最近雪が降ったので。
とある冬の雪が降った日の出来事……。
では番外編 どうぞ!!
1月19日
第一渋谷高校の新入生も学校に慣れ(ほとんどの生徒において、生き残りがかかっている必死さは変わらないが)、といっても普通の学校のようにお楽しみイベントがある訳でもないのでただ変わらず鍛錬を続けるだけなのだが
そんな中のある寒い冬の日のこと。
クレハや暮人が入学してから初めての"雪"が降った。
今年はよく雪が降り、校舎はすっかり真っ白になり、校庭にはかなり高く積もっている。が、
「おらぁあああ!」「やぁああああ!!」「起爆しろ!」
校庭のあちこちから気合いの叫びや呪術を起動する声があがっている。
今、一年一組と二組が合同で、この大雪にも関わらず実技訓練を行っていた。
屋内の修練場もある筈だが、なんでもどんな状況においても全力を発揮する為だとかなんとか。
「理にかなっている......か.....。」
クレハが白い息を吐いて呟く。
そして周りを見る。
「それにしても……。」
先程から真剣な叫び声が聞こえている、
と思えばよく見たら生徒の手にあるのは丸い雪の塊だった。
そしてそれを最初に先生に組まされた相手に投げたり、起爆符で迎撃したりしている。
「あれは一体……。」
「おい、早く解呪してやらないと死ぬぞ。」
突然数メートル前から声をかけられた。
前に顔を戻すと柊暮人が呪符を持った人間の形をした氷像に手を置いていた。
いや、正確には、私が先ほど氷漬けにした、対戦相手の男子生徒...だが。凍らした後、完全に忘れていた。
言われて仕方なく起爆符を飛ばして氷像に付ける。
「起爆...。」
ドォォオオン! と爆発音がして氷像、もとい男子生徒が吹き飛び、どさりと落ちて雪に数十センチ程埋もれる。
多分熱で氷は溶けているか、爆発四散している……筈。
「……斬新な解呪法だな。」
「...それ程でも...。」
こんな寒い中で氷系の呪術を解除したり、溶かしたりするのには普段以上に熱が必要になる。
はっきり言ってただの生徒のためにそんなことしてやる義理はない。面倒だ。
と言いたいのを抑えて呆れ顔の暮人様に短く答える。
もうその時点で爆発した男子生徒から意識を外す。
そういえば、ちょうど絡まれたついでだ、気になることを解決したいと思ってもいいだろう。
「暮人様、先程から皆が雪を投げあっているのは何です?訓練ですか?」
いや、どう見ても訓練には見えないけど。
「ん、なんだ、あれか?お前...ああ、そうか。」ふむ、と頷くと、
「あれは"雪合戦"だ。雪が積もるとああして雪を投げあってぶつけて競う遊びらしいな。」
と応えてくれた。
「暮人様はやられたことがあるんですか?」
「いや、ないな。呑気なあいつら程暇じゃないんでね。」
ふーん……。
もう一回その、雪がっせん、とやらを見る。
確かに呑気だな、と思う。
次の学年に上がれるのは半分だけだと言うのに、どうして遊びに費やす時間があるだろうか。
そんな暇があったらもっと腕を磨いて……。
「...なんだ?やりたいのか?」
……………………は?
いやいや、この私のどこを見てそんなこと...。別にどんな感じなんだろうとか、少しは楽しいかなとか全然思ってないから。いや、本当に...だって遊んでるくらいなら...。
「...ふむ、……分かった。」
「いえ、あの……。」
キーンコーンカーンコーン
今日最後の授業の終わりをチャイムが告げる。
結局そこで会話は途切れてしまった。いや、最早会話ですらなかったが。
一体何が分かったというのだろうか。
嫌な予感しかしない。
そして間もなくそれは、ある意味的中することとなった。
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ホームルームが終わり、自宅に帰ろうとする、と
右横から声をかけられる。
「今日、空いてるか?」
暮人様……?
今日……、今日もいつもと変わらず家で鍛錬と実験を重ねるだけだが。
「……何の御用でしょう。」
「帰りにうちの修練場に来ないか?」
唐突だな……暮人様とは普段は学校で議論するだけなのに、
病院に見舞いに来たことといい、他の生徒と私の何が違うというのだろう。
……違うな。確かに他の生徒とは違う。が、良い方向でじゃない。
やはり裏があるとしか考えられない。暮人様の"うち"と言ったら柊家専用の修練場のことだろう。
ノコノコ味方でもない組織のど真ん中に自ら行く必要は無……。
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どうしてこうなった。
クレハが今歩いているのは雪が降り積もった学校からの帰り道…………。
柊家の屋敷への。
「暮人様、何故私などを誘われたのですか?」
並んで歩いている暮人があまり首を動かさずに、見上げてくるクレハを見ると、また前に視線を戻して言う。
「お前自身だけで出来ることなどたかが知れてる。」
「なら、柊家の施設を使った方がお前の為になるだろう?」
「けれど何……」
「それに俺もあいつらから学べることは何も無いからな。」
「だが、お前程の実力者と訓練をすれば経験になる。」
クレハは目を見る。けれど暮人の目は嘘をついていないように見えた。
あいつら、というのは同級生の事だろうか……。
確かに暮人様程の鬼才なればあんな授業は役に立たないだろう。
だが何故私もそうだと?私の何を見抜いてる?
「私に、ご期待に添える程の力はありません…。」
「そんな訳はない。まあ、やれば分かるさ。」
「あなたは一体……わっ!?」
全部分かったような言い方についクレハが少しキツく言い返そうとしてしまった時、何かが前から勢いよくぶつかってきた。
「う……。」
クレハにぶつかり、弾かれて路上に倒れたのは一人の幼い少年だった。
癖のある金色の髪をした、色白の、綺麗な顔の少年。おそらく日本人ではないだろう。もしくは、外国の血が混じってるか。
「大丈夫?怪我はない?」
と言ってクレハがしゃがんで手を差しのべる。
だいじょうぶです、ありがとうございます、と言って少年は手を掴んで立ち上がる。
「ぶつかってしまってすみません!急いでて...。」
「いいのよ。でも雪の上であんまり走ったら転んじゃうから気をつけてね。」
「はい!」
そう元気に返事をするとと少年は足早に駆けて行った。
「かわいい子だったな……。」
「お前の方が……いや。」
「……?何ですk……」
「子供には優しいんだな。」
「……いつもと変わらないと思いますが。」
「クラスメイトを氷漬けにした挙句爆破した奴がよく言うよ。」
「取り組み中に手を抜く方が失礼だと思ったので。」
「はは、ならあれは失礼だと分かっていてやっているんだな。」
「どういう意……」
「着いたぞ。」
二人が着いたのは巨大な体育館のような建物の入口だった。
暮人がパネルを操作するとドアがガチャりと開き二人は中に入る。
「ふーん……。」
中は建物を丸ごと使った広い造りになっており、素材はあらゆる衝撃に耐えうる特殊なものが使用されていた。
流石は帝の鬼の当家筋、柊家専用の訓練所だ。ここなら広々と訓練が出来るだろう、が。
「…………?」
床には中央付近に雪が積もっていた。
外観では完全な屋内だと思ったが……。
クレハが上を見上げてみるとかなり高い開閉式の天井が少しだけ開いている。
何故……あ……。
まさか……「分かった」って……。
いつの間にか暮人は雪を挟んだ向こう側にコートを脱いで立っている。
「始めるぞ、クレハ。」
なんて言っているのでクレハもコートを後ろに脱ぎ捨てて雪に近づいて暮人に向かい合う。
そしてクレハはしゃがみこむと雪を一掴みして握りしめる。
そして、クレハが立ち上がると同時に、暮人がいつの間に作ったか、普通の雪玉を軽く投げ、同時にクレハはその握りしめたものを振りかぶって投げる。
二つの雪が飛行中にぶつかる、そして砕け……たのは暮人の投げた雪玉だけだった。
クレハの投げたものは、彼女の驚異的な握力で握った時点で鋼の如き堅硬な氷塊と化しており、当然普通の雪玉を容易く貫通して高速で暮人に迫る。
しかし彼はそれを最小限の動きで避け、雪玉を素早く補充すると一気に距離を詰めた。
投げただけでは簡単に避けられる、ならば近距離戦での隙を突こうと考えたのだ。
だがクレハの方が速く反応した。突き出された拳を左手だけで止め、右手を出そうとする……が咄嗟に左手を離し、前転して飛び退き振り返る。
「ほう、気づくとは流石だな。」
一直線に殴りかかったのは幻だった。その隙に背後をとる。
よくある戦法だが、幻術のレベルが高ければ気付かれにくい、非常に有効な手でもある。
だが、一般生徒ならまず躱せない攻撃をクレハは避けた。
そして避けた隙を彼は見逃さない。
体勢が崩れたところに既に完成した術式を発動する。
「あ…………。」
効果を発動した呪符が降り注ぎ、最初の1枚がクレハの頭を庇おうとした腕に直撃し……。
呪符の動きが止まった。
腕に触れた所からピシ……ピシ……と音を立てて全ての呪符がその効果ごと急激に凍りついていく。
そして倒れ込んで頭を守る体勢のままの彼女の口元がニヤリと歪み……。
そこで暮人は気付く。気付いて咄嗟に呪詛を纏う。が
「ぺしっ」
クレハが暮人の首に背後から雪玉を当てる。
暮人はあまりの冷たさに顔をしかめて言う。
「最後のあれは幻術じゃなかったな。」
「これのことですか?」
と言って暮人と自分の間の空間に手をつく。
暮人が手を重ねようとして冷たいものに手が当たる。
「氷の壁か。」
倒れ込んでいたのはクレハが創り出した巨大な氷の壁をスクリーンにして映し出された姿だった、という訳だ。
クレハは壁を消すと一息ついて言う。
「これが雪がっせんですか?」
「………ああ…そうだ。」
こんな雪合戦があったら遊んでいる一般人はきっと命がいくつあっても足りない。
ただ、クレハが一般人と雪合戦をする機会などほぼないはずだからまあそういう事でいいだろう。
クレハはまた雪玉を作って手の上に乗っけてそれを見つめている。
気に入ってくれたのだろうか、と暮人は考える。
最後に首に雪を当てた時、見えた彼女の表情が不思議と昔、魚を釣ってやった時のものに重なった。
なら……なら、良かったと思う。
嬉しい、というのはこういうことだろうか、と。
彼女はもう一度雪の積もっている場所にしゃがむと、コートを羽織って入口のドアを開ける。
「修練場を貸していただいたうえ、訓練の相手をして下さりありがとうございました。」
「……ああ。」
「では失礼します。」
扉が閉まり、修練場に一人残る。
遠い、まだ遠い。
頑なに距離をとろうとする彼女を捕まえるには。
彼女が凍りついている限り
永遠に近づくことさえできない
もうやるべき事をただやるだけでは足りないのだ
さっき彼女がしゃがみこんだ場所にふと目がいく。
なにやら雪の上に設置されている。
近づいて見て見るとそれは……
大きく丸い氷の上にやや小さくて丸い氷が乗っている。
「雪だるまなんて作れたのか。」
というか知ってたのか。
まあ海外でも雪だるまは普通にありそうだからな。
しかしあの彼女が雪(氷)だるまを作って置いていくとは……。
少しでも近づいていると、自信を持ってもいいのだろうか。
帝の鬼の者を呼んで雪を片付けさせる。
「それは保存しておけ。」
「この雪だるまを、ですか?」
「ああ、呪術による生成物だ。一応大事なデータだからな」
「かしこまりました。」
そいつにここを任せて屋敷の自室に向かう。
自分はいつまでこの距離を保とうとする気なのか。
何故こんなに弱腰になっている。
手に入れたいなら自ら行動しなければ。
離れて、いなくなるかもしれない、なんて恐れるとは。
はは、調子が狂うとはこういうことだな。
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心を閉ざした過去知れぬ少女に、与えられた役割をこなすだけの少年に、変化が訪れる。
終わりの年まであと一年……………………
本編も進めておりますので暫しお待ちを!
2話には挿絵を添付致しましたのでよろしければ是非!
今後ともよろしくお願いいたします!