あとまた少しイタリア語が出てくるので間違ってたら教えて下さい
柊家の闇の一端、そして今のクレハの人格の根幹が垣間見る 第5話 、どうぞ!
3月27日
「明日、釣りに行かないか。」
「釣り?」
普通の学生が間もなくやって来る進級に向けて慌ただしく過ごしているであろう今日この頃。
夏休み、春休みなどの概念が存在しない第一渋谷高校では、既に引き継ぎを終えた生徒会役員として、暮人とクレハは生徒会長室にいた。
もしや、校長室より立派なのでは、と思わせるような部屋だ。
まあ、実際、柊暮人はここの校長より遥かに強大な権力を持っているのだが。
「何故、釣りに?」
「俺の趣味が釣りだからだ。」
新学年に向けた話し合いが終わったところで暮人がいきなり新たな話を切り出してくる。
それと趣味が釣りだから、というのは私を誘って行く理由になっていない気がするが気にしても仕方が無い。
「良いけど……。私、釣り道具は何も持ってないよ。」
「それは全部こちらが用意させる。明日は手ぶらで来ればいい。」
「分かった。明日は教師会議の都合で午前授業だから1度家に帰って着替えてくるよ。」
「なるべく急いでな。」
「分かってる。」
その話は手短に終え、また学校についての話に戻った。
午後の授業を終え、家に帰って明日の用意をする。
そういえば……2人で外に出掛けるのは初めてだったな。
また少し鼓動が速くなるが……気にしない。
私が今見ているのは、ただの夢だから、と自分に言い聞かせて。
さて。
狭いクローゼットを開けて中を睨む。
中には、学校の制服(夏・冬)、学校専用コート、白いYシャツ、白いワンピース……。
はぁ。
なんということでしょう。冬用の私服が無いではありませんか。
Yシャツは、下に履くものがないし、今からはどうしようもないから明日はワンピースの上にコートを着るしかない。元々人より寒さに耐性があるし、うん、大丈夫大丈夫。
今まで私服で出掛けること自体が稀だったからこれは仕方が無い。
「そんなことより。」
机の上にちょこんと乗ったものを見る。
ここ数日、鍛錬の合間をぬって試行錯誤を繰り返して作った特製品だ。
「喜んで、くれるかなぁ……。」
なんて、不思議と遠い記憶の中の感情が蘇る。
私のことを話せる日は、いつか来るだろうか。
そんな思いと共にこれもポケットに入れる。
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3月28日
学校が終わった後直ぐに家に帰ってワンピースに着替える。
「
もう春になる頃とはいえ、こんな格好では流石に肌寒い。身震いして慌ててコートを羽織った。
そして先程脱いでハンガーにかけた制服のスカートのポケットに手を入れてまさぐり、手に当たった硬いものをとりだす。
窓から差し込む僅かばかりの光を受けて輝く、三日月を象った髪留めのピン。
未だ一度も付けていなかったもの。
付けていこうか否か……。
けれどそこで時計を見てもう悩んでいる時間が無いことに気づく。
私は仕方なしにピンをコートのポケットに入れて慌ただしく家を出た。
小走りに街中の人混みを駆け抜ける。
そんな中、違和感を覚えたのはたんったんっ、と軽く地面を蹴って、また蹴り出したある時だった。
違和感、というのは体がなんとなしに少し、ほんの少しだけ軽くなった気がするのだ。
貴重品などを全部突っ込んでいるコートのポケットにすかさず手を入れて、気づく。
ピンが無い。
そのことに気付き、理解した途端に背筋が冷えていく。
走って落ちるような入れ方も、落とすような走り方もしなかったのに……。
回れ右して来た道を入念に見渡しながら戻る。
今まで何度も経験した命の危機でさえ涼しく乗り越えきた筈なのにこんなときに冷や汗が止まらない。どうして、よりによってあれを落としてしまったんだろう。このまま見つからなかったら、誰かに踏まれて砕けてしまったらどうしよう。
あれは、あのピンは、生まれて初めての、大切な人からの贈り物なのに!!
焦らないように気を落ち着かせて舗装された道の上に目を凝らす……そこで
「貴女、これを落としませんでしたか?」
後ろから肩を叩かれて振り向く。と、同時に妙な既視感を覚えた。
そこに立っていたのは私より背が高く、修道女のような格好をした若い女性だった。
異常に白い肌をしていて、人間を逸脱した美しい顔は、まるで聖母の様に慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。私には経験がないが、これが母の愛なのだろうと本能で感じさせられるものだ。
アメジスト色の瞳は、クリーム色の緩くウェーブした長髪をよく引き立てていた。そのうえ、目を合わせると吸い込まれそうな感覚に陥いる。
だがそんな一瞬で脳裏に焼き付くような姿に私は覚えがあった。
それは、私が日本に来ることになった全ての事の始まりが起きた時のこと。忘れようとは思わないし、例え忘れようとしても忘れられない顔。今目の前にいる女性はそいつと同じ雰囲気を纏っているうえに姿形もよく似ていた。もしかしたら……。
だが、あまりに姿が重なりすぎている。というのは、もうその時から何年も経っているのだからもし同一人物なら少しは老けているはずだ。なのにこの人は以前に見た姿と変わらない若さだ。やはり他人の空似だろうか。
しかし妙だ。彼女はこんなに目立つ格好をしているのに周りの人達は目もくれず通り過ぎてゆく。
「どうしたのですか?これは貴女の物ではありませんでしたか?」
女性は微笑みながら少し眉を下げて心配そうに尋ねる。
クレハが思考を重ねているうちに動きが固まってしまっていたらしい。言われて直ぐに女性の手に持っているピンに手を伸ばす。
「私の物です。ありがとうございま……」
しかしクレハの手は空を掴んだ。
「……何をしてる。」
女性は変わらず微笑んだままピンを持った手をクレハが届かないように後ろ上に掲げている。
試しにそこに手を伸ばすとまたひょいと躱される。こいつ……一体何のつもりなんだ。
「返せ。」
「あら、拾って差し上げたのにその口の聞き方はないんでなくて?」
「返せ。」
「そう焦っちゃ駄目よ。もう、あれからなーんにも成長していないのね、"クレハちゃん"。」
「…………!?」
その時、ピンをひらひら翳して見下ろしてくる目が微笑みの中で赤く煌めいたように見えた。
これも昔、あの時に見たものと同じだ。
やはりこいつは……。
「
私があの時殺せなくて、私を殺そうとした人。
幼少の時に写真だけで知っていた母。
それが今……
「は、はは、あはははははっ!!」
そいつが突然高笑いし始める。心底楽しそうに。
そしてひとしきり笑い終わるとこちらを見て口を開いた。
「お母さん、ですって?私が?ああ、確かに前に貴女に会いに行った時には貴女の母親に変装していたかもしれないわね。」
変装……していた……?
「思った通り、貴女の反応はなかなか面白かったわ。」
じゃああの時騙されて……。
「まあ、少しは長い人生の暇潰しに……おっと。」
駄目だ駄目だ駄目だ。
相手より上手に出るには自分の感情をコントロールする必要があると知っているし、出来るはずなのに。
いや、今までの私はただ……感情を持たないようにして来ただけで、本当は直情型なのかも知れない。
激昴を通り越して真っ白になった脳内に従い、小刀を鞘を滑らせて抜く。
自分が今どこにいるかなど思考の外だ。
自分が知らない情報をこの女から引き出そうという発想すら起こらない。
(初撃で首を落としてやる)
走らせるそれはまさに神速。まともな人間には避けられることはおろか、視認することさえ出来るはずもない。
聖母の様な彼女の頭が地に落ちる。
(貰った)
トンッ
「はい残念、挑戦はまた今度ね。」
「う…………。」
刃が素手で止められた所まで見えて急に意識がぐらつく。
必死に意識を保とうと歯を食いしばって耐える中、フェイドアウトしていくように脳に美しい声が反響する。
「本当はちょっと驚いたわ。クレハ、貴女が生きて日本に居るなんて。強くなったじゃない。」
「もうすぐ世界が滅亡する。その時には……また……。」
普通ならさっき首に入れられた手刀で意識を失っている所だが、訓練のおかげでなんとか持ちこたえて顔をあげる。が、彼女の姿はもうどこにも無かった。
『………………が……れば……日本で……』
そう、彼女は昔言ったが、本当にまた出くわしてしまった。それに、
____世界の滅亡
はるばる移り住み幾数年。この日本で一体何が起ころうとしているというのか。イタリアにだっていつか戻らなければいけないのに。
けれど何が起ころうと私は……。
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川の釣り場に走って行くと、もう既に暮人が色々な準備を終えていた。
「遅かったな。」
「ごめんなさい。あ、釣り始めるのちょっと待って!」
あれは……良かった、落ちていない。
ピンだって本当に落としたのだろうか。今思えばそうではない気がする。
「暮人、誕生日3月31日でしょ?大したものじゃないけど……。」
「これは、ルアーか?」
「そう。あらゆる魔術や呪術を組み合わせて作った、大物が釣れる特製ルアー。」
「知っていたのか。」
知っていた、というのは暮人の誕生日と趣味のことだろう。
「葵さんに聞いたの。その……私も誕生日にピンを貰ったから……。」
「葵か……。主の個人情報をペラペラ話すとは何を考えているんだ?」
「……駄目……だった?」
「いや、ありがとう。早速使うよ。」
良かった。あんまり嬉しそうには見えないけれど、彼が急にニッコニッコしだしても逆に驚かされるだけだ。
暮人は手際良く渡したルアーを付けて私に渡して、自分は普通のものを持った。
「私はいいよ。」
せっかくプレゼントしたのに。
それに、そのルアー、実際どのくらい効果があるかよく分からないし。
「後で俺も使うよ。」
というので2人で同時に川に糸を垂らす。
するとそれからたった十秒後、私の方の竿が強く水中に引っ張られた。その力は鍛えている私からしてもかなり強い。
「早いな。」
いや、早すぎじゃない?
それにこんな引きの強い魚、ここら辺の川にいたっけ?
このルアー?このルアーのせいなの?
「大丈夫か。」
「当……然!!」
幾ばくかの闘争の後、
掛け声と共に一気に引き上げたその魚は……
ビチビチ、ビチビチ
「「…………。」」
「マグロか?」
「え、これがマグロ?」
今まで一度も食べたことはないが、日本に来て公共の図書館に籠っている時に見たことがある。
小さな子供ほどの丈はある大きくてずんぐりした魚だ。美味しいらしい。
「なんでマグロが川にいるの?」
「さあな、俺に聞くな。だが普通はいないのは確かだ。」
釣りを始める前にも川を見たがこんな大きい魚影は無かった(当然だけれど)。
舗装された川辺でビッチビッチ跳ねているマグロを目の前にいつの間にか大物が釣れた喜びが何処かに吹き飛んでいた。
「ルアーのおかげだな。」
「私がルアーに付与した効果にこんなものは無かった筈だけど。」
「はは、これならいずれバケモノが釣れるんじゃないか?」
「……そうかもね。」
(そんなことが起きる時にはもう私はいないだろうけど)
「捌かせて食べるか。」
「なら」
まだ元気なマグロに呪符を貼り付けて氷漬けにする。たまたまマグロの黒目が私を見つめる形で止まってしまってつい目をそらす。
「ここに来るまでに何があった。」
急に暮人が尋ねてくる。
もし本当のことを少しでも話すならどうしても私の過去の根幹に触れてしまう。
そうしたら、もう、今には戻れないんじゃないか?
かと言って今も言い訳を考えているけれど今までの自分を考察するとどれも有り得ないことばかりだ。まず疑われる。ならどうする?
今の私はヴォルガスの人間であるということが立場を守っている節もある。なのに……もう離反していることが知れたら?
いやいや、でも、何かが起きるならその前に全部話した方が……。
今の私にとって何が一番大切なのか。
「言いたくないなら……」
「世界の滅亡。」
「……?」
「暮人、日本でこれから世界の滅亡に繋がるようなことに心当たりはない?」
「なぜだ。」
「今日、道ですれ違った人に言われたの。もうすぐ、世界が滅亡する……と。」
「そいつに心当たりは?」
「ない。」
特徴も伝える。何故私に言ったのかも分からない、とも。
彼はそれに疑い一つ向けず真剣に考え始める。
「それが可能な呪術組織は……日本でなら百夜教が規模が大きい。だが可能性はあるが、内情が不明だな。」
「そっか。」
まあ、このことについてはあまりに信憑性がないからあまり気にする必要も無いのかもしれない。
それより聞いてみたいことがあった。この合理的で冷徹な判断を下せるこの男に。
「暮人。」
「なんだ。」
「両親はいる?」
「父上はお前も知っているとおり柊の現当主だ。母は死んでいる。」
自分の母親が死んでいると話す時も全く様子が変わらない。
「じゃあ、父親を殺せる?」
「はは、俺を反逆者にするつもりか。」
そう笑う。そりゃ変な質問だったかもしれない、けどきちんと答えてくれた。
「分かってる、家族の情だとかそういう話だろう。ふむ、そうだな、その必要があれば出来るだろうな。」
「なら、もし母親が生きていたら?もし上から殺せと命じられたら?理由も教えられなかったら?」
「急に具体的になったな。母親か……理由も知らずには殺さないだろうな。」
「それは母親だから?」
「……そうかもな。」
「そっか……良かった。」
「何がだ。」
「それは…………」
「まて、今すぐ帰れ。柊の者が来る。」
「え。」
「暮人様!こんなところにいらっしゃったのですか!」
「柊天利様がお呼びです!直ぐに戻られてください!」
ぞろぞろと黒いスーツを着た人間が集まってくる。
帰れと言われたが川の近くの木の上で気配を隠しながらその様子を見る。
私といた事がバレると不味いのだろうか。
『母は死んでいる。』
何故かその言葉がふと思い浮かんだ。
もしかしたら私も……?
今までなら殺されることへの不安は全く無かった、自分が殺されるはずが無いと。それだけの自信を全てを捧げた鍛錬が裏付けてきた。
けれど今日、街で会った彼女に私は全くかなわなかった。あの一瞬だけで力の差を思い知らされた。
あんなバケモノがいるなんて……。
それに今の私はもしかしたら……以前より弱くなってしまったのかもしれない。
まともな人間の感情を持とうなんてしたから……。
「くそっ……。」
私は……どうしたら………。
また……全て奪われるの……?
そんなの
絶対に嫌だ。
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世界の終わり
その中で生きあがく少年少女達の物語まであと、少し
新キャラ登場!かなりの重要人物になる予定です。
次話、皆様お馴染みのキャラが沢山登場します