パラオの曙   作:瑞穂国

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砲撃戦欠乏症を発症しかけの作者です

後・・・五話くらい?の間は航空機の話になるかと・・・

敵機動部隊からの第二波攻撃が一機艦に迫ります


静謐ノ海、激動ノ空

トラック環礁攻撃の主力となる一挺艦は、一機艦よりの方位一〇五、距離二十五海里の位置を、真東に向けて航行していた。

 

全十五隻のBOBが敷くのは、帛式防空陣形。パラオ泊地で産み出された、前方突破型の防空陣形だ。

 

その中央。山のような二隻の巨艦が、静かに海面を切り裂いている。日本海軍最大の戦艦姉妹、“大和”と“武蔵”だ。

 

一挺艦旗艦である“武蔵”に後続する“大和”の艦橋トップ、防空指揮所。戦闘即応状態でオートナビゲーションを設定した大和は、足元まで届きそうな長髪を風に揺らして、そこから艦隊全体を見回した。

 

トラック環礁北方では、すでに大規模な機動部隊戦が始まっている。しかしながら、激しい戦場の空気とは裏腹に、この一挺艦は静かな航海を続けていた。今のところ空襲はないし、敵艦隊と接触もない。潜水艦発見の報告と対潜攻撃は一応あったが、それもわずかに二回だけだ。

 

「・・・本当に、静かですね」

 

ポツリと呟いた声に応えるのは、艦上を吹き抜ける風のみであった。

 

その時、背後でブザーが鳴る。旗艦から入電があったことを報せる音だ。何か動きがあったか。

 

踵を返した大和は、入れっ放しにしておいたスピーカーからの声に耳を澄ます。

 

『“武蔵”より各艦。一機艦より入電。敵味方不明編隊接近中』

 

―――もう来た・・・!?

 

一機艦への第一波攻撃が去ってからまだ四十分ほどだ。今頃一機艦は、収容した直掩戦闘機隊に燃弾補給を施し、甲板上に並べて、カタパルトから撃ち出しているところだろう。

 

一機艦のいる方を見るが、二十五海里の彼方ではさすがに“大和”の艦橋トップからでも見ることができない。電探ならば辛うじて捉えているだろうか。

 

上空を見遣る。そこを飛んでいるのは、“祥鳳”から発艦した上空直掩の零戦十二機。一挺艦の空の守りだ。

 

―――祈るしか、ないのですね。

 

階下の第一艦橋へと続くラッタルを慎重に降りながら、そんなことを思う。

 

残念ながら、“大和”には二十五海里離れた味方を救援する能力はない。自慢の巨砲も、迫りくる敵機を叩き落とすことはできない。

 

今できることは、万が一敵編隊がこちらへ来た時に備えること。そして、明日以降の環礁攻撃を、必ずや成功させること。

 

艤装の前に立つ。戦艦級に相応しく巨大なそれを背負い込む。

 

「ブレイン・ハンドシェイク」

 

途端、記憶と時間の奔流が、大和を押し包む。それはかつて、自らと同じ名前を冠していた巨大戦艦の記憶。苦しくも懐かしい記憶。

 

大和は今、“大和”と一つになる。

 

精神同調が完了し、大和はゆっくりと目を開く。見慣れた艦橋は、どこか柔らかな光に満ちていた。

 

「精神同調完了。システム正常」

 

艦体各所の状態が、自らの感覚となってわかる。前進に伴ってまとわりつく風まで感じられそうだ。

 

「オートナビゲーションを解除。舵もらいます」

 

ジャイロコンパスの通り、針路を保っていたオートナビゲーションの設定が解除され、マニュアルに移行する。後は補針も大和の腕次第だ。

 

『こちら“霞”。潜水艦を探知したわ。これより掃討に向かう』

 

栗田からの許可が出るや、すぐに舵を切る二隻の駆逐艦。その姿を目で追いかける。

 

日没までは、後三時間を切ったところだ。

 

 

「直掩隊は、間に合いそうにありませんね」

 

発艦作業を続ける甲板上の零戦を冷静に見遣って、赤城はそう言った。全く同意見の塚原は、それに対して頷くだけに留める。

 

第一波攻撃があった後、一機艦各艦は被害を集計しつつ、直掩隊の回収作業に入った。燃料はともかく、連続した防空戦闘のために半数近い機体が弾薬不足に陥っており、補給の必要が生じたためだ。

 

しかしながら、ここで問題が生じた。

 

格納庫には春島攻撃を担当した機体が収容されている。これらの機体は、敵の第一波攻撃が来襲する直前に回収されていた。その直後に対空戦闘が開始され、激しい運動が予想されたため、補給作業にストップがかけられたのだ。

 

空母の格納庫は、爆弾やら魚雷やらガソリンやら、可燃物の宝庫である。補給作業には、特に慎重さが要求される。今回は、それが完全に裏目に出た。

 

攻撃隊が引き上げた時点で、回収する直掩隊と交代が可能な機体は、春島攻撃に参加した戦闘機の半数程度でしかなかった。

 

とりあえず、交代の機体を上げ、直後から直掩隊の回収を開始した。回収した機体は最前部の昇降機から格納庫に降ろされ、弾薬を補給される。しかし、例え補給が完了したとしても、直掩隊の着艦作業が終了して、飛行甲板前部に集められた全ての機体を下ろし終わるまで、新たに航空機を上げることはできない。

 

同じ全通甲板でも、現用空母と違ってアングルドデッキを有していない“赤城”は、発艦と着艦を同時に行うことはできないのだ。

 

かくして、新たな敵編隊の出現に、直掩隊は間に合っていなかった。

 

「先の攻撃隊から、まだ一時間弱。『乙イ』からの第二次攻撃隊とは考えにくいですね。とすれば、別の機動部隊でしょうか」

 

「だろうな」

 

トラック沖の機動部隊は全部で三つ。おそらくは付近にいた別の機動部隊から飛んできたものだろう。まだ発見していないが、暫定的に『乙ロ』と呼称することとする。

 

「攻撃精神旺盛なのは、さすがに元襲撃艦隊、といったところですね」

 

「こっちとしては、難儀な相手だ」

 

「まったくです」

 

ともかく今は、一機でも多く、直掩隊を上げることだ。

 

『上空の直掩隊は距離四万より迎撃を開始せよ。発艦中の直掩隊は艦隊上空で待機』

 

“利根”からの指示が飛ぶ。所属航空母艦関係なく、すでに高度を稼いでいる機体には、真っ先に敵攻撃隊の迎撃を任せ、しかる後に、現在発艦中の機体が高度を稼いだ後加わる。

 

とはいえ―――

 

「回避運動が主体になります。ぶん回しますよ」

 

「頼む」

 

秩序立った組織的な防空戦闘は、残念ながら今回は望めない。戦闘機と対空砲火の壁を破って来る雷撃機や爆撃機も、第一波の時より多くなるだろう。そうなれば、後は艦娘の操艦術に頼る他なくなる。

 

距離が四万を切ったところで、先に上がっていた直掩の零戦と“烈風”が襲いかかる。それに応えるのは、敵攻撃隊の制空戦闘機だ。上空は瞬時に銃火の入り乱れる戦場となる。

 

―――そう上手くはいかないか。

 

直掩隊の数が足りない。奮闘はしているが、制空隊の相手をするので手一杯といったところか。残った雷撃機や爆撃機は、悠々とこちらに接近してくる。

 

『全機迎撃開始。一航艦、六直艦は、対空射撃用意』

 

上空で待機していた残りの直掩隊も、スロットルを一杯に吹かして迫る攻撃隊に襲いかかる。とはいえこちらも、十分な数がいるとは言えない。いかに熟練した“赤城”や“加賀”の整備員と言えども、降ろしたばかりの機体全てをすぐに整備し、補給を行って甲板に上げることは不可能だった。

 

残った直掩機はわずかにニ十機。これが最後の盾だ。

 

翼を翻し、零戦が、“烈風”が、敵編隊に襲いかかる。これに対するは敵攻撃隊に最後まで張り付いていた三角形の戦闘機だ。

 

高速ですれ違う機体。敵戦闘機には目もくれず、零戦と“烈風”は攻撃隊の方に襲いかかる。斜め上方から攻撃隊に覆いかぶさるようにして銀翼をきらめかせた空の守護者たちが、襲撃者に鉄槌を振るう。

 

二〇ミリ機銃が命中した敵機が、バラバラになって落ちていく。

 

ミシン目のように機体を縫った一三ミリ機銃が燃料槽を直撃し、爆発四散する敵機もある。

 

推進器をやられたらしく、機体形状を留めたまま墜落していく敵機は、やがて海の蒼に吸い込まれていった。

 

一航過を終えた直掩隊に、敵戦闘機が追いすがる。あちらも攻撃隊を守ろうと必死だ。

 

鋭い旋回や横ロール、縦ロールがあちこちで繰り出され、乱戦の様相を呈し始める。何とか敵戦闘機を振り切った直掩隊の機体が攻撃隊に襲いかかり、一連射を加える。その後を敵戦闘機が追いかけ、再び巴戦に突入する。その繰り返しだ。

 

敵攻撃隊の数は、一向に減る気配がない。戦闘機隊の攻撃を受けて、一機、二機と撃墜されてはいるが、全体で百機もなる敵攻撃隊全体から見れば微々たるものだ。

 

輪形陣各艦が対空戦闘を始める前に、大きくその戦力を減じることは望めない。

 

“赤城”の左舷で、高角砲が旋回する。備えるのは急降下してくる爆撃機だ。雷撃機の方は六直艦に任せる。

 

次の瞬間、それまでまとまって進撃していた敵攻撃隊が散開した。輪形陣への突入態勢に入ったのだ。

 

『六直艦目標、敵雷撃機。一航艦目標、敵爆撃機』

 

“利根”からは予想通りの目標指示が届く。それからしばらくして、六直艦各艦が射撃を開始した。目標としているのは、左舷から侵入を試みる敵雷撃機の一群のようだ。

 

そして、“赤城”もまた。

 

「目標、方位〇〇五、高度三千の敵爆撃機」

 

赤城の指示が艦橋に響き、高射装置の導いた諸元に沿って高角砲が旋回俯仰する。中天を通過し、次第に低くなりつつある太陽が、砲口をギラリと輝かせた。

 

「撃ち方始めっ」

 

健在な左舷高角砲三基が、轟然と砲炎を吐き出した。薬莢が排出され、開かれた尾栓から、装填手が新たな砲弾を詰め込む。すぐさま尾栓が閉まり、再び発砲。わずかに数秒という発射間隔が、長一〇サンチ砲の売りだ。

 

“加賀”、“飛鷹”、“千歳”、“千代田”も続く。最後尾の“五十鈴”も、自らに備えられた一二・七サンチ高角砲を振り立て、迫りくる敵爆撃機に砲弾を投げつける。

 

高空の敵爆撃機周辺で、高角砲弾が炸裂する。真っ黒い雲が空を覆いつくすのではないかという勢いだ。雷雲にも似た激しい空を、敵爆撃機は飛行する。

 

一方、六直艦も奮闘している。

 

艦中央部への被弾の応急処置を終えた“秋月”は、四基の長一〇サンチ砲の性能にものを言わせて、猛然と対空射撃を続けている。狙うのは低空から侵入する雷撃機だ。真っ赤な火焔が、三、四秒おきに艦体の前後で沸き起こる。

 

激しい対空砲火が、敵攻撃隊の進撃を阻む。

 

しかし、その歩みを止めるまでには至らない。

 

その報告が、ついにやって来た。

 

「敵爆撃機、急降下!目標は“飛鷹”です」

 

黒光りする異形の艦載機たちが、一斉に身を翻すと、その翼を連ねて輪形陣中央に襲いかかってきた。




話を進めろ、作者

なんかね、もう少し色々と、上手く省けるんじゃないかと思うんですがね

もうしばらく、お付き合いお願いします
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