終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

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更新が大変遅くなり、本当に申し訳ありません!

お読み頂いている皆様には本当に感謝感謝です!

学校再開後からです。 第13話どうぞ!


第13話 雨の日に

「はぁ……は……うっ……」

 

近くの建物の壁に、思わず手をつく。

 

全身を覆う不快感、疲労感、いや痛みだろうか。

意識がはっきりしなくてよくわからない。

 

さっきまで、あんなに気を張りつめていたのに、もう解けてしまったようだ。

 

視線を下に落とすと、自分の足を伝ってアスファルトに血が滲み込むのが見える。

 

だが、それも、後から後から降り続く雨で消えてしまった。

 

もう夏に近づく頃なのに、妙に寒くて。

 

「ああ。帰るの面倒くさいなぁ…」

 

周りには誰の姿もなく。

 

そのクレハの呟きは、雨の音に紛れて掻き消されてしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

《百夜教》の襲撃から約1ヶ月後。

学校が再開してから僅か数日後のこと。

 

授業が終わり、その日は特に用事もないので直ぐに帰ろうとしたときだった。

 

『三年一組 クレハ=ヴォルガス。至急、体育館まで来るように』

 

と、校内放送がかかる。

このタイミングでの呼び出しは、おそらく葵が言っていた件なのだろうが、体育館とはちょっと意外だ。

 

これからきっと、長丁場になる。

私一人で、『帝ノ鬼』を相手取らなければ。

大丈夫大丈夫。私は出来る。出来なければいけない。

 

そう、自分に言い聞かせてクレハは体育館に向かった。

 

 

 

 

「お前がクレハ=ヴォルガスだな。来い」

 

生徒のいない体育館で待ち受けていたのは、見馴れない軍服を着た大人数十名だった。

私が体育館に足を踏み入れた直後、取り囲まれたと思えば、両腕を数人がかりで拘束される。

 

高校生一人に、一体何を警戒しているのだろう。

ここにいるのは訓練された、優秀な兵ばかりだろうと言うのに。

それだけ、襲撃の件で危険視されたのだろうか。

 

目隠しもされずにそのまま地下へと連れていかれる。

暗い廊下に、いくつも鉄扉が並んでいて、まるで監獄のようだ。

学校の地下にこんなところがあったとは。

 

私を拘束している奴等は、その内の1つの扉の前まで来ると、一人が前に進み出て鍵を開けた。

 

依然薄暗いそこは、あまり広くなく、中央にはあまり座り心地の良くなさそうな椅子が、床に固定されている。

椅子のひじ掛けと、足元の部分には手錠がついていて、背もたれにはベルトがある。

 

やはり私は今から拷問されるらしい。

 

いきなりここにつれてきたのがそう言うことだ。

どうやら、『帝ノ鬼』は、まともな状態の私の話を、端から聞く気がないらしい。

 

理不尽だとは思うが、抵抗せずに、部屋に入れられ、椅子に固定されるのを受け入れる。

 

ここで反抗しては、反乱分子と見なされ、これからの行動に支障が出るどころか、最悪今すぐ殺されるかもしれない。

全く。本当に理不尽だ。

 

まあ、このぐらい慎重でなくては、ここまで強大な組織にはなれなかったんだろうが。

 

私が椅子から動けないのを確認すると、兵たちは部屋を出ていき、私一人が残される。

と思えば、それと入れ違いに、重たそうな鞄を持った、やはり軍服を着たおばさんが入ってきた。

 

そいつは鞄の中から注射器を取りだし、いきなり私の首に射す。

 

「…っ。一体、何が始まるんですか?」

 

クレハが尋ねる。

が、女はそれが聞こえた素振りすら見せずに注射針を抜き、また鞄から黒手袋を取り出して自分の手にはめた。

さらに続いて何やら鞄から取り出して腰のベルトに装着している。

 

あれは……うん。

鞭だな。乗馬用の物ぐらいの長さの。

 

そして女は私に近づいて言う。

 

「今から私が聞くことに全て答えろ。真実を吐くまで出られないと思いなさい」

「嘘をつく理由がありますか?やましいことなど何もないというのに」

「それは私が判断します」

 

判断するのは、柊家の方では?

と、言おうとも思ったが、意味もなく怒らせて拷問が悪化しても嫌だしな……。

 

さて…。

 

一応、大体は考えて来てはいるが、この女の質問に臨機応変に答えなくては。

それも、しばらく拷問を受けてからがいい。

いきなりペラペラ話しても信憑性ゼロだからな。

 

一度、女を見上げ、それから顔を伏せる。

 

私は、これから何をされるか分かっていながら、自分の目的にとって、とてつもなくどうでも良く、意味の無いことを考えていた。

 

(私の話す嘘を聞いて、暮人はどう思うだろう)

 

なんて____

 

 

考えていながら、実際の所その点に関しては、そんなに心配していない私も

 

「随分甘くなっちゃったかな……」

 

そう呟いて。

 

長い尋問が始まった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

意識が飛ぶ。

 

目が覚める。

 

意識が飛ぶ。

 

目が覚める。

 

その繰り返しをもう、何度しただろうか。

 

「…………」

 

クレハは再び意識を取り戻し、薄く、目を開く。

景色が少し歪んでいる。

恐らく、最初に打たれた自白剤のせいだ。

だが幸か不幸か、対毒・薬訓練を受けていたため、今もまだ自我を保てている。

 

自分の顔には、強い光を放つ電球を押し付けられていて。

その光の中で僅かに見える足や腕などには、幾つもの痣、裂傷、蚯蚓脹れ(みみずばれ)が確認出来る。

 

身じろぎするたびに、拷問者に殴られるたびにそれらの傷から電流のようなものが全身に走り出た。

 

それが痛みなのか…………もう分からない。

 

「バンッ____ガチャガチャ___ガチャ」

 

 

一連の状況確認を終えた時。

 

クレハは部屋の外が騒がしいことに気づく。

 

「誰…か……来た…………?」

 

思わず漏らす声に拷問者はぴくりと眉を寄せる。

 

そして拷問者は顔を伏せったままのクレハに手を伸ばし、乱暴に髪の毛を掴んで上に引っ張りあげた。

 

「ぐぁっ」

「貴様、今のが聞こえたのか?」

 

そう言いながら顔を近づけて、目線を合わせてくるくる。

 

「………………」

 

しかしクレハはだんまりを決め込んでいた。

 

話すには嘘がいる。

嘘をつくには脳を働かせる必要がある。

だが、その機能は今低下している。

 

だから余計なことは話さない。

 

「ふん」

 

口を開く気配が全くないクレハに苛立ったのか、掴んでいた髪の毛を、今度は下にものを投げるかのようにして離した。

 

全く。

禿げたらどうするんだ。

 

と、いう馬鹿なことを考える暇も与えず、今度は私の着ている(もう既にボロボロの)セーラー服の前を、突然開け放った。

 

露になる黒と白が混じりいった胸。

 

私には、この呪いが、心臓とは別に脈動しているのを感じる。

 

ようやく『これ』について触れるのだろうか。

 

恐らく服の裂け目から既に見えていただろうし、それに……

 

「教えてやる。確かに今日この時間に、もう1人の人間がここに収容された」

 

やっぱりさっきの音はそういうことなのか。

 

拷問者が続ける。

「だがこの部屋の防音性は外部の音をほぼ完全に遮断するほど。私はもちろん普通の人間には聞こえるはずがない」

 

「…………」

 

「だがお前は音を聞いた。しかも、だ」

 

そう言って拷問者が肘掛に固定されているクレハの腕を掴む。

そこには、無かった。

先程まで刻まれていたはずの傷が。

 

正しくは、深い傷は浅く、浅い傷は無くなっていた

 

「この回復力と聴力は、気味の悪いこれと何か関係しているのか?」

「…………」

 

黙っていると拳で頬を殴られる。

 

ああ、喉も渇いて頭がクラクラする。

 

「……ま……魔術」

「これは魔術なのか。なんの魔術だ?」

「強……化。身体能力強化の……術。ヴォルガスで施術された…………」

 

拷問者は言い終わった私の様子をじっくりと観察するともう同じことを質問してはこなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

もう何日経っただろう。

 

私が最後に喋った時、胸の呪いについて答えた時は、多分2日位経っていたと思う。

 

それから、恐らくまた数日経過している。

 

その間、というか初めからだけど。

同じ質問を繰り返されていた。

 

「お前は百夜教と関わりを持っているのか?何の目的でここに来た?」

 

もうそろそろ頃合いだろう。

もう既に、普通なら訓練を受けた人間でも音を上げる日数はとうに経っている。

 

「お前は百夜教の仲間なのか?」

 

クレハはカラカラに渇いた喉をゆっくり開いた。

 

「……ち、違……」

「お前が百夜教を学校に引き入れたんだ」

「…………違う」

「いや、お前が百夜教を手引きした」

 

ぐいぐいと、強く発光する電球を押し付けられていて意識が朦朧とする。

 

「……手引き……してない……でも」

「でも?」

 

「……百夜教の…計画…は……知ってる」

「それはなんだ?」

 

飛びかかる意識を必死に保って頭を働かせる。

 

「…………う」

「計画とはなんだ?」

「……ウイルス。世界を…滅ぼす…強力なウイルス」

「ウイルスだと?百夜教はウイルスを開発しているのか?」

「……わからない」

「わからない?」

 

拷問者の声に少し、苛立ちが見える。

あと、少し……

 

「わからないとはどういうことだ?口から出任せで言ったのか?」

「……違う」

「なら何故わからない」

「…私達は…そういう情報は手に入れた。だけど、本当かは……」

「違うな。お前は百夜教に通じている」

「……ちが……」

「お前達の目的はなんだ!」

 

拷問者が怒鳴ると共に、またクレハの髪の毛を掴みあげた。

 

いや、だから禿げるって……。

 

さて…………。

私は禿げたくないので、意地をはるのはもうやめだ。

 

「う……あ……」

「ん?」

「……み……水……」

「言えば飲ませてやる」

「あ」

「お前達の目的はなんだ?」

 

「……Padre…の…命令」

「パードレ?」

「私達……いや、我々のボス。父上のご命令……」

「命令の内容は?」

「……数年前……日本のある組織……が……世界を滅ぼす開発をしているとの情報を我々は掴んだ……」

 

そこで少し言葉を切る。

あまりペラペラ話すのも疑われるかもしれないというのもあるが、何より、一気に喋る程の余力があまり無かった。

 

しばらく次に話すことを頭の中で反復していると、拷問者が言う。

 

「どうした?続きが思い出せないなら爪を剥がして、思い出させてやる」

 

仮に忘れてたとして、そんなんで思い出せるわけあるか。

 

クレハは、その言葉に、焦るような様子を見せて口を開く。

 

「…も、もしウイルスが本当に蔓延すれば、ヨーロッパにまで被害が及ぶかもしれない。だがあくまで噂……。しかも、利用出来る組織が日本にあるのに、わざわざ我々が本隊をもって対処する必要はない。そう父上はお考えになった」

「利用出来る組織とはまさか『帝ノ鬼』のことか?」

 

黙って首を縦にふる。

同時に頭がグラグラ揺れるような感覚に陥った。

 

そんな頭でも、拷問者が今、不愉快そうなのがわかる。

 

「続けろ」

「……父上は能力面から判断されて私を日本へ送った。ウイルスの真偽の確認、そして排除を私に命じられて。

一人で手に余るようなら、帝ノ鬼に協力しろ……と」

「協力?利用するとさっき言っていたな」

「…同じこと…。たかがちっぽけな東洋の組織には幹部一人で充分だと考えているのだから」

 

そう言うクレハをじっと見た後、拷問者は耳に装着感した何かで誰かと会話すると、一人頷いてクレハに向き直った。

 

「で、その証拠は何処にある」

「……私の家の……机の引き出しに……父上からの命令書が…………」

 

そう言った直後に、外で今度は複数人が走り去る音がした。

私の家に向かったのだろう。

 

「何故今まで『帝ノ鬼』にこのことを黙っていた。今の話が本当ならお前達は我々と協力関係にあるはずだ」

「…………」

 

やっぱり聞かれるか……。

しかし私にぬかりは無い。

 

「……我々が掴んだ情報はあくまでも〝ある〟組織が、というもの。ウイルスを撒くのが百夜教かそれとも帝ノ鬼かは……」

「知らなかった…と?」

 

クレハはこくりと頷いて続ける。

 

「実は……帝ノ鬼に潜入して、黒なら内側から壊滅、白なら協力する予定だった……」

「今は?」

「一目瞭然。百夜教が黒だと判断した。だから…………私はあなた達と共に戦いたい」

 

い、言い切った……。

これでどうだ?とクレハは考える。

 

拷問者はそう言うクレハをじっと見定めていると、また耳に手を当てた。

 

そして、しばらく誰かと小声で会話した後、クレハに告げる。

それも今までとは全く違う口調で。

 

「クレハ=ヴォルガス様、大変申し訳ありませんでした。後日宿舎を用意させて頂きますのでそれからはそちらにお移りください」

 

それと時をおかずして部屋の扉が開けられ、数人の軍服を着た人間が入ってきて、私の拘束を解く。

 

クレハが「水……」と呟けば、誰だか知らんがあっという間にコップに入れた水を用意してくれた。

幾日ぶりの冷たい流動体が喉に染みる。

身体の傷は、自動修復が効くにしても、飢えと乾きはどうにもならない。

 

 

それにしても酷い待遇の差だ。

そんな内容、偽造した命令書に書いたかな……。

 

とりあえず今日の所は自分の家に帰れと言うので、部屋を出、体育館を出、学校を出る。

 

まあ、歩いて帰るしかないのだけど。

 

荷物と新しい制服は家に送っておいてくれたらしい。

けれど、やはり身体へのダメージが大きく、足を半ば引きずり、近くの建物に縋って歩くのが精一杯だ。

 

そのうえ雨が降っている。

 

流れ落ちる血が雨に滲んで消えるのを見下ろしながら、小さく文句を吐く。

 

 

もう緊張は解けたけれど……

全く……。これ本当に仲間認定されたのか?

もうちょっと送ってくれるとか……。

 

そう考えていても道でくたばるだけなので、足をまた進めようとしたその時。

 

ブロロロロロ…………

 

と、エンジン音が近づいてくる音がする。

目の前から。

ここには車道と歩道の境が無い。

 

暗く、雨で悪くなった視界がどんどんライトに照らされて真っ白になっていく。

 

避けないと……。

 

そう考えても身体が言う事を聞いてくれない。

それでも残り僅かな力で横に跳ぼうとする。

 

あと少し。

 

あと少し力が。

 

まにあわない。

 

 

キイイィィイイイ!!!!!!!!!!

 

 

けたたましいブレーキ音が鳴り響くと共に、全身に込めていた筈の力はスルリと抜け落ちた。

 

地面に倒れ込んでしまった。

 

一度こうなってはもう立ち上がれない。

 

白い光がもう零距離に。

 

「……あ……れ」

 

身体が車にぶつかる音の代わりに、どたばたと二人程の足音が側まで来て、急に私は柔らかいものを肌に感じた。

 

「毛布をかけて早く車内に入れろ!」

 

聞きなれた声だ。

 

ああ。

 

あたたかい。

 

「少し……疲れたな……」

 

 

そう、呟いたクレハの頬に雨が伝い落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その場にいる誰も、雨の中で少女を運び入れた車に注がれる視線に気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 




かなり前になりますが、終わセラの11巻を読み、吸血鬼シャハルを見て、もう……胸熱でした。
最近の本誌も展開が凄い……

という訳で次に続きます。
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