終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

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今回は、後のグレン隊の年代が第一渋谷高校に入学してきます。
若き日の彼らとクレハはどう関わっていくのでしょうか。
第6話、どうぞ!


第6話 嫌われ者の入学

Side 一瀬グレン

 

「グレン様、グレン様、今日から高校一年生になるわけですが、心の準備は出来ていますでしょうか?」

「…………。」

「わ、わたくしは正直、緊張しております。いえ、グレン様の護衛役であるわたくしが緊張するのはいったいどうなのよ、という突っ込みが入ることは重々承知しているのですが、しかし!しかしですね!やはりこの第一渋谷高校に入学する、というのは、我ら一瀬家の従者にとっては、非常に緊張するものがあるわけでして。あの、ですので……」

 

と、さらに続いていく女の声を、しかし完全に無視して、一瀬グレンは空を見上げた。

すると空はピンク色に染まっていた。

桜が舞っているのだ。

春。

入学のシーズン。

グレンは詰め襟の制服を着て、両手をポケットに突っ込みながら、桜の下を歩いている。この道が続く先は、第一渋谷高校と呼ばれる学校だ。

ごく緩やかなウェーブがかかっている黒髪に、少しだけ冷たそうな目つき。その瞳で隣で喋り倒している女を見る。

自分と同じ十五歳の、少女。身長は160センチくらいだろうか。セーラー服姿に、茶色がかった髪。騒々しい口調からは想像もできない整った顔立ちの、美人。

花依小百合だ。

小百合は本当に緊張しているようで、胸を手で押さえながら言う。

 

「あの、ですので、いたらぬ点もあるとは思いますが、その頑張りますのでなにとぞよろしくお願い……」

が、それを遮ってグレンは言った。

「あー、小百合」

「おまえ、さっきから、ちょっとうるさい」

「ええええええ!?」

と、両手を上げて、ショックの顔になる小百合。さらに、

「グレン様の言う通りです。……あんまりわーわーうるさいと、我らが主・一瀬家のーーひいては一瀬家次期当主様であるグレン様の品位が落ちるから、やめてくれませんか?」

「あうあう!?雪ちゃんまで!?」

 

雪ちゃんと呼ばれた少女が、小百合を見上げながら言う。

こちらは背が、150センチないくらいの、小柄な少女だった。落ち着いた、冷たすぎる無表情。

雪見時雨。

年はやはり十五歳で、グレンの護衛役として『一瀬家』で長年修練を積んできた少女だった。

 

「はぁ……」

とため息をついてから、グレンは軽く辺りを見る。

「こいつら全員が、俺のライバルか」

と、グレンは新学期の楽しげなムードに浮かれている、生徒達を眺めてつぶやく。と、その時、一人の女子生徒に目がとまった。

背後にいた時雨がグレンに並んできて、言う。やはり他の生徒達を見つめて薄く笑い、

「いえいえ、グレン様ほどの実力者が、『帝の鬼』のガキどもにいるとはとても思えませんが」

続いて小百合が勢い込んで、

「そ、そうですよ!偉そうにばっかりしている柊家の奴らに、われら一瀬家の次期当主、グレン様の力をガツンと見せつけてやりましょう!」

などと言ってくる。

その言葉にグレンは振り返らず二人に言う。

 

「なら『帝の鬼のガキ』じゃない奴はどうする。見せつけるかどうかはともかくだ。入学前の調査でそういう奴が一人いると出ている筈だ。」

「はい。イタリアの呪術組織・ヴォルガス一家の娘、第三学年、クレハ=ヴォルガス。彼女だけは日本の何処の派閥にも属していない人物です。それがどうかしましたか?」

「あれじゃないのか?」

 

グレンは視線で、同じ通学路の端を歩いている女子生徒を見るよう、二人に促す。

 

小百合よりも少し薄いストレートの長髪に、時雨よりも冷たい無表情。前をただ見つめている碧眼。明らかに日本人の容貌では無い。

だが、グレンが気を惹かれたのはそこではない。

へらへらしている他生徒の中でただ一人、一分の隙も感じさせない緊張感を纏っている。

そのうえ耳を澄ましてみても彼女の辺りだけが異常に静かだ。

黙っているから、というだけではない。音が全くしないのだ。地面を踏みしめる音さえも。それもごく自然に。

音を立てずに歩けるというのはそれ相応の訓練を受けた者なら誰でも出来る。が、普段から無意識にそうなるというのはよほど体に染み付いている証拠だろう。

 

「容姿までは把握していませんが……。おそらくそうでしょう。」

「わぁ…綺麗な人……。」

「小百合、ぼけっとするな」

「あ、も、申し訳ありません!」

「あと、時雨。さっき『帝の鬼のガキ』と言ったな。だが見た目はおまえの方がガキだ。」

「あっ」

と声をあげ、いつも無表情な顔を少しだけ赤らめてちょっとだけ唇を噛み、時雨は言う。

「……気にしているのを知っててそれを言いますか?」

「はは、おまえらが柊家をなめてっからだ。だからあえて言う。1秒も油断するな。気を引き締めろ。わかっているだろうが、ここに『帝の月』の人間は、俺と、おまえら二人しかいない。つまり残りの奴らは全員__敵だ。」

と、言った。

「あそこにいるやつは敵じゃない筈だが、味方と決まったわけでもない。それに、恐らく、相当な実力者だ。警戒しろ。」

とも。

そのときはもう、自分たちの周りは柊家の息がかかっている学生たちで、溢れかえっていた。

当然だ。

ここは通学路なのだ。

そしていま、自分たちはその、敵が運営が運営している学校へと入学しようとしているのだ。

時雨と小百合の顔が、緊張する。

おそらく、自分たちへ向けられている、いくつかの視線に気づいたからだろう。

声も聞こえてくる。

「なんだ、あいつら。あの襟の紋章、『帝の鬼』の紋章じゃないぞ……」

「ああ〜そうか。今年はそういう年か。一瀬の奴らだ。実力のないはぐれ者どもが、俺らの学校にまぎれこむぞ。」

そんな声が一斉に生徒たちの間に広がり始める。

それにグレンは、顔をあげる。

その頃には、百を超える目がこちらに向けられているのに、気づく。

冷たい瞳。嘲る瞳。明らかな敵意。嫌悪。蔑み。

グレンはちらりとその向こう側に目をやる。

ヴォルガスの女は、全く興味がないと言ったふうに、前だけを見て歩いている。二年間この学校に居ても帝の鬼の思想に毒されていないのだろう。

 

時雨は視線と嘲笑に、

「あいつら、見下し……」

が、その言葉を遮って、視線を戻したグレンは言う。

「慣れてるよ。だから動くな。」

「しかし。」

「いいから。俺達はここで、力を見せない。敵にわざわざ、俺らはこんなに出来ますと、ガキみたいに張り切って手の内を発表(さら)してやる必要も無いだろう?」

そう言って、グレンは振り返って従者たちにだけ笑ってみせる。

二人は不満そうだが、グレンは初めからそのつもりだった。

ここで自分たちの力は見せない。

中でも、一瀬家の中でだけで開発、発展させてきた呪術体系については、一切見せないとそう、決めていて___

 

「…………」

 

が、そこで突然。

どんっと、頭に何かが当たるのが分かった。

グレンは前を向く。

頭に当たったのは、コーラが入ったペットボトルだった。フタは開いている。当然頭から、コーラをかぶってしまう。

「グレン様っ!」

小百合が叫ぶ。

続いて時雨が前に踏み込もうとする。

「くそっ」

だがグレンはその、時雨の肩をつかんで、

「でしゃばんなよ」

と、後ろに下がらせる。時雨がそのとき、どんな顔をしていたのかは、分からない。

「あ〜、痛いんだけど?」

すると柊家の息がかかった生徒たちが、一斉に笑う。

ーーなんだよあれ。

ーーとんだ腰抜けが来たぞ。

ーーだ〜からしょせん一瀬の奴らなんだよ。

誰がコーラのペットボトルを投げたのかは、分からなかった。だが、誰が投げたかなどというのは、どうでもいいことだ。

なぜならどうせ、ここにいる奴らは全員、敵なのだから。

だから、グレンは、罵声と嘲笑を全身で受けながら、従者に呼びかける。

「小百合、時雨」

「……はい」

「なんでしょうか」

二人の声が悔しそうに震えている。自分の主を馬鹿にされ悲しんでいる。

グレンは振り返って、従者たちに言う。

「嫌な思いをさせる。すまない。だが、三年の辛抱だ。付き合ってくれ……」

その時だった。その場に凛とした声が響く。

 

「新入生。在校生もです。朝礼がもうすぐ始まります。急ぎなさい。」

 

ーーあの人腕章を着けてるぞ。

ーー生徒会役員か?

ーー目をつけられたら……生徒会長は柊家の方らしいぞ。

ーーおい、行くぞ!

 

立ち止まって嗤っていた生徒が慌てて校舎にまた向かい出す。

その場にいた生徒がほとんど居なくなると、腕章を着けた女がグレン達に近寄った。

 

「このタオル使って。廊下に雫が垂れるから」

と、言って白いタオルを差し出してくる。

「私などにいいのですか」

「……はぁ。そう卑下されると気分が悪いからやめて。私は別に柊家の人間じゃないから」

何故かクレハは若干不機嫌そうに見える。

見た所、この腐った学校の中で、こいつは数少ないであろう、まともな人間のようだ。

グレンはタオルを受け取って軽く水分を取る。

「ありがとうございます、クレハさん」

「……いえ。じゃあ私は挨拶があるから、後でね」

そう言うと彼女はすぐに踵を返して校舎に入っていった。

後でね、ということは入学式に出るのだろうか。

 

残ったのは、まだ少し濡れていて、服も汚れてしまったグレンと、従者二人だけ。

 

「じゃ、いくか?」

とグレンが言うと、時雨が言う。

「……グレン様」

「あ?」

「……私どもが主を守る筈なのに、逆に守って頂いてしまうなんて……」

「黙れ馬鹿。部下を守るのは、主の務めだ」

「あ……」

それで時雨が、黙る。

すると背後で小百合が、

「ねねね、雪ちゃん、なんで赤い顔してるの?」

「こ、殺すぞおまえ!」

「えええええ、なんで!?なんで雪ちゃん叩くの!?」

やはり二人はうるさい。

もうここは一般人は入れない、学校の敷地内だ。

長く伸びる、桜並木。

その向こうに校門があり、そしてそこに、一人の男が立っている。

男は明らかにこちらを見て、微笑んでいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ……」

 

思わずため息が出る。

揉め事を起こされると生徒会に報告が来る。するとそれを議題に会議が行われる。場合によっては生徒会が直接対処すると、いう流れを引き継ぎの際知った。

どうしてこんな馬鹿馬鹿しいことに時間を割かなければいけないのか、まず何故私が生徒会役員などになったのか(今更言っても仕方の無いことだが)。

まあ、要するに面倒だ、ということだ。

 

本格的に副生徒会長としての仕事が始まる新学期の初日。

いきなり、コーラが一人の男子新入生の頭にぶつけられる所に居合わせてしまった。

 

コーラは蓋を開けてから投げられたのに、よく着弾まで中身があまり出なかったな……という感想を抱いたが、それよりもその光景を見ていると妙にイライラしてしまう。

 

理由の分からないそのイライラは私の体を動かし、今までほぼ着けていなかった生徒会腕章を着けて、生徒達を退散させた。

意外と効果あるんだな……これ。

 

コーラまみれの少年は、事前に目を通していた入学者リストの中でも特に印象に残っていた奴だった。

一瀬グレン

あと、二人は……従者か。

この腐った学校だ。帝の月の彼らはこれからきっと苦労するだろう。ちょうど鞄には常備しているタオルがある。なら貸さないと、流石に本当の人でなし、この学校の奴らと同じになってしまう。

なのでタオルを渡してとっとと去ろうとする。

が、校舎に入ってすぐのことだった。

 

背後で呪術が使用される気配を感じて振り返る。

校門にいつの間にか白い髪の男子生徒が立っていて、その指先で呪符が燃えて消えるのが見えた。

そしてそれを受けるのは……一瀬グレンしかいないな。

白い方も入学者リストで見覚えがある。

柊深夜

柊家に連なる者だ。

そして稲妻がグレンを打ち、弾き飛ばした。

柊の名に恥じない、凄まじい発動スピードだ。相当な遣い手なのだろう。

だが、真に注目すべきは一瀬グレン。

確かに今、攻撃にきちんと反応していながら、わざと食らっていた。

その後の様子も合わせて考えると、彼はこれから、実力を隠し続けるつもりのようだ。

私も力はセーブしているが、あくまで手の内を晒さない程度に、である。

これは、きっと、背負っているものが違うんだろうな……。

 

そうして少し考え事をしていると、柊深夜が校舎に入ってきたので一応話しかける。

 

「柊深夜様、朝からこんな場所で呪術を行使するのはお控え下さい」

「……! おはようございます、クレハ先輩」

この反応、私が見ていたことに気づいていなかったようだな。気配を消してはいたけれど。

「おはようございます。お急ぎになった方が良いのでは?」

「……いや、少し聞きたいことがあるんだけどいいですか?」

「何でしょう」

「何故、ヴォルガスの貴女がここにいるんですか?」

 

唐突だな……。

何故……か。

 

柊家の人間はみんな変なことを言ってくるな。

 

ああ、学校もあと一年なのに、どうしてこんなに面倒ごとが起きるのだろう。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

新たな人物を迎えた彼女の物語。こうして慌ただしく最後の年が始まった。

 

 

 

 

 

 




次回、続きます
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