終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

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柊暮人視点が出てきます。
あと簡単なイタリア語も出てくるので間違っていたらお知らせください。クレハ絵付きです。
2人の10年後にも繋がる想いの始まりとは?

それでは第2話 どうぞ!



第2話 全ての始まり

一年生の選抜術式試験があっけなく幕を閉じてから。

 

私は夜の病室で柊暮人と呪術について論じあっていた。

こうなったのは今から一時間前。

 

私はしばらく病院にいて、授業に参加出来なかった。

腕の火傷はすぐ治ったので、少しは動けるのにベッドに縛り付けられるのは暇で暇でしょうがない。

しかも胴体や、足、頭の包帯が取れるまでずっとこのままなのだ。

 

私には見舞いに来る客もいない。個室なので周りには誰もいない。

 

退屈しのぎに看護師を呼び出して呪術書をせがんでも罰は当たらないだろう。

 

ナースコールに手を伸ばす。

 

が、それは阻止されてしまった。

 

「どうした。具合が悪くなったか。」

 

私の手を掴んだのは柊暮人だった。

何故お偉い柊家様がここに?クラスメイトを気にするような奴だったろうか。

というかナースコールを止めるな。緊急だったらどうするんだ。

 

「そう思うなら何故止めるんです?」

「ふん、そのぐらいの憎まれ口を叩けるなら元気そうだな。」

 

そう言うと手を離して、ベッド脇のパイプ椅子に座った。まて、質問に答えろ。

いつもいつも……こちらが振り回されているみたい…。

 

そういえばなにやら重そうなバッグを持っているが……。

 

「大方退屈だから看護師を呼び出そうなどと考えていたんだろう。迷惑だ。」

 

そう言って、バッグから呪術書を取り出した。

 

ちっ……いや、全くその通りです。

しかし私の心内を読み、更にはそれを先読みして本を予め持ってくるとか、こいつ本当に人間なのか……?

というかそれをする理由が分からない。

 

「クレハ、お前、自宅で呪術実験を行っていたそうだな。」

 

これはもしかして……見舞いではなく処罰に……。

まずい。もしかして実験の内容が柊にバレているのか……?

 

「暴発したということは失敗したんだろう。なら俺も協力しよう。」

 

 

なるほど、そういう訳ではない……ようだ。

いや、協力すると言って独自の研究内容を聞き出すつもりか?

なら普通に西洋呪術の話でもしておこう。

私が本来使うのはそちらだから誰よりも詳しいと自負している。

 

 

そして今に至るわけだ。

なるほど流石柊家。柊の呪術に関しては私より優れている。

だが私にはヨーロッパ独自の進化を遂げた呪術がある。

授業でも西洋の呪術については習っているはずだが。

私の話を真剣に聞いているところからすると、本当は新しい見地を学ぶ為に来たのかもしれない。

 

けれど……話が白熱すると、不思議と私も表情筋が緩んでしまっていた。

こんなに楽しい…と感じたのは初めてかも知れない。

 

ああ、学生生活も悪くない、と思ってしまう。

 

 

 

そんなもの私には必要ないというのに。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

病院の件から、呪術だけでなく、この学校の体制や、周りの人間への評価について2人で話し合うことが増えた。

 

たまに「名家の出ですらない奴が暮人様と…。馴れ馴れしい。」「あの女、媚びやがって……」などと言っている輩がいるが、授業で私の実力を知ってか、それとも別の理由か。一度も手は出してこなかった。

 

 

授業を受け、修練を積み、柊暮人と意見を交わす。それだけを毎日繰り返す日々。代わり映えのない平穏。

その中で私の腕も徐々にキレを増してきていた。

《氷天の術》においては特にだ。

自宅の研究も進んでいる。

 

 

二年生に上がる頃には柊とは釣り合わない、などと言うものも居なくなっていた。

もっとも、生徒の数自体半分程に減っているのだが。

 

三年にあがろうとする直前。

既に来年度入学してくる生徒の噂が流れていた。

 

何でも柊家の方が2人入ってくるらしい。

1人は天才と言われている柊真昼様だそうだ。

勿論他にも様々な名家の子が来る。

 

だがそんなことより少し、少しだが気になるのは

《帝の月》の者が3人入ってくることだ。

 

一瀬グレン

 

花依小百合

 

雪見時雨

 

ここは帝の鬼が支配する学校。きっと扱いは酷いものになるのだろう。

まあ、私には関係のない話、

 

「一瀬の長男は使えると思うか。」

 

昼休みに屋上でいつも通り呪術の話の途中で急に暮人様が切り出す。

 

いやいや、あなたの方がそんなことは知っているだろう。私はその子のことを全く知らない、というか興味がない。

寧ろ暮人様がそんなことを聞いてくることの方がまだ興味がある。

 

「それは柊家にとってですか。それとも暮人様にとってですか?」

 

「俺にとってだ。」

 

そう言うとそれきり黙ってしまった。別に聞いたのには意味が無かったのだろう。

 

それと、話していて分かったことだが暮人様はあまり柊、家が好きじゃないらしい。

 

その理由がどうかは知らないが、自分の家を好きになれない所は似ている…と言えるかもしれない。

 

【挿絵表示】

 

暫く風を浴びていると、黙っていた暮人様がまた口を開いた。

 

「お前は相変わらず表情が無いな。昔からか?」

 

いきなりなんだ。喧嘩を売っているのか。

まあ、表情を変えるようなことがいつも無いのは事実だが。

 

「昔は…どうでしょう。」

 

少し考える。かなり遡って、幼少期までいけば笑っていたかも知れない。

 

「なら今笑ってみろ。」

 

は?何でそうなる。まあ、適当に笑顔を作ってやり過ご…

 

「なんだそれ、顔が引きつってるぞ。」

 

はは、と笑われた。Cazzo(クソ)、人がうまく笑えないのがそんなに面白いか。

 

「なら暮人様が見本を見せて下さい。そんな不敵な笑いじゃなく!」

「俺が?そんなの簡単だろ。」

 

つい勢いで言ってしまうと暮人様はまるで接待用というような微笑みを浮かべた。

 

感情は全くこもってない。それが不思議と可笑しくて

 

「クスっ」

「おい、人の顔を見て笑うな。」

 

や、やばい、柊家の人の顔を見て笑うなど首が飛ぶ可能性がある。が

 

「それよりやっと笑ったな。」

「え?」

 

妙に満足気な顔だ。そんなに私が笑ったことがそんなに嬉しかったのか?

 

本当に分からない人だ。

 

 

この時私はこの後、もっと振り回されることになるとは知りもしなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

12月28日 1:00

 

もう深夜1時をまわったというのにまだ眠れない。

 

というのも柊暮人のせいだ。

 

今日、いやもう昨日か…。いきなり家に押しかけて、告白紛いのことをした挙句私の素性を知っていることを伝えて帰っていった。

 

一人残された私はこの気持ちのモヤモヤをどうすればいいんだろう。

 

貰ったピンを窓からの月明かりに翳して考える。

 

まず私は暮人様…いや、暮人のことをどう思っているのか。

結論から言うと分からない。

 

人から愛されたことが無いし、人を好きになるとどういう気持ちになるのか分からない。

私を好きだというような言葉に心が揺れ動いたのは私も暮人を…ということなのだろうか。

 

 

いやいやいや。私には力だけだ。色恋に浮かれている場合では…。

 

でも、もし本当なら、本当に私を想ってくれていたのなら……。

 

少しは…応えてみてもいいのかな………。

 

生まれ故郷を出て、遠い極東の国に来てから

 

初めて人からあたたかい感情を受けて

 

それに応えてみようと思って

 

そこで考えてしまう

 

「昔の私を知ったら、嫌いになるかな…。」

 

そうなったら、暮人を殺さなくてはいけなくなるかもしれない。

その時私は彼を殺せるだろうか…。

 

やはり拒絶すべきかも知れない。

 

今までいつの間にか暮人が側にいて、本当は嬉しかったのかもしれない。今思えば私はつい、このまま側にいて欲しい、と思ってしまっていた。

 

本当は独りは辛かった。だから彼の好意に甘えてしまっていた。

 

けれどそう言った感情が人を殺すこともある。

 

私は………。

 

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Side 柊暮人

 

クレハに誕生日プレゼントを渡した帰り道。

 

初めてクレハを実際に見た時のことを思い出す。

 

入学前、イタリアンマフィア・ヴォルガスの娘がいるとの報告を受けて顔写真付きのプロフィールを確認していた時、俺は既視感を覚えていた。

 

「この女子は…。」

 

 

 

9歳、10歳だった頃だろうか。何の用事だったか覚えていないが一人で川辺を歩いていると川岸にしゃがみ込む薄いミルクティー色の髪の女の子が目に止まった。

 

よく見るとその子は釣りをしていて、と言うか木の枝につけた紐を川に垂らしているだけだが。

 

同い年程の外国人の子供がこんな所で1人で釣りをしていることが、という以前に何故かその子のことが妙に気になってしまった。

 

「何か釣れるか。」

 

近づいてみるとその子の腕や足は傷だらけで、とても痛々しい。

尋ねてみると彼女は振り返らずに小さな声で

 

Per niente(全然)、あ、ううん。」

 

と一回言い直して答えた。

言語と発音からするにイタリア語のようだ。けれど日本語は通じているようだしそのまま続ける。

 

「楽しいか。」

 

そう尋ねるとまたこちらを見ずに首を横に振った。

まあ、聞かなくても楽しくなさそうなのは見て明らかだったが。

 

更に何故やっているのか、と聞こうと口を開くと彼女が急に俺の目を見て

 

「やって…みる?」

 

と言ってきた。

彼女の瞳は頭上に広がる青空よりも澄んでいて、飲み込まれそうな感覚さえ覚える。

声は小さいながらも凛としていて耳に良く残る。

顔立ちは恐ろしい程整っていて、髪が風になびいてかかる様子がとても美しかった。

 

 

今思えばこの時初めて彼女に惹かれたのかも知れない。

 

 

彼女にその木の枝を渡されて川に垂らしてみる。一応、餌は付いているようだが本当に釣れるのだろうか。

釣りなんて鍛錬に忙しくてしたことが無い。

 

グンっ

 

始めてすぐに木の枝が川に引っ張られる。

隣では無表情だった彼女が川に乗り出して目を輝かせていた。

釣れたらもっと喜んでくれるだろうか、なんて考えが浮かんで一気に木の枝を引く。と、糸の先には上腕程の大きさの魚が付いていた。

 

「Grande!Grande!」

 

彼女は口角を上げはしないが顔全体をぱぁあっと輝かせて、すごい!すごい!とすっかり興奮しているようだ。

魚は彼女の隣に置いてあったバケツに針から外して入れてやる。

 

彼女は魚をのぞき込むとこちらを見て辿々しく言う。

 

「Grazie…あり…が、とう。」

 

少し恥ずかしそうに顔を赤らめられてそんな言い方をされたらこっちが赤くなってしまいそうだ。

もっとも訓練されているせいでそうはならないが。

 

そうしていると柊家の付き人が数人こちらに来ている気配がした。

 

「迎えが来たか…。」

 

もう少し遅くても良かったのに、なんて考えてしまう。

 

じゃあ、別れを、と思って彼女のいた方を見て驚く。

 

そこにはもう魚の入ったバケツも、イタリア人らしい彼女の姿も無かった。

 

怪我をしていた筈なのにどうやって…。

それが子供の頃の幻のような出来事だった。

 

 

それから何度か川に行ってみても彼女に会うことは無かった。やはり幻だったのかもしれない、なんて非現実的な考えが浮かぶ。

 

 

 

それが幻じゃなかったと初めて証明したのが顔写真付きプロフィールだ。

薄いミルクティー色のストレートの髪は長く伸びていて、表情はより冷たく、感情を映さない顔になっていたが、

その写真に映っていたのは確かにあの時に見た彼女だった。

 

彼女にまた会える、そのことが心を揺るがす。

 

どうせ、柊家の選んだ相手としか一緒になれないのに。

 

それでいいと思っていたのに。

 

それでは駄目だと、自分の力で必ず手に入れると。

 

正しく俺は、彼女に心を奪われていた。

 

 

同じクラスにするのも、席の並びを変えるのも柊の次期当主候補の立場では容易いことだった。

いよいよ、第一渋谷高校入学式。

少し前までは面倒だとも考えていたが、クレハの存在を知ってからずっと待ちわびていた日。

 

教室に入ると一部の生徒がざわめいたが気にしない。

思いを馳せた彼女は、一番後ろの窓の横に座っていた。

 

背筋を伸ばして静かに窓の外を見つめる彼女の周りには不思議な空間が出来ている。

それを感じ取ってか、彼女に近づく生徒はいなかった。

 

 

俺が隣の自分の席に座っても彼女は一向に外から視線を外さない。

ずっと前に会った時はどちらかと言うと可愛いといった感じだったが、今の姿はより成長して大人びていて、あまりに美しかった。

見た瞬間息が詰まりそうな程の感情がこみ上げる。けれど……

 

自分のことを覚えていないのだろうか。

 

 

そう思うと胸が少しズキリと痛んだ。

 

 

 

 




2人のこの高2の時期は今後の道筋を決める大事な時期になっています。
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