やはり時代は大艦巨砲主義!航空主兵など目ではないわ
大艦巨砲こそ正義!大きな主砲とおっぱいが世界を制するのだ!
甲板胸に用はn(この記述は何者かによって爆撃されたわ!)
「逐次回頭、艦隊針路一八〇」
「面舵二〇。針路一八〇」
角田が出した指示に、すぐ声が答える。比叡の号令後、艦橋上面に取り付けられた舵角指示器の針が動いていき、舵を右に二十度切ったことを示す。四万トンに迫る艦体は、もうしばらくすれば、右へと艦首を振り始めるはずだ。
一、二機艦が航空戦を繰り広げていた頃、角田指揮下の二挺艦は、井上指揮下の三機艦と行動を共にし、トラック環礁南西方面に展開が予想された敵艦隊に備えていた。
が、一日を使っての索敵にもかかわらず、敵艦隊発見の報はなかった。
角田は敵基地へのさらなる攻撃を具申したが、三機艦の目標はあくまで敵機動部隊であるとして、井上は退けている。先の大戦における、ミッドウェーでの第一航空艦隊と同じ轍は踏まない、ということだろう。
結果として、二挺艦も三機艦も、一度として戦闘を行うことなく、一日目を終えていた。
南西方面に敵機動部隊はいない。そう結論付けた井上は、一、二機艦と同じように、トラック環礁北方面に艦隊を差し向けると決定した。
一方の二挺艦は、当初の予定通り、南水道からの環礁内突入を目指す。
日没直前、その旨を艦隊間の大出力通信で一、二機艦、そして一挺艦に伝え、二つの艦隊は別方向へと舵を切った。
以後、二挺艦は潜水艦を警戒して之字運動を繰り返しつつ、夜明けを前にして水道まで三十五海里の位置まで迫っていた。
“比叡”よりも先に、前路哨戒を担当する“川内”、“白雪”、“深雪”が右に艦首を振った。細く鋭い艦影が、みるみるうちに右へと動いていく。朝陽を迎えるために、青白い色を帯び始めた東の空を背景にして、小型高速の艦たちが変針する。
次は“比叡”の番だった。艦が遠心力で左に傾きながら、針路を右に変えていく。正面右手に見えていた東の空が、ゆっくり左へと流れていった。
青白い光が艦橋のほぼ左正横に来たところで、“比叡”の転針が止まる。後続のBOBも次々に回頭していき、最終的に二挺艦が針路の変更と陣形の再構築に要した時間は三分ほどだった。
「・・・次の変針で、水道入りかな」
角田はポツリと呟く。
「敵艦隊がうまく一挺艦に誘引されているといいんですけど」
比叡が答える。
「ま、そう上手くはいかないしね」
昨日実施した索敵で、三機艦も一挺艦も、深海棲艦の艦影を捉えていない。つまり南水道付近には、敵艦隊の姿はなかったということだ。
ただし、索敵漏れということもある。
「零水偵の準備をよろしくね」
「わかりました」
同様の命令が二挺艦麾下の“金剛”、“高雄”、“愛宕”、“鳥海”にも飛ぶ。航空作業甲板で翼を休めていた零水偵に整備妖精が取り付き、折りたたまれていた主翼を展開し、発動機の始動準備に入る。一番機はすぐにカタパルトに乗せられ、発艦準備を完了した。
艦隊左舷方向から朝陽が昇り始める。赤々と新たな一日の始まりを告げる太陽に目を細めて、角田は下令する。
「索敵機、発艦始め!」
火薬が弾け、カタパルトが起動する。海面に頭を出し始めた太陽に向けて撃ち出された零水偵はその翼にしっかりと空気を捉え、定められた方向へと飛んでいった。
*
索敵機を発艦させたのは、二挺艦だけではない。
夜間のうちに北上し、昨日一、二機艦と深海棲艦機動部隊との激戦が繰り広げられた戦場に辿り着いた三機艦もまた、索敵機を発艦させていた。
カタパルトから射出され、自らが設定した索敵線を形成する“彩雲”を見守って、井上は艦橋に意識を戻した。
隣に立つ艦娘が、すぐに報告する。
「索敵機、全機発艦完了です。続いて、敵機動部隊への攻撃隊準備にかかります」
「うん。よろしく」
華奢な体つきながらも、スラリと真っ直ぐに立つ彼女の声に、井上は短く答え、頷く。
短く切り揃えられた髪を揺らして、航空母艦娘、大鳳がこちらを振り向く。
「あの、ほんとによろしかったんですか?」
「うん?なんのこと?」
あくまで私的な意見として言っているのだろう。声色と口調が、戦闘時よりも柔らかい。
口ごもるような間の後、大鳳が言った。
「基地攻撃という選択肢も、あります。居場所のわからない敵空母よりも、そっちを叩いた方が、確実です」
彼女の言うことはもっともだ。
昨日の早朝、一機艦は春島の敵基地に強襲をかけている。その攻撃が功を奏したのか、昨日一日、敵基地は行動不能に陥っていた。
しかし、それ以降攻撃が行われていない以上、敵基地は滑走路の復旧を終え、戦闘参加が可能になったと考えるべきだろう。実際、敵飛行場から出撃してきたとみられる機体に、一挺艦が襲撃されている。
一機艦攻撃隊によって、敵機の地上撃破や付帯施設の破壊は確認されているから、戦力が低減しているのは間違いない。それでも、十分な脅威となり得る。
「理由は三つあるかな」
教え子―――というよりも妹を諭すような感覚で、井上は理由を説明する。
「第一に、脅威度。今、優先すべきは、まだ未発見の三つ目の機動部隊を見つけることだ。見えない敵ほど、怖いものはないからね」
機動部隊戦の要諦は、突き詰めれば索敵にある。攻めるにしろ守るにしろ、まずは敵の位置を知らなければ意味がない。見えないところから一方的に叩かれるという状況は、何が何でも避けなければならない。
「第二に、三機艦各艦の、航空隊の練度。夜間飛行をさせるには、まだ不安が残るからね」
三機艦を構成する航空母艦は、“大鳳”を筆頭に“雲龍”、“天城”、“葛城”、“龍驤”の五隻。“龍驤”はともかくとして、残りの四隻は全て、『IF作戦』前後に着任した新鋭艦だ。航空隊の錬成は急ピッチで行われたが、残念ながら先に着任していた六隻の正規空母には及ばない。
「第三に、時宜を完全に逃していること。もしやるなら、昨日のうちにやるべきだった。それをやらなかったのは、俺の判断だけど」
もしも、昨日のうちに攻撃していれば、飛行場は復旧がなっておらず、こちらは迎撃機の襲撃を受けることなく、敵飛行場を十分に攻撃できた。しかし今となっては遅い。飛行場が復旧している以上、こちらの攻撃隊が熾烈な迎撃を受け、甚大な被害を被ることは目に見えていた。
今はとにかく、状況を揃えるべきだ。
「・・・わかりました」
頷いた大鳳は、それ以上何かを言うことはなかった。
二基の昇降機が甲板に航空機を並べていく様子を確認した井上は、改めて、先ほど飛び立っていった索敵機の行く先に思いを馳せる。
三機艦が夜を徹して北上している間、井上は作戦室に籠り、昨日の間に確認された各艦の状況を洗い出していた。そしてそこから、ある程度、もう一つの機動部隊の居場所に見当をつけ、索敵隊を放っている。
昨日のうちに、ついぞ姿を現さなかった三つ目の敵機動部隊。暫定呼称「乙ハ」としているその機動部隊の狙いは、果たして何なのか。
―――敵機動部隊は、南北での挟み撃ちではなく、東西での挟み撃ちを狙っているんだろう。
そうなると。今一番危ない状況に立たされているのは―――
「・・・先走り過ぎないでくださいよ、水雷馬鹿先輩」
なぜか空母機動部隊を率いている突撃大好きな先輩の顔を思い浮かべ、井上は誰にともなく、呟くのだった。
*
季節が季節だけに、トラック沖の夜と昼の長さは、ほぼ同じようなものだ。すなわち、半日の間、海上は月と星が支配していた。
時間にして約十二時間。たったそれだけの時間だが、航空機の目が失われるその短い間だけで、海の様子は劇的に変わるものなのだ。
最初にそれを捉えたのは、“鳥海”から放たれた索敵機だった。
『敵艦隊見ゆ。南水道よりの方位一九〇、距離十海里』
「敵艦隊だって!?」
報告を受けた比叡が、素っ頓狂な声を上げた。それもそのはず、昨日行われた索敵では、南水道付近に敵艦隊は確認されていなかったのだから。
索敵機からの報告は続いた。
『敵艦隊は、戦艦二、巡洋艦四を伴う』
「・・・立派な水上部隊だねえ」
おそらくは、索敵網の外にいて、発見を免れていたのだろう。そして夜の間に、水道の前に立ち塞がる位置まで移動してきた。
残念ながら、これを避けて通ることは難しそうだ。
現在二挺艦は、南水道のほぼ真南、距離三十海里におり、針路を〇六〇に取っている。この後最後の回頭を行って、南水道に侵入するつもりだった。敵艦隊との距離は約ニ十海里。予定通りに回頭を行い、現在の速力を維持したとすれば、会敵まで三十分もない。
―――やるしかない、か。
そんな角田の決意を知ってか知らずか、比叡はまるで狙ったように、たった一言、呟いた。
「是非もなしですね」
「・・・おー、比叡ちゃんには珍しく、乗り気だね」
「まるで普段の私が、やる気がないみたいな言い方、やめてくれます?」
いや、そういう意味ではないのだが。
いつだってこの娘は、やる気十分なのだ。頼りになる、相棒なのだ。
「ごめんごめん。比叡ちゃんが、僕と全く同じ考えなんて、珍しいからさ」
「あー、悪い病気が伝染してるかもですね」
「む、人のこと、悪い病原菌みたいに言うのやめてくれるかな?」
軽口を言い合うだけの余裕が、まるで信頼の証のように、角田には思えた。
「はい、司令」
比叡がマイクを手渡す。繋がっている先は、二挺艦全艦。受け取った角田は、マイクを口元に寄せ、スイッチを入れる。
「合戦準備」
短い指示が、艦隊中に届いた。
「合戦準備!」
比叡が復唱する。任せとけとでも言いたげに、妖精たちが艦内を駆け巡り、戦闘準備を進めていく。
一方、比叡は艤装との精神同調率を高め、これから始まる砲撃戦に備える。心なし、足元で唸る機関の調べが変わった気がした。高揚感を押さえつけ、冷静であろうとしているように、角田には思えた。その音色に、安心してこの身を委ねることができる。
「観測機は使えそうにありませんね。一応、待機はさせておきますけど」
比叡が残念そうに言う。
現海面は、深海棲艦の制空権下だ。味方航空機の援護は、現状では望めない。そんな状況で鈍足の観測機を飛ばすなど、自殺行為に等しい。
「電探と目視で頑張るしかないね」
角田の言葉に、比叡が力強く頷いた。やってやる、そう言っているようだった。
「さて、と。気合い入れていきますかねえ」
「あ、それ私のセリフです」
プクーっと頬を膨らませる比叡に、思わず吹き出してしまう。それから益々膨らんでしまう様子は、まるでフグみたいだった。
愛嬌のある相棒である。
二挺艦は取舵を切り、針路を〇〇〇に取る。その過程で、陣形を単縦陣へと変更、戦闘に備えていた。
「甲ハ」の呼称が定められた深海棲艦水上部隊と二挺艦が接触したのは、それから二十分後のことだった。
大艦巨砲主義者である作者、ようやく本領発揮です
作戦も二日目に突入し、いよいよ大詰め。ここから飛ばして参りましょう!