まだまだ続くよ機動部隊戦。突撃する翔鶴艦攻隊の勇姿をご覧ください
一機艦が敵機動部隊からの攻撃を受けている頃―――
西へと徐々に傾きつつある太陽に、蒼い海面が照らされている。頭上に広がる空とはまた違った蒼を湛える海は、波も穏やかで、キラキラと陽光を反射する。眼下に見える絶景につかの間頬を緩めた時、その報告はやって来た。
攻撃隊を誘導する“翔鶴”艦攻隊長妖精は、水平線上に目的の物を見つけ、内心で秘かにガッツポーズを作る。
攻撃隊正面、距離は六万といったところだろうか。水平線ギリギリに、波とは違う影が見える。チャートを確認すれば、それが攻撃隊が目標としてきた、敵機動部隊であることは明白だった。
その上空。まだ蚊ほどの大きさもないが、黒い影がブンブンと飛び交っている。恐らくは敵の直掩戦闘機。
二機艦を飛び立つ直前、一機艦が敵索敵機に見つかった旨、報告があった。とすれば、恐らく目の前の「乙イ」部隊は、そちらへ攻撃隊を差し向けたはずだ。
今は、第二次攻撃隊の準備中か。それとも、こちらの接近に気づいて、直掩機の増勢にかかっているか。
前者であってほしいものだが、後者であるとみるべきだろう。「乙イ」側もまた、日本海軍がその存在を掴んでいると、知っているはずだ。甲板上に並べていた攻撃隊をどかしたら、次は来襲するBOBの攻撃隊に備える。それが定石であり、最善手だ。
案の定、と言うべきか。敵艦隊上空の敵戦闘機の動きが、にわかに慌ただしくなる。敵のレーダーに見つかったか。
制空隊の“烈風”二十四機が、「ハ四三」発動機の唸りも高らかに、攻撃隊の前に出る。士気は高い。必ずや、攻撃隊に活路を開く。そんな気合がひしひしと感じられた。
制空隊を率いる“翔鶴”戦闘機隊長の“烈風”を見遣る。「任せろ」と言わんばかりに、力強くバンクをした“烈風”が、グングン攻撃隊を追い抜いていった。
敵直掩機との戦闘に向かう制空隊を見送りながら、艦攻隊長妖精は「突撃隊形作れ」の打電を後部座席の電信員に命令する。翼を連ねる“流星”たちが身を寄せ合い、襲撃が予想される敵戦闘機に備える。
制空隊と敵直掩隊の戦闘が始まったのは、“流星”たちが敵機動部隊までの距離四万を切った時だ。
二十四機の“烈風”と敵直掩戦闘機の機影が交錯し、飛行機雲を引きずりながら入り乱れる。初撃で落ちた機体は、彼我共にない。鋭く身を翻した戦闘機たちが、空中で激しいダンスパーティーを始める。
その様子を眺めながら、各機に目配せを飛ばし、バンクと共にわずかに機体を滑らせる。深海棲艦には悪いが、この“流星”も、艦攻隊長妖精も、ダンスは苦手だ。パーティーは眺めているだけでいい。
下手にダンスの輪に巻き込まれないように、攻撃隊は敵艦隊への進入路を変える。
その時、空戦場から抜け出してきた、空気の読めない敵戦闘機の影が見えた。数は多くないが、脅威であることには変わりない。襲撃を予感して、身構える。
攻撃隊に最後まで張り付いていた十六機の“烈風”が、わずかに前に出る。敵戦闘機への最後の砦だ。彼らの腕に期待するしかない。
それと同時に、スロットルレバーと一体化した発射把柄の安全装置を外す。艦爆の流れをくむ“流星”は、翼内に二〇ミリ機銃を備えている。いざとなれば、これで反撃するのだ。もっとも、重い荷物を抱えた“流星”たちが、戦闘機の機動についていける道理はない。あくまで牽制だ。
敵戦闘機は、他には目もくれることなく、一直線に攻撃隊の方へやって来る。それを防ごうとする“烈風”も必死だ。すれ違いざまに銃火を交わすと、鋭いターンを繰り出して、ダンスの誘いを無視した無礼者の背中を追いかける。
“烈風”の機銃と、敵戦闘機の機銃、両者はほぼ同時にその調べを奏でた。
攻撃隊の“流星”たちは、牽制の弾幕を形成しつつ、機体をずらして射線から逃れようとする。しかしながら、そこにはやはり限界があった。“天山”より良好とは言え、魚雷を抱え込んだ攻撃機の機動性など、たかが知れている。
弾幕を抜けてきた敵戦闘機に、二機の“流星”が喰われる。さらに一機が白煙を噴いて、速度を落とした。
とはいえ、敵戦闘機も無事ではない。“烈風”に撃たれて二機が、さらに“流星”からの弾幕に正面から突っ込んだ一機が、大威力の二〇ミリ機銃に捉えられて黒煙を引きずり、あるいは瞬時に炎の塊と化す。
残った敵戦闘機は、そのまま攻撃隊の後方へと抜けていった。追い抜きざまに、後部銃座から一三ミリ機銃が放たれるが、当たる道理はなかった。後ろに抜けた敵機のことは後部銃座に任せ、艦攻隊長妖精は前を見据える。他に、“烈風”の壁を突破してくる敵戦闘機はないか。敵機動部隊への距離はどの程度か。
敵機動部隊輪形陣中央の空母からは、依然として敵戦闘機が飛び立つ。数はまばらで、五月雨式だが、それでも増勢されていることに変わりはない。敵機動部隊への肉薄時に、障害となるのは明白だ。
輪形陣外縁までは二万五千メートルといったところだろうか。艦攻隊長妖精は、編隊の散開タイミングを、輪形陣外縁からの距離一万五千メートルとした。
航空機が一万メートルの距離を縮めるのに、さして時間はかからない。快速の“流星”であれば、ものの二分といったところだ。
それでも、その二分の間、攻撃隊は敵戦闘機の銃撃にさらされることになる。
“烈風”のエアカバーは厚く、強力だった。しかし完璧とはいかない。時折その壁を突破してきた敵戦闘機が攻撃隊に喰らいつき、一機、二機と“流星”を撃墜する。
翼をもがれるもの。穴だらけになったもの。発動機をやられたもの。そうした機体が、編隊から落伍する度に、空いた部分を埋め合わせる。
今はただ、ひたすら突き進むしかない。
敵戦闘機の五回目の襲撃が攻撃隊右翼に抜けた頃、ついに輪形陣外縁との距離が一万五千メートルを割った。
無線を飛ばすまでもなく、爆装隊は上昇へ、雷装隊は下降へ転じる。さらに各航空隊ごとに分かれて、狙うべき相手を見定める。
日本海軍の航空機戦術はシンプルだ。輪形陣外縁を命中率の高い急降下爆撃で叩き、しかる後に生じた対空砲火の空白部分から、雷撃隊が中央に侵入する。
今回もそのセオリーは崩さない。航空隊は大きな「個」の集合体だ。アクロバティックな戦術は執れない。だからこそ確実に、訓練通りにやっていく。
上昇した爆装隊の様子を見遣る。高度は四千メートルと言ったところだろうか。五百番を爆弾倉内に抱えた“流星”は、雷装よりもわずかだが身軽だ。「誉」発動機を高らかに吹かして、輪形陣上空へと迫る。
その後方から、敵戦闘機が追いすがる。それを阻むのは“烈風”だ。巧みな動きで敵戦闘機を寄せ付けない。
散開した爆装隊に対して、対空砲火が始まった。最初に発砲したのは、輪形陣外縁の駆逐艦と巡洋艦。続いて空母も高角砲を撃ち上げる。
対空砲火の真っ黒な花畑の中、爆装隊は臆することなく、敵艦へと接近していく。対空砲火の効果を減衰させるために編隊の間隔を広くした爆装“流星”を率いるのは、“蒼龍”の艦爆隊長だ。
投弾点に達したのだろう。爆装隊が次々と翼を翻し、急降下に入る。目標は輪形陣外縁、丁度雷装隊の正面を遮る形の巡洋艦と駆逐艦だろうか。特に巡洋艦の方は、艦体をハリネズミのように覆う対空火器を盛んに撃ち上げている。厄介だ。
急降下に入った“流星”を、さらに激しい対空砲火が出迎える。高角砲だけではなく、機銃の青白い曳光までが、爆装隊を包み込んだ。
弾幕に捉えられた“流星”は、ずたずたに引き裂かれ、あるいは跡形もなく爆砕されて、炎の塊となる。
それでも、全機を阻止するには至らない。
爆装隊の戦術は巧みだった。従来の、長機を先頭とした単縦陣での急降下ではなく、横陣を敷いての攻撃だ。この方法は命中率の低下を招くが、対空砲火を分散させることができる。
さらに、敵艦を両側から挟み込むように、数機ずつに分かれて攻撃を仕掛ける。どちらに逃げても、確実に捉えられる算段だ。
この戦術は、日本機動部隊の中で最も艦爆隊の練度が高い、“蒼龍”と“飛龍”の隊だからできる技だった。
雷装隊の目の前、輪形陣外縁の三か所で、ほぼ同時に水柱と火柱が生じた。白濁するカーテンの内側で、火薬が弾けて赤々と輝く。それは正しく、艦攻隊への道が開かれた合図だ。
水柱が収まった時、輪形陣右翼を構成していた巡洋艦一隻と駆逐艦二隻から黒煙が噴き上がっていた。駆逐艦二隻はすでに傾斜して、速力も落ちている。巡洋艦は耐えたようだが、後部が激しく燃えており、対空砲火が減殺されたのは明白だ。
仕事はしたぞ。そう言うように、敵艦艦上をフライパスした爆装隊が悠々と高度を稼ぐ。
今度は、こちらの番だ。その意志を込めて、「ト連送」の打電を命じる。全機突撃せよだ。
輪形陣外縁との距離は、すでに一万メートルを割っている。先ほどから対空砲火が飛んでくるが、その勢いは爆装隊に対するそれよりも明らかに衰えた。
行ける。これならば、輪形陣外縁を食い破り、中央の空母を狙える。艦攻隊長妖精はそう確信した。
四隊に分かれた雷装“流星”は、速度を投雷可能なギリギリのところまで上げて、輪形陣中央を目指す。一方で、高度は海面を這うように、プロペラの先端が波を叩いてしまうのではというほど下げている。
その頭上に、高角砲の炸裂音が響く。鳴動した大気が機体を容赦なく揺さぶり、弾片が翼を叩いて嫌な音を上げた。何度聞いても聞きなれない。
炸裂した高角砲弾の爆圧をまともに受け、一機が海面に叩きつけられる。
鋭い弾片に補助翼をもぎ取られた“流星”が、バランスを失って弾幕にもろに突っ込んだ。
機銃弾のシャワーも降り注ぐ中、艦攻隊長は自らが率いる十二機の“流星”の狙いを、正面に見えているヲ級に定めた。右舷の高角砲をこれでもかと撃ち出す深海棲艦の主力空母を、眼光で沈めんばかりに睨みつける。
超低空飛行を続けていた雷装隊は、ついに輪形陣外縁を突破した。黒煙を引きずる巡洋艦の艦尾を掠めるようにして内部に侵入した艦攻隊長機とヲ級の距離は、ついに四千を切った。
ヲ級の舷側に、機銃発砲の小さな光が連続してきらめく。次の瞬間、弾丸のシャワーが降り注ぎ始めた。まるでミシン目のように海面を打つ機銃弾。炎の礫が、燃える握り拳となってこちらに襲いかかる。
その中を、雷装隊はさらに距離を詰める。
片舷からの投雷であるため、回避もされやすい。それゆえ、ギリギリまで、敵空母の進路を見極める必要があった。
編隊の中央付近で炸裂した高角砲弾が、“流星”のエンジンカウルを引き裂く。
機銃弾に方向舵と昇降舵を破壊され、錐揉みになって落ちる機体もある。
艦攻隊長機の翼を機銃弾が掠めたのも、一回や二回ではない。
距離が二千を切った時、右側から強烈な光が発せられ、防弾ガラスに反射した。すぐ右横の列機が火達磨になって速度を落とし、海面の衝突する。燃料槽を撃ち抜かれたのだろうか。
何かを思っている暇はない。敵艦はもう目の前。あと少しだ。
ヲ級が舵を切る。こちらに艦首を向け、魚雷を回避するつもりなのだろう。
その動きを見極め、投雷位置と角度の最終調整を行う。まもなく、投雷距離としては標準的な、一千メートルだ。
左翼方向から、発動機にも負けない轟音が聞こえてきた。先に投雷した雷装隊が、他の敵艦に見事魚雷を命中させたのだろう。
次は我々だ。その想いをこめ、魚雷の発射レバーを引く。途端に機体が軽くなり、ふわりと浮かび上がる感覚がした。それを抑え込み、なおも低空飛行を続ける。
他の列機も投雷を終えた旨、報告がなされる。それに軽く頷いた艦攻隊長は、敵空母の甲板すれすれで引き起こしをかけ、フライパスした。そのまま、戦果を確認するべく、機を上昇させる。
回避運動を試みる敵空母のほぼ正横から、真っ白い航跡が迫る。数は九本。扇状に放たれたそれから逃れる時間は、ほとんど残されていない。
そして、その時が来た。
敵空母の艦尾付近、白線が吸い込まれ、一瞬の静けさが訪れる。次の瞬間、天を突く勢いで海水のオベリスクが立ち上がった。数は二本。巨大なヲ級の艦体が、衝撃で震えている。
重力に従って崩れ行く水柱が、太陽に照らされて白銀にきらめいていた。
そういえば、各艦の諸元をまとめようと書いてたやつを放置してた・・・
そっちも書いて投稿したいけど・・・どうなるか