パラオの曙   作:瑞穂国

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物凄くお久しぶりになってしまい申し訳ありません!

長らくお待たせしていた、本土防衛戦の開始です!もう一つの決戦、お楽しみください


本土近海防衛戦
横須賀ノ防人


『NT作戦』が発動された頃―――

 

昼下がりの横須賀鎮守府。中天を通り過ぎた太陽が廊下に光を当てる。秋を迎えた陽気が、庁舎全体を暖かく包んでいた。

 

そんな、のどかな雰囲気とは裏腹に、横須賀鎮守府―――否、横須賀という街そのものが、慌ただしさを増していた。

 

その只中に、吹雪もいる。

 

横須賀鎮守府庁舎内の、資料室、執務室、そして秋山と吹雪の私室を順に巡った吹雪は今、数冊の冊子とファイル、それに二個の鞄を抱えて、廊下を早歩きで急いでいた。向かう先は、奥まったところにある作戦指揮室だ。

 

ノックもそこそこに、扉を開ける。今横須賀に残っている人間はほとんどいない。わざわざ確認する必要がないのだ。

 

「お待ちしていました」

 

ヘッドセットをつけたオペレーター数人が、軽い会釈で吹雪を迎える。それに応え、吹雪はそそくさとその奥を目指した。

 

オペレーターたちを見下ろす、一段高い位置。電子海図台が置かれたそこに、横須賀鎮守府の主はいた。

 

「来たか」

 

海図と睨めっこをしていた秋山が、吹雪に気づいて顔を上げる。緊迫を映す表情が、少しだけ和らいだ。

 

が、その顔もすぐに引き締められる。状況はすでに始まっているのだ。

 

「とりあえず、着替えだけ用意しました」

 

「ありがとう、助かる。今回は長丁場になりそうだからな」

 

それだけ答えて、秋山は次々電子海図に移される情報に目を通す。資料を脇の机に、持ってきた着替え類を部屋の隅に置き、吹雪もそれに倣った。

 

「状況はどうなってますか?」

 

「先にも言った通り、敵艦隊発見の第一報は、一時間前に入った。小笠原の哨戒部隊からだ」

 

秋山が海図台の一点を指し示す。赤の点でマークがされているのは、小笠原諸島から北へ二百海里ほどの位置だ。

 

「それから三十分後に続報。敵艦隊の詳細な位置、針路、速度に加えて、編成も可能な限り報告されている」

 

海図台の上で、赤い点が三十分分動く。その隣には、位置や針路、速度の数値、そして編成が羅列された。それに吹雪も目を通す。

 

「戦艦六、空母二、巡洋艦四、駆逐艦十二・・・随分偏った編成ですね」

 

「こちらの哨戒網を極力避けるための処置だろうな。参加艦艇も速力の高い艦ばかりで固められている。大規模な艦隊運動による時間のロスさえも惜しいらしい」

 

「現状で一番有効なのは、潜水艦による襲撃と考えますが・・・?」

 

現実的な提案をするが、秋山は難しい顔で思案したままだ。

 

「・・・潜水艦隊は出すが、足は長くない。それに、六隻もの戦艦を叩けるほど、火力もない」

 

「では・・・?」

 

海図台を最後に一睨みした秋山が、顔を上げる。

 

ここまでは、二人にとっては既定路線だ。

 

「とにかく、時間を稼ぐ。対抗可能な戦力が到着するまで、敵艦隊を足止めする。それが、作戦案の骨子だ」

 

そう言って、秋山はUSBメモリーを取り出した。それを海図台脇の端子に差し込む。中には一つのファイル。

 

「予定通り、この作戦を実施する」

 

「わかりました。ルソン艦隊、T・T独立艦隊には、すでに秘匿回線で作戦発動の旨、電文を飛ばしています。今頃は沖ノ鳥島沖から全速力でこちらを目指しているはずです。後は・・・」

 

「我々横須賀艦隊と、本土防衛艦隊の動き、だな」

 

確認するような秋山の言葉に、吹雪は頷く。手元のパネルを操作して表示したのは、横須賀鎮守府に所属する各BOBの状態と、第一護衛隊群各艦艇の状態だ。

 

「阿武隈さん率いる護衛艦隊は、第四十二次油槽船団の護衛を終え、八時間後にこちらへ帰還します。ただ、現在は船団護衛用の装備のままです。これを攻撃用の装備に換装し、補給も含めてすべての準備を完了するまで、さらに六時間はかかります。正味で十四時間です」

 

「現在位置から考えて、敵艦隊が横須賀を攻撃圏に捉えるまで二十四時間。・・・いや、こちらに見つかった以上、全速力で突っ切ってくるだろう。もっと短いな、十八時間といったところか」

 

「その計算ですと、会敵は浦賀水道から六十海里を切った海域になります。近いですね」

 

「大島沖、といったところか。もう少し、離れたところで迎え撃ちたいな」

 

相模灘に浮かぶ島を、秋山が見遣った。確かに、そこでは近すぎる。

 

現状、接近する敵艦隊を撃破しうる戦力は、T・T独立艦隊をおいて他にない。そのT・T独立艦隊が到着し、敵艦隊と会敵するまでは、どう頑張っても二十四時間がかかる。そのことを考えれば、横須賀残存艦隊が浦賀水道から六十海里という近場で会敵するのは、あまりにも危険だ。最低でも百海里以上の距離―――時間にして二時間の足止めが欲しい。

 

では、誰が足止めするのか。

 

「本土防衛艦隊―――第一護衛隊群が、最初の切り札だ」

 

 

「ウィングよりブリッジ。各艦、転針完了。本艦に続行中」

 

両舷に張り出した見張り所から、見張り員が後続艦の様子を報せた。転針指示を終えた杉浦嘉平艦長が、その声に短く答える。同じく艦橋に立っていた伊藤は、夜の海を切り裂いていく艦首に目を遣ったまま、やり取りを聞いていた。

 

横須賀出港から間もなく十時間。陽はとっくに暮れており、日付をまたぐまでほど近い。月も出ていないから、頼りになるのは星明りと電子の目だけだ。

 

もっとも、それだけが敵艦隊(戦艦部隊を「セイバー」、後方の空母部隊を「シールダー」と呼称)の様子を知る手段ではない。高度にシステム化された現代軍艦は、外部のネットワークと接続している。この場合、日本が保有する観測衛星システムを応用して、宇宙からも敵艦隊の様子を見張っている。言うなれば、第一護衛隊群は、遥か高空に目を持ったようなものだ。

 

これだけの条件があれば、“はぐろ”以下第一護衛隊群の全艦は、搭載するSSM―2をもって敵艦隊を攻撃できる。それをやらないのは、単純に人類製兵器が深海棲艦に効かないことと、今回の作戦目的には合わないことが理由として挙げられた。

 

今回の作戦、それは、本土へと迫る深海棲艦の撃滅ではなく、足止めを目的とする。

 

深海棲艦を撃沈できるのは、BOBのみだ。しかし、横須賀に所属するBOBたちは、いまだ装備の換装中であり、戦闘を行うことはできない。

 

換装終了後に深海棲艦の迎撃作戦を発動した場合、迎撃位置は今よりもずっと本州寄り、大島沖五十海里ほどの位置になると予想された。

 

現状での最善手は、本土防衛艦隊の残存戦力で、足止めすることだ。

 

―――簡単に言ってくれる。

 

緊張感に包まれる環境の中央で、伊藤はこの話を持ってきた海軍上層部への愚痴を、誰にともなく頭の中で呟く。いや、今回に限っては、こんな無理難題を振ってきた男の正体がわかっている。

 

相変わらず、食えない横須賀の隣人だ。

 

「群司令。先行した“いずも”の『ハチドリ』から、敵艦隊の最新情報が入りました」

 

CICから上げられた報告に頷く。

 

「ハチドリ」は、“いずも”に搭載されている、観測任務に特化したV-22“オスプレイ”のことだ。後方待機している“いすも”から発艦した一機が、数分前から深海棲艦艦隊の上空に張り付き、その状況を逐次報告している。

 

その「ハチドリ」から入った報告を、通信長がそのまま読み上げた。

 

「『敵「セイバー」部隊は、貴艦隊よりの方位〇九五、距離五万の位置。戦艦六、巡洋艦二、駆逐艦八を伴う。うち、戦艦一は他よりも大型の新型艦と認む』、以上です」

 

報告を終え、通信長が一歩下がる。艦橋の空気に、伊藤と杉浦だけが取り残されていた。

 

「新型艦ですか。例の、ハワイ沖に多数展開しているという、姫級でしょうか」

 

杉浦が伊藤にだけ聞こえる声で尋ねる。

 

「だとすれば、今回の作戦目的はより明確になるな。その新型艦を押しとどめれば、我々の作戦目的は達成される。その分、第一護衛隊群の負担は増えるがな」

 

「なんの。きついのには慣れっこですよ」

 

伊藤の言葉に、杉浦が口の端を吊り上げる。頼もしい限りの言葉だが、現実はそれほど甘くない。伊藤も杉浦も、数年前には実際に深海棲艦と砲火を交えた身だ。その恐ろしさは身をもって知っている。現代兵器が、有効でないことも、含めてだ。

 

「『ランサー』はどうなっている?」

 

「オペレーション『グランド・オーダー』発動に合わせ、すでに小松基地を出撃したとのことです。現着は三十分ほど後になるかと」

 

「ランサー」は、小松基地所属のF-35“ライトニング”、F-2“ヴァイパー”の混成部隊の呼び出し符丁だ。今回の足止め作戦―――オペレーション「グランド・オーダー」の、要となる。

 

「我々の牽制砲撃は、ニ十分後から開始する予定です」

 

「ニ十分後・・・。日付が変わって、〇〇一〇、か」

 

蛍光塗料が塗られた腕時計の針をチラリと確認して、伊藤はすぐに顔を上げた。

 

「数年ぶりに、砲弾の嵐へ突っ込むことになりそうだ」

 

 

 

『CICより艦橋。レーダーに感。敵「セイバー」部隊と認む』

 

実質的に戦闘指揮を執る砲雷長から上がった報告に、杉浦がすぐに答えた。

 

「群司令、始めます」

 

「わかった。全艦、合戦準備」

 

伊藤の指示も短い。いらぬ言葉は、極力捨て去るべきだ。

 

「合戦準備。全火器、安全装置解除。主砲、目標の選定は砲雷長に一任」

 

瞬間、艦橋の空気が変わった。誰もが慌ただしく、しかしながら言葉少なに動いている。息を殺し、まるで艦と一体となったかのように、艦の一部ででもあるかのように、ただ静かに身構える。

 

ステルス性を考慮したメインマストに据えられている射撃照準レーダーが、目標を指向する。灰色の前甲板では、CICからの操作で主砲塔が動き、六二口径という長砲身の五インチ砲を、射撃照準レーダーの指し示す目標へと向ける。ひとたび戦闘が始まれば、その速射性能にものを言わせ、砲弾の雨を降らせるのだ。

 

『CICより艦橋。「セイバー」の一部が艦隊を離脱。こちらへ接近してくる模様』

 

「艦橋よりCIC。離脱する敵艦の種類はわかるか」

 

『CICより艦橋。駆逐艦クラスが六、戦艦クラスが三。うち一隻は、旗艦と思しき大型艦』

 

「動いたか・・・!」

 

―――好都合だ。

 

五インチ砲とはいえ、“はぐろ”が搭載する現代砲は、第二次大戦級のそれとは桁外れの性能を有する。最大射程だけでも三万メートルを優に超えるそのロングレンジは、戦艦と張り合えるほどだ。

 

深海棲艦戦艦部隊の主力砲である一六インチ砲は、有効射程が三万メートル前後。すなわち、深海棲艦が第一護衛隊群と撃ち合おうとするなら、戦艦を持ち出さなければならない。

 

過去の戦闘から、そのことを学んでいるのだろう。第一護衛隊群の作戦を阻止するべく、「セイバー」部隊はその一部を差し向けてきたのだ。

 

そしてそこには、旗艦であり、殊更に大きな戦艦が含まれている。おそらく、そこに搭載されているのは、三万メートル以上の有効射程を持つ、大口径砲だ。逆に、こちらをアウトレンジで攻撃するつもりなのだろう。

 

―――当たるかどうかは、別の話だがな。

 

イージス艦の「イージス」は、ギリシャ神話に登場する最強の盾、「アイギス」を語源としている。本来の役割は、敵艦隊から飛来するミサイルを迎撃し、自艦隊を守ることにある。最近ではここに、弾道ミサイルを迎撃する能力が付与されている。

 

音速を超えるミサイルを迎撃するために、レーダーの性能はもちろん、目標を選定するコンピューターや対空ミサイルの誘導装置、全てを含めたシステムが非常に優秀な性能を誇る。その性能をもってすれば、飛来する戦艦の砲弾を捕捉し、予想落着点から退避、あるいは砲弾そのものを迎撃することは十分に可能だ。

 

ここで、第一護衛隊群が粘れば、「ランサー」が攻撃する隙も生まれるだろう。ようは囮であった。

 

作戦内容を振り返るような伊藤の思考は、CICからの報告によって遮られた。

 

『CICより艦橋!敵戦艦発砲、飛翔中の砲弾を捕捉!弾着まで六十秒!』

 

暗闇の水平線、戦闘の開始を告げるオレンジ色の砲炎が、海面と空を明々と照らしだしていた。




ここからどうしよう・・・

はい、作者は現代軍艦と旧式軍艦の撃ち合いが好きな変態です。ジパングとかはいふりとか最高だよね

舞たちの動向も気になるところです
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