終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

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皆様本当にお久しぶりです!(または初めまして!)
前話から相当月日が経ってしまい、話忘れた、という方もいらっしゃるかもしれません。それでもまたこうして読んでいただけて本当に感謝しております!
今回はまた新たな展開となっていますのでお楽しみ頂ければ幸いです。それでは第19話どうぞ!!



第19話 ヴォルガスの手紙

足元がピキリと音を立てる。

足元に視線を落とす。

 

「…………!!!」

 

床が、青白く光を反射している。

 

ピキリ、という音が自分から急速に遠ざかっているのに気づき、廊下一帯を見る。

 

足元だけではない。

自分を中心に、尋常ではない速度で床が、壁が、天井が、

 

凍りついていた。

 

魔術も呪術も発動していないのに……!

もう視認できる範囲は全て凍りつき、冷気を放っている。

 

「ピロピロリン♪」

 

メールだ。しかもこの着信音は……

ケータイを開いて確認する。

 

『from:柊暮人

件名:無題

柊真昼の居場所が特定出来た。既に特務部隊を派遣したが、相手が悪い。至急、応援に向かってくれ』

 

添付されていたファイルを開くと、ポイントが示された地図が表示された。

こんなものが送られてきているということは、暮人のいる部屋は凍りついていないのだろうか。

 

恐る恐る足を一歩前に踏み出してみる。と、その前に

 

「零命鬼、これはあなたの力?」

 

今は鬼呪刀を持っていない。が、鬼は既に自分の中に宿っている。

というわけで彼女に声をかけて尋ねる。が、

 

「零命鬼? 起きてる?」

 

いつもいらん時に口を出してくる零命鬼の返事がない。それどころか気配すらあるか微妙な気がする。

 

「零命鬼? ……いないの?」

 

やはり返事は無い。先程まで確かにいたのに。

零命鬼のことといい、凍りついたことといい、一体何が起こっているというのだろう。

 

暮人からのメールのこともあるし、真昼がなにかしたのだろうか。

とりあえず、送られてきたポイントに移動しないと……

 

思い切って足を前に踏み出す。…………これ以上凍りつくことは無さそうだ。

そういえば、と暮人達がいる部屋の扉を見る。完全に凍りついている。

 

「……まぁなんとかするでしょ……」

 

今は時間が無い。官舎に駆け戻り、念の為魔術で隠し置いた零命鬼を取り出す。

 

「零命鬼! 真昼に会いに行くよ!」

《あれ、いつの間にこっちに戻ってきたんだい? 真昼とデートなんて随分急じゃないか》

 

細かい戯れ言はともかく、今しばらくのことをこの鬼は何も把握していないらしい。

 

一体何が……いや、考えるのは後だ。

 

「真昼の居場所が特定出来たらしい。暮人からそこに向かうように指示が出た」

 

早くしないと先行した部隊が殺される。

いや、お前が心配しているのはそんなことじゃない。逃げられたくないんだろ?彼女に____

 

今思い浮かんだのは……何?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side 柊真昼

 

携帯電話を左耳にあて、刀を抜く。

ああ、やっぱり暮人兄さんの狙いは逆探知。目の前にいる柊の特務部隊は12、3……もっといるかしら。

無駄だと……兄さんは本当にわかってないのかな?

 

「見つけたぞ!柊真昼!大人しくすれば____」

 

まったく。うるさいな、もう。

この刀を一閃。それで終わり。

 

ヒュっ________キィィィイイン____

 

「間に合った……」

「……クレハ・ヴォルガス?」

 

私の剣を軽々と受け止めるクレハ。暮人の指示か。

 

「クレハさん……!!」

 

彼女の背後にはいくつもの安堵した顔。確かに…これはこちらが圧倒的不利かもしれない。

 

「今、柊真昼を……クレハ……さん?」

 

今、何が? 目の前にいたはずなのに、ほとんど何も見えなかった? まさか……速さだけで?

 

はっとしたのは、全ての特務部隊員の間抜け面が床に叩きつけられる音で。

 

「ねぇ、真昼。天使って知ってる?」

「……天の御使いの天使のことかしら」

 

躊躇なく仲間を斬って(気絶させただけだが)すぐこの発言である。

 

「そう…かも。でも鎖で縛られてるみたい」

「へぇ……。そう」

 

ただの与太話ではないみたいだ。

天使ね。こいつ……どこまで知ってる? これで試してみよう。怒らせるかもしれないけど。

 

「もしかして貴女の言う天使って、これと関係してるのかな?」

 

長刃のナイフを懐から出して見せる。

ちょーっと覚えのある気配を感じたからくすねてきたけど、彼女の名前が彫り込まれているし思い入れのある品だろう。

 

さて、どういう反応を見せるか…

 

「…………っ」

 

動かない。ナイフを睨みつけるだけで、抜いている零命鬼すら動かそうとしない。いや、おかしいのはそれだけじゃない。額には冷や汗が滲み、鼓動は速くなっているのが分かる。

 

何故だか詳しいことは分からないが、明らかにクレハは苦しみだしたようだ。試しに一歩、近づいてみる。

 

「…………っ!!!!!」

 

これは一体どういうことか。クレハは言葉を発さないまま両膝を床に着いて胸を押さえた。

このナイフが関係していると見るのが正しいだろうか。もっと言ってしまえば天使、とも。

 

もう一歩踏み出________

 

ヒュッ

 

咄嗟に顔を逸らしたが……今のは投げナイフ?

 

「この子から離れろ」

 

目の前には、クレハの肩を守るように抱いてナイフを構える見知らぬ男がいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

殺意と憎しみを掻き分けて思考を、突如現れた男に割く。

 

「あなた……は……?」

「覚えてくれてないのは悲しいけどとりあえず撤退するよ」

 

そうだ。真昼の前で弱みを見せてしまったんだもうすグ殺セタノニ

 

「後ろの扉から出るよ。おいで」

 

ぐいっと後ろへ引っ張られる感覚がする。真昼が反応したがそれすら遅い。あァ、ナイフが____

 

「気をしっかり持って。もうナイフから遠ざかったよ」

 

気がつけば何処かの路地裏にいた。

心配そうに顔を覗き込んでくる、黒スーツ姿の男。あれ、この服装は……どこかで……。

 

思わず男から飛び退いてしまった。気づいてしまった。

前の開いたスーツから見える裏地に金糸で刺繍された゛ヴォルガス゛の家紋に。

 

「どうして……ここに……」

「お! 思い出してくれた!? それなのに飛び退くってひどいなぁ」

「……?あなた達が今更私になんの用?」

「……君に用があるのはヴォルガスじゃなくて俺自身だよ」

 

確かにイタリアンマフィア・ヴォルガスの人間らしい。それに私に面識があって私に個人的な用があるときた。しかし……誰だ?

 

「あ、その顔。俺個人のことは覚えてないって顔だな。そりゃまぁ……あれは随分前のことだもんな……」

「……あれって……私が家を去ったこと?」

 

癖のある栗毛にやや隠れた、翠の目が陰る。

 

「クレハが居なくなったのは寂しかったが…それで良かったのかもしれない」

「どういうこと? いや、その前に貴方は誰?」

 

覚えていないのがどうにも申し訳ない。

 

「……ルカ兄さん、って君は呼んでくれてたよ」

 

ルカ………………

 

しゃがんで、座り込んでいる私に視線の高さを合わせてくれている男を見つめる。

体の力がふっと抜ける。

 

ああ、そうか。また助けてくれたんだ、……兄さん。

 

「大人になったのね」

 

そう言うと、男は、ルカはたちまち笑顔になってウインクをして言った。

 

「君は美人に育ったね!」

 

昔と変わらないなら、この男は女性なら誰にでもそう言うだろう。

 

ルカ・ヴォルガス。

私と同じ、ヴォルガスの幹部にして暗殺者。七翼の天使を背負う者。

 

「何しに来たの」

 

ルカ自身が私に用があると言っていたが。

 

「……話したいことは山ほどある。けど、聞こえる?」

 

促されて耳を澄ませる。

 

「柊真昼を確保したぞ!」

「厳重に拘束して連れていけ!」

 

これは、暮人の部下の声? どうして彼らごときに真昼が捕まっているの?

 

「ナイフが掠めていた。今頃、あの娘には毒が回っているはずだ」

 

確かに、ルカが作った毒なら真昼にも効くだろう。しかし、困ったな……真昼が捕まるだなんて……。

これからどうなるかは分からないが、もしかしたら……暮人にバラされるかもしれない。零命鬼のことや、天使のこと。

 

「分かってる。どうやら今は忙しいみたいだね」

 

そう言ってルカは私に封筒を渡した。

 

「早急に伝えたいことはここに書いてある。俺に連絡を取る手段もね」

「ルカ兄さん……」

 

ルカは満足気に立ち上がり背を向ける。

 

「とにかく……クレハだけでも生きていてくれて、本当に良かった」

 

そう言って彼は路地裏の闇に消えてしまった。

 

封筒を懐に仕舞って自分も立ち上がる。

今は何も考えない。今、考え出したらきっと頭が溢れて自分を保てなくなる

いま、この状況を何とかしないと。

 

特務部隊の声がする方へ急ぐ。

 

「柊真昼はちゃんと捕まえられた?」

 

まあ、目の前で何重にも拘束されてぐったりしている真昼を見れば一目瞭然だが。

 

「ええ、何故か弱っている様子でしたので……これはあなたが?」

「……うまく毒が回ったみたいね……。早く連れていきましょう」

 

しゃがんで真昼の頬に手を当てる。僅か、ほんの僅かだが、刃物傷が一線頬にひかれていた。

ルカの投げナイフが掠めたのだろう。掠めただけだが……おそらくルカ特製であろう毒は凶悪だ。

 

頬から手を離し、立ち上がる瞬間。真昼の懐に手を突っ込み、引っ張り出す。

名が刻まれた黒塗りのナイフを。

 

今はこのナイフを手にしても、体に変化は無い。

 

《君、このナイフ好きだね。私の方が華麗に舞えるのにー》

「ちゃんとあなたを使ってるじゃない……」

《それもそうだ。ね、さっきの上手くいったね》

 

さっきの。

 

真昼の目の前で、柊の隊員を切り伏せた技。

実戦で使ったのは初めてだったが、真昼に剣閃を捉えられなかったところを見るに成功したようだ。

 

《空気を局所的に凍らせて屈折率?を変えるんだっけ。剣が見えなくなる理屈は》

「よく分かってないのに成功したの?」

《私はクレハの意思に応えて微調整するだけだからね。細かいことなんてどうでもいいさ》

 

そういうものだろうか。

まあいい。

 

敵の目を欺く技があれば戦略の幅も広がる。今は色々と試してみるべきだろう。

 

《それより電話がかかってきてるよ》

 

着信音には気づいていたが、そんなにすぐ出る必要はないと思っていた。が、零命鬼の言葉で、応答する。

 

「……もしもし」

『真昼の捕縛、ご苦労だった。流石だな』

「……まあね。その……暮人……」

『今は帰投して休め。廊下と扉の件は後で聞く』

 

や、やっぱり私が凍らしたのがバレてる……。しかし、私にもあの現象について説明することは出来ないというのに何を話せばいいのだろう。

 

……とりあえず言われた通り帰って休むのがいいのかもしれない。ルカから貰った封筒も読みたい。

 

私が去った後のヴォルガスで、一体何があったのだろう。

 

私の身に起きていることは、一体何なのだろう。

 

もし、全てを暮人が知っても、私を愛してくれるだろうか。

 

もし、全てを私が知っても、私は私でいられるだろうか。

 

《いいね、いい。君の欲望はやっぱりいい。だからこそ、まだ、君が*バケモノ*になってしまわないよう働いてあげる》

 

この時、私はまだ、鬼の言葉を理解しきれていなかった。

 

 

 

 




今回は生き別れの兄との再会となりました。ルカ・ヴォルガスは作中初めてのクレハのマフィア時代の知り合い(マリアは除く)となります。これをきっかけに謎だらけの部分を解き明かして行きたいと思っております!
現在、血と汗と涙を流しながら合間合間に書き進めておりますのでまた日は空いてしまうかもしれませんが、次回をお楽しみに!!
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