普段なら賑わう動物園に潜むものとは。
第15話、どうぞ!
※衣装チェンジにつき、挿絵が入っております
生徒会室前。
「失礼します」
ノックした後、返答が無いので肯定と受け取って重厚な扉を開ける。
見慣れた部屋の奥には、大きな椅子に腰掛ける暮人と、
「来たかクレハ。お前以外はもう揃っている」
手前の客用ソファには今回、任務を共にするメンバー、一瀬グレン達が座っていた。
まあ…予想はしていたけれど……。
何か空気が殺伐としてるな……。
一瀬が柊に良い感情を持っている訳がないのだけれど。
部屋に入り、扉を閉めると、葵ちゃんが隣まで来て「彼らへの説明も済んでいます」と、その他彼らに関する報告をしてくれたので、改めてソファに座っている面々を見る。
グレンは相変わらずツンとした態度で、深夜もこれまた相変わらずのすまし顔。
2人とも顔立ちがアレなだけに、これでも絵になるのだからムカつく話だ。
典人、美十の2人は何故か若干、青ざめている。
まあどうせグレンが暮人に生意気な口をきくもんだからはらはらした、というところなのだろう。
「今回の任務に同行するクレハ=ヴォルガスです。よろしくお願いします」
そう言うと、典人と美十の2人が目を見開いて驚いた様子を見せる。
「あ、あのイタリアの……!? 右に並ぶもののない戦闘力だって……」
「確か学校が襲撃された時にも……」
この反応だと、同行者の名前は知らされていなかったらしい。
しかもこの分だと、もう全校生徒に名前が知られているのかもしれない。
一瞬生まれたざわめきを無視して暮人が言う。
「よし。命令は終わりだ。あとは結果を出せ」
その言葉に全員が部屋を出た。
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私達、特務部隊に与えられたのは学校内の302号室。
ガランとした広い会議室は、ほとんど普通の教室と変わらない作りだ。
今、この部屋にいるのはグレン、深夜、典人、美十、時雨、クレハの6人だけ。小百合は購買に飲み物を買いに行っている。
美十はどうやら実家に連絡しているようで、ベランダに出ている。
その声がかすかに聞こえる。
「うん。うん。そう。暮人様からの、直接の命令___でも、極秘の任務だから…うん。たぶん、危険。あ、でも、あのクレハ・ヴォルガスが……。うん。分かった。ここで認められれば、十条家の今後の発展の為にも……」
そんな、声。
典人がそれをしばらく眺めてから、グレンに言う。
「なーんか、嫌なこと押しつけられたなぁ。十七部隊全滅って、俺らに死ねって言ってるようなもんだよな。あ、でも」
と、そこで今度はクレハに言う。
「先輩の噂は聞いてますよ。頼もしい人に同行してもらえて嬉しいです!」
どこかの一瀬と違って、いかにも素直で可愛い後輩といった口調。不思議と悪い気はしない。けれど
「そう言って貰えるのは嬉しいけど、私にも及ばない事はある。一緒に頑張りましょう」
そう苦笑いで返すと典人ははい!と元気よく答えてくれた。本当にどこかの一瀬と違って先輩への礼儀がなっている。
一瞬グレンが横目で、じとりとこちらを見たが、気にしない。
「いま戻りました!」
小百合の声がする。彼女は紙コップと、ウーロン茶のペットボトル、それにスナック菓子をいくつか買ってきている。
そこで美十もケータイを切って、戻ってくる。小百合を見て、
「あ、御苦労様。使ってしまって、ごめんなさい。小百合さん」
「大丈夫です」
と、ここで全員が揃ったのを確認してクレハが切り出す。
「皆の殆どが私と初対面ね。私は三年一組クレハ・ヴォルガス。あなた達の実力は十分承知しているけど、事が事だから私も手を貸すことになった。よろしく」
よろしくお願いします、と一部除くメンバーが返してくれる。
と、その後、美十が尋ねてきた。
「クレハさんは柊家に連なられていたんですね」
と。
「え」
「え、その、柊の家紋の髪飾りをつけているから……」
ちょっと待って。
私が今着けているのは暮人に貰った月のヘアピン_尋問から開放された日に家に寄って取ってきたもの_だけど……。
この三日月が柊家の家紋?
いやいや、ちょっと意匠が入っているかもしれないけど三日月をモチーフにしたデザインなんてよくあるで…しょ……。
ヘアピンに手を当てて言う。
「これ?ただの貰い物よ?ありきたりなデザインだと思うけど……」
「あ、そうですか?少し青い装飾があるけれど、細かいところまで似ていたからてっきり……。すみません」
暮人がたまたま選んだのが、そんなに家紋に似ていただけ?
そんな訳がない。もしかしたら特注品の可能性もある。
暮人は一体何を考えてこれを……。
「クレハさん?」
「あ、いや、そんなに気にしないで。それよりグレン。リーダーとして仕切って」
今考えるべきは任務についてだ。
「ああ。じゃあ任務について話す。といっても話す事は少ない。情報も少ないからな。任務地は上野動物園。そこで《百夜教》が何かを隠している。俺達はその調査をする。既に『帝ノ鬼』の部隊が十七部隊、派遣されて、全滅しているということだ。つまり、中には敵がいる。まあ、柊の兵が揃いもそろって無能で、毒物が撒かれているのに気付かず何度も潜入して毒が回って全員死んだ___なんてことなら、敵がいない可能性もあるが___」
深夜が笑った。
「ま、流石にそりゃないでしょ。毒があるかどうかも、調査されている筈だよ」
「だろうな。並ぶものの、敵がいる。必死に秘密を隠したい奴がいる」
クレハが言う。
「もしくはその敵自身が」
「秘密の存在。どちらにしろ、潜入しがいがあるってことだ」
とにかく、秘密にする程のものがある。ものによっては、手に入れることが出来れば大きな力が手に入るかもしれない。
グレンは美十と、典人を見て続ける。
「そもそも、あまり会議が必要なほどの情報は、無いんだ。だが、少し試したいことがある」
「試したいこと?」
美十が聞くのに、グレンが言った。
「任務に出る前に、それぞれの実力を計る。とりあえず、おまえら俺の刀に反応してみろ。反応速度を見る」
瞬間、グレンは腰の刀を抜いた。
美十の目が大きく見開かれる。それからワンテンポ遅れて、典人が反応する。
だが、それだけ。グレンは美十の首筋に刀の切っ先を触れさせて、止める。
「あ、う……」
美十が悔しそうにグレンを睨む。
「い、いきなり攻撃してくるだなんて、あなたはどれだけ卑怯……」
「馬鹿か、お前。戦場で誰が攻撃する前に挨拶してくる?」
「……うう」
クレハは、暗殺の任務では姿すら見せず殺すしな……。と少し昔を振り返る。
「だが、おまえらの反応速度はだいたい分かった。そこを基準にして、命令を出す」
が、典人がそれに、何かを言おうとする。会議室の雰囲気が、徐々に変わろうとしているのが分かる。
クレハが言う。
「なるほど。なかなか悪くない幻術だ」
それで、典人が始めていた幻術が、止まる。
クレハの言葉に頷いてグレンが言う。
「潜入の時は役に立つだろう。それと、美十は潜入前から、身体能力加速の呪術を使え。任務中、ずっとだ。生身のままじゃ使い物にならない。すぐに殺されるぞ」
この時点で時刻は9時40分。
時計を確認したところで、会議室の扉が、開く。
入ってきたのは、葵ちゃんだった。
葵ちゃんが言う。
「学校からヘリが出ますので、時間は気にせずに。それと、『帝ノ鬼』特務兵専用の、戦闘服をお持ちしました。あらゆる呪詛に対するある程度の耐性と、呪術具が仕込まれています。活用してください」
と、彼女は胸に抱えていた七着の戦闘服を、会議室の入口に置いた。
そのまま無言で去っていこうとするが、しかし、グレンは声をかける。
「待て」
「なんでしょう」
葵が振り返る。
それにグレンが言う。
「隠密行動で、ヘリだと?おまえらは馬鹿か?車で行く。むしろ、7人分の私服を用意しろ。戦闘服には、現地で着替える」
葵がそれに目を細め、頷く。
「確かに。すぐに用意させましょう。では出発は?」
「校門前に車を用意しろ。二台だ」
葵が頷き、言った。
「運転手と、高速バスの迷彩を施したものを用意させましょう。渋滞についても操作します。任務開始時刻の、何分前に現地に着きたいですか?」
「15分前。1キロ離れた所に止めろ」
「わかりました。そのように手配します。五分後には外にいてください。他に何か……」
そこでクレハが言う。
「あと、チョークを3本、色は問わない。用意してくれる?」
「わかりました」
葵は去っていく。
グレンは聞いた。
「それでいいか?」
すると全員が無言で頷く。
それらを確認してから、
「じゃあ、俺達の戦争を始めようか」
グレンはそう言った。
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上野。
今の高校に入学する前、公共の図書館で手に入れた情報や、噂で聞いた程度のことしか知らないが、東京の、北の玄関口の役割を担っている場所だそうだ。
ならば、今頃の時間、多くの人で混雑しているはずだった。
駅の南は繁華街。
西は、博物館や美術館、動物園などを擁した巨大な公園。
だがいま、そこには誰もいない。
ひどく、静かだった。
クレハは、普段余り見ない、緑に恵まれた公園内の木々を見上げ、風に揺れる葉音を聞きながら、目を閉じる。
と、そこで声がする。
「ちょっと貴方達、こちらを覗いたりしたら、殺しますからね!」
美十の声だ。公園内の大きな木に隠れるようにして、女子が柊から支給された戦闘服に着替えているはずだ。
私もさっきまでそこで着替えていた。
一足も二足も早く彼女達より着替え終え、今は男子と待っている状態だ。
「まったく、クソ遅せぇな」
「イライラすると禿げるよ」
と、クレハは、グレンが呟くのに返し、「誰が禿げるか」と言ってくるのを無視して、自分が着ている戦闘服を再度確認する。
黒い、旧日本軍の軍服のような服だった。
生地は恐らく、呪詛を通さないようにしている、特殊な糸で織られている。裏地には各種呪術符。それも何故か私のものには氷系統のものが多めに。ベルトの裏には仕込み針が装備されている。
妖刀・蓮華は腰のベルトに。銘入りナイフは太もものベルトに、出来るだけ服の裾に隠れるように装着している。
今思えば、きちんとした戦闘服を着るのはイタリアで着ていた特殊な黒スーツ以来だ。
しかし……やはり人がここまでいないと流石に不気味だ。静かな空間の中にいるせいか、気まぐれにその場にいる男子3人に聞いてみる。
「貴方達はここに来たことはあるの?」
「僕は無いなぁ」
「え、深夜様、東京に住んでて、来たことがないんですか?」
「まあ、パンダに興味ないんでね」
「そういう問題かなぁ。ライオンもいますよ?」
「あはは。じゃあ、今日生き残れるようだったら、来てみるよ。クレハさんもどう?」
話が自分に戻ってきたので少し考えて言う。
「ここにはパンダがいるの?」
「いますよ。むしろ上野動物園の看板ですよ」
典人が言う。
「……考えておくわ」
まあそんな機会があれば行ってみるのも悪くない。
そんなこんなで話していると、女子達が木の影から出てきた。
小百合、時雨、それにグレンは戦闘服が可愛いだのかっこいいだのと(主に従者2人が)いちゃついている。こいつら、今から死ぬかもしれない任務地に行く気があるのだろうか。
生き物の気配のない周囲を見やってから、戦闘服のポケットに入った、防弾、防衝撃、防磁界、防呪詛機能がついた、懐中時計を取り出し、開く。
時刻は学校を出る前に、全員で秒針まで合わせてある。
11︰29:20。
30秒。
40秒。
「時間だ。北東で、柊の部隊の陽動が始まる。始まったと同時に、一気に行くぞ」
グレンが言い、全員が緊張する中、白手袋の手の甲部分にチョークで軽く魔法陣を描いておく。
「部隊長としての命令は、1つだ。いいか? これだけを肝に銘じろ。他は考えるだけ、無駄だ。」
50秒。
「命令を言う。____おまえら、絶対に死ぬな」
55秒。
「よし、じゃあ……」
とそこで、爆発音が響いた。
北東の空。
ヘリが撃ち落とされたような、音。
だがそちらは見ない。
グレンが小さく、けれどはっきりと言った。
「任務を、始める」
グレンが駆け出すのに続いてクレハも駆け出した。
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動物園はすぐだった。
今のところ、結界に引っかかってはいないと思うが、実際どうなのかは分からない。もしかしたら、既に敵に見つかっているのかもしれない。
けれど、クレハ達は止まらなかった。
動物園を囲う壁を駆け上がり、越える。
動物園の中もやはり、生き物の気配はなかった。
あるのは不気味な静けさと、そして、鼻を突くような、異臭。
「血か……」
クレハが呟くのを聞いて、美十が顔を少ししかめる。
目の前には、猿がいるはずの檻が、いくつもあった。だが、猿はいない。ただ、真っ赤な血だけが檻を濡らしている。ゆかも真っ赤だ。檻は外から何者かにねじ曲げられ、猿を閉じ込め事が出来なくなってしまっている。
まあ、閉じ込めるべき猿は、すでに1匹もいないのだが。
一体何が起こったというのか。
それを調べるべく、爆心地へと最短距離で向かう。
血塗れの檻の横を走り抜け、象がいる区画。熊がいる区画を抜ければ、目的地に到着するはずだった。
だがそのどの区画にも、動物はいなかった。
あるのは血だけ。
大量の、血だけ。
生き物の気配がない。
北東で行われているはずの陽動作戦も、最初の爆音の後は、戦闘の音のようなものも聞こえてこない。
熊のひろばを抜けたところで、クレハ達は目的地にたどり着いた。
場所は鶴がいる区画と、ライオンや虎がいる区画の、間。
そこが、航空写真でも分かるほど大きく、深く、抉られている。だが、こんな事ができるなんて大規模な破壊兵器ぐらいだと思うが……。
クレハはえぐられた穴の中心を見る。その時。
クレハは瞬時に、妖刀・蓮華を背後に向かって抜き払う。
ギィンッと金属がぶつかる甲高い音を立てた後、”それ”はクレハから大きく離れて着地した。
その場にいる全員がその音に反応し、既にそれを目視している。その上、グレンと深夜は既に刀を抜いている。
グワァアウ。威嚇するように吠えるそれは、
「虎?」
確かに、立派な毛並みの虎だ。どう見てもそれは虎だった。
だが、普通の虎が、今の私の一撃を受け、生きているはずがない。ましてや刀とぶつかりあって、金属音を立てることも。気配を出さずに、私の背後まで接近することも。
グルル、と唸る虎と睨み合う。虎の巨大な牙の生えた口の周りには、血がついている。
クレハが言う。
「グレン、あいつが、他の動物を喰ったのかな」
グレンは押し黙る。
私としても、もし言った事が本当ならこの虎の体積と明らかに合わない事は分かっていた。
けれど、斬りあった感触が告げる。重い、重いそれが。
あいつは、可愛らしい虎などではない。もっと、別の、何か、恐ろしい____
次回、虎ってペットにしてみたいよね。
はー動物可愛いモフモフモフモフモフモフモフモフモ