終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

19 / 27
お久しぶりです! 受験が終わり、ようやく更新する事が出来ました。
銀髪の人物とクレハとの接触からのスタートです。

それでは第17話、どうぞ!


第17話 氷の鬼

なんだこいつ……!!

 

いや、外見からしておそらく吸血鬼だが、私だって怨念と鬼呪の力を借りているっていうのに!

こいつのガラスのような剣を、押し返すことが全く出来ないでいた。

 

「……へぇ。人間の鬼を扱う技術は、そんな所まで出来ているのか。やるねぇ、君」

 

しかもその余裕のある態度が妙に腹立たしい。

剣と剣の間に火花を散らせながら問う。

 

「……私に何の用だ」

「いや、仕事のついでに見に来ただけだよ? 君の噂を聞いてねぇ」

 

そう言ってニヤニヤ笑うそいつの目を見る。

楽しそうに細めている眼の中で、新鮮な血液のように赤い瞳が私に向いている。

 

それを見て、ふと、寒気がした。

脳裏を過ぎったのは、月光を背に、豊かな暗い微笑みの中で煌めいた赤い瞳……。

 

「………くそっ!!あいつも吸血鬼か!!!」

 

爆発的な力を一点に込めて、剣を切り返し、距離をとる。

思えば、気づける要素などいくらでもあった筈なのに、どうして今まで気付かなかったのか。至近距離で本物の吸血鬼の眼を見るまで。

そして噂とは。

 

「お前……まさかマリアの……」

「ん~? マリア? 僕はキリスト教は……」

「その聖母じゃ…」

 

そう言うと、また吸血鬼はニヤニヤと笑って言った。

 

「ふーん、なるほど。そうか。君は知らないんだねぇ」

「何だ? 一体何のことだ?」

「僕は教えてもいいんだけどねぇ。上司がうるさくって」

 

上司? 吸血鬼にも階級があるのか……。

そう思って聞いていると、吸血鬼がくるりとこちらに背を向けてしまった。

 

駄目だ。あいつを行かせては。やはり先程の会話からこいつはマリアを、しかも私の知らない何かを知っている。ここでこの吸血鬼を逃がせば、また私はあいつ(・・・)に追いつけない。

 

「じゃ、さよな……」

 

零命鬼。

 

『分かってるよ。あいつを殺そう』

 

刀身から黒い霧が溢れ出す。瞬時にそれは、ここ一帯を飲み込んだ。

刹那。刃は霧の中、ただの空気中より早く、氷の上を滑るように加速し、吸血鬼の首に届いた。

 

筈なのに。

 

「……っ」

 

また、届かない。零命鬼と吸血鬼の間に挟まるように、ガラスのような剣が私の刃を受け止めていた。

いや、まだだ。

 

「零命鬼!!!」

『……仕方ないなぁ』

 

零命鬼の気怠げな声とは裏腹に、刀身を中心として、急激に気温が下がっていく。

それから冷たいと思う間もなく、猛烈な勢いで刀身に触れるもの。すなわち吸血鬼の剣と首が、音を立てて氷結し始めていた。

 

ピキ……パキパキパキパキ

 

「おっと、これは」

 

凍った所に亀裂が入ったのか、吸血鬼の首から鮮血が流れ落ち、剣に流れてい…………いや、違う!!!!

急な悪寒に急かされて刀を滑らしてそのまま首を剣ごと切り落とそうとする。が、それは無力にも切り返されてしまった。それも、先程までとは段違いの強さで。

 

後方に吹き飛ばされ、何とか受け身をとりながら吸血鬼を見る。やはりだ、その赤い姿。

あのガラスのような剣は奴の血を吸っている!

 

「んー? あれ、生きてるの? すごいなぁ。ほんとに君人間? 噂ではここまでとは聞いてないんだけど」

「じゃあすごいついでに、マリアのこと、少し教えてくれない?」

 

不敵に笑って、言う。こんなバ火力笑うしかない。緊急防御の魔法陣を付与した両手袋が、防御に回した魔力に耐えきれずにボロボロになっているのを見て、そう思う。

 

「うーん、第二位始祖に逆らうのはあまり好ましくないんだけどねぇ。しかも彼女、結構変わってるし」

 

顎に手を当てて吸血鬼は芝居がかったように悩む様子を見せた。

 

「あ、今更だけど僕はフェリド・バートリー。第七位始祖だ。まあ、たかが人間に名乗ったところで仕方ないけどねぇ」

 

第七位始祖? さっきも第二位始祖とか言っていたけど、それが階級なのか? 聞いた感じでは数が小さいほど上の位らしいが。強さがもし比例するならとんでもない話だ。

 

「じゃ、急いでるから」

 

そう考えているとまた吸血鬼は背を向けて、去ろうとしていた。

さっき見せつけられた実力差。今度こそ逃がしてしまう。

ならば。

 

「もっと力をよこせ零命鬼」

『いいよ。いくらでも力をやろう。いくらでも殺そう』

 

瞬間。何か、黒いものが私の身体に侵食してくる気配がした。以前からあった、鎖の呪いをも飲み込む勢いで。

コロセ。

コロセ。

コロセ。

 

いや、あくまでも足止めだ。まだこいつには聞かなくてはいけないことが沢山ある。

いや……吸血鬼なら殺しても大丈夫なんじゃないか。

 

『そうだ。殺せる。殺すなら今だ』

 

ああ、殺そう。

コロソウ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Side 一瀬グレン

 

「嘘、嘘、接合しない……お願い。お願いだから、神経だけでも……」

 

真昼は、泣きそうな顔で切れたグレンの腕を接合部分に押し付けていた。それから彼女は怒鳴った。

 

「なんで、こんなことするの!」

 

なんで、『自分の腕を切り落とした』か。

 

一つ目に、白いバケモノ。

 

あの虎は生きてなどいなかった。普通に考えれば虎が動物園の生き物を皆殺しにしたというのは考えにくい。

虎の皮の中から出てきたのは、白く、プラスチックのような人工的な表皮に、わしゃわしゃと何本にも伸びた刃物のような足を持った、何か。

きっとそいつが百夜教の実験動物だったに違いない。

 

その圧倒的な強さに、撤退を余儀なくされそうになった。

が、それでは何も変わらない。 このまま百夜教の実験データを逃して、一瀬はどうなる?

俺にはそいつを殺すしかなかった。

 

二つ目に、真昼。

 

長い、珍しい灰色の髪。大きな瞳。整った顔立ちに、自信たっぷりの笑み。

この窮地に、《鬼呪》の刀を持って現れた。

さっきのヨハネの四騎士……とかいうバケモノをこれで倒さねば仲間を失う、と。

 

俺は、その刀を手に取り、キメラを倒し、鬼呪に飲まれた。

仲間を殺そうとした。だから、

刀を持つ腕を、白死で切り落とした。

 

改めて振り返ると、実に滑稽だな。

 

グレンはその、すぐ近くにいる彼女の顔を見つめ、言った。

「なぁ真昼」

「……」

「《鬼呪》の研究は、もうやめろ。こりゃダメだ」

「……」

「これじゃ俺達は、力の上で馬鹿みたいに踊ってるだけだ」

「……違う」

「違わねぇよ。ほかの方法を考えよう。他にもなにか、道が……」

「ないわよ!」

 

真昼が怒鳴る。泣きながら叫ぶ。

自分が進む道を否定されて、でも、それを自分でも薄々わかっているようで。

彼女を見つめ、グレンは言う。

 

「ある。俺が見つける」

「嘘。あなたには何もできなかった」

「これからは違う」

「嘘! 嘘! 嘘ばっかり、気休めばっかり言わな……」

 

が、左手でグレンは彼女の震える肩に手を伸ばす。つかむ。

そして、言った。

「今度は俺が守ってやる。だから俺と一緒に来い。真昼」

 

真昼がそれに、顔をあげる。彼女は泣いている。恐怖と希望に、瞳が揺れている。

 

突如、その瞳は一点を見つめ、その目は見開かれた。

 

「どうした真昼……っ」

 

そこで異変に気づいた。

 

「寒い……」

 

真昼の言う通り、周囲の気温が急激に下がっていた。

今は六月、明らかに異常だ。

すぐに冷気の出どころを探ろうと辺りを見回すと、ある方向から白く煌めく空気が流れてきていた。

 

そうしている間にもどんどん気温は下がっていく。もうじき生命活動に支障が出るレベルまでいくかもしれない。そうなれば、先程のキメラの攻撃で倒れている仲間は……。

 

冷気の発生源らしき方向へ行こうとする。しかし、真昼が後ろから、右腕を掴んでそれをとめた。

先程まで切り落とされていたはずの、右腕に、感覚がある。

 

「行っちゃダメ、グレン。危ないよ。一緒に来て」

「いや、俺と来い。行くな、真昼」

 

そう言って、ちらりと倒れている仲間を見る。

 

「私を守ってくれるなら……あなたが本当に私を守る気があるなら……私と来てよ、グレン。従者を、仲間を置いて、私と……」

 

遮って、グレンは言った。

 

「もう黙れ。お前が俺と一緒に来い。こいつらも、二人でなら連れてここから離れられる」

 

それでも真昼が、手を緩めることは無かった。

 

「仲間を助けたければ、この手を振りほどいてあっちに行くか、私を引っ張って連れていくしかない。けれど、あなたにそれができる?」

 

腕が、微動だにしない。空間に縫い付けられたかのように、真昼が掴んで離さない。俺は、それを、振り解けない。引っ張ることも出来ない。力の差でも、他の理由でも。

それに、眉間に皺を寄せると、今度は真昼が急に掴んでいた手をぱっと話して笑った。

 

「ほら、いまのあなたには、無理でしょう? 悲しいほどに、私のほうが強い。なにせ私は兎だから。破滅へまっしぐらの、兎。だから亀の王子様を待っているわ。破滅する前に、私を救ってみせてよ、グレン」

 

言いながら、真昼はグレンから、離れる。嬉しそうに、愛おしそうに、こちらを見下ろして、

 

「今日はここまで。あなたにキスをしたいけど、やらなきゃいけないことがあるから」

 

そのまま、走り出す。

グレンが、先程真っ二つにした、キメラの半身を拾う。

だがそれと同時に、キメラの半身を拾う。

だがそれと同時に、キメラのもう片方を拾っている、別の人間がいることに気づく。

 

「…………」

 

いや、そいつは人間じゃ、なかった。

異常に白い肌。整った目鼻立ち。長い銀髪に、赤い瞳。

 

「吸血鬼!?」

 

グレンは声をあげた。

と同時に、まるで、その吸血鬼らしき生き物に向かうように、冷気の塊が接近していた。

すぐに姿を現さないところを見るに、そんなに近くはないのだろう。

それなのにこの、肌に刺さるような寒さ。

目の前に1匹。接近しているのが1匹。

この動物園にはさっきのキメラ以外にも2匹バケモノがいるようだ。

 

真昼は、吸血鬼の姿を見た瞬間、すらりと日本刀を腰から抜いて、吸血鬼に斬りかかった。

が、

「おっと、君も鬼の力? 人間は禁忌に手を出すのが好きだねぇ」

 

そう言いながら軽々と、先程拾っていたキメラの欠片を上に放り投げると、ガラスのような剣で真昼の鬼呪刀を防いだ。

そしてすぐに切り返して真昼を吹き飛ばし、落下してきたキメラをキャッチする。そして、それを見やりながら、言う。

 

「こんなことをしていたらすぐに破滅してしまうよ」

「貴様、貴族か」

「あれ、君、吸血鬼に詳しいの?」

 

真昼が言う、貴族。確かにらしい格好だ。

 

「まあ今日は、仕事も済んだし、とりあえず帰ろうかな。ちょっと疲れたしね」

 

そう言うと、背を向けて、あっという間に姿を消してしまった。

が、その寸前、その吸血鬼が片手でキメラの欠片と一緒に「腕」を持っているのが見えた。その腕は、吸血鬼の来ている服の袖と同じものがついている。

数秒前を思い返してみれば、確かにあの吸血鬼の片腕は無かったような気がする。

誰か、いや何かに切られたのだろうか。

しかし、真昼を押し返すほどの力を持った吸血鬼の腕を切り落とすなんて……。

 

冷気の方を見る。早くしなければこいつらが危ない。

倒れている小百合、時雨、深夜、美十、五士をちらりと見やり、冷気に向かって足を踏み出す。

 

その瞬間。

 

「……っ!!!!!」

 

目の前に突如現れた何かに反応して後ろへ飛ぶ。

白く煌めく塵のようなものに包まれて現れたそれは

 

「壁……?」

 

先程まで冷気が流れてきていた方角へ行くのを阻むように立ちはだかる。

太陽光を受けて煌めく透明なそれに、ゆっくりと近づいて手に触れる。

固い、そして冷たい。

 

「氷か……?」

 

そのこととに気づくと共に、背中にぞわりとしたものを感じた。

暖かい。

いや、本当に暖かいわけではないが、先程までの刺すような冷たさは薄れている。この分なら倒れている仲間も心配なさそうだ。

この氷の壁が冷気を止めたのだろうか。

何故?

誰が?

 

「一体何なんだよ…」

 

ついぼやいて、壁の向こう側を見つめた。

暗い、木々の奥を。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

吸血鬼には逃げラれたカ。まあ、すぐニ追い付く。あのような鈍足で逃げ切れるものカ。

 

クレハが吸血鬼が逃げた方角に向かって足を踏み出す。突如

 

«バリィィ!!!!!!!!!»

 

なんだ? 足が動かない。だが

 

「三宮葵様!! 束縛術式、かかりました!」

「まだだ! 鎖で体を拘束しろ!」

 

四方から鎖が飛んできて、私の体をぐるぐる巻きにする。そして、ギリギリと音を立てて締め上げる。

 

「クっ……」

「暮人様から聞いてはいたものの、様子がおかしいというのは本当のようですね」

 

暮人……?

 

「愚かな…こんな鎖で私を縛れるとでも!」

 

零命鬼が楽しそうに鎖を引きちぎる。

暮人……一体、私の何がおかしかったというノ?

 

クレハの束縛が解けたことに、葵の部下らしき者共が動揺している。

そうだ。今ならネズミを斬るより容易いぞ。こいつらを皆殺しにしてしまえ。こいつらはお前を、クレハを殺すつもりだぞ。

 

「ち……がう」

 

なんら違わないさ。いつかは殺す。人でなくなったお前を。

 

「あ…おい……ちゃん」

「……もう一度拘束しろ!」

 

再び鎖がクレハを襲う。先程より厳重に体を何重にも締め上げる。

体に力を入れて、もう一度引きちぎろうとする。だが、鎖は切れない。

 

「う……」

 

何を迷っている。まさか、こいつらを斬ることを? 何を今更。ただの殺人鬼が誰かを信じたりするから。

『だからお前はあの時も崖から落とされたんだ』

 

「違う!」

 

叫ぶ。周りを囲む兵が驚くのが分かる。と、同時に

力ずくではなく、腕の関節を外して縄抜けをする。鎖がガシャンと落ちるのを聞きながら、関節を戻し、ぶらぶらと体を動かしてほぐす。

 

「こいつ……」

帝ノ鬼の兵が呪符を構える。

しかし、葵がそれを手で制した。

「しかし、三宮葵様……」

「下がってください。そして、暮人様に状況報告を」

 

葵がそう伝えると、兵は全員引き上げていき、葵とクレハだけがその場に残る。

 

「クレハ先輩、詳しい事情は後で聞きます。今は隊と合流してください」

 

聞くって……また拷問か? それとも解剖でもするのか。全く、本当に嫌なところを見られた。いや、まあ救われたといえばそうだが。

 

「これは、暮人の指示?」

「はい」

「……分かった。ありがとね」

「いえ」

 

短く答えるとすぐに背を向けた葵ちゃんを見やって、自分も背を向ける。

 

「零命鬼。後でゆっくり話をしよう」

 

『話ねぇ……』

 

(既に変質している人間の中ではおちおち油断してもいられないよ。全く。

鬼をも喰らわんとする呪い。おまけにクレハの情動で力を増すときた。本当にたちが悪い。

君にまた会える日まで、喰われないでいられるかわからないよ。)

 

最近は怨念の呪いも安定していた。鬼呪を手に入れることだって無論誰にも話していない。

なのに、何故暮人は葵ちゃんを私のもとへ派遣したの?

零命鬼だけじゃなく暮人とも話さなきゃ。

 

ああ、体が重い。

 

『太ったんじゃないの~』

 

「黙れ零命鬼」

 

 

 

 

 




終わセラの新刊もまた出ましたがなんだか凄い展開になってきましたね。頑張っていつか追いつこうと思います。
新年明けてしばらく経ちましたが今年もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。