パラオの曙   作:瑞穂国

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冬イベがどうなるのか、全く予想できなくて戦々恐々としている作者です

本当に運河攻撃なのか・・・?

さて、今回はルソンのお話です。こっちも登場は久しぶりですね


南海ノ防人タチ

フィリピン、ルソン島に本拠を構える警備艦隊は、日米共同の基地航空隊と共に、日本の生命線を守る重要な部隊だ。特に、対潜哨戒に重きを置いた編成となっているため、小回りの利く小さな艦が多い。哨戒用の水偵や局地防衛用の甲標的を運用する、水上機母艦が最大の艦である。

 

そんな、ルソン警備隊基地、港湾施設の沖。警備隊最大の水上機母艦、“瑞穂”の隣には、それよりもさらに大きな艦が錨を打っていた。よく見てみれば、その他にも、普段は見慣れない艦影が、基地沖の海面に落ち着いている。

 

刀を思わせる、スラリと細い艦体。丈高い艦橋は“大和”型に酷似した、スッキリまとまったシルエットをしている。備えられた連装主砲塔は、艦の前後に二基ずつ四基八門。後部艦橋のすぐ後ろに航空艤装を施している点は、“長門”型や重巡洋艦に似ている。

 

日本海軍の艦型識別表には載っていない艦型、ましてこのルソンになどいてはいけない艦だ。

 

窓の外に艦影を望みつつ、卓己は意識を目の前に巻き戻した。そこに立つのは、第一種軍装に身を包む、高校生ぐらいの少女。しかし、こちらを見つめる瞳は、ただひたすらに真っ直ぐで力強い。

 

直接会うのは、随分と久しぶりだ。

 

「久しぶりだね、舞ちゃん」

 

「ご無沙汰してます、卓己さん」

 

ペコリ。舞が頭を下げる。くせっ毛のある髪が揺れた。

 

この部屋は、普段誰かと話をするときに使う、執務室や応接室とは違う。ルソン警備隊庁舎内で唯一、卓己しか鍵を持っていない部屋だ。防音対策も施されており、外部に音が漏れることはない。舞たち―――『T・T独立艦隊』の面々と会談する時にのみ、使う部屋だ。

 

この部屋には今、卓己と舞、由良しかいない。相模も同席させるべきか迷ったが、今回彼には、この場を外してもらうことにした。代わりに、今頃は沖合の“雲仙”に乗り込んで、『T・T独立艦隊』所属艦娘たちと話しをしているはずだ。

 

―――あちらは、彼に任せるとしよう。

 

ひとまずそのことを頭の隅にやり、卓己は舞に着席を促す。持ち込んだ電気ケトルでお湯を沸かし、由良が人数分のお茶を淹れてくれる。

 

「急に訪れてしまって、すみませんでした」

 

「・・・そうだね。できれば、君たちのことを知っている人間を、これ以上増やしたくなかったんだけど。それにしても、まさか舞ちゃんの方から、こっちに来るとは思わなかった。そっちのほうが、よっぽどビックリしたよ」

 

『T・T独立艦隊』は、編成からずっと、Z海域のみを活動域としていた。彼女たちの存在はあまりにもイレギュラーすぎて、公に扱うのは非常に難しいという判断からだ。

 

舞は『T・T独立艦隊』編成時からの提督ではない。しかしながら、閉じた海で活動せざるを得ない理由も、そこで生きるしかない雲仙たちの苦悩や外界への恐怖も、理解していたはずだ。そのうえで舞は、自らもまたその閉じた海で、彼女らを導いていくのだ、と。

 

それがなぜ、こうしてルソンへやって来たのか。衆人の目に、雲仙たちを晒すようなことをしたのか。

 

―――何か、あったかな。

 

卓己と舞だけが知る暗号電で、この訪問を打診してきたときから、何となく感じている。ここ数か月、これまでにない変化が、『T・T独立艦隊』に訪れた。それ故に、どうしてもこうせざるを得なかった、ということか。

 

「何か、あったのかな?」

 

卓己の問いかけに、少女は少しの沈黙を作る。やがて、ゆっくりと言葉を選ぶように、薄桃色の唇を開いた。

 

「・・・色々なことが、ありました。それこそ、私の判断では、追いつかないほど、たくさん。私が、こうして提督でいられるのは、皆の支えあってのことです」

 

沈黙の中から紡ぎ出される言葉は、大きく、重い。引き付けられるように、卓己は口を閉じ、黙って話に聞き入る。

 

「卓己中佐」

 

「何かな?」

 

「まずお話ししなくてはいけないことは、私たちの・・・『T・T独立艦隊』の意志に関することです。私たちが考え、選び出した一つの答えです」

 

―――意志、か。

 

イレギュラー極まりない、『T・T独立艦隊』の艦娘たち。彼女らを産んだのは、全て三瀬というたった一人の少女だ。

 

彼女に意志を植え付けたのは、他でもない卓己たちだ。正確には、“三瀬”という、ある種呪われた異形の軍艦を、“自らの手で造り出した”、『刃櫻会』だ。

 

そこに宿るのは、造られた意志、造られた想いである。ルソン警備隊長として、航路保全と同時に『T・T独立艦隊』の監視を命じられた時、卓己はそう考えていた。

 

健全なる精神は、健全なる肉体にのみ宿る。健やかなる魂は、健やかなる環境によって育まれる。

 

例え、それが造られた意志であろうとも。彼女たちを育んだのは、先代の提督であり、また目の前に座る舞でもあったのだ。

 

その声を、卓己も同様に、真摯な心持ちで聞き届けなければなるまい。

 

「聞こうか」

 

深呼吸を一回挟んだ舞は、一息に言い切った。

 

「近いうちに、Z海域を出ようと考えています」

 

「・・・そうか」

 

心臓が飛び出るかと思うほどの衝撃を飲み下す。今ここで慌てることは、自分も舞も望んでいない。

 

「“イレギュラー”たちはどうする?」

 

「Z海域内から、“イレギュラー”を駆逐しつつあります。以前報告した通り、ここ数か月は、米第七艦隊と半ば共同戦線を張っていましたから」

 

米国が、Z海域の調査及び解放を目的として、ポートモレスビーに派遣した艦隊のことは、卓己も聞いている。

 

太平洋戦域における深海棲艦の最重要拠点、ハワイは、もとはと言えば米軍基地である。その解放こそが、米国の最終目的だ。ハワイを失ったことで、米国の太平洋方面における活動、特に島嶼の集中している南西太平洋での活動は、事実上不可能となってしまっている。

 

Z海域から深海棲艦を駆逐することは、来るべき最終決戦において共同戦線を張ることになるであろう、日米間の連絡路を確保するという意味で、非常に重要な問題なのだ。第七艦隊の派遣は、そのための布石である。

 

「統計でも、Z海域における深海棲艦の活動は、下火になりつつあるとの結果が出ています。トラックやハワイの守りを固めるため、と考えられます」

 

深海棲艦には、自らの拠点に近いほど、防備を厚くする傾向がある。各国の本土が直接攻撃を受けなかったのは、沿岸地域に出現するのがほとんど駆逐艦や軽巡、潜水艦であったからだ。

 

『NT作戦』の発動時期など、詳細まではわかっていないだろうが、このところの日本海軍の動きを見れば、その開始が近いことぐらい素人でもわかる。だからこそ、深海棲艦は守りを固めているのだろう。Z海域から、戦力を引き抜いてまで。

 

「Z海域内に残っているのは、旗艦と思しき巨大戦艦を中心とした艦隊と、その他の警戒艦艇のみです。撃破は十分に可能であると、考えています」

 

「つまり、もう君たちが、常時監視する必要はない、と?」

 

「はい。“イレギュラー”がどのように生まれるのかはわかりませんが、少なくともZ海域内において“イレギュラー”が増えたという報告は受けたことがありません。今後は、航空機による監視を主として問題ないはずです」

 

そこで舞は目を伏せる。

 

「私たちがZ海域にいたのは、存在を公にしないようにするためであったことは、理解しています。Z海域における深海棲艦の脅威が排除されたからと言って、そこから出てもいい訳ではないことも。それでも、私は彼女たちに外の世界を見せてあげたい。他の艦娘と同じように、この世界で何を考え、どう生きていくか、選ばせる自由をあげたいんです」

 

舞の言葉を受け、卓己は腕組みをし、椅子の背もたれに体重を預ける。考える時間が必要だ。

 

そもそも、卓己の一存で、どうこうできることではない。最終的な判断は、『T・T独立艦隊』の存在を把握している、海軍上層部の一部の人間に委ねられることになる。卓己にできるのは、監視役としての、口添えぐらいだ。

 

―――もう少し、俺が中央に近ければ。

 

今更悔やんでも仕方がない。

 

卓己が『刃櫻会』に入ったのは、単に成り行きに過ぎない。元はと言えば、彼の伯父にあたる海上自衛官が、『刃櫻会』の人間だった。その伯父が自衛官を退官する際、当時防衛大学校を出たばかりだった卓己を引き込んだのだ。

 

伯父の紹介であったこともあり、よく知りもしないで『刃櫻会』に所属をすることになった。ただ、元々卓己には出世欲というものがあまりなく、そもそも防大での成績もあまりよくなかったために、自衛隊の中枢に入り込む気はなかった。『刃櫻会』の中でもそれほど地位が高いわけでもなく、研究会の全容など知りようもない。

 

自衛隊から海軍に変わった今も、その中枢には『刃櫻会』の会員が入り込んでいるはずだ。一方の卓己は、たまたま『有資格者』であったことから、こうして提督となり、ルソン警備隊に配属になっている。重要な任務であることは理解しているが、やはり中央からは距離が遠すぎた。

 

せめて、日頃からもう少し、上の人間とのパイプを作る努力をしておくべきだった。そんなことを、今更悔やんでも仕方があるまい。

 

―――それでも、できれば彼女の意向に、添わせてあげたい。

 

勝手な思い入れをしてしまっている自分は、軍人としても、『刃櫻会』の構成員としても、他人の監視者としても失格だ。レッドカードで一発退場である。

 

同じレッドカードにしても、もう少し派手にやれないものだろうか。

 

「・・・ちなみに聞いておきたい。舞ちゃんは、どのタイミングで、Z海域を飛び出すつもりなのかな?」

 

卓己としては、何気ない質問、ちょっとした確認のつもりだった。

 

しかし、それを受けた舞の表情は、明らかに変わった。ただでさえ緊張感を帯びた瞳は、なお一層に研ぎ澄まされ、張りつめた空気を生み出す。こちらが気圧されそうになるほどの迫力だった。

 

「実は、その件に関わる、重要なお話があります」

 

変な喉の渇きを感じたが、冷めてしまった湯呑みに手を付けるわけにはいかなかった。卓己は黙って、続きを促す。

 

「タイミングとしては、『NT作戦』と同時か、少し後を考えています」

 

「その理由は?」

 

息詰まるような空間に吐き出された舞の言葉は、特大の爆弾に似た衝撃を伴って、部屋の空気をどよめかせた。

 

 

 

「『NT作戦』によってできる戦力の間隙を狙って、深海棲艦が本土を襲撃します。これを、Z海域から出奔した『T・T独立艦隊』で迎撃するのです」




・・・えっと、どこからコメントしようかな・・・?

陸上敵に備えてコマちゃんを育てました(誤魔化し)

荒潮改二はまだです(目そらし)
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