更新が大変遅れ、本当に申し訳ございません!
今回は前話の少し前の話です。
それでは早速 第12話 どうぞ!
《百夜教》の襲撃から数日。
学校が再開する少し前。
「……一瀬グレン」
「つまらんものだが」
クレハは、手渡された小さく可愛らしいお菓子の箱を、黙って見つめる。
箱にはイタリア語で
「近くのカル〇ィで売ってたやつでな」
ということらしい。
イタリアでお菓子を食べていた訳ではないので、だからといって何か懐かしんだり、ということもないのだが。
「わざわざありがとう」
クレハは病院食を端に寄せて、机の上に箱を置くと、さっそく開封してクッキーを手に取った。
そして、グレンがベッド脇に立っている方を気にも向けず、黙々とサクサク音をたててそれを食べる。
グレンがその様子を眺めて言う。
「毒が入っているかもしれないぞ?」
サクサクサクサク
「…………………」
サクサクサクサクサクサクサクサク
「…………………」
サクサク___
「おい」
「……ふぅ、何?あ、毒は入って無かったけど」
空になった菓子箱を病院食のトレーに乗せて言うクレハに、グレンが若干呆れ気味に言う。
「毒殺されるとか、考えないのか?」
「何故?」
「お前、見ただろ?色々と。斉藤と話している時もそうだ」
「……口封じ?」
「……ああ」
頷くグレンを見て、今度はクレハがため息をついて目を閉じる。
「私はあなたと斬り合う真昼を見た。連れ去られたはずの、ね。けれど、私はそれを柊に報告していない」
「それをどう信じろって?」
「もうじき内部調査が行われる。柊はまだ、真昼が裏切り者だと知らないから」
私が気を失った後、真昼が百夜教に連れ去られたとの報告があった。
調査が始まれば、自然とクレハの言う事が真実で、且つクレハが柊に組みしていないことを示すことが出来る。
だからクレハはこの話をした。
一瀬の邪魔をしないのだから、その上、柊の状勢を話してさえいるのだから、口封じをされる理由が自分にはない、と。
だが、それをグレン聞いたのは今が初めてだ。毒殺とは全く関係ない。
と、グレンが言おうとするのをクレハが遮って、再び口を開く。
「それに、毒の有無くらい分かる。私を殺せる程の強力な毒なら尚更」
グレン自身も、対毒の訓練を受けていたので、なるほど、と納得した。
無い自信を語るようには見えないので、もし、こちらが隠匿性や速効性に優れた毒を盛っても効かないのかもしれない、とも考える。
……やはり噂どおり、こいつは人間からかけ離れているのか。
グレンが尋ねる。
「お前は柊に組みしていないんだな?」
「ええ」
「なら、何故、あの学校の生徒を守った」
クレハは病院で目が覚めてから聞いた話を思い出す。
あの時。私が怨念を纏って闘った____
いや、皆には一方的な虐殺に見えていたのかもしれない。
『化け物』
そんなことを言った生徒がいた気がする。
別に彼らを殺されたくない訳では無かった。
ただあの時は、暮人に何か、何か返せたらと思って動いただけ。
だけど、
返り血を浴び、呪詛が巡る私の肌を見た生徒達は、あの襲撃の後口々に噂する。
___強いと聞いていたが、そもそも人間じゃないんじゃないか?
___あいつマフィアなんだろ?もし怒らせたら俺達も……
___見た奴の話では、笑いながら殺していたらしいぞ
根も葉もない話だ。
「ほんと……なんでだろう……」
「お人好しなのか?」
「さあ。でも、あなたも人のこと言えないでしょう」
「どういうことだ?」
「奇襲から、友達を守ったじゃない」
クレハが言うと、グレンは苦々しい顔になる。
「あいつらは友達なんかじゃ……」
「ふーん。そう」
絶対分かってないだろ、とグレンが小さく呟くのを無視する。
「で」
「何しに来た?」
「見舞いに来ただけなんてことはないでしょう」
「聞きたいことがあってな」
クレハに問われてグレンが言う。
「あの時、お前が使ったのは鬼呪なのか?」
流石に見れば、何か呪術を使っているとわかるか。
「違う。あれはただの身体強化の術式。真昼と違って」
「お前はあの日、襲撃があるのを知っていたのか?」
「知っていたら事前に対策を打っていた」
「ヴォルガスはこの件に関与しているのか」
立て続けの質問に、クレハはため息をつくと窓の外に目をやる。
もう戦争は始まっているというのに、眼下には呑気な人々の賑わいがある。
「私達は____」
そう言いかけて、止める。
そしてグレンの方を見ず、窓の外を見つめながら言う。
「……今日はここまで。もう帰って」
「…………ああ、分かった。今日のところはこれで失礼する」
いきなり、説明も前ぶりも無しに、帰れ、と言われてグレンは一瞬不審げな表情を浮かべたが、何か思ったか、素直に聞いてくれた。
手荷物をてみじかに纏めると、すぐに病室の扉を開ける。
その背中にクレハが声をかける。
「そういえば、今日はタメ口なのね」
「……今更取り繕っても仕方ないからな」
グレンは足を止めてそう言うと、今度こそ出ていった。
それからしばらくすると、また、来客が来た。
が、クレハはその人物がこの病院に来るのを見ていたので、さして驚かない。
「お久しぶりです、クレハ先輩」
「久しぶり、葵さ……葵ちゃん」
「何故言い直したんですか」
「んー特に意味はないよ」
「はあ」
葵はそう、怪訝な顔をしながらも抹茶のケーキをベット際の机に置く。
それから脇のパイプ椅子に座ると言った。
「今まで見舞いに来れずすみません。私も暮人様も忙しく……」
「いいのいいの。私の方こそ力になれなくてごめんなさい」
あの襲撃で、色々と上の方は緊迫して、情報収集や、武力の配備などに忙しいのだろう。
葵も暮人も立場上、やらなければいけないことが多いに違いない。
それに生徒会の仕事だってただでさえ少なくないのに、私がずっと入院して抜けてしまっている。
葵は暮人の従者として、生徒会室で私ともよく仕事をすることが多かった。
本当に優秀な子、いや、実際は年上なのだから"子"というのはおかしいだろうか。
とにかく今は二人に相当、迷惑をかけてしまっている。
「いえ、大した手間では無いので」
本当に優秀な人だ。
続けて葵が言う。
「それよりお身体は大丈夫ですか?入院当初は、吐血したり、五感が弱まっていたりしたそうですが」
この病院の奴らが報告したのか……。しかも勝手に。
やはり、強力な呪いだったが故に身体への反動も大きかったのだろう。
もう使わないのが一番好ましいが、そこをなんとかしなければ、毎回ぶっ倒れることになってしまう。
だが実はもう既に、少し対策を考えている。
「大丈夫。もうほとんど回復しているから、学校の再開には間に合うよ」
「それは良かったです。先輩には呼び出しがかかっているので、出来る限り早く応じてもらわなければ」
「呼び出し?」
「はい。『帝ノ鬼』の上層部会から」
それはまた大層なとこだな……。
呼び出される理由は……心当たりが多過ぎて分からない。
むしろ今更か、という気もする。
「何故?」
「私には知らされていません。ですが、学校が完全に回復してからでいいそうなので、今はごゆっくりしてください」
「分かった。伝達ありがとう」
いえ、と、淡々とした話を終えると、葵はゆっくりと切り出した。
「クレハ先輩」
「ん?」
「以前、先輩は、忠義に命をかけるのも程々に、と言いました」
……言ったっけ。
「ああ、それがどうしたの?」
「あれは、仕えられる側の意見なのでは、と気になったんです。巨大組織ヴォルガス一家の名前を持つ、ということは、帝ノ鬼で言う柊家のようなものなのではないですか?」
ああ……。
確かに私はヴォルガスの名前も、たくさんの部下も持っていた。
はるかに年上の部下達は、私が幼いからといって見くびったりしなかった。
幹部であることが、人並み外れた強さの証だったから。
忠実に付き従う部下達がいて……でもそれは……
「確かに私はかなり上の方の人間で、部下もいる。でもそれは関係ないよ。私はただ、葵ちゃんが笑っているところを見たことが無かったから」
少し、心配だった。
どうして?
自分でもよく分からない。
なんとなく、葵ちゃんの口元に手を伸ばして、両口角を押し上げる。
「何……するんれふか……」
「笑って笑って。笑えば幸福が舞い込んでくるよ。葵ちゃんは可愛いんだから。クールビューティーもいいけどね。もちろん私はどっちも好きだよ」
私がそう棒読みで言うと、葵はやや引きつった顔でささっと、私の手を逃れて後退する。
「……先輩、もしかして頭にも怪我を……。医者に報告しなければ___」
「待って待って。違うの」
「……何がですか」
葵がじとーと見てくる。
やめて。何故か葵ちゃんにそういう目で見られると傷つくからやめて。
「昔、同じことを言ってきた奴がいたの」
「それは……軽薄さが滲み出ている台詞ですね」
「は……ははっ、はっきり言うのね」
私がそう言うと、何故か葵が驚いたような表情になる。
「先輩も笑うんですね……」
「え?」
今、笑っていた?
自分ではそんなつもりはなかったのだけれど。
どうして……
「今、私笑ってた?」
「…?はい。それは楽しそうに」
今、私は遠い昔。同じくヴォルガスの幹部として働いた、陽気な男のことを思い出していた。
私よりはるかに年上だったから、きっと私より長い間、暗殺等の任務をこなしてきているはずだ。
なのに、普段会うときなんかは全然そんな雰囲気は無くて、
馴れ馴れしく話してくるし、緊張感は無いし……でも。
「ちょっと、思い出し笑いをね…」
「この学校で何か楽しい思い出でも?」
そんなものが学校にあるのか?と言わんばかりの口調だ。
まあ、それには同感だよ。
あることを除いては。
「無いことも無い…けど。今のはもっと昔のこと」
「故郷でのことですか」
「そう」
それからまた少し間が空いて、葵が言う。
今までにももちろん話すことはあったが、まさかこんなによくしゃべるとは思わなかった。
「呼び出しのことで、心当たりがあります」
「それは……」
言う前にわかる。
それは漏らしてはいけない情報では……?
「『帝ノ鬼』の上層部は先日の件について、一瀬を疑っています。ですが同時に___」
「私を……ヴォルガスの関与も疑っている、と」
「はい。今回はそのことでの呼び出しかと」
「なるほどね……」
今まで暮人が何も問わないでいてくれたけど、それももう限界らしい。
私からもそろそろ、動かなきゃいけないのかな……。
「その……」
「ん?」
葵が急に、躊躇うように口を開く。
「気をつけてください。クレハ先輩が何を考えているのかは、私には分かりません。が、返答次第では殺される可能性もあります」
「……以前、少し斬りあったでしょう」
「というより一方的にやられましたが」
「私が殺されると思う?」
「…………ですが」
少しの間。
あの刹那の時間でも葵はこちらの実力を読み取ったらしい。
けれど、上層部も相当……ということだろう。
それだけではないかもしれない。
「心配してくれるんだ」
「…別に。ただあなたが何か問題を起こせば、共に行動されることの多い暮人様にも悪影響が出るので」
ふむ。もうちょっと親しめていると思ったのだけれど。
あれか。これがツンデレってやつか。
本で読んだ。
あ。
あの陽気男も言ってたような……。
「ですから、迂闊なことは____」
「もし、私が…『帝ノ鬼』に敵対していたとして」
「…………」
クレハが葵の言葉を遮る。
「暮人もあなたも高貴な家柄で信頼もある。私は所詮ただの無価値な警戒対象の余所者。それは以前から変わらない。それが……それが、どう影響するというの」
「…………」
葵は表情を固くして黙る。
この人は、盲目的で危ういところもあると思っていたけれど、案外自分の意見を持てるようだ。
それも、根はとてもいい子で……
やはり私とは違う。
「ごめんなさい。暗くなっちゃったね」
「……そうですね。ではそろそろお暇させて頂きます」
陽がすっかり傾き、病室にオレンジ色の光が差し込むのを見て、葵が立ち上がる。
「ああ、この抹茶ケーキ、よろしければどうぞ」
「ありがとう」
「あと、私なんかより、暮人様の方がよっぽど心配されていますよ」
「…………私は大丈夫だと伝えてくれる?」
「わかりました。では、失礼します」
葵は丁寧に頭を下げると、静かに病室から出ていった。
一人部屋のここは、今度こそ本当に静まり返ってしまう。
クレハは起きあがっていた体勢を崩して、ベッドに身体を横たえて目を閉じると
「なんだ。やっぱり葵ちゃんも心配してくれてるじゃない」
そう呟く。
本当に、ここの人間は甘いんだか何だか。
ああ、胸がざわざわする。
もう、事が大きく動きすぎた。
もう、屋上で風に吹かれながら、二人で過ごした時は戻らない。
いくら、身を案じられても、それには、もう応えられない。
もう時間が無い。抗わなくては世界はもうじき滅亡する。
私がヴォルガスを追われた理由も、2つの呪いの意味も、マリアの正体も知らずに。故郷を一度も見れずに。
それだけは御免だ。
挙句、共にありたいと望む人がいる、だなんて。
これは強欲だろうか。
なら、それらを奪われたくないのなら
もっと。もっと力を
例えこの身がどうなろうとも
力を
ちかラヲ寄越セ
更新は出来る限り早くするよう努力します。
お付き合い頂いている方、本当にありがとうございます!
次回、学校再開後 です