終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

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本当にお久しぶりです!初めての方は初めまして!
まだ続いとったんか、話忘れたわ、と思われる方が殆どだと思うのでざっくりと。
学校で鬼によって暴れた一瀬グレンを抑える為、マリアから渡された血を飲んで吸血鬼となったクレハは暮人に別れを告げマリアと共に京都へ。身柄をクルルに預けられ、吸血鬼の組織で暮らすことに。でもマリアから貰った吸血鬼の血のストックはそんなに多くない。どうする!? という感じが前回までのあらすじです。
それでは第23話、どうぞ!


第23話 完成した器

「出来ない」

 

と、彼女は言った。

 

伏せられた顔から読み取れるものは無い。

 

いや、そもそも彼女の背後で輝く満月による逆光のせいで、全体的によく見えないが。

贈った髪飾りだけが、月明かりを受けて煌めいている。

 

一歩、一歩。震える足を後ろへ引きずるように、後ずさる。

 

彼女のすぐ背後には、開け放たれた窓ガラス。

 

吹き荒れる風で暴れるカーテンに覆われる、青白い体の一部。

 

また一歩。後ずさりした足が壁にコツンと当たる。

 

「待て、クレハ」

 

こちらが足を一歩でも前に踏み出せば、その瞬間に彼女は消えてしまうだろう。その場を動かずに、言う。

 

「………………」

 

彼女の反応を伺い、風と、はためくカーテンの音しか聞こえない時間がしばらく続く。

 

「………………」

 

言葉は無い。だが、彼女がようやく顔をあげた。

逆光で影に覆われた顔の中で、まるで、闇に浮かぶように光る海のように蒼い、眼。

 

目を、細めて。

 

『さいごに会えてよかった』

 

消えてしまいそうに美しく微笑んで

 

彼女が後ろへふわりと飛んだのと、柊暮人が走り出したのはほぼ同時だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

これはまずい。

と、思いながら胸元と口元を手で押さえる。

 

暮人がいる帝ノ鬼の本部が見える、バレないギリギリの場所にいた。まあ、この程度の距離、この脚なら即座に詰められるが。

 

いや、今はどうだろうか?

もう限界だ。血が____

 

 

 

 

思ったよりはもったな…と現実逃避さえし始める。

 

今は10月半ば。何日かは…京都から移動している間確認していなかったので忘れた。

最後にマリアから貰った血を飲んだのはいつだっただろうか。思い出せない。

 

頭がクラクラする中、ただ。

ただ、もう、人間の血を飲まないことで、人間らしさにしがみつくのは終わりだということだけははっきりしていた。

 

だからせめて、最後に暮人の顔を………。

その想いで飢餓にふらつこうとする身体に力を入れ、帝ノ鬼の本部の屋根を目指し、建物の上々を跳躍した。

 

目的地が近づき、より高度な気配遮断を行い、

 

「零命鬼」

 

自身の周囲に氷の粒の幕をはり、光の屈折により視覚による認知から覆い隠した。

あっという間に本部の屋根へ降り立ち、しゃがみつつ周囲を見渡す。

暮人の居そうな部屋の場所は把握している。その部屋が見える位置に屋根を伝い移動し、

 

「………………」

 

見つけた。

 

窓越しだが、ほんの少しだけ、確かに、暮人の顔が見えた。何か仕事をしているようだ。こんな夜更けなのに。

 

「………………」

 

顔が見えたのは一瞬で、じっとその大きい背中を見つめる。

もっと長い間、会わないつもりで離れた。

なのに、どうして、もうこんなに胸が痛むのか。

 

話したい。触れたい。もう、すぐそこにいるのに。

でも、駄目だ。見るだけと決めたじゃないか。

それだけじゃない、全身が落ち着かない。真っ赤なイメージが頭から離れない。もはや、愛しい者の背景すら、脳裏では鮮血に染められている。

 

会えばきっと殺すだろう。

 

帰ろう。暮人は相変わらず無理はしているようだが健康状態には異常がないように見える。良かった、それが知れて。だから、帰ろう。帰って、

人間の血を飲まなくては

 

「ガラッ」

 

その音でハッとする。

暮人の部屋の窓が開け放たれた音だった。

 

身体がビクリと反応する、が、姿を見えなくしていることをすぐに思い出して冷静に様子を見る。

 

暮人が窓を開けたようだ。外を見回している。まさか、バレた? 気配の遮断は完璧だったはず…。

見回して私を見つけられていない様子からも何故急に窓の外を警戒?しているのか分からない。

 

「雷鳴鬼。本当にいたのか?」

 

小さくだが、聞こえた。確信する。暮人の鬼が私に気づいている。今すぐここを離れるべきだ。零命鬼の力も使って最速で_______

 

動こうとした。しかし、腰に帯びた零命鬼が何故かその場に縫い止められたかのように動かない。

 

(零命鬼?)

 

「……ク…レハ?」

 

刀から窓に視線を戻し、視線がかち合う。

暗い橙の瞳。

 

もともと回っていないあたまがもはやまっしろだ。うごけない。でも、行かなきゃ______

 

「いる訳がない。今、弱い俺がクレハにしてやれる事は何も…」

 

違うよ。貴方は弱くない。ただ、私が_____

 

目が合ったと思ったのはたまたまで、気づいていなかったらしい。

窓を開けたまま背を向けて離れようとする背中に叫ぶ、事は出来なかった。いや、もっと最悪だ。

叫びこそしなかったが、身体を屈めてしゃがむように開け放たれた窓のさんに立っていた。

 

暮人の足が止まり、振り返る。

 

やって…しまった…。これも全部喉がカラッカラだからだと言い訳しつつ目を伏せる。

私が貴方に何も話さないのは、貴方が頼りないからじゃない。それをどうしても伝えておきたくてこんなことをしてしまった。私は昔からこんなに愚かだっただろうか?

ただ、私が、

 

「怖かった。嫌われるかもしれないって」

「貴方が弱いんじゃない。弱いのは__」

 

ドサッ

 

「………………?」

 

あ…れ?

衝撃に顔をしかめた後、顔や腕に少しモフモフしたものが擦りつくのを感じる。

 

「クレハ!!!」

 

背中と服に付属しているマントの間に逞しい腕が回され抱き寄せられる。

さっきのモフモフは暮人の部屋のカーペットだったらしい。窓のさんから床に落ちた、ということか。

 

「………。」

呼吸が苦しい。

予想外だ。さっきまではまだ大丈夫だったのに。

 

限界だ。

せめて、ここから去らなければ。

暮人に危害を与えてしまうかもしれない。この全身の渇きと、

 

欲望のままに。

 

離れようと身動ぎする、が暮人の力が強く、離れられない。

 

「…さっきの……伝え…に…来ただけ……。離し………て」

 

身動ぎした反動で余計荒くなった息を何とか振り絞って訴える。

 

「辛いのか? 」

 

答えられない。物理的に。

 

「それは、お前が吸血鬼であることに関係しているのか?」

 

思わず目を見開いた。そして視線だけ動かして暮人を見上げる。

今度こそ、本当に暮人と目が合った。

ただ、無表情で、じっと見つめている。

 

「やはりそうか」

 

あ。

最近吸血鬼達が東京で活動している事は暮人の耳にも入っていたのだろう。他になにかバレる要因があったのかもしれないが、かまをかけられたのだ。私は。

 

「何か俺に出来ることはあるか?」

 

吸血鬼であることをさも当然のように話を進めようとしていることに私がついていけない。どうして、驚かない?何故わかった?吸血鬼がどんなものか本当に理解しているの?

頭がぐるぐる回って。いや、1番問題なのは、暮人の匂いを間近で嗅いでしまっていることだ。

詳しく言えば、暮人の血の匂い。濃厚で、甘美な__

いや、もはや麻薬のように強い誘惑になっていた。

 

貴方に出来ることは今すぐ私から離れることだ、と言おうとして口がパクパクとしか動かない。

 

「…血が飲みたいのか?」

 

う………。

口をパクパクさせたのが余計そう見えたのかもしれない。駄目だ。暮人に牙をたて、血を吸うなんて、浅ましい姿は見せたくない。傷付けたくない。殺してしまうかもしれない。

 

「あ゛___うぁ」

 

大きく身をよじり、口を抑え、胸を鷲掴む。

駄目だ駄目だ駄目だ。これは本当にまずい。

 

(零…命鬼!!!!)

 

無理矢理でもいい。私の身体を動かせ!!!

 

自分の意識の外で、自分の手が勢いよく暮人を押し退け、自分の足で立ち上がる。

 

「貴方を……傷付けてしまう」

「そんなことはいい。俺の血を飲め」

 

どうして?

 

「殺してしまうかも」

「そんなやわに見えるか? 飲め」

 

どうして?

 

 

嬉しいんだ。きっと。私は本当に自分勝手だ。

でも、

 

顔を伏せる。

 

「出来ない」

 

零命鬼の力を借りて、そう言った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

side 柊暮人

 

(雷鳴鬼)

 

鬼に呼びかけ足を加速させる。雷光の如き速さをもって窓から手を伸ばし、ぐっと下へ引っ張られる。

間に合った。いくらクレハでも高層階のここから今の状態で落ちればどうなることか。

直ぐに引き上げ、部屋の中に入れた。

(軽すぎる)

明らかに以前より軽くなっている。本当に生きているのかと思ってしまうほどに。馬鹿な考えだろうか。

クレハを抱き寄せ、恐ろしく生気の無い、青白い顔を見た。

先程の会話から、やはり今必要なのは人間の血のようだ。

雷鳴鬼を少し抜き、腕を血が滴る程度に切り、クレハの口に入るように唇に血を垂らす。身体を抱き起こし、肺に入ってしまわないように支えながら。

 

目を閉じたその美しい顔を伺う。

瞬間、クレハの蒼い眼が自分の目を捉える。

彼女は、勢い良く顔を下に向け、フッと流れ込ませた血を息に乗せて吐き捨て、

 

「傷付けないで…お願い…」

 

左手で切った俺の腕の傷口を上から掴んだ。

痛覚が、その他の感覚すら消えていく感覚に、抑えられた傷口に目を落とすと、白く霜がつき、出血は止まっている。

ここまで精度をあげたのか。感嘆とともに見た彼女の瞳は、ゆらゆら揺れていた。

 

「分かった。すまない」

 

彼女はあまりに優しい。過ぎるほどに。

 

そう言い、彼女の濡れた頬に手をあてる。白く陶器のような肌、片手で包み込める小さな骨格に愛しさがおさまらない。

濡れた目を伏せる瞳に魅入られながら、その薄い唇に口付ける。彼女は抵抗しない。

自分の血による鉄の味に構わず深く、更に深く舌を入れ、

 

自分の口内を噛み切った。

 

自分の身体を押しのけようとするクレハの後頭部を片手で押さえこみ、体を強く抱きしめる。そして、口を口で完全に塞ぎ、舌を使って流れる鮮血をクレハの喉奥へ押し込む、5秒、10秒。

経過した頃。

 

「あ_______」

 

クレハの身体全体が大きく脈打つようにビクリと跳ね、口が離れて赤い液体が舞う。

何かに耐えるようにぎゅっと目を瞑り、抱きしめる腕を尋常では無い力で掴んでくる。冷や汗が浮かぶ。実は、吸血鬼もしくは彼女に知らない特性があり、自分の血が彼女にとって毒になっているのか。クレハが消えた後、一瀬グレンが生きた吸血鬼を捕らえて帰ってから吸血鬼の研究も進めていたが、彼女の身体には元々呪詛と思わしきものがあった上、鬼も住んでいた。それらが、どう作用しているのか………

そんな考えが浮かんでくる頃、クレハの表情が和らぎ、ここへ来た時よりも血色が良くなったように見えた。

思わず小さく息をつく が、すぐに息をのむ。

 

ゆっくりと開かれた彼女の眼が、瞳が、深紅に染められていた。

 

吸血鬼の特徴とされている鮮血の瞳。

 

「あ………」

 

その瞳が自分の口から流れ出る血に向けられ、その後こちらと視線を合わせた。

 

その表情は驚くでも怒るでもなく、感情を映さないままで。いや、怒って当然のことを自分はした。俺の血を飲まないと断言した彼女に無理やり血を飲ませ、恐らく完全な吸血鬼にしてしまった。

 

クレハはうつむき、体を抱く手を緩やかにほどいて立ち上がった。それにつられ自分も立ち上がってうつむく彼女の顔を見つめる。

 

長い時間。いや、そう感じられただけで数秒だっただろうか。うつむく彼女が今、何を考えているのか予想しようとするが、どうにも上手くいかない。未だに俺は彼女のことを何も分かっていないのだ。

そう考えていると意を決した、というようにさっとクレハが顔をあげ、血に汚れた口元を乱暴にぬぐった。

 

その深紅の瞳は、真っ直ぐ暮人の昏い眼を捉えていた。

その表情に迷いはなく、堂々とした佇まいを見せ、

 

「私の眼は何色?」

 

いつかと同じ問いを投げかけた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「綺麗な赤だよ」

 

ああ、やっぱり。暮人が無理やりにでも私を救おうとしてくれることなど想像するに難くなかった。本当に暮人の血を飲みたくないのならこの場を離れる力くらいはあったはずなのだ。

口内に残る蠱惑的な香り。

これが欲しかった。

私が窓から落ちる手をとってくれると、

どこかで信じていた。

茶番だ。

茶番だからなんだ?

私は、

 

『君は自分の欲望の為に柊暮人の心を弄んだ』

 

そうね。本当に彼を想うなら、ここに来るべきでは無かった。私の為に自分を傷つけると、分かっていた。

 

『彼が、自分の思い通りになるのをいいことに』

 

違う。彼は私の思い通りになど動いていない。

私が、

 

「そう、願ったから」

 

そして今。私の願い通り、私は暮人の血によって生き血を喰らう完全なる吸血鬼となった

 

私は順調に力をつけている。と、思いたい…。そして、ルカ兄、家族と共にマリアを退け、マフィアのボスたる父をマリアの手中から解く。

これで本当に足りるだろうか?

渇きが満たされ、自覚できるほどに力が全身を巡っている。が、確証を持ててはいなかった。

 

それでも行動しなければ。

 

暮人から目を逸らして後方へひらりと跳躍し、入ってきた時と同じように窓のさんの上にしゃがみ立つ。

 

最後にもう一度顔を上げ、暮人を見やった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「吸血鬼になった事が悲しいのか」

 

そんなことを暮人が言う。どうしてそんなことを聞くのだろう。

 

「どうして?私が悲しい顔でもしていたと?」

「ああ」

 

そうか。そんなつもりはなかったけど仮に私が悲しんでいたとしよう。そしたら、暮人の予想は間違っていて、その答えを私は知っている。

 

「もしそう見えているのならそれは」

「あなたが悲しそうに見えたからよ」

 

以前暮人の元を離れてから数ヶ月、私がいない間にも色々あったのだろう。京都の吸血鬼達は近頃、東京の人間に接触しているようだ。ある吸血鬼はあの一瀬グレンによって捕らえられたらしい(フェリドが嬉しそうに教えてくれた)。

 

「そうか?」

「そうよ」

 

これが大切な人が悲しんでいると自分も悲しいというやつか。この人の感情を利用こそすれど、自分が抱く日が来るとは。

でも、多分、悲しませているのは、私のせい。

 

「…気のせいだ。寧ろ、柊から君が本当の意味で離れられて良かったとさえ思っているよ」

 

この言い方はまるで、柊が…。

会話ももう少しだけならと思い、背後へ擬似的な迷彩用の氷をはり、防音魔術を展開する。

 

「柊家は先日、一瀬グレンの父親を処刑した。」

 

な……。

一瀬グレンは吸血鬼を捕らえた。それは大きな成果のはずなのに。グレンは今、どれほど悲しんでいることか。怒りの方が強いだろうか。

 

第一、暮人は以前からグレンを高く評価していたし、手元に置いておこうとしていたのだ。そんなことをすれば反感を買うどころでは済まない。

だとすれば、

 

「絶対、俺以外に捕まるな。」

 

権力も強さも持つ暮人にも足りないものがあった。

それは、父親に抵抗するための力。

一瀬グレンの父親の処刑を決めたのは恐らく暮人の父親であり柊の当主、柊天利だ。

 

暮人はあの父親の元でずっと、ずっと柊の名を背負って鍛錬し続けていた。マフィアの幹部として育てられた私のように。

いや、柊はもっと歪で、自由がない。血の繋がりがあることが家族と呼べるのかも疑わしい。

その上、あの分では多くの恨みを買っていることだろう。配下の家だって無条件で従っているだろうか。

 

そんな世界で生きて、こんな事態になって、

 

私が完全に人間を捨て、立ち去ろうとして。

今度は再び会うことがかなうかどうか。

 

「約束する。でも、暮人に捕まえられるだけになんてしない」

「…どうするんだ?」

「私が絶対に離さない」

 

だからどうか、その時まで、この世界で生きて。

 

「またね」

 

だから微笑んで。ほら、こんなふうに。あなたはそんなに表情筋動かないだろうけど。

 

今度こそ、クレハ・ヴォルガスは窓のさんから身体を浮かせて飛び降りた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

七翼を宿す器

 

その資格を備えた愛しい子

 

救世主となるべく生まれた子

 

杭を打たれることで救いをもたらす子

 

さあ、早く私の息子を救って

 

 

 

 

………………あれ

 

 

 

 

ずっと前にも似たようなことがあったかしら?

 

 




全話から約2ヶ月、リアルタイム1年ほどが過ぎました。前回永劫の別れっぽかったのに意外と再会早いなと思われるかもしれませんが、クレハの欲求に沿った為お許し下さい。この頃吸血鬼は人間に基本興味が無い為、原作では出ている情報があまりクレハには伝わってないので描写が少ないです。
クレハは完全に吸血鬼になったことでもう、暮人に会いに行く理由(口実)も無くなってしまいました。滅亡のクリスマスは間近です。次回をお楽しみに!
閑話を挟むかもしれません!
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