終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

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本当にお久しぶりです!初めての方は初めまして!
今回は、クレハがマリアとともに東京から去る所からスタートです。クレハのその後、そしてクレハがイタリアを去った後の話。是非お楽しみください。
それでは第22話、どうぞ!


第22話 血

車が止まり、エンジン音が消えたのを感じる。

真っ暗な視界の中で、音と、空気が、ここが目的地なのだと告げていた。が、

 

「まだ外しちゃダメよ」

 

違ったようだ。ドアが開く気配がすると、涼やかな風が吹き込む。時期が時期だ。常人なら凍えるほど寒く感じていたに違いない。

開いたドアの向こうから何かが近づいてきて、私の手をとった。

 

「ここからは歩いていくわ。降りましょう」

 

片手で荷物を掌握する。

恐る恐る足をゆっくりと外に出す。その間もなめらかで冷たい手は私を支え続けてくれていた。

ふわりと何かを踏む感触。芝生だろうか。

 

手に導かれて歩く。止まる。ギギぃ…と何か重々しいものが軋むような音がする。また歩く。

足裏に硬いものを踏んでいるのを感じる。

何かの建物に入ったらしい。

 

そこで導きはまた止まり、目を覆う布がしゅるりと目を擦った。

 

「お疲れ様。開けていいわよ」

 

目蓋の向こう側にあまり光を感じない。ゆっくり目を開ける。

 

薄暗く狭い通路。振り返るとマリア、1人の吸血鬼、無機質な閉じた扉があった。

 

マリアが前に出て、また歩き始めた。その優雅な後ろ姿を追う程に、道は広がっていく。

 

コツコツコツ____

 

誰も何も言わないが、先程から通路の奥から1人分の足音が近づいて来ていた。

ドク ドク ドク。知らぬ間に音が大きくなる度自分の鼓動の音も大きくなっているようだった。

もう足音の主と出くわすであろうあたりでマリアが立ち止まり、私と吸血鬼も立ち止まる。

 

「女王様自ら出迎えてくれるなんて。ねぇ、クルル・ツェペシ」

 

「大事なお客様を歓待するのは当然でしょう?

あと…」

 

小さな女の子の声…と言うには気位が高そうな声だ。

 

「聖人面した化け物が気安く名前を呼ぶな」

 

冷たい鈴のような声。通路の奥から現れたのは、その声に見合った小さな少女だった。

ツーサイドアップにした薄桃色の長い髪を揺らして近づいてくる。

 

「これがお前が言っていた奴か」

 

私の顔を覗き込む赤いツリ目。口元から覗く尖った犬歯。それに、王者然とした態度。

きっと彼女?も見た目通りの年齢ではないのだろう。

隣にいる美しい化け物と同じで。

 

「ええ。クレハ。新しい“身体”になったばかりで大変なこともあるだろうけど、ここにいれば大丈夫よ。いい子にしていてね」

 

(え)

 

という言葉も出ないうちに、それだけ言うとマリアは背を向けてついてきていた吸血鬼と共に来た道を戻って行った。

どうやら私と共に行動するわけでなく、ここに預けに来ただけのようだ。

 

今すぐにでも後を追いたい。あいつが、マリアが全てを知っているはずなのに、それにヴォルガスのみんなが、ルカがあいつに…暮人も____

 

なのに、ただ去っていく背を見送る事しかできない。ここに連れてこられた目的も、何も知らずに。

 

「お前は本当に何も聞かされていないようだな」

 

正面に視線を戻すと、クルルと呼ばれた少女が私を見つめてため息を吐いていた。目からも何も読み取れず、ため息もなんの感情かよく分からない。私は呆れられているのだろうか。

と、そこへ突然眼前に黒い塊が飛び出てきて思わず後ずさりしそうになる。

翼の生えたネズミのような…コウモリ?

不気味なレベルで大きい瞳、というか目が1個しかないが、その1個の巨大な眼が、じっと観察するように私の周囲を飛び回る。

 

「アルカーヌ…?」

 

クルルのペットかなにかなのだろうか。アルカーヌと呼ばれたコウモリは暫く飛び回ると、クルルの小さな肩に降りた。

 

付いてこい、と言うとクルルは背を向けて自分がやってきた方向へと歩き出した。

何の会話も無く一緒に歩き続けると、開けた場所に出る。

と、ともに沢山の情報が目に飛び込んでくる。

 

無数にひしめき合う建物。そこら中に張り巡らされた巨大なパイプ。建物や電灯からは煌びやかに光が放たれ、暗い空を照らしていた。

 

あれ、ここは室内ではなかったのだろうか。

ちら、と上を見上げて、気づく。

 

いや、違う。暗いはずだ。空だと一瞬勘違いしたのは、一面に広がる岩なのだから。

 

クルルが背を向けて歩きながら口を開く。

 

「驚いたか? ここは地下都市サングィネム。私が治める吸血鬼の都だ」

 

地下にこんな巨大都市が? 私が治める?

クルルはここの女王様…と言ったところか。

雰囲気もそんな感じがするし。

 

再び沈黙の中歩き続け、やがて城のように立派な建物に入り、天井が馬鹿みたいに高く、何も無い空間に入る。

 

更に歩き続ける。何も無い、というのは間違いだったようだ。

ただ一つ、大きな椅子が厳かに佇んでいる。

 

クルルがそれに腰をかける。

 

肘掛に手を置いて、もう片方の手は頬杖をつく。

 

その様はまさに、王者そのもの。

 

「吸血鬼になったばかりだそうだな」

「ええ」

 

まぁ…別に私の王じゃないしタメ口でいいや。

 

「だが 、完全じゃない。自分の目は見たか」

 

クルルは特に機嫌を損ねた様子も無く続ける。

自分の目……そういえば自分では確認していなかったが、暮人は青色の目だと言った。

 

「お前が完全じゃないのは、お前がまだ“人間”の血を飲んでいないからだ」

「…人間の血を飲む必要がある、と?」

「マリアから血を貰っているのも知っている。だが、それが無くなれば、飲むしかないだろうな」

「何も飲まないでいると、どうなる?」

 

今まで淡々と話していたクルルが、ふと、一呼吸おき、私の腰に差した刀をちらりと見て、また私の目を見てニヤリと笑う。

 

「鬼になる」

「鬼?」

《そうさ。狂った鬼だ》

 

(零命鬼?)

 

まさか、零命鬼もかつては____

 

「お呼びですか? 女王様♪」

 

聞き覚えのある調子のいい声に咄嗟に振り向く。

長い銀髪をリボンで結んだ、美形の貴族のような男。

 

「お前は…」

「おや、なんだ。君の事だったのか」

 

楽しそうに笑いながら男は、フェリド・バートリーはそう言った。

 

「なんだ、知り合いか?」

「ええ、それはも____」

「いや、ちらりと見ただけ」

「冷たいなぁ~。そんな食い気味に言わなくても~」

 

と、言いながらフェリドはクレハに近づいて肩に手をかけ____ようとしたのをクレハが払い除ける。

 

そんな様子を見て、クルルは今度こそ本当に呆れた様子で息をついた。

 

「…まあいい。今日からクレハ。お前の面倒をそいつが見る。吸血鬼としてここで生きていく術を早く身につけろ」

 

そいつ、と言ってクルルが目線で視線を誘導した先にニコニコとこちらに手を振るフェリドが立っている。

クレハがフェリドを見たのを確認すると、フェリドは「それでは失礼しま~す」と言って、玉座に背を向けて歩き出した。

 

「クルル」

「なんだ」

「聖人面した化け物、というのは同感だわ」

「……そう」

 

それだけ言葉を交わし、ちらりと目を合わせたのを最後に、クレハも玉座に、クルルに背を向けてフェリドの後に続いて歩き出した。

 

長い。長い廊下を歩いていく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「君、血のストックいくつあるの?」

 

フェリドの屋敷の一室。

本当に貴族が住んでいるような立派な屋敷の沢山ある部屋のうちの1つが与えられた。

 

部屋まで案内し終わり、クレハが荷物と刀をふかふかベッドに下ろしたところで、フェリドが言う。

 

ここまで来た車の中でケースの中を確認したところでは、小瓶16本分だったような気がする。ので、その旨を伝える。

 

「あはぁ♪ じゃあ、本当の吸血鬼デビューは近いね」

 

本当の吸血鬼。人間の血を飲む吸血鬼。

 

「血が無くなったら言ってね。 在庫はあるからさぁ♪」

 

言いながらフェリドが私の背後に回り込んで近づく。それに気づいていながらも、警戒は維持したまま動かない。

フェリドが私の両肩を掴み、耳元に口を寄せる。もう、息がかかる程に。

 

「それとも」

 

囁きで耳がくすぐったくなる。

 

「“初めて”は、愛しい人がいいかな?」

 

ぞわりと、走るものがあった。こいつは一体どこまで知っているのか。

巫山戯るな。冗談も大概にしろ。そう直ぐに言えたら良かったのに。

 

なのに。

 

真っ先に思い浮かんだのは、職員室の中、襟から覗く逞しい首元。柊暮人の首筋。見つめながら、渇く感覚。

 

「まぁ、今日のところは休んでいいよ。君も疲れたろうしね」

 

はっ、と気がつくと、フェリドは扉に手をかけ、

 

「おやすみ♪」

 

そう言うと、部屋を出ていった。足音が離れていく。

 

《君が一瞬。ほんの一瞬考えたこと。わかるよ》

 

姿を見せないまま零命鬼が語りかけてくる。

私は何を言い出すのか思い浮かびもせず、言葉を止めることも出来ないまま、零命鬼は続けた。

 

《どうせなら、人間の自分を終わらせるのは、彼。柊暮人の血がいい。そうだろう?》

 

ふと、クリスマスのことを考えた。世界が終わるのだという。

だが、その前に人間の血を飲まなくては鬼になってしまうのだと。

 

官舎のものよりもふかふかなベッドにボフンっと身を沈めて、溜息をつく。

 

《彼ならきっと、喜んで血を差し出すさ。彼の血ならきっととても甘美な____》

 

胸の刻印がドクリと脈打つ。ナイフは置いてきたというのに、熱を帯びる。

それと同時に、零命鬼は苦しげに不満そうな声を漏らして黙ってしまった。

 

暮人は、私が吸血鬼になってしまったと、気づいているだろうか。知っていたら、私をどう思っているのだろう。

 

「……今更か」

 

今までだって、とっくのとうにただの人間などやめてしまっていたのだ。

 

柊の家紋を象った髪飾りに触れる。

暮人に沢山のものを貰いすぎてしまった。

だと言うのに、一体私が何をしてあげられたというのか。

今だって、暮人に、暮人の愛に期待している。

 

最後に。歪でも、人間である間に、会いたい。

 

もう一度、世界が滅びてしまう前に。

 

会って、血ガ飲ミタイ。

 

でも________傷つけてしまう。

 

もう一度、あの、喉の、全身の渇きを思い出す。もしかしたら、暮人を殺してしまうのではないか?

 

「………」

 

わからない。今何を考えたとしても、ストックの血が無くなった時、自分が何を考えるのかなんて。

 

天井をぼんやりと眺めて、眺めて、やがて腕で目を覆い隠す。

 

何故だろうか、全く眠くならない。もう、今は何も考えたくないというのに。

 

あぁ。少し…

 

疲れたな____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい、暮人。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side ルカ・ヴォルガス

 

クレハが通っていた学校から離れるように大通りを歩く。隠れる時は一般人に紛れるのがいい。

とはいえ、今は真夜中だ。それでも人通りがあるのはここが日本でも生粋の大都会だからだろう。

 

楽しそうに笑い声をあげ、広がって歩く者達。

酔っ払って千鳥足な者達。

平和そうな、風景。

話している言葉は、日本語なのでよくわからないが、たわいもないことに違いない。

 

(クレハがこういうところで過ごしてたのならいいな)

 

そう、思うが、そうでないことは明らかだった。

 

何故かクレハのナイフを持った女と、その前で呪いに苦しむクレハの姿。

クレハは呪いへの耐性が強かった気がするが____

 

こんな異国の地に来てまでヴォルガスの、いや、あの女、マリアに苦しめられているのか、と。

怒りが内底に湧き上がる。

 

自分たちヴォルガスの幹部が胸に刻む七翼の天使と、ナイフに結び付けられた呪いの関係性や、クレハの突然の失踪。

 

いや、そもそも。

父たる首領の元に集ったファミリーで、イタリアを牛耳るマフィアの組織で、自分は幹部としての誇りと証を胸に刻んで____

 

そう思って形成されていた自分の周りの世界は紛い物だった。

全て、マリアの手のひらの上だった。

 

父ですらも。

 

「クレハ………」

 

かわいい妹。

ヴォルガスを裏切り、行方不明だと知らされていた妹。

 

当時大した捜索も行われず、疑問に思ったことがあった。だから、マリアが裏で手を引いていたと知った時、もう、その時既に、父はマリアの傀儡(かいらい)だったのだと思った。

そして、クレハはもう、マリアの手にかかったのだと。

 

マリアがファミリーに潜むのを止め、殺戮を始めたこの年。

 

初めは幹部の不審な死が発見された。今度が父が不可解な言動をするようになり、その傍にはどこから現れたのかあの女(・・・)がいた。

組織はマリアの言いなりになり、幹部はマリア自身の手によって葬られていった。

 

殺戮の手が自分にも伸びそうになった所で、ヴォルガスファミリーを抜け出し、イタリアから逃げ出した。

一縷の望みにかけてクレハや、他の幹部を探しながら遠くへ、遠くへ。

 

抵抗しようとなど思えなかった。同僚の実力は自分が一番近くで見てきたし、身にしみている。そいつらが次々と死んだのだ。それに

 

住み慣れた場所を去る際に、最後にチラリと見えたもの。

長年ヴォルガスとして生きてきたはずが見たことの無い部屋の奥で、大きな背もたれの椅子に鎖で縛りつけられた____子供。のようにかろうじて見えた、が…。

明らかに呪詛かなにかがめぐる鎖が張り巡らされた間から広がる純白の翼。

 

それを見てしまった瞬間、ここに留まってはいけないと、余計に足を加速させた。

あれが、マリアの子供だったのかもしれないと今になっては思う。だが、もう既に自分がここで出来ることはない程に、何かが進んでしまっているのだと悟ってしまったのだ。

 

 

そんな中、ようやく見つけた家族。だが、手紙を渡したはずなのになかなか連絡が来ない。何かあったのか。

そう思い、なんとか今学校にいるということを突き止めて急行した、が。もうそこはまるで事故現場のような有り様で、クレハを探すため、包囲網が薄い裏手側に回った。いや、回ろうとして見てしまった。

 

建物の側の暗がりで、校舎を見上げる、修道服を着た女を。

 

曲がり角に身を隠しながら、眼球に意識を向けてレンズの拡大倍率を上げてその女を見る。

 

緩くウェーブのかかった薄茶の髪が、修道女の頭巾(ウィンプル)から長く垂れ落ち、髪と布の隙間からは

、青白く透き通った肌が覗いており、

身体はぴったりとした修道服に包まれ、その細くしなやかなラインが扇情的に露わになっている。

 

(ほんと…これだけならまじでいい女なんだけどなぁ…)

 

身体のラインから顔に視線を戻す。

血の如く真っ赤な眼。縦に切込みのように入った鋭い瞳孔。

 

何かをじっと、見上げるように見つめる、眼_______まさか………クレハ…!

 

クレハが狙われている。そう思った次の瞬間、ずっと上を見上げていたと思われた鮮血の瞳と、目が合った。

全身の体液が凍りついたように、身体が硬直する。

 

殺される

 

この単語が真っ先に冷めた頭に浮かぶ。しかし、

 

「あなたとは、また今度ね」

 

そう、聞こえたわけじゃなかった。女の薄桃色の唇が、確かにそう言っているように動いたのだ。

 

それに気づいて戸惑っているうちに、こちらを見ながら薄く微笑むと、風が吹くように。そこから動いたと感じさせないある意味不自然さで、マリアは消えていた。

 

「くそ」

 

学校から離れ、大通りに向かって足早に歩く。

 

唇を噛み締める。クレハを守りに来たはずなのに、圧倒的な力を持つ者を見ただけで撤退を決めてしまった自分が情けない。

だが、感情論で、クレハの元に駆けつけたところでどうなるのだろう。あの女に弄ばれ、殺される以外に何が出来る?

たった今、見逃されて安堵してしまっているというのに?

つけいる隙がマリアには存在しないことも、故国で散々思い知らされてきたというのに、そんな非合理的なことは出来ない。

 

(結局、全部、言い訳だ)

 

今までずっと、そう生きるように教えられ、幹部として模範を示してきたかもしれない。

 

でも____

 

大通りに出る。こんな真夜中だと言うのに見渡す限りの人混みで埋め尽くされている。

車の通りも多い。

あんな黒塗りの高級車まで走って____

 

「………………!」

 

どういうことだ。

自分を一瞬で追い越していったが、見間違うはずがない。

黒い車の後部座席に乗っていたのは、マリア。そして、クレハ。

 

これは…どういう事なのか。クレハが無事そうなのは喜ばしい、が。

手放しにそれを喜べる訳でもないようだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

1度目の審判の日が近づいている

 

汚れた大人たちはその先の世界には必要ないもの

 

人間よ、生き残りたいなら力を得なさい。学びなさい

 

そして、七翼の天使がラッパを吹き鳴らす時に備えなさい

 

そして、どうか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の可愛い子供達を助ケテ

 

 




こんなにも前話から間が空いてしまい申し訳ありません!お待ち頂いた方、ご新規様(?)、22話「血」をお読みいただきありがとうございます! ご感想もいつも楽しく、有難く、読ませていただいております。
私事ではありますが、吸血鬼サイドも大好きですのでそこら辺もどんどん書いていきたいです。
ルカ兄さん等、オリキャラの心情と個性もお伝え出来たらと思います。
それでは次回もお楽しみに!
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