終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

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お久しぶりです!諸事情あって、更新が滞ってしまいました…。
今回、クレハが自室に戻ったところへ知らされたのは?
そして、暮人は何を想っているのか。

それでは、第24話どうぞ!



第24話 新たな段階へ

「おや、おかえりクレハ♪」

 

気色の悪い挨拶でクレハを出迎えたのは貴族風の吸血鬼だった。人のベッドに勝手に座りやがって。帰って早々最悪の気分だ。

 

「そんな嫌なそうな顔しないでよ〜。一応ここ、僕の屋敷なんだからさぁ」

 

だとしてもここは一応私の部屋ということになっているのだが。女子の部屋だぞ。

 

「貴方、最近忙しいんじゃなかったの。私を出迎えてる暇なんて無いでしょう」

 

そうだ、吸血鬼達は既に人間の愚かな計画を知っている。《百夜教》による《終わりのセラフ》。

吸血鬼は基本人間の動向に興味など持たないそうだが、餌である人間が絶滅しそうだとなれば話が違うらしい。直接聞いたわけではないが、通りすがりに耳に入れたことにはもう既に何人か探りを入れに行っているそうだ。

以前、上野動物園にフェリドが現れたのもその一環だろうか?だとしたら相当前から情報が流れていたことになる。

これらの件とフェリドが最近(いや、初めからか)ふらりと行方が分からなくなることに関係性があるかは知らないが、かまをかけてみたが…

 

「あ、その事なんだけど〜」

 

そう言い懐に手を入れて勿体ぶったように何かを取り出す。そこに書かれた小さな文字を、目を細めることも無く読む。

 

「じゃ〜ん♪ これなーんだ」

「……大阪発フランクフルト行きの航空券?」

 

このタイミングでドイツ行きの航空券1枚ということは「僕、ドイツに出張行ってきまーす」だろうか。

 

「君、ドイツに出張!!お土産よろしくね〜」

 

だそうだ。

 

あと2ヶ月程で世界が滅亡するというこの時に。どうして。私が。

 

「やーっと立派な吸血鬼になったことだし〜、働いて貰わないと、ね」

 

じっとこちらの目をフェリドの鮮血の目が見つめてくる。きっと私もこいつと同じ色なのだろう。

サッと目を逸らして思考を巡らす。これは好機だ。まさかこんなタイミングでとは少々予定が早まったが、欧州にいずれ帰ることには変わりない。

ならば、マリア本人が日本に留まると考えられる今のうちに少しでもヴォルガスを取り戻す。まずあの女の傀儡となっているであろう父をはじめ、仲間がいるのは間違いない。ルカも幹部の1人が残っていると言っていた。

吸血鬼の組織が世界中に点在しているというのはもう知っている。恐らくそこへ行くのだろう。

行先はドイツだが何とかしてイタリアに____

 

「ついでに帰っておいでよ。君の故郷に」

 

私の出身地も知っているのか? いや、見た目で欧州系だと予想しただけか?

多分私の情報を吸血鬼に流しているのはマリアくらいだと思うが………そうとも限らないか。

 

しかし先程までの外出(東京)も

 

外で人間の血を勝手に飲んだのも

 

「いいの? 結構吸血鬼の組織って自由なのね」

「いや、そうでもないよ。この僕がこんなにこき使われてるくらいだ。女王様のご意向さ」

「クルルが?」

というよりマリアだな、きっと。

もっともフェリドはこき使われてるって感じではないが。

というか…、吸血鬼が普通に飛行機に乗れるのか?

 

「そう。まあ確かに吸血鬼なんて貴方以外見たこと無かったし、そこら辺きっちりしてるか」

 

フェリドがヒラヒラと見せびらかすチケットをパッと取り、机に置きに行く。

 

「出ていって。お風呂に入る」

「君、前も入ってたけど、吸血鬼にバスタイムは要らないって言わなかったっけ?」

「最近まで人間だったんだから入らないと落ち着かないの。貴方ならわかりそうなものだけど。風呂もついてるし」

 

吸血鬼としても異質な貴方なら分かるはずだ。それに…

(本当に吸血鬼になって帰って来たから気づいたのか、この部屋からは微かに私以外の人間の臭いがする)

 

「まあねー。じゃ、出張の詳細はまた後で届けるよ」

 

そう言って手をヒラヒラと振り、フェリドは部屋を出ていった。そして足音が遠ざかって行くのを確認して、私服を持って風呂場に行く。

 

脱衣所で吸血鬼共通の白い服を脱ぐ。

服が身体から離れた瞬間、純白の服の一部が少し赤色に変化した。

 

(フェリドは気付かなかったか………)

 

まあ、臭いには気づいてるだろうが。

これも零命鬼のサポートあっての呪術だ。外を出歩く時には姿全体を覆い隠し、帰ってくる時には暮人の血液がついた部分のみを綺麗に見せかける。

空気中の光の屈折を帰る繊細な技。

 

後で洗おうと、風呂桶に水を溜めて漬け込んでおき、そのままシャワーを高い位置に引っ掛けて全開にした。

出しっぱなしのそれを浴びないように風呂場を出て、持ってきた簡素な私服を着て、髪を簡単に結い上げ、脱衣所を出る。

 

そのまま足音をたてずに(いつもたててないけど)窓へ近づき、外の様子を伺う。

この地下都市に昼も夜も無いが、人通り(吸血鬼通り?)が少ない時間帯というのは存在する。それが今だ。

常に薄暗いこの街に視線を巡らせ、周囲に誰もいないことを確認する。

 

(行くよ。零命鬼)

 

周囲の温度が下がっていく。

同時にクレハを視認できる者はいなくなる。

それが五感が優れた吸血鬼であっても。

 

より誰も通らない路地を音も立てずに駆け、外に出る。

あの(,,)手紙に込められた魔術の導きに従い、駆ける。

 

そしてそこにたどり着いた。

 

「手紙、読んでくれたんだね」

「…ルカ兄」

 

今の自分はカラーコンタクトもつけていない。口元から覗く牙を隠そうともしない。

そんなことは見た瞬間にわかっただろうに。

 

「私……」

「生きていてよかった。クレハ」

「……マリアは吸血鬼だった。でも、私も……」

「そういう噂は本国でもあったけど、本当に存在したとは……。あの強さはそういうことなのか」

 

考える風のルカ。そこに思い切って呼びかける。

 

「あのね、私、ドイツに行くことになったの。それで、イタリアにも行こうと思う」

 

ルカが驚いた顔になる。

 

「……まさか君があそこへ? いや、確かにマリアが日本にいる今がチャンスか……?」

「そう。マリアの手からファミリーを取り戻す」

「……マリアが不在とはいえ危険だ」

「でも___」

「危険だが、いつかはどうにかしなければいけないね。そして、やるなら今しかない」

 

 

もう一度考え込むようにしてルカが目を閉じる。

そして、少しも経たずに目を開き、笑顔をこちらに向けた。

 

「俺も帰国するよ。そして、一緒に家に帰ろう」

 

「でなければ、死を待つだけだ」

 

あれはおそらく、ルカでも敵わない。

私は頷き返し、自分の日程を伝える。

ルカは先に現地入りしておくそうだ。手持ちの資産や移動方法もよく分からないがまあ、上手くやってるのだろう。

とにかくあちらで合流する段取りをつける。

 

「ルカ兄」

「ん? まだなにか聞きたいことが?」

「世界がもうすぐ滅亡する。そう聞いて何か思い当たることはある?」

「…それはあの女に関わることかな」

「わからない」

「____天使…かもな」

 

まただ。ルカからの手紙にも書かれていた。

 

『理由はこの呪いだ。これはただの能力のブーストじゃなかった。この呪いは、ある強大な天使を縛り付けておくための鎖だった。能力の高い者を何人も使い、副作用も大きい鎖が必要な天使が、ヴォルガスにいる。

 

その天使はマリアの幼い子供に取り憑いていて、鎖の力が強まるほど子供が苦しんでいるらしい。幹部が殺されていうのは鎖を緩めるための数減らしというわけだ』

 

「天使が…この世に実在していると?」

「聖書とかに描かれる存在かは分からないな。だが、イタリアで確かにこの目で見た」

 

「巨大な翼がいくつも生えた子供を」

 

なるほど。それがルカ兄の言う『マリアの子供』という訳だ。

 

「私達にかけられた呪いが、その天使を抑えているというのなら、私達が生きている間に解放されることはないということね?」

「おそらくはね。だが未知の存在だ。何が起こるかは分からない。解放された時、何が起きるのかも」

 

天使が世界を滅ぼすのか。

確か、ヨハネの黙示録にそんな内容があったような気がするが____。

 

マリアの目的は、天使を解放して、世界を滅ぼすことか?

だとしたら、なぜ私達をすぐに殺さず、日本に留まっている?

 

それとも、ただ、自分の子供を救いたいだけなのか…?

 

「てか、吸血鬼の子供って何…」

「何か言った?」

「いや、なんでも。じゃあまた、私達の家で」

「ああ、気をつけて」

 

そう言うと、ルカは夜闇に消えていった。

 

私は帰ったら血塗れの服の洗濯が待っているな、とふと考え、ため息をついてその場を後にした。

 

地下都市の中に入り、影に身を潜め、鬼の力で姿を隠しながら、フェリドの屋敷に向かう。

と、その途中で何かの気配を感じ、咄嗟にそちらに視線を向けた。

その気配はこちらからはかなり距離があるところにあった。高低差があるその向こう。この都市の中枢、女王クルルが身を置く場所の近く。

 

(……あれは)

 

「……紫髪………人間の……」

「その女が…………」

 

貴族と思われる服装をした吸血鬼がひそひそ話をしながら歩いていた。

それはいい。その会話の内容だ。

遠すぎて断片的にしか聞こえないが

 

(柊真昼…?)

 

私が知っている中から思いついたと言うだけかもしれないが、紫髪など日本では中々珍しい。それこそ柊シノアか、真昼か。

けれど、なぜ吸血鬼の口から彼女の話題が出る?

真昼が吸血鬼に加担しているということなのだろうか。それとも逆か。そもそも、どうやって?

まさか、ここに彼女がいるのだろうか____

 

…後で考えよう。真偽が分からないのに帰り道でグダグダ考えても仕方がない。

ひとまず部屋に戻ろう。

 

私は誰にも見つからずに、窓から自室に戻り、シャワーを止める。

 

「はぁ……」

 

血濡れの戦闘服を見て、またため息をつく。

知らずのうちに、左手が三日月の髪飾りに触れた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

side 柊暮人

 

グレンが《アシュラマル》を持ち帰ったことにより、《鬼呪》の研究が急激に進み始め、《鬼呪》装備の本格的な実用化に向けた実験と訓練が始まる大事な時期。当然、柊暮人も大部分に携わり、自らの身体も投じ、忙しい日々を送っていた。

そこへ、突然姿を現したクレハ・ヴォルガス。

あの時、最後に見せた真紅の瞳から目が離せなかった。

もう、疑いようほどがないほどに、彼女は本当に人ではなくなったのだと、気付かされた。

 

姿を見せた時、消えそうな程に弱々しかった彼女は、自分の血を飲んだ途端気配を一変させたのだ。

窓辺で月光の影で隠れた顔から爛々と迸る鮮血の光。

それはまさに、凡才な人間とは一線を画す、上位者。

 

なんて、美しい。

 

今、自分が所持するこの黒鬼で相手になるだろうか。

いずれ、鬼呪装備が普及し、数で押し切ればどうだろうか。

グレンが捕まえてきた吸血鬼とは格が違う。

俺は、彼女を捕えられるだろうか?

世界が終わる前に。

 

いや、終わらせられるか。

優秀な部下の働き、度重なる真昼や、百夜教の接触から

、《百夜教》が《終わりのセラフ》計画を行おうとしている事は分かっている。後は十全な準備を整え、それを阻止するだけだ。

しかし、不安材料は多く残る。

その1つが、吸血鬼の存在だ。ここのところ吸血鬼というワードを何度聞いただろうか。

報告を聞く限り、圧倒的な力を持つ存在には違いない。

 

グレンが父親の葬式を実家で1週間執り行った後、柊天利のもとに呼び出され、立場わからせるなどと下らない茶番に付き合わされていたあの日。

 

グレンが帰宅した後、グレンから電話がかかってきた。

 

『助けてくれ。仲間が負傷した。《鬼呪》を──』

 

 

鬼呪を暴走させて、仲間を回復させる必要があるということだ。すぐさま、グレンの自宅にヘリを向かわせ、鬼呪の実験場には受け入れ態勢を整えさせた。

自分もすぐさま実験場へ向かった。

グレン直属の部下、雪見時雨の腕をグレンが誤って切り落としたそうだ。

 

「何があった」

「……襲撃を受けた」

「誰の?」

「斉藤という名前の男だ」

「何者だ?」

「《百夜教》の暗殺者だった男だ」

「ほう。《百夜教》とは同盟関係のはずだが」

「そいつは真昼と組んでいる。《百夜教》のことは裏切っているらしい」

「だろうな。いま《百夜教》は、うちとは揉めたくないはずだ。で、殺したのか?」

グレンは首を振った。

「じゃあ逃がしたのか?」

グレンは言った。

「正体は吸血鬼だった」

「吸血鬼?」

「ああ、今の《鬼呪》の力じゃ、まるで太刀打ちできなかった。そいつは第二位始祖と名乗っていた。だがもう、吸血鬼も裏切ってるらしい。だから所属不明だ」

 

実験場でグレンとそんな会話をした。

 

以前上野で出現した吸血鬼は確か第七位始祖と名乗っていたか。

それを超え、鬼呪装備のグレンでさえ歯が立たない相手。

そんな強大な存在が動くほどの何かがあるのか。

何が起きてもおかしくない。

 

 

そんな状況の中、愚かな身内の存在がどれほど足枷になるか。

 

10月2日。一瀬グレンの父親、一瀬(さかえ)の処刑が実行されてしまった。

俺は彼を高く評価していた。

吸血鬼を捕らえたのだ。 

それに、未知の能力を持った《鬼呪》装備《アシュラマル》も手に入れた。これは大きな戦果だった。少し調べただけでも、《アシュラマル》には、《鬼呪》装備の性能を大幅にあげることができる可能性があった。

今、鬼呪装備の研究を進められているのも彼の功績によるものだ。

ならば、当然信頼出来る優秀な部下には報いるべきだ。一瀬栄の処刑を延期するよう取り計らった。

 

だが、途中でそれは覆されてしまった。『帝ノ鬼』の上層部会で、一瀬栄は処刑するように、と決められてしまった。 上層部会を構成するのは、柊家の当主、柊天利と、九人の幹部たちだ。

幹部を担うのは、一瀬家を抜いた、九家の当主たちだ。

 

二医家、三宮家、四神家、五士家、六道家、七海家、 八卦家、九鬼家、十条家。

 

そしてその、全員一致で、一瀬栄の処刑は決められた。

その理由は最悪だった。今回吸血鬼と《アシュラマル》を持ち帰り、柊暮人に忠誠を誓う一瀬グレンの成果をそのまま認めると、一瀬家率いる『帝ノ月』の人間たちが増長する可能性がある。 だから、バランスを取るために、当主一瀬栄を処刑して、立場の違いを知らしめるべきだ、という結論になったのだという。 

処刑の中止を進言したが、それも叶わない。

 

俺がどれだけ力をつけようとも、権力を持とうと、父親に適わないのだ。今はまだ。

こんなことでは、彼女が今まで通り側にいても守ることは出来なかっただろう。消されていたかもしれない。

いや、

 

「消されるのは帝の鬼の方かもな」

 

昨晩現れたクレハの事を思い返して、ふっ、と笑みがこぼれてしまう。

今やおそらく手が届かない。まるで、自分がのろまな亀で、軽やかに飛び去るうさぎを追いかけているようだ。

グレンのことを言えたものじゃないな、と思う。

真昼を追いかける彼の気持ちが分からなくもない。

だからこそ、その心も利用する。

人間が人間のまま勝利する為に。

彼女が戻ってくる場所を守る為に。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

暗い。

 

ぼんやりと宙を見上げる。

 

だがそこの空はない。

 

ただ、高い、高い、まるで空のように高い、天井があるだけ。

 

最後に水を飲ませてもらって、どれくらいたっただろうか。

 

渇く。

 

ひどく、苦しい。

 

生かさず、殺さず、はりつけられて。

 

「……ああ、グレンに逢いたいな」

 

そんなことを、思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話を書いている間に、原作では滅茶苦茶話が進んでしまった……。(ファンとしては嬉しいです)
ついにクレハの帰郷が近づいて参りました。
ここから話がまた加速します。

進みの遅いこの小説を読んでくださっている読者の方々には感謝してもしたりません。
次回もお楽しみに!
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