終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

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お久しぶりです。または初めまして! 近頃私は、終わセラ最新刊の表紙に悶えたり、モンスターのハンターやストライカーとして日々過ごしています。
それはさておき、今回は可愛い我らがあの娘の登場です。
それでは早速第18話、どうぞ!


第18話 消えた過去からの電話

「ねぇ、零命鬼。起きてる?」

《……なーに?》

 

ベッドに寝転がりながら刀に話しかける。途端、目の前の景色が一変し、真っ白な空間に小柄な少女が立っていた。

初めて零命鬼を手にした時と同じ、鬼。

 

「私の話を聞いてくれる?」

《いいよ。君の欲望に関わることみたいだからね》

「…………」

 

一息ついて続ける。

 

「私はもう、殺されかけて、手を振り払われて、憎悪は消えないけれど、怖くはないよ」

《…………》

「手を掴みあげてくれた人がいたの。だからもう、大丈夫」

 

月を型どったヘアピンに触れて、言う。

 

《なるほどねぇ……彼がそうか》

 

零命鬼は私の記憶を見でもしたのだろうか、呟く。

 

《たとえ彼が君を殺したくないとしてもだよ。彼にだって立場がある。多くの部下がいる。もしそれらに強いられたら彼は……》

「分かってる。でも……」

 

彼では私を殺せない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あの時、葵の部隊との接触後。

隊のもとへ戻り、見たのは

 

「グレン様! グレン様!!」

 

主の名前を呼ぶ小百合、グレンの体の状態を診る時雨。

泣きそうな顔の美十の視線の先には、倒れ伏した一瀬グレンがいた。

まさか、取り逃がした吸血鬼が……とも思ったが、服は赤く濡れているものの目立った外傷がない。それで分かった。

真昼がグレンに鬼呪の刀を持たせたのだ。私に渡さなかったもう一振りを。

 

五士と並んで立っている深夜に何があったかを一応聞き、吸血鬼と真昼が去ったことを確認して5人に言う。

 

「一瀬グレンが気絶しているから、一応私が隊長を引き継ぐわ」

 

困惑の混ざった、分かりました、はーい等の返事を聞いて、グレンを指して続ける。

 

「任務は達成された。あとは深夜、彼をお願い。帰りましょ……」

 

言い終わる直前、出口方向から車の近づく音が聞こえた。おそらく帝ノ鬼からの迎えだろう。

指示通り出口に向かうみんなはまだ車に気付いていないようだ。歩くメンバーの様子を伺い、グレンを「よいしょっ」と言って背負う深夜に近付いて耳元で言う。

 

「吸血鬼を取り逃がしてごめんなさい。何も無かったようで良かったけど……」

「いやいや、あの吸血鬼の片腕、クレハさんがやったんじゃないんですか? あれとやりあえるだけでも尊敬しますよー」

「…まあね」

 

彼は察しが良くて頭がきれる。だが、普通の人間があれの相手など出来ないと分かっていて、何も聞いてこない。なので話は流させてもらう。

そうしているうちに、迎えと鉢合わせ、専用のマイクロバス的な車に全員で乗り込んだ。

 

 

 

というのが一週間前の出来事だった。

刀を鞘にしまい、鬼との対話を終えて立ち上がる。

上野での任務の後、とりあえず休めと言われ、今日が任務の達成報告の為の召集の日だった。

もう既に深夜からも報告はいってる筈だが、別行動をとっていた為だろう。あと……

 

「失礼します」

「来たか」

 

学校の生徒会長室に入ると、いつも通り暮人が厳かな椅子に座っていた。

 

「何故葵ちゃんを派遣したの?」

「来て早々それか。まあ焦るな」

「焦りもするよ。知らず知らずのうちに挙動不審になってたかもしれないなんて」

「別に行動に現れていた訳ではない」

 

鬼呪のことは知らない筈だ。じゃあ、何故あの時、私の力が暴走すると知っていたのか。

 

「お前の胸には妙な刻印がある筈だ」

 

あ、やっぱ見られてたのか……。いや、ワンチャン拷問官から話を聞いただけって可能性も……

 

「それが先日お前の部屋に任務内容を伝えに行った時に、赤く点灯していた」

 

見られてるー。しかも通常時の刻印と合わせて最低二回見られてるー。

 

ま、まあそれはともかく謎は解けた。この位は普通に話しても問題ないだろう。そのまま話せば、じゃあ何故暴走したかの説明をしなければいけないので少しだけ、また、嘘をつく。例えば、揺らぎが起きるから、とか。

 

「赤くなっていたのは翼のうちの一つ?」

「ああ」

 

……そっか。

 

「ならきっと、たまたまその時、ヴォルガスの幹部の入れ替えがあったのね。私達幹部のこの刻印はリンクしているから」

「入れ替え?」

「発狂した前任者を処分して、そいつの刻印を選ばれた幹部候補に移すこと」

 

胸に手を当てて続ける。

 

「幹部が1人死ぬと一翼が赤く光る。次の幹部に刻印が移るまでのほんの少しだけね。暮人が見たのはそれだと思う」

「なるほどな。で、幹部が替わると何故お前に影響が及ぶんだ?」

「多分、新しい人間と繋がって揺らぎが起こるんだと、思ってる」

「…………」

 

あれ、暮人がちょっと不機嫌になって……る? 目が笑っていない気がする。普段笑ってるわけじゃないが…なんとなくそう感じるのだ。

もしかして、嘘がバレてる?

 

「暮人?」

「なんだ」

「何か考え事してる?」

「何故そう思うかはあえて聞かないが、まあ少しな」

「どんな事?」

「大したことじゃないよ。そのお前と繋がってる奴らに比べたら俺などまだ遠いなと思っただけだ」

 

これもまた第六感によるものだが、そう言う暮人が少し、寂しそうに見えた。

 

「そんなことない」

 

暮人の手を掴み、自分の刻印の上に当てる。

 

「ここがこんなに揺らいだことはない。あなたに出会った日までは」

 

遠いだって? 立場はそうかもしれない。でも。

 

「力が暴走することだってなかった。暮人に会って、私の中の屍人が嫉妬したの、私に」

「クレハ」

「大勢の人生を奪っておいて、この時間に幸せを感じている……私に」

「クレハ」

 

ハッとする。いつの間にか、橙の瞳がこちらを見つめていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side 柊暮人

 

名前を二回呼んだところでクレハは俺の目に意識をむけた。

クレハの精神力は相当ある筈だが、また何かに意識を呑まれでもしたら、何度も何度も抑えられるとは限らない。

だから、淡い希望を持たせる訳にはいかない。優しい言葉をかけられない。

最近の百夜教との衝突に、正体不明の化け物や吸血鬼の出現。

それに加え、以前の柊真昼が連れ去られたという報告も気になってはいた。あの真昼がむざむざ連れ去られる?

分からないことが多過ぎる。

もうじき、今のような時間だってとれなくなるかもしれない。

それに…………彼女はいつか去ってしまう。

そんな確信があった。

 

「ごめんなさい」

 

クレハはそう言って距離をとると、淡々と上野で起きたことを話し始めた。

手にはまだ彼女の冷たさが残っている。

内容は先日「えー僕だって疲れてるのにー」とのたまっていた深夜の報告とほとんど変わらない。

 

「吸血鬼と刃を交えたと言ったな」

 

報告が終わり、クレハに尋ねる。

 

「ええ」

 

都市伝説だとも思われていたが、吸血鬼の力は化け物そのもので、人間にかなうものではない筈だ。

 

「でも腕1本落とすのがやっとで、仕留めることは出来なかった」

 

彼女は悔しそうに拳を握りしめて言う。

だが、彼女と斬りあえるほど吸血鬼というものは恐ろしいというよりは、そんな化け物をも圧倒するクレハが人として逸脱していると言えるだろう。

なのに、まだ力を求めるのか。

 

「いや、十分だ。調査は引き続きこちらで行う」

「…………」

「あまり無茶はするな」

「…ありがとう。でも無茶なんてしてないから大丈夫だよ」

 

そう言って彼女は笑った。

 

さて、マリアという名の女についても調査を進めよう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

上野での出来事からしばらく経ち、もう8月も半ば過ぎ……。

以前、マリアはもうすぐ世界が滅びると言っていたが、争いは多少あってもその兆候はない。

やはり水面下で何かが動いているのか……?

 

変わったことと言えば、生徒達の一瀬に対する態度だろうか。暮人に選ばれた優秀で忠実な部下としてゴミから一転した扱いとなっていた。

 

あと一つ変化があったとすれば

 

「死んだみたいね」

「拷問官が加減できなかったみたいだな」

「柊真昼が裏切り者だった」

「ああ」

 

ここは体育館の地下。

 

もたれかかっている防音扉の向こう側で、百夜教からの使者がついさっき吐いた情報だ。

暮人は別の部屋から中の様子を見ていたのだろう。

これで、柊真昼の裏切りを暮人が知ることとなった。

 

暮人と2人で、百夜教の使者に使われていたものの隣の拷問室に入る。

拷問室の扉を開けると、血の匂いがした。 狭い部屋の中央に、椅子が一つ置かれている。

 両手両足を縛られて、椅子に拘束されているのは、まだ、幼い少女だった。 七、八歳の少女。柊真昼にそっくりな美貌と、冷たい瞳を持った少女──柊シノア。

 

「おや~、今度は彼女さんを連れてきたんですか~?」

 

そう言ってヘラヘラ笑う彼女の両手、両足の指先から、血が流れている。爪がはがされているのだ。 顔にもアザがある。殴られたのだろう。

 

いや……

 

「このメイクは誰に見せるため?」

「もうじき分かるよ」

 

まあ大方一瀬グレンだろうが。

 

「もう~こうやって座ってるのも疲れるんですよ~?」

 

シノアが赤く染まった足をパタパタさせて言う。

 

「そろそろ来るな。大人しく座ってろ」

 

暮人がそう言うと、「はーい」と気の抜けた返事をして大人しくなった。

 

「クレハはそこでいつでも刀を抜けるように待機してくれ」

「…分かった」

 

この拷問室の奥、暗がりに腕組みして立つ暮人から少し離れた場所に立って腰に吊るした妖刀・蓮華に手をかける。

その直後、拷問室の扉が開き人が入ってくる。

一瀬グレンだ。

 

「ま~た、新しい拷問官ですか? 私なんにも悪いことしてないので、そろそろ勘弁して欲しいんですが~」

 

なんて軽い口調でシノアが言う。拷問された体で話すよう指示されているらしい。

そして、そんなシノアを見るグレンの顔には、嫌悪の表情。

 

「……それはどういう表情かな、一瀬グレン」

 

暮人が話すことで、拷問室の奥にグレンの目がいく。

なので一応見つからないように更に気配を隠して闇に潜む。

暮人は値踏みするようにグレンを見ている。だがそれはグレンも同じだ。

 

「ガキをいたぶるのは、嫌いなんだよ」

「俺だってそうだ」

「ならなんだこれは」

「柊の人間なら、この程度はどうってことないだろ? 現に彼女は笑ってる」 

 

暮人が言う。

グレンはチラリとシノアを見る。おそらくシノアは半目でヘラヘラ笑っているのだろう。

 

「……おまえのやり方は嫌いだ」 

 

グレンが言うと、暮人は笑った。

 

「おまえに好かれる必要はない」

「だろうな」

「で、だ。シノアは拷問しても口を割らないだろう。そういうふうに、柊は訓練する」

「…………」

「だから拷問は意味がない。彼女になにをしたところで無駄だ。死ぬまで口を割らない」

 

実際は、今のシノアは拷問を受けていない。が、柊の人間、シノア、真昼、深夜、暮人は拷問に耐える訓練を幼い頃から受けてきているのだろう。

そういう点では、柊もヴォルガスも変わらない。

 

暮人はグレンを見つめて、続けた。

 

「だが口を割らなくても、一度失ったらもう、取り戻せないものもあるだろう? 違うか? グレン」

「…………」

「彼女はまだ、八歳だ。恋もしていない少女だ。だが、ここで大切なものを失う……それをどう思う?」「…………」

「子供が拷問されるのが嫌いなら、守りたいんじゃないか?」 

 

それに、グレンはうめくように、

 

「……クズが」

 

 と言うと、暮人はまた笑った。

 

「おまえの評価を、俺は気にしない。それともまさか、この世界の理不尽さや汚さについて、俺に講釈を垂れるつもりか?」

「…………」

「じゃあ、続けるぞ。《百夜教》が接触してきた。裏切り者は真昼だそうだ。事実か?」

 

暮人が本題に切り込む。グレンは黙っている。

すると暮人が目を細めて、言う。

 

「その無言は、肯定か?」

 

束の間沈黙が流れる。グレンは悩んでいるのだ。どう答えればこの場を凌げるのか。

グレンは言った。

 

「……わからない」

「どの部分が?」

「真昼が、裏切り者なのかどうかは、知らない」

「おまえは裏切り者か?」

「いいや。裏切るだけの力が、一瀬にはない。それに、裏切ったところでおまえらは痛くもかゆくもない」

「そうだ。おまえが裏切ったところで、殺せばいい話だ。よし。その言葉は信じよう。だが真昼の裏切りについて、おまえは知っていた」

「いいや」

「彼女はおまえが好きだったろう? おまえには話したんじゃないのか?」

「聞いてない」

「だがシノアは真昼がおまえに相談した、と言っていたぞ?」

「嘘をつくな」

「まあ、そう簡単にはひっかからないか」

 

暮人が薄く笑って言う。

こちらまで凍りつきそうな緊張感だ。グレンは真昼が裏切り者だということをとうに知っている。

暮人の質問、かまのかけ方は的確で無駄がない……がグレンは焦りも見せず上手くかわしている。

 

まあ実は私も何が正解なのか知らない。誰が世界を滅ぼそうとしているのか。

自分が拷問された時はそれは百夜教だと答えたし、それが濃厚だと思っていた。

 

けれど今度は真昼が百夜教を裏切ったと、百夜教は言う。真昼は柊と百夜教どちらも敵に回しているのだろうか。

 

マリアは……どの立場にいるのか。斉藤と知り合いということを考えれば百夜教かもしれないが、マリアが手伝っている気配がない。

 

グレンが再び口を開く。

 

「第一、«百夜教»の言葉をそのままおまえは信じるのか?」

「ん?」

「戦争中の相手が流してきた情報を、柊ではあっさり信じるのか? と、聞いている」

 

すると暮人は答えた。

 

「いいや。俺は見たものだけを信じる。だからお前を殺していない。シノアを殺していない。«百夜教»がどういうつもりでこの情報を持ってきたのかの真意も調べる必要があるし、奴らの情報戦に右往左往するつもりは無い。まあ、と言っても、«百夜教»から来た伝言役の人間は、拷問室がはしゃぎ過ぎて死んだがな」

 

と、暮人が目を少し横に向ける。

隣の部屋から赤い液体が滲み出している。

 

(昔、同じような光景を見たことがある)

 

零命鬼?

いや、零命鬼は今は眠っている。だとしたら今のフラッシュバックのようなものは自分自身のものか。

 

「……その拷問をガキに見せて、喜んでたのか?」

 

グレンが言うと、暮人は笑う。

 

「一瀬はお優しいなぁ。だからおまえらは、俺たちに勝てない」

「……初めから勝つ気は無い」

「はは、そういうところが、好きだよグレン。おまえの、身の程をわきまえているところがね」

 

と言って、暮人は一歩前にでる。シノアの後ろに立つ。彼女の頭を撫で、それから、椅子の裏側に回されている拘束具を外す。

シノアが暮人を見て、

 

「……立っても?」

 

と聞くと、暮人は首を振る。

 

「座ってろ」

「…………」

 

暮人が言う。

 

「この傷はメイクだ。シノアに拷問はしていない。腹違いとはいえ、かわいい妹に、無意味な拷問など俺はしないよ、グレン。どうせ彼女は、口を割らないしな」

 

するとそこでシノアが立ち上がる。ヘラヘラ笑って私の方へ近づいてくる。

 

「…クレハ・ヴォルガス?」

 

グレンが少し驚いたように言う。

流石にシノアに近づかれては気配を隠しても意味がない。

仕方なく、「くだらない演技をさせられてくたくたですよ~。ね~クレハさん~」と言って抱きついてくるシノアを部屋の中央に押し戻しながら明るみに出る。

 

暮人へ視線を戻してグレンが言った。

 

「つまりこれは初めから俺へのテストか?」

 

暮人は首を振る。

 

「いやただの情報収集だ。強大な敵を相手にしていると、何が真実かわからなくなるからな」

「で、結果は?」

「おまえを信用しよう。やはりおまえは、俺の大切な部下だ」

 

続けて暮人が言う。

 

「わからないか?」

 

何がわからないかと言っているのだろうか。

グレンは何か察したのか、なめらかな動きで腰に吊るした剣に手を伸ばしている。

暮人の雰囲気は変わらない。

ただ、淡々と、

 

「……おまえとシノアが、接触をもったことはもう、調べがついている。だからまず、シノアを殺そう」

「なっ……」

 

瞬間、シノアが反応してしまう。暮人の手が、私の目の前の少女の首へ伸びる。

 

私はこの少女に何の感情もない、筈なのに瞬間シノアの手を掴み引こうとした。

引こうとしたが、同時に暮人の動きを注視する。これは………………人を殺す動きじゃない。

 

私はシノアの手を離し、刀を抜く。

 

暮人の手がシノアの首を掴む。と同時に、グレンが腰の刀を抜き放ち、暮人へと振り下ろす。

暮人はそれに、あっさり反応する。腰から刀を半分だけ抜く。しかし、それがグレンの刀を受けることはなかった。

 

「クレハ?」

 

ギリギリと私の妖刀・蓮華とグレンの刀がぶつかり合う。なかなか力強いがこれでは…………。

 

暮人が私の名前を何故か疑問形で口から漏らすが、すぐに元の淡白な雰囲気に戻る。

 

「……それ以上動くな。シノアの首の骨が折れるぞ」

「…………」

 

グレンが刀を私の蓮華に押し付けたまま動きを止める。すると暮人は笑った。

 

「はは、その、顔。だから俺は、おまえを信じるよ。シノアを切り捨てられない、人間らしいおまえを。ちなみに昨日の夜、俺は柊シノアの処刑を宣言した。《百夜教》にも伝えたし、柊の動向を探っている者ならわかる方法で、処刑を宣言した。あ、ちなみにおまえと深夜には伝わらないようにしたけどね。まあ、それはさておき、それからどうなったと思う?」

 

これは罠だ。真昼をおびき出すための。

 

「真昼に無視されたか?」

 

グレンがそう言うと、暮人はまた、笑った。

暮人はシノアの首から手を離し、ポケットの中に突っ込むと、ケータイを____

 

〈プルルルルル♪〉

 

突如部屋に着信音が鳴り響く。

 

「…私のケータイ?」

「……くっ」

 

グレンを押し返し、弾き飛ばして納刀する。

ケータイ(官舎に入る際に暮人に新しく貰った)を開いて画面を見る。そこに表示されていたのは全く知らない番号だった。

 

「ごめんなさい、外に出てくる」

 

そう言って、暮人とグレンの2人の反応を待たずに慌てて部屋の外に飛び出す。

 

ああもう。なんか暮人が見せようとしている時に一体誰が私に電話を……。

暮人と葵ちゃん以外に電話番号は伝えていないはずなのに。

 

廊下に誰もいないことを確認してもう一度ケータイを見る。

 

《怪しいね。でるの?でないの?》

「零名鬼? 寝てたんじゃ……」

《起きてちゃ悪い?それより急がないと切れちゃうよ?》

 

すねた様子の零名鬼に急かされたので……という訳では無いが、出るべきだとは思う。

彼の言う通り明らかに怪しい。だが、私には今、情報が必要だ。相手が誰かも知らないが、話すだけでも何か分かることがあるかもしれない。

危ないと判断すればそれなりの処置をすればいい。

 

「でるよ」

 

通話ボタンを押して、ケータイを耳に当てる。

 

「…………」

『…あなたがクレハさんですか?』

 

老年の、知らない男の声だ。

 

「……ええ。あなたは_」

『……そうか。そうかそうかそうかぁあ!! やっと見つけたぞぉぉおお!!!!!!!!』

 

その声に、ぞくりと背筋に悪寒がはしる。

私がクレハだと分かった瞬間、男は異常なまでに興奮した声で叫びだしたのだ。

その鼓膜を破るような大音量に、思わずケータイを耳から離し、懐からチョークを取り出す。

もうすでに遅いかもしれないが、防音膜を張る魔術を、周囲一体にかけた方がいい。そう判断して、床に魔術図形を描き魔力を込める。

 

『この裏切り者がぁぁあああ!!!! いや、違うか? 悪魔……そうだ悪魔だ……。殺さねばならん……。うむ』

 

叫んだかと思えば、急に声のトーンを落として静かに男が呟く。とてもじゃないがまともではない。それにこんな狂人と知り合った覚えはない。

裏切り者と言っているなら、私が知らないだけで、マフィアの人間だろうか?

 

ちょうど相手の言葉が途切れたので、口を開く。

 

「私はおまえを知らない。おまえは誰だ? さっきから何を言っている」

『誰だ?だと? ああ、やはり悪魔だ……。人の一人娘を殺したことなど覚えてないか? そうか……』

 

この男の話から考えると……私が昔、仕事で殺した女の父親か? けれど、それなら裏切り者とはどういうこと?

 

必死に考えを巡らせていると、またケータイから大音量が鳴り響いた。

 

『ふざけるなぁああ!!! すぐに居場所を突き止めて殺してやるからな!!!! この悪____』

 

しかし、それも急に止まる。この情緒不安定では説明のつかない緩急がやけに私に動悸をおこさせる。

それでもここまでならただの狂人と変わらない。何度だって見たことがある。

だが、次の言葉が、それだけに留めさせなかった。

 

『……ああ、声を荒らげてしまい申し訳ありません、聖母様。 …………………………わかりました。貴女を信じています____』ツーーツーー

 

電話が切られる。

最後は誰かと話していたようだった。

 

〝聖母様〟

 

聖母マリア。

 

____マリア。

 

偶然か? いや、ここまできてそんな考えはもう甘いのだろう。

 

《そうよ。私は貴女をずっと見ている。私なら、貴女を救ってあげられる。さあおいで……》

 

いつのまにか、白い空間にマリアが私に微笑んで立っている。迎え入れるかのように手を広げて。

 

「…零名鬼。今、私を敵視している人間の後ろにいると考えられる女の姿を真似て、そんな言葉を話すのは愚かしいと思わない?」

《クレハ……。確かに今の男は貴女を殺したがっている。でも、居場所も知らない、未だ殺しにいけない。何故だと思う?》

《昔、貴女を谷底へ見送った。殺そうと思えば確実に出来たということを貴女も知っているわよね? でも、そうしなかった。何故だと思う?》

「マリアが私を守っているとでも? それはおまえの推測だ、零名鬼」

 

そうだ。ただの推測だ。なのに、何故、憎しみが別のものに変わっていくのだろう。

 

突如、白い空間は、マリアの姿を模した零名鬼は、暗闇に飲まれた。

もう、目の前にあるのは、薄暗い体育館の地下だ。

 

『あ、暮人お兄様?』

 

聞き覚えのある声が響き渡る。校内放送だ。

 

「真昼?」

 

真昼は頭がいい。話すだけで操られる可能性がある。

そして、今の一言で、これから真昼が暮人に何か語りかけようとしていることが予想される。

 

真昼が仕掛けてきたのだろうか、それとも……。

 

 

 

そう考えていた、その時。足元がピキリと音を立てた。

 

 

 




今回は小さいシノアちゃんの登場でした!相変わらずですね!小さいのは成長しても変わらな__とか言っちゃダメです。

進みの遅いこの小説を読んでくださっている皆様には感謝してもしたりません。原作の方にはいつか必ず入る予定です。次回もお楽しみに!
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