終わりのセラフ《絶対零度の吸血鬼》   作:neirua

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間が空いてしまい申し訳ありません。話を途中でぶん投げないのでご愛読いただければ幸いです。
新入生を迎え新たな展開を迎える第一渋谷高校。しかし、その裏では……
それでは、第7話 どうぞ!



第7話 新入生代表

クレハは柊深夜の青い目を見つめて返答する。

 

「私がここにいてはいけませんか」

「別にそういう意味で聞いたんじゃないよ。ただ情報がなさ過ぎるから……」

「怪しい……と?」

 

深夜の喋りから敬語が無くなる。

スパイか何かだとでも疑われているのだろうか。

確かに私はこの学校への入学を許された。だが、だからと言って信用されているわけではないのは分かっている。

今では2年間大人しくしていたお陰で多少の信頼は得ているかも知れないが、初めはそうではない。

憶測だが、私がヴォルガスの人間だということを知って、直接監視下に置く為に、且つ余計なも揉め事に発展させない為に学校に入れさせたと考えるのが自然だろう。

 

「私に反逆の意思はありませんよ」

少なくとも今……は。

「だからそう意味じゃなくて」

「……?」

「噂は聞いてるよ。天才的な実技の腕だって。君が噂通りの実力者なら、わざわざこんな学校に入って学ぶ必要はないんじゃない?」

 

確かに、わざわざ新しく日本の呪術を学ぶ必要はなかった。技を磨くならこんな建前ばかりの学校に入る必要もない。自分の研究の為、というのもあるが、それにしてもなぜ、この、第一渋谷高校にしたのか。

彼が聞いているのはそこら辺の話だろう。

ていうか噂って……。いつの間に、そんなに有名人になってたんだ? やはり、もう少し控え目にしておいた方が良かったのか?

まあ、とにかく、この学校に入った理由は他にもある。が、それを彼に話す義理はない。

 

「こんな学校、とは。」

「2年も在籍している先輩なら分かっていると思うけど、変でしょ?ここ」

「…………」

「それとも、君もみんなと同じなのかな?」

 

みんな、とはこの学校の頭惚けた教師や生徒達の事だろうか。いや、彼の言葉に含まれているのはこの学校のことだけではないようにも感じる。

しかし……、彼も柊家なのにあまり今の状況が好きでないらしい。

 

「…変だ、おかしい、腐ってる。そう言ったら、反逆者として告発するんですか」

「別に〜?ただ、うん。君が他と違うって、今ので分かって良かった」

「違う?良かった?貴方はこの学校が…いえ、この社会が嫌いなんですか」

「この社会ね〜。まあそれも嫌いだし、柊家も嫌いだよ。だからもし、君が何か目的があって潜入してるんなら内容によっては手伝うよ」

 

なるほど。手伝うよ、とは言っているが要するに、色々やらかしたいから片棒を担げ、ということだろうか。

だが、もちろんこいつと仲良く秘密を共有する気は無い。

これ自体が私の忠誠を試すテストかもしれない。

例え、本当に私を手伝うつもりだとしても。こんなペラペラ公の場で、柊家が嫌いだの何だの喋る奴は信用出来ないからな。

 

と、そこで「キーンコーンカーンコーン」とチャイムが鳴り渡った。

クレハは深夜に背を向けてまた校舎に入っていく。

 

「……今のは聞かなかったことにしておきます。もうホームルームが始まりました。話はこれで終わりです」

「今のを聞き逃すってことは、やっぱり反抗心があるんじゃない?だったら……」

 

しつこい勧誘に、つい、足を止めて振り返る。

 

「柊深夜。これで終わりだと言ったはずだ。下級生の分際で……身をわきまえろ」

 

あー、やってしまった。つい柊家の人に言ってしまった。

 

「……すいませんでした。ああ、やっぱり先輩とは仲良くしたいなぁ」

ところが私の無礼な発言を意に返さず。というより、かえって気分を良くしたようで、嬉しそうに敬語で返してきた。

彼は……本当に柊家が嫌いなのかもしれない。

本当に……仲間を求めているのかもしれない。

 

「別に…敬語にする必要はない。どうせ年下だし。」

 

視線を前に戻しながら、無意識にそんな言葉が出ていた。

え?と戸惑う深夜を置いてそのまま教室に向かう。

 

私……何……してるんだろうなぁ……。

 

 

 

ホームルーム中の教室に後ろの扉から入ると、沢山の視線が集まってきた。

 

「クレハさん。何を言いたいか分かりますね?」

「はい。遅刻して申し訳ありません。登校中に迷子の子供がいたので。」

「まあ、助けてあげていたのね!流石柊暮人様の右腕ね!いいわ。今回だけは見逃してあげましょう」

「ありがとうございます」

 

一連の会話を終えて席に着く。

全くおめでたい頭の連中だ。

っていうか、誰が暮人の'右腕'だ。暮人も否定し……なんでニヤニヤしてるんだ。他人から見たら感情のない無表情にしか見えないレベルだが私にはわかるぞ。

 

「新入生への挨拶は大丈夫か」

「用意は出来てる。ねえ、暮人」

「何だ」

「私の所も変だったけど、ここも相当ね」

「……一瀬のことか」

「……。きっと、外の世界を知らないのね。みんなも、貴方も。昔の私みたい」

「…………」

 

応えが無いので席を立つ。

 

「先生」

「ああ、生徒会の挨拶ね。こういう場のことは副会長の仕事なんでしょうけど、くれぐれも……」

「分かっています。では先に失礼します」

 

そう言って足早に教室を出て講堂に向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

他の生徒とは別に、講堂の舞台袖で、挨拶文に目を通しながら待機する。

今は校長の話が長々と続いている最中だ。挨拶文を確認するのにも飽きてきたので幕の影から講堂の様子をこっそり覗いている。

離れたところには青みがかったグレーの髪をした凛とした少女、柊真昼が待機していた。

そちらにちらりと目をやってからまた講堂に視線を戻す。

その時だった。

 

「だから違うと言ってるでしょう!」

 

という甲高い声が講堂に響き渡り、校長は話を止め、生徒の視線が一斉に一箇所に集まる。

その中心には、燃えるような赤い髪の女生徒と……

彼女の隣に座っているのは一瀬グレン?

 

しかし彼女が「あ、あの、失礼致しました。続けてください」とか細い声で言うと、他の生徒たちは直ぐに顔を背け、校長もまた話を再開した。

 

なるほど……あれが十条家の……。

 

その特徴的な赤髪は、かつて『カエデの司鬼』を封じた者の末裔のものとして、そして古くから柊家を支える名家の1つのものとして高く名を知られている。

だから誰も彼女を笑ったりしないのだ。

 

「何かありました?」

「…柊真昼様」

 

凛とした透明感のある声に振り向く。

私を見つめるのは、凛とした強い瞳。冷たいといってもいいほどに整った顔立ちなのに、彼女は冷たく見えない。

どこか穏やかで、たおやかでいて……

一瞬、以前街中で会った修道服の女を連想したが、目の前の彼女からは子供のような無邪気さも感じられた。

 

そして彼女は入学試験を全科目トップで通過している。

柊家の人間は総じて能力値が高いが、暮人の話によると、その中でも真昼は天才だといわれているという。

なら……と、頭に思い浮かべる。

なら……私は彼女を倒せるか?

万が一のことが起こった時、私は帝ノ鬼を圧倒出来るか?

 

「いえ、真昼様の同級生の方が緊張してしまったみたいで」

「そうですか。あの」

「はい」

「先程、一瀬グレンを助けて頂き、ありがとうございました」

 

見ていたのか。

あれは……助けたのだろうか。

しかし、真昼は、一瀬をクズ呼ばわりしないのか?

 

「何故、貴女が?」

「醜いですから。あまり生徒に、品位を落とすようなことはして欲しくありません」

 

……違う。この目は。こいつの目には生徒達など映っていない。

彼女の目に映っているのは……。

 

「流石、真昼様。気高い御心をお持ちですね」

「そんなんじゃないわ」

「でしょうね。先程の言葉、半分嘘でしょう」

「え…」

「校長先生の話が終わったようです。真昼様、ご挨拶、お願い致します」

「…………ええ」

 

私を警戒した目つきを一瞬見せたものの、真昼は短く返事だけして静かに壇上に上がっていった。

 

あれほど賑わっていた講堂は、千人を超える人間がいるとは思えないほどに、異常なまでに静まり返っている。

全員が真昼に見とれているようだった。

もちろん柊家___という名前にも、それだけの力はある。ここに集まった者達を黙らせるだけの力がある。

だがいま、ここで起きていることは、それだけじゃなかった。

真昼の中にある、何か、強い光のようなものに押し潰されて、生徒達は動けなくなってしまっているように見えた。

 

「柊真昼です。今日は、新入生代表としてご挨拶させていただきます。よろしくお願いします。」

 

真昼が話し始める。澄んだ、よく通る声。

生徒のほとんどがうっとりしたように聞き惚れている。

彼らからしたら彼女はまさに天上人。神のような存在なのだろう。

その中に、その神が、ただの恋する少女だなどと、知る者が居よう筈もないが。

 

しばらくすると、真昼の挨拶が終わったようで、拍手が沸き起こる。

静かになったところで教師の紹介にあずかり、真昼とすれちがいながら壇上に立つ。

 

こちらを静かに見つめる多くの目。だが中には私を見て、隣とひそひそ話し始める者もいた。その殆どが新入生だ。

もっとも、そういう視線に晒されるのにはもう大分慣れたが。

冷たく辺りを見渡してから口を開く。

 

「第一渋谷高校生徒会より、副生徒会長、クレハ=ヴォルガスが新入生にご挨拶申し上げます。この度の、皆様のご入学につきましては…」

 

つらつらと無難な台詞を並べていく。

用意した原稿(といってもかなりアバウトな事しか書いてない)の内容に真昼の挨拶の内容も織り交ぜながら話し、そのままスムーズに挨拶を終わらせた。

 

 

入学式が終わった。

教室へ帰る途中、暮人が並んで歩いてくる。

 

「お疲れ様」

「……ちゃんと聞いてた?」

「ええ、勿論です。とてもご立派でした。」

「…………」

 

私がふと、思い立って尋ねてみると、棒読みでこう返された。若干にやついてるけど。

 

「はぁ。何で、そんなこと覚えてるの?」

「分かりきったことを聞くなよ。それはお前のことが好……」

「わ、分かった!もういい、もういいから!」

 

顔を生徒がいない、壁側に背ける。

あーもう、春になったから熱くなってきたのかな。

頭が春?そんなわけないだろう。

 

「…周りに人がいるのに、柊家の人間がそんなこと言っていいの?」

「は、馬鹿なのか?だったら『お前のことがすき焼き』とか言えばいい話だろう」

「馬鹿はお前だ」

「冗談だ」

「知ってる。あんまり面白くなかったよ」

「ははっ、そうか」

 

一旦話が途切れて沈黙が漂う。

が、また暮人が口を開いた。

 

「相変わらず流暢に敬語を使っていたな。どこで習った」

「私、幼いころから組織の中で日本語を習っていたの。日本に来ることを想定して」

 

つらつらと嘘を吐く。こう言えば、まるで、今でも私がヴォルガス一家と繋がっているかのようにニュアンスで伝えられる。

そこで、そうか、と。話は終わるかと思った。

 

「嘘だな。お前は幼いころ、日本語が殆ど話せなかった」

「また、その話?だから私は暮人のことは知らな……」

「…………」

「本当に私は、貴方に会ってるの?」

 

沈黙が、表情が、自分の勘が、これは冗談ではないと語っている。

でも、本当に、欠片程も覚えていないのだ。

こういう状態に、少し、心当たりがある。

 

「ふむ。ここまで覚えていないとなると、人為的な要因があるかもしれないな。記憶の改竄とかな」

 

記憶の改竄……。

優秀な術者ならそう難しいことではない。

そして、やりかねない人物についてもやはり心当たりがある。更に幼いとはいえ、現役の暗殺者だった私の記憶に干渉出来る奴といえば。

 

まず1つは、ヴォルガスの組員。

 

もっとも、日本へ来たばかりの私をそんなに早く、ヴォルガスが見つけられたとは思えないので、可能性は低い、と思う。

 

そしてもう1人は…………

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Side ???

 

「斉藤さん?だったかしら?」

「それでもいいんですけどね。今は木島真、でお願いします」

 

第一渋谷高校の入学式を賑やかに終えたその日の夜。

暗く、他には誰もいない通りに2人の人影があった。

1人は修道服を着た、若い女。

もう1人は黒いスーツに身を包んだ、二十代前半くらいの男。

2人はお互いに笑みを浮かべて、親しい友人の様に話していた。

 

「面倒ね。貴方も本名を使えばいいのに」

「偽名は便利なんですよ?まあ、貴女には必要ないでしょうが」

 

男がそう苦笑して返すが、女はその話にはもう興味がないようだった。

 

「で、真はこれからお出かけ?」

「ええ、まあ。貴女もですか?」

「うーん、じゃあ私も娘に会いに行こうかな?」

「おや、貴女に娘なんていらしたんですか」

「娘みたいな子よ。息子はいたけど」

 

いた、と言いながら女は目を閉じる。

 

「いや、実は、一瀬君に会いに行こうと思ってましてね。お友達になりに」

「もう可愛らしいお友達が1人いるのに?」

「その可愛らしい子の意向でもあるんですよ」

「ふーん、じゃあ私も娘に『貴女の周りの人間を巻き込んで、戦争やらかそうとしてる不審者がいるよ〜』って教えに行こうっと」

「やめてくださいよ。全く、貴女とは全然情報共有してないのに何で、何でも知ってるんですかね。邪魔するつもりなんですか?」

 

男はへらへらしているが、この一瞬だけ、女に若干の敵意を向けた。

 

「ごめんなさいね。生憎私も貴方の邪魔してる暇なんてないのよ」

「嫌味ですか。

………………何をしようとしてるんです、マリア」

 

男の質問に女は背を向ける。

女は振り返らずに答える。

 

「奪われた物を取り返すだけよ、ーーーーーさん?」

 

そして、そのまま暗闇の中に去っていった。

 

 

「本名でなんて呼んで…百夜孤児院の子に聞かれたらどうするんです」

「さて、勧誘しに行きますかね」

 

男も小さく呟くと、一瞬でその場から消えた。

 

 

名残の様に風が音を立てて吹き抜ける。

そしてこの場には誰もいなくなった。

 

 




講堂で叫んじゃった十条の子はあの人です。
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