこり笑うと、

「あなたが好きよ、グレン」

グレンを見つめてそう言った。

「これは本当の気持ち。だから、あなたが私を欲しがってくれるまで……その日まで、待ってるね」

そして彼女は、煙幕の向こうへと消えていく。

 

続いて斉藤も、刀を掴んだまま、少し疲れたような顔で、

「だいぶ、予定は狂っちゃいましたが、まあ、おおむねいいでしょう。あ、もしもあなた方から《百夜教》にコンタクトを取りたい時は、以前に私と会ったときに一緒にいた、あの少年が通っている孤児院の院長に伝えてください。百夜孤児院__どうせあなたは、その場所を知っているでしょう?」

「…………」

「そうすれば、私に繋がります。では、そろそろ私もこれで」

そう言って、斉藤が下がる。

煙幕の内側には、グレンとクレハの二人が取り残されてしまう。

 

待って。

ちょっと待って。

百夜孤児院の場所知らないんだけど。

調べれば大丈夫かな。

 

真昼の消えた方を見て、つっ立っているグレンの手には、折れた刀が握られている。

真昼に折られたのだろう。

見れば、そんなに脆いものだとは思えないが……。

それも鬼呪の力だろうか。

 

と、そこで、急速に煙幕が薄くなり始める。

どうやらその煙幕は、呪術によって張られていたもののようだった。だから《百夜教》の部隊が撤退すると同時に、消えていく。

そして、

「…………」

煙幕が消えた先には赤く染まった校庭が広がっていた。

生徒の死体。

教師の死体。

それらは多くはないが、少なくもない。

そしてその死体の中に、黒スーツのものは見えない

煙幕の中に入る前に、結構な数を始末したはずだが……。

正体がバレないように《百夜教》の連中は、死んだ仲間の死体を回収していったのか。

だがとにかく、戦争の初戦は柊の完敗のようだ。

なにせ柊は襲ってきた相手の正体も分からず、敵にまんまと逃げられてしまい、さらには死人も出ている。

挙句、柊真昼が裏切っているのだ。

私の個人的な見解としては、仲間に裏切られ、憎まれるような組織は、その在り方が間違っていると思うのだが。

 

「あ、あなたも、生きていたんですね!?」

嬉しそうな女の声が突然、する。

そちらに目をやると、十条美十と五士典人がグレンに駆け寄っていた。

命の恩人がどうとか。

言葉を交わす様子はなかなか楽しそうだ。

なんだ、友達いるじゃないか。

 

『もう私達はあんな風に楽しめない…。羨ましい…恨めしい』

『いいなぁ、イイなァ。あの子達と遊びたいなァ』

『ねぇ、クレハ。あの子達をこっちに連れてきてよ』

『ねェ』『何で助ケてくれなカッタノ?』『私達を見逃してクレナカッタノニ』『あの子達モ』

『みんな平等ヨねェ』

 

段々と、グレン達の姿に目の焦点が合わなくなる。

それどころか、景色全体がぼやけて見える。

意識しなくても動くものを捉えて動く瞳。

 

氷刀を捨てて姿勢を低く下げ、片手を地面につく。

ナイフを構え、地面を踏みしめる脚に力を入れる。

獣が走り出すように、

獲物を捉える視線の先は、

 

「皆殺シにしよウ」

「てはじメにオマエダ、イチノセグレン」

 

地面を蹴る。

 

「………ッ!」

 

その寸前、誰かがクレハのナイフを持つ腕を掴んだ。

 

「クレハ、もうやめろ」

 

その、誰かの声と共に、すぅ、と視界が元に戻った。

と思えば、突然戻った筈の視界が暗転して、体が地面に倒れるのを感じる。

冷たい土の感触を頬に感じ、

そのままクレハは意識を失った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Side 一瀬グレン

 

「グレン様、グレン様、今日からまた、学校が始まる訳ですが、もう絶対、片時も離れませんからね!」

「…………」

「まさかわたくしが入院した翌日に、グレン様が戦争に巻き込まれるだなんて。話を聞いたとき、雪ちゃんとわたくしは顔を見合わせて飛び上がりました。護衛役であるはずのわたくし達が、グレン様が危険に遭遇しているというのに、いったい、なにをしていたのか!と。あの、ですので……」

と、小百合がぴったりと横にくっついてくる。

さらに時雨も、反対側にぴったりと寄り添い、言う。

「ですので、今日から私達は、グレン様から片時も離れないことにしました」

グレンはその、セーラー服姿の従者二人を見下ろして、言う。

「だからといって、くっつく必要はないだろう?」

すると時雨が言った。

「有事ですので」

小百合も言った。

「戦時中ですので」

それにグレンは二人の肩を手で、まるで両開きの扉を開くかのように、押しのける。

「邪魔だ。歩きにくい。第一、おまえら俺より弱いだろうが」

が、小百合が言う。

「あ、離れちゃだめですグレン様!」

続いて時雨が、

「確かに私達の力はグレン様の足下にも及びませんが、弾除けにはなれますから離れないでください」

と、周囲をきょろきょろ見回す。敵がいないか。攻撃はこないか。はたからはもう、ちょっと挙動不審な変人に見えてしまうんじゃないかというほど、二人は緊張しまくっている。

ちなみに彼らがいるのは、いつもの通学路だ。

第一渋谷高校へと続いている道。

あの、選抜術式試験中に、正体不明の組織に襲われてしまう__という事件以来、半月の休校を経て、学校は再開されることになった。

襲ってきた組織の正体は、名前も聞いたことのないテロ組織だった__ということらしかった。

そして、『帝ノ鬼』はそのテロ組織の構成員を一瞬で皆殺しにし、『帝ノ鬼』に逆らう者はこうなる、と、発表した。

それで学校の関係者達は、安心した。『帝ノ鬼』の信徒達の不安も、解消した。

だが、当然、それは嘘だ。

襲ってきたのはこの国最大の呪術組織《百夜教》で、『帝ノ鬼』がすぐにどうこう出来る相手ではないはずだった。

だからそのテロ組織は、《百夜教》によってでっち上げられた偽物の組織か、もしくは、『帝ノ鬼』が襲撃されて、その相手すら分からない__という失態を隠すために作った、やはり仮初めの組織か。

だがどちらにせよ、状況は好転していない。

この国の二大呪術組織の戦争は、始まってしまっているのだ。

そしてその下で、一瀬家率いる『帝ノ月』は、漁夫の利を狙うことに決まった。二大組織が争っている横で、その二つを潰し、上に立つことを狙うのだ。

そしてその二大組織が戦争状態に突入した__という情報は、幹部以外には伝えられていなかった。厳しい情報規制が敷かれ、その水面下で、激しい情報収集戦が始まっている。

各組織の工作員たちが命がけで敵組織を陥れられないかと、動き回っている。

そしてそんな中、

「……もう絶対、グレン様を危険な目には合わせません!」

時雨が、まるで自分に言い聞かせるような決意の声音で、言う。

するとそこで突然、敵からの攻撃がきた。

といってもそれは、命を脅かすようなものではないが。

「……ん?」

グレンは目を上げる。

すると目の前には、コーラの入ったペットボトルが飛んできている。フタが開いていて、当たればきっと、コーラまみれになるだろう。

入学式のときと、一緒だ。

そしてその向こう側では、『帝ノ鬼』の生徒たちが笑っている。馬鹿にしたように笑っている。

こんな、戦時下に__いまが戦争状態だということすら伝えられてない、それどころか偽物のテロ組織を始末した、などという情報で、安心しきった馬鹿どもが__やはり馬鹿面下げて、笑っている。

グレンはそれを半眼で見つめ、

「時雨。防ぐなよ」

と、言おうとする。

ここで実力をバラす必要は、やはり無いのだから。いや、寧ろ、自分の力を秘匿する必要性は、前よりも高くなった。

なにせ、ここでこそこそと我慢する時間も、もう、三年はないかもしれないのだから。

戦争が始まったのだ。

潰そうと思っていたバケモノ組織二つが、都合の良いことに潰し合いを始めてくれたのだ。

なら、自分は侮られていた方がいい。

現界まで馬鹿にされていた方がいい。

あいつらは___

あの、偉そうにふんぞり返る返っている馬鹿どもは、一瀬を侮ったまま、死んでいけばいい。

だから、グレンはコーラを受けようとする。

しかし時雨が反応してしまうのが、見える。彼女は本当に、緊張していたのだ。グレンに近づくものを、主に近づく敵意を、すべて排除しようとクナイを投げてしまう。

そのクナイは、一直線にコーラのペットボトルを破壊しようと飛んでいく。

そしてペットボトルが宙空で破壊されれば、生徒達は黙るだろう。時雨の怒りに触れて。彼女の実力に触れて。

だが、それには意味が無い。

そんなことには意図がない。

だからあとで、説教だな、と、思う。

しかしそこで、

「よっ」

という声がした。

クナイが飛んでいこうとした横で、いつの間にか現れていた柊深夜がそのクナイをつかんでしまう。

と、同時に、コーラのペットボトルが、クナイがなくなったせいで、飛んでくる。グレンの頭に当たる。中身が飛び出して、全身がコーラまみれになる。

それを見て、投げた生徒達は爆笑している。

「コーラまみれでやんの!」

「一瀬のクズめ!だけど、コーラも滴るいい男!」

「消えろ!一瀬のクソネズミが来れるところじゃねぇんだよ!」

なんて、怒鳴られて。

途中に混ざっていた変な言葉はきっと気のせいだろう。

そして最後に、深夜が振り向いた。薄く笑みを浮かべ、

「はっ。相変わらず、ださいなぁ君は。こんなコーラもよけられないのか?」

するとまた、生徒達がより一層盛り上がった。

どうやら深夜は、グレンの演技を手伝ってくれるつもりのようだった。

「貴様っ」

と、いきりたつ小百合と時雨を制して、グレンは言った。

「ご助力どうも」

「いやいや、なにせ僕ら、仲間だからね」

「仲間?じゃあ、おまえは『帝ノ月』に入信するか?」

「冗談言うなよ」

「なら仲間じゃないね」

「ふふ、まあ、同じ敵を持つ者同士、仲良く頑張ろうよ。じゃ、また教室で」

そう言ってこちらに背を向ける。

「ちょっと、ずぶ濡れじゃないですか!」

背後から、別の声がかかった。

「うっわ、ひでぇ。なんだよそれ、グレン」

五士典人まで現れた。

それを見て生徒達が動揺し始める。

「あの髪は……十条の方……」

「五士の方もいるぞ……」

「お、おい、まずくねぇか?」

「関係ねぇよ!征士郎様も深夜様も一瀬が嫌いなはず…」

と、本当にどうでもいい、いじめる派vsいじめないでおく派がせめぎあっている。

そこへ、隣に並んだ五士がグレンを見て、

「おまえ、いじめられてんの?どいつに?こないだたすけてもらったから、お礼に助けてやろうか?」

と、コーラを投げてきた生徒達のほうへと、鋭く目を向ける。

するとその生徒達は、「ひっ」と、声にならない悲鳴を上げて、そのままひそひそ言い合いながら、いなくなる。

グレンはそれをぼんやりと見つめ、五士と美十に向かって言った。

「ちょっと、おまえらに言いたいことがあるんだが」

すると五士が言う。

「お、なんだ?お礼か?」

続いて美十が、

「お礼なんて、いいんですよ。あなたは私を、一度助けてくれたのですから」

それにグレンは頷いてから言った。

「なぜ俺がおまえらに礼を言う?俺が言いたいのは、近づくなってことだ。俺は、友達はいらないんだ」

するとそれに、美十と五士が目を丸くしてこちらを見つめ、それから、

「おまえ、ほんとに照れ屋だよなぁ〜」

と、五士が笑い出した。

続いて美十も、

「まさか近づくと、私達までいじめにあうと心配していると?」

「違……」

「そんなこと、気にしなくていいのに。でも、なんか、少しづつあなたのことがわかってきた気がします」

と、まるで何もわかってないくせに、彼女には勝手に何かがわかったらしい。

続いて美十は、時雨に話しかけ始めると、しつこく時雨を従者として勧誘しだした。

その横で五士は小百合にナンパし始める。

ちなみにもう一度言うが、いまは戦争中だった。

なのに、

「この、平和ボケどもの様子は、いったいなんだ?」

と、グレンは思う。

 

そこで近くにクレハ=ヴォルガスが歩いているのを見て近寄る。

グレンは、クレハが立ち止まると、鞄から以前、借りていたタオルを出す。

「遅くなってすまない」

「………………」

クレハは差し出されたそれを見て、コーラまみれのグレンを見る。

「またコーラ?」

「俺はコーラが好きなんだよ」

「そう。コーラはあまり飲んだことが無いから分からないけど」

「なかなか美味いぞ?」

「そう」

「それより早く受け取ってくれ」

グレンがそう言うも、クレハは手を動かす気配がない。

その代わりにクレハが言う。

「それはそのままあなたに貸すわ。濡れたままうろちょろされても困るから」

そう言うと、またもやとっとと先へ行ってしまった。

グレンも時雨や小百合、それから美十や五士の所に戻る。

クレハの考えてることは未だよくわからないが、こいつらのことも大概だ。

相変わらずうるさい馬鹿どもを見つめ、グレンはため息をつくと、コーラでずぶ濡れの髪をかき上げる。

空を、見上げる。

無駄に平和そうなその空と、そして、目の前の、あまりに馬鹿馬鹿しい光景に、

「……はは」

と、そう、小さく笑って。

 

 

そしてここから、物語が始まる。

 

戦争。

殺し合い。

騙し合い。

愛と、憎しみ。

それは終始、人間味を帯びていた。

欲望を起点に、なにもかもが回り続ける。

際限なく回り続ける。

そしてしの欲望が膨れ上がり、世界は滅亡していく。

これはその、人類滅亡直前の物語だ。

終わりの天使(セラフ)が終末のラッパを吹き鳴らし、世界に鉄槌を下すまでに、人間たちがどれだけ醜く、それでいて必死に足掻いたかの、物語____

そして物語は破滅後の世界へと続く。

 

一人の暗殺者が長い長い物語の果てに選んだのは____

 

さて____

 




次回『何故グレンがクレハに対してタメ口なのか』
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