終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

22 / 27
お久しぶりです! 暑い日が続きますが皆様お元気でしょうか? 因みに私は熱中症でぶっ倒れました。皆様も気をつけてくださいね

今回も舞台は夏。真昼の捕縛から帰還したクレハ。
物語は次の章に向けて展開します。
それでは、第20話、どうぞ!


第20話 私の眼の色は

官舎の自室に戻り、ベッドに飛び込む。

途端、溜まっていた疲れがどっと押し寄せて大きく息を吐く。

息を吐き終わると、ごろんと仰向けになり懐から封筒を取り出した。

ぼうっとそれを眺めてみると、妙な封がされているのが目に留まった。

 

「指紋?」

 

緑色にうっすら光る指紋のような模様のうえに、何となく人差し指を当ててみる。

 

フワッ

 

「うわっ」

 

するとどうだろう。今までピッタリ閉じていた封筒の口が最初からそうだったかのように開いていた。

 

慌てて部屋のドアが施錠されているか確認し、カーテンを閉め、もう1度ベッドに転がり込む。

 

やっと、それもこんなにあっさり、疑問への答え(かもしれないもの)が手に入るなんて……。

 

勿体ぶらず、すっと封筒に指を入れ紙束を引き出す。

何枚も入れられた紙にはみっちり字が書き込まれているように見える。

一息ついて文章を読み始める。

 

『クレハ、君にこれを渡すことが出来て良かった。君がもう新しい人生を幸せに過ごせているならすまないが、いずれは君にも影響が及ばざるを得ない話がある。簡潔に言うと、今、ヴォルガス・ファミリーは1人の女に乗っ取られ、幹部は順に殺されている』

 

1人の女……幹部が殺されてる……?

 

『呪いを受けている幹部はもう俺と君を含めて4人しかいない。他の1人はヴォルガスに残り、1人はもう逃亡中で音信不通。俺は何とか君の情報を集め、日本へと逃げてきた。

父さんを誑かした“マリア”と名乗る女が俺たち幹部を殺す理由は既に分かっている』

 

マリア。私が帰る場所までも

鼓動が大きくなる。殺せ殺せ殺せコロセ殺セ殺せコロセ

あの女を、ワタシのものを奪うヤツを許すナ

 

《今はとりあえず手紙全部読んだら?》

「……零命鬼……」

 

彼女の声で頭が冷えていくのを感じる。

ああ、私はまたこの呪いに呑まれそうになっていたのか。

 

「零命鬼。ありがとう」

《…………うん》

 

続きを読む。

 

『理由はこの呪いだ。これはただの能力のブーストじゃなかった。この呪いは、ある強大な天使を縛り付けておくための鎖だった。能力の高い者を何人も使い、副作用も大きい鎖が必要な天使が、ヴォルガスにいる。

その天使はマリアの幼い子供に取り憑いていて、鎖の力が強まるほど子供が苦しんでいるらしい。幹部が殺されていうのは鎖を緩めるための数減らしというわけだ』

 

天使って…ルカまでそんな、まるで天使のような架空の存在が実在するみたいに……。

とりあえず、以前聞いた天使の鎖という話は正しいようだ。

天使とは一体なんのことなんだ?いや、それより、そんなことでファミリーを殺すなんて……

 

「そんなこと…って思う?」

 

背筋が凍りついた。

 

「零命鬼っ!!!!」

 

手の中に刀を呼ぶ。

同時に頬を風が駆けていった。

 

「まぁ……わからないのも無理はないでしょう。母になったことの無い貴女には」

 

ああ、気づかなかった。

なんて綺麗な満月。

こちらを見下ろす2つの紅い光が、良く映えている。

 

「……私を殺しに来たの?」

 

いつの間にか空いていた窓枠に腰をかける女に問う。

 

「いいえ。ただ、貴女に会いたかった。じゃ、ダメ?」

 

白々し過ぎて、気持ち悪い。

優しい言葉を謳いながら微笑む姿に身の毛がよだつ。

美しさもここまで来ると怪物だ。

 

そう思っているのが表情に出たのか。

 

「分かっているわ。貴女、こういうのは()に言って欲しいのよね」

 

彼。

 

そうか。もうそこまで手が伸びているのか。

零命鬼の力を静かに発動させる。

 

直ぐにはわからないよう。徐々に、徐々に。この部屋の気温が下がっていく____筈だった。

 

(……何故止める零命鬼。今ここで始末しておかないと……暮人が……)

《ここで刀抜いて殺せるなら、幾らでも力を貸すさ。でも今は、今は止めておいた方がいい》

(何故…)

《それは……》

 

「話は終わった? なら、そろそろ私とお話しましょう」

 

ああ、何故直ぐに気づかなかったのだろう。

 

「先に言っておくわ。これは取引などでは無い」

 

宝石のようだった赤い眼光は血のようなドス黒さを帯びて。

 

「この血を飲みなさい」

 

赤い液体が入った小瓶を掲げる女に、もう笑みは無い。

 

「決断が1日遅れる事に、貴女の大切な物を1つ奪う」

 

風が、女の修道服を揺らす。

長くふわりと揺れる袖から見える鋭い爪。クリーム色の髪の下には尖った耳。口から覗く凶悪な牙。血のように紅い眼。

 

「それは吸血鬼いや、……貴女の血?」

 

「……貴女の想像に任せるわ」

 

私がそう尋ねた瞬間、

吸血鬼の修道女は、もはや嫌悪感と怒りを露わにしていた。

 

これは勘だが____この女は焦っているのではないか。

 

“子供が苦しんでいるらしい”

そしてこの女、マリアは子供のために手練である筈の幹部を殺して回った。

 

一体、何故吸血鬼の血を私に飲ませたがるのかわからない。だが、飲めばきっと、私は私でなくなってしまうのだろう。吸血鬼の伝承通りなら私は……

 

________そうか、もう、逃げられないんだな。

 

「……少し時間が欲しい。1日はかからないから」

 

「そう。これを飲む時が来たらまた会いに来るわ」

 

心なしか、マリアの表情が和らいだようだ。

 

「またね。クレハ。貴女はやっぱり賢い子ね」

 

強い、風が吹く。

暴れるカーテンが収まる頃には、もうマリアの姿は無かった。

 

あと、1日もない。私が、人間でいられる時間。そして、暮人と……

 

「こんな……突然だなんて……」

 

この楽しい日々がいつか終わると覚悟はしていた、筈だったのに____

 

《泣いてる暇はないんじゃない? もう時間ないんでしょ?》

 

そうだ。時間が無い。

それに、また、力を得ることが出来たなら、暮人を守れる。傍にいることが出来なくても。

何も嘆くことは無いじゃないか。

 

だから、とにかく今は、

 

暮人に会いに行こう。

 

私が人間でいられるうちに。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

官舎を出て、茹だるような暑さに顔をしかめる。

もう日も落ちているというのに。

 

もう身辺整理は済ませた。といっても私物は今背負っているリュックサックの中身と、腰に差した二刀、太ももに装着したナイフだけだが……。

 

とりあえず帝の鬼の本部に向かってみる。いや、暮人がまだ学校にいるならそちらに行った方が良いだろうか。

そう考えていると、官舎に…と言うより私に向かって見覚えのある暮人の部下が走ってきた。

 

「どうした」

「クレハ様!一緒に来てください!暮人様がお呼びです!」

 

探す手間が省けたな。

 

「用件は?」

「柊真昼の逃亡、及び百夜教の襲撃についてかと」

 

な、な、なんだって…。

 

「分かった。暮人は今どこに?」

「こちらです。付いてきてください」

 

街中へ走り出す彼を追いかける。ただ無言で後を追う。追い始めてすぐに右目の端に人気のない路地裏を捉えた。

 

瞬時に隊員との距離を詰めて、制服の襟を掴み倒して路地裏に投げる。

 

「な、何をなさるんですか!?」

「白々しい。今、貴方に付き合ってる暇は無いの」

「何を…。早く暮人様の元へ…」

「暇じゃないって言ってるでしょ。本当の事を吐け」

 

起き上がろうとした男をもう一度掴み倒して、男の首元に蓮華を押し当てる。

 

「何故、暮人の場所を言わない。何故、帝の鬼の重要施設がない方向へ行く。何故…お前はクレハ“様”と呼ぶんだ」

 

私に敬意を払って、さん付けする者は大勢いる。だが、帝の鬼に連なるものではない私を様、と呼ぶ者はいない。

 

「おや? だって、暮人様の恋人なら奥様になることもあるじゃないですか〜」

 

男は急にヘラヘラ笑いだした。恐怖心で変になったか、狂人なのか、百夜教徒か。私と暮人の仲を知っている____

 

「そうね。だから今話したいのは貴方じゃなくて、暮人なの。だから…」

「あ?___アアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!」

 

男の小指がポトリと落ちる。

 

「何もつかめなくなる前に今起こっていることと、暮人の居場所を。手短にね」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

学校が百夜教に襲撃されていて、暮人はそこにいない…か。真昼に逃亡されるなんて一体何をやっている…と言いたいところだけど相手が真昼なら仕方ない。

他にもいろいろ聞けたが今はいい。

 

両手だけでは足りなかったが。

 

もう夜も深まってしまい、暮人は行方知れずなうえに今はのんびり話している時間もないだろう。

これで、本当に最後になってしまうのだろうか。

 

「恋人……か」

 

ああ、本当に私は愛を知ってしまったのか。

 

とりあえず、学校に行かなきゃ。そこにいつか、暮人は来る。

学校へ足を向けて、零命鬼の力を使って駆ける。駆けながら暮人に電話をかける。数コールもしないうちにそれは繋がった。

 

『お前から電話を寄越すなんてどうした。周りがうるさいが、休みはもういいのか』

「この状況で寝てられるほどお気楽じゃない。どうして知らせてくれなかったの」

『…疲労が溜まっているのは声で分かった。今は待機させるべきだと判断しただけだ』

 

つい、冷たく返してしまった。久しぶりという訳でもないのに、今は声を聞くだけで胸が痛い。そんなことで悪態つくなんて子供と一緒だ。

ごめんなさい、暮人。

もうすぐお別れなのに。

 

「ありがとう、お陰様でもう十分休めたわ。私も学校へ応援へ向かってる」

『助かるよ』

「うん」

『無理はするな』

「うん」

『また後で』

「うん」

 

電話が切れた。そろそろ学校に着く、という所で黒い制服の人ごみにぶつかった。

みんな帝の鬼の兵士達だ。

 

「中の状況は」

 

1人の兵士が答えてくれる。

鬼が暴れている、と。鬼の名前は

一瀬グレン。

 

まさか襲撃したという百夜教はもう彼に…。

 

隊列を分けいって、校庭に入る。そこには、暮人が立っていた。

 

黒い刀を差して。

 

校舎により近い方には深夜、五士、美十もいる。同じように黒い日本刀を持っている。

 

いや、よく見れば一部の兵士も。

こんなに鬼呪の武器が使用されてるなんて、一体…。みんな平静なようだが。

 

「呪符が破られました!」

 

見上げれば、1つの教室の窓を呪符で覆っていた跡が見られるが、大きな穴が空いてしまっている。

 

大きな穴から赤い眼光が覗く。

赤い眼が、校庭の私達を見た。

 

自分だって強大な鬼の力を使っているのに、悪寒が、止まらない。なんだ、あの化け物は。

黒い化け物が、足を、窓の外に踏み出す。

 

『お膳立てはしておいたわ。さあ、今のままじゃ力が足りないんじゃない?』

 

 

声がする。

まさか、グレンにも、あいつは、マリアは、なにかしたのか。

いや、グレンだけじゃなく…何もかも____

 

「……どうして」

 

1日もかからないって言ったのに。

手を爪が食い込むほど握りしめた。

 

もう、やめて。

 

もう、これで終わりにしよう。

 

だから、

 

『さあ、もう力は、貴女の手の中に』

 

その言葉で握りしめた手を開く。手の中には赤い液体の入った小瓶。

 

 

 

私は蓋を開いて、躊躇いなく液体を飲み干した。

 

 

 

鼓動が早くなっていくのが分かる。体が別のものに作り替えられていく感覚。

気持ち悪い。痛い。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

 

平静を装うも冷や汗が止まらない。きっと今の私の顔は真っ青に違いない。

受けてきた拷問とは全く違う、苦しみ。

 

 

やがて薄れる、苦しみ。飛びかけていた意識が鮮明さを取り戻す。

目が、即座に暮人を捉える。

 

 

暮人が部下に指示を出そうと口を開いていた。その口に、背後から手を回して覆いかぶせる。

今の私に、人に距離を一気に詰めて背後を盗るなど、造作もない。

 

「私が行く。今は兵を下がらせて」

「クレハ? いつの間にいたのか」

 

私の手を掴んで、暮人が言う。

手を掴まれて、ますます私の顔に暮人の首が近づく。

目が、首筋から、いや、動脈から目が離せない。

喉が……渇く……。

 

「今来たとこ。それよりとりあえずあれを閉じ込め直さないと。私が中に繋ぎ止める」

「あれは流石にお前でも1人では…」

「出来る。信じて」

 

はっきりと言い切る。

体中に溢れる力による自信というのもあるが、これ以上近くにいるのは危険だ。本能がそう訴えかける。

 

暮人の背後から前に出て、走り出す。加速して、封を破られた教室の窓に向かって飛ぶ。

 

赤い眼の化け物の姿をはっきりと捉える。

 

「拘束しろ、零命鬼」

 

空中で抜刀。飛んだ勢いのまま、鬼___グレンの肩に斬り掛かる。

どこで手に入れたか、想像はつくが。グレンの刀、闇を具現化したかのように禍々しい刀が、尋常じゃない速度で迎え撃ってくる。

 

「ガァァアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!」

 

グレンの中の鬼が余程強大なのか? ここまで欲望にすぐ呑まれきることがあるのか?

 

もうそれは、人とは呼べないほどに黒く染まって、咆哮していた。でも。

 

グレンは刀から肩にかけて瞬時に凍りつき、動きを止める。

 

「……本当に化け物なのは私の方だ」

 

グレンの肩を斬り落とさない程度に斜めに斬り、剣圧で教室の奥の壁に叩きつける。

壁がひび割れ、凄まじい衝撃音とともにグレンが床に放り出され、斬りつけたところから床とともに凍りつく。

 

「今!もう一度封印して!」

 

校庭に向かって叫ぶ。

帝の鬼の、それも暮人の部下は優秀だ。たちまち、呪符が空いたところに張り巡らされ、教室の中は真っ暗になる。

 

呪符の効果が効いているのか、凍っているからか…鬼の気配が弱くなる。

今のうちにとりあえずこの教室からは出ておこう。ちょうどすぐ近くに職員室があるからそちらに移動しよう。短かったが、日常を送った教室にいるのは今は精神衛生上良くない。

 

職員室に入り、扉を閉めて、適当な椅子に座って机にもたれる。

 

疲れて仕方が無い。

 

喉が渇いて仕方が無い。

 

寂しくて、仕方が無い。

 

少し目を瞑っている。と、先ほどいた教室から激しい剣戟の音とみんなの悲痛な叫びが聞こえてくる。会話も鮮明に。

ますます耳が良くなってしまったらしい。

こちらへ向かってくる足音も聞こえる。

とても聞き慣れた足音。

 

職員室のドアが開く。

 

「クレハ」

 

体を起こして入ってきた人物を見る。

 

「暮人」

 

あ、そういえば、吸血鬼の目の色は確か赤くて、牙は尖っていて…。

目が合ってしまった。名前を呼んでしまった。

今のでバレてしまったかもしれない。

 

「来てくれて助かったよ。あの少しの時間稼ぎが必要だった」

「そう」

「だが、やはり疲労が___」

「ねぇ」

 

立ち上がって、暮人の前に立つ。お互いの吐息がかかるくらい、目の前に。そして暮人の暗い目を見つめる。

それでも暮人は少しも動じず、私の目を見つめ返す。

 

「私の眼は何色?」

 

暮人は眉を少しひそめて、だがすぐにまた無表情になる。

 

「綺麗な蒼色だよ。急にどうした」

 

そうか。どういう訳かまだ私の目の色は変わっていないらしい。

 

そんなことが、少し、ほんの少しだけ嬉しくて、口元を緩める

 

もし、まだそんなことで、私は人間だって、言っていいのなら

 

「ねぇ。暮人」

 

最後に聞きたいことがある。

 

 

人間の私が、最後に貴方に聞きたいことがあるのです

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

これが8月の終わりのことだった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

本当に愚かな子

 

貴女はとっくのとうに、人間などではないのに

 

本当に愚かで、可愛い子

 

 

第七の天使がラッパを吹き鳴らす時

 

その時まで、私は貴女のそばに居る

 

 

 

 

 




この小説も20話になり、第一章の終わりが近づいて参りました。
急展開でしたがいかがだったでしょうか?
マリアから渡された血を飲んだクレハと暮人の今後も、見届けていただければ幸いです

ご感想お待ちしております!次話をお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。