パラオの曙   作:瑞穂国

143 / 144
ほんっとにお久しぶりです。生きてます。瑞穂国です。

この一年課題やら何やらで忙しく、全く更新をしていませんでした。申し訳ありません。

一応、小説を書くことは続けていました。友人と同人誌を出したりもしています。ただ、連載ものを書くほどの時間がなく、またハーメルンから遠ざかりがちだったこともあり、このように一年近い期間が空くこととなってしまいました。

そんな拙作ではありますが、どうかまた、楽しんでいただければ幸いです。


弾雨ノ先ニ

左へと大きく舵を切る“はぐろ”の前甲板から、再び大量の白煙が溢れ出た。がっしりとした箱型の艦上構造物、その頂部にある艦橋からの視界が一瞬白に染まる。数秒もすれば、炎を吹き出しながら、細長い円筒形の物体がせり出してきて、遥かな高空へと飛び立っていった。

 

SM-2が再び放たれたのだ。“はぐろ”を狙う敵戦艦からの第一斉射。そのうち、明らかな命中コースにある敵弾を迎撃するのだ。レーダーが捉えた八発の敵弾のうち、砲雷長は二発を命中コースと判断して、迎撃を指示していた。

 

第二波攻撃となる「ランサー2」の到着まで五分。敵戦艦の砲撃はおよそ三十秒おきに降り注いでいる。すなわちあと十回、この砲撃を凌ぎ切らなければならなかった。

 

―――そこまで持つには、余程の強運が必要だな。

 

そんなことを考え、今までの己を顧みる。産まれてからこの方、人並みに恵まれているとは思ってきたが、果たしてそれが運がいいと言えるほどだったかどうか。

 

くじ引きの類に当たったためしはない。かといって、外れを引いた覚えもない。今年の正月に引いたおみくじは中吉だったか。

 

現実を逃避する思考に頭を振る。強運は確かに必要だが、その強運で結果を引き寄せるには、やはり現実と戦わなければ。

 

『目標に命中。敵弾の迎撃に成功』

 

砲雷長の声も落ち着いている。これで二度目の、SM-2による迎撃だ。ここまで砲雷科は、訓練通りの練度を遺憾なく発揮している。

 

あと五分、耐え忍んでみせる。そんな決意がひしひしと感じられた。

 

「他艦の様子はどうか?」

 

一難が去ったことで胸を撫で下ろし、杉浦が確認を取る。すぐにレーダーマンから返事があった。

 

『敵弾は“こんごう”、“あさひ”に集中。両艦ともに回避運動、SM-2による迎撃にて対処。被害報告はありません。“あきづき”、“あけぼの”も回避運動継続中です』

 

―――よし。

 

胸中で頷く。理不尽な暴力を極限まで詰め込んだ鈍色の暴風雨に、第一護衛隊群は耐えている。積み上げてきた技術の粋を集め、抗い続けている。

 

時計の針を見る。蛍光塗料が塗られた針が指し示すのは〇〇二三。予定される「ランサー2」の到達まではあと四分に迫ろうとしている。

 

このまま乗り切れる。額に冷や汗を流しながら、誰もがそう思った。

 

その思いを剛力のままに押し潰さんと、最早何度目になるかわからない閃光が迸った。敵戦艦三隻による砲炎が闇夜をオレンジ色に染め上げ、赤々と海面を照らし出す。

 

―――頼むぞ、砲雷長・・・!

 

伊藤は拳を握る。この緊張感は何度経験しても慣れない。

 

『敵弾捉えた!弾着まで三十秒!』

 

その報告と同時に、前甲板から白煙が噴き出した。砲雷長は再び、SM-2による迎撃を命じたのだ。

 

『命中コース一発!対空戦闘開始しました!』

 

後追いで報告が入る。前部VLSからSM-2の弾頭が飛び出し、白煙を引きずって高空へと伸びていく。十数秒後、空中でめくるめく閃光が走り、迎撃の成功を報せる。

 

『迎撃に成功!』

 

その声に大きく頷いて、伊藤は次の指示を飛ばす。

 

「二分後、針路〇三〇にて陣形を再編成する。各艦回避運動を継続しつつ、逐次集まれ」

 

間もなく「ランサー2」が到着する。その前に陣形を戻し、再度の牽制砲撃に備えなければならない。

 

敵戦艦との距離は二万三千。回避運動を続けている間に、ジワリジワリと差を縮められている。おそらく砲撃開始時には、二万前後の距離になるだろう。つまり第一護衛隊群は、敵戦艦三隻の砲撃に晒されながら、牽制砲撃を実施しなければならない。

 

先の砲撃より、厳しい戦いになる。たった今目の前で噴き上がっている海水の巨木を見つめ、伊藤は深く息を吸いこんだ。これからあの密林の中を突き進み、一撃必中の矢を放たなければならない。

 

敵巨大戦艦が、新たな砲炎をきらめかせる。今度は命中しそうな砲弾はない。左へと舵を切りつつある艦の右舷側に、バベルの塔もかくやという白濁の影が八本、並び立つのみだ。ただし、震度七など当に超えている激震が、おまけでついてくるのだが。

 

さらに二分、三度の砲撃に晒されながらも、それらを寸でのところでかわし続け、第一護衛隊群は再度陣形を形成する。針路を〇三〇に合わせ、単縦陣を組み、「ランサー2」突入へ向けた牽制砲撃の準備に入った。

 

それを阻止せんと、今日何度目になるかわからない巨弾の群れが襲いかかって来た。“はぐろ”と“こんごう”からSM-2が各二発ずつ飛び出し、命中コースにあった敵弾を迎撃する。空中に爆発光が四つ。さらに至近弾が甲板を濡らし、艦体を激しく揺すぶった。

 

レーダーはすでに「ランサー2」を捉えている。もう間もなく、F-35による準備攻撃が始まるはずだ。

 

「右、砲撃戦用意。目標変わらず、敵旗艦両用砲群」

 

伊藤の命令が各艦のCICで復唱され、各艦の前甲板で主砲塔が旋回する。

 

先の戦闘で、相当数の一二七ミリ砲を放った。残弾数を考えれば、第一護衛隊群による牽制砲撃はこれが最後だ。同じく、現時点で作戦行動可能なF-2と、そこに搭載可能なイ号弾もこれで打ち止めである。これがうまくいかなければ、最早足止めする手段はない。艦娘による反撃作戦も、間に合わない可能性すらある。

 

「撃ち方始め」

 

伊藤の厳かな声により、第一護衛隊群の砲撃が開始された。各艦の甲板上で主砲口が光り、超音速の火矢を放つ。それらは狙い違わず、敵旗艦甲板上の両用砲、あるいは機銃へと吸い込まれる。

 

連続した閃光。ブルー・アイアン製とはいえ、その装甲板は通常兵器でも貫通できる。飛び込んだ一二七ミリ砲弾が内側から両用砲を吹き飛ばし、構造を引き裂き、スクラップへと変える。ブルー・アイアンの特性として、すぐさま元の形状を復元しようとし始めるが、それをも許さないほどの激烈な砲撃が第一護衛隊群より繰り出される。

 

苛立つように、三隻の戦艦がさらなる砲撃を放った。第一護衛隊群の現代艦艇たちとは対照的な、巨大極まる砲口から砲弾が放たれ、遥かな高空を飛翔し始める。

 

空中へ飛び出した時点で、砲弾は“はぐろ”のレーダーが捉えた。すぐに予想コースが算出され、命中する可能性のあるものへ向けてSM-2が発射される。全力砲撃中の今、敵弾への備えは回避運動よりも迎撃に重点を置かざるを得なかった。

 

―――もうしばらくはもってくれ・・・!

 

自衛隊時代から、イージスシステムを核とした対空戦闘の研鑽に勤めてきた。弾道弾の迎撃成功率は、常に九割以上を保っている。だがどれだけ研鑽を積んでも、物事に百パーセントはない。

 

砲雷長の腕がどれほど確かなものであろうと、最後には女神の悪戯的要素も加わってきてしまう。

 

そして今回の砲撃が、正にそれであった。

 

『CICより艦橋!敵弾一発迎撃失敗、“こんごう”へ向かう!弾着まで十秒!』

 

「っ!」

 

恐れていたことが起きてしまった。最善は尽くしたが、それでも一発が外れてしまったのだ。

 

「ワッチ、“こんごう”の様子を報告!」

 

焦りを滲ませ、杉浦がウィングへ叫ぶ。そしてあっという間に、十秒は経った。

 

巨弾が“こんごう”の装甲を貫き、炸裂する。装甲による防御を持たず、艦齢も三十に達する“こんごう”は、その衝撃に耐え切れず、真っ二つになって沈んでいく。そんな光景がありありと想像できた。

 

だが、身構えていても、“こんごう”が轟沈する爆轟音は聞こえてこなかった。

 

「敵弾、“こんごう”に命中!されど炸裂せず、“こんごう”いまだ健在!」

 

見張り員がそう報告する。

 

敵弾は、確かに“こんごう”に吸い込まれた。だが、その炸薬が爆発することはなかった。“こんごう”の装甲が薄すぎて、信管が作動しなかったのだろうか。

 

“こんごう”の乗組員にとっては、生きた心地がしない話だろう。

 

当然ながら、無傷とはいかない。

 

『“こんごう”より、“はぐろ”。誘導装置を破損、SM-2による迎撃は困難です』

 

―――やられた・・・!

 

第一護衛隊群に在籍する二隻のイージス艦のうち、一隻がその高度な迎撃能力を喪失したのだ。第一護衛隊群の中では“あきづき”も高い対空迎撃能力を持つが、それもイージス艦ほどではない。これより先、敵戦艦の砲弾を完全に防ぎきるのは難しくなるだろう。

 

だが、もう少しで決着がつくのも事実だ。すでに事前攻撃のF-35が緩降下に入っている。この事前攻撃が終われば、いよいよF-2による煙路への貫通爆弾攻撃が始まる。

 

後二射、凌げば何とかなる、というところだろうか。

 

F-35の腹から、ミサイルが離れた。全機が敵旗艦の煙突を目掛け、ミサイルを撃ちつける。排気の熱に引き寄せられたミサイルが、煙路内へ飛び込む。事前攻撃は十分だ。

 

少しでも邪魔者を排除したいのか、あるいは苛立ちからなのか、敵戦艦たちはさらに砲撃を放つ。夜闇を切り裂く閃光。爆炎が深海棲艦の怒りを表しているかのようだ。

 

カタログスペック上、“はぐろ”は同時に十二目標を追尾可能だ。理論的には、単艦でも第一護衛隊群全体をカバーすることはできる。

 

CICのレーダーマンが気を張る。敵戦艦三隻合わせて砲弾の数は二十発。そこから命中コースにあるものを計算し、すぐさまSM-2を放つ。

 

主砲の発砲炎を遮るように、VLSから白煙が上がる。そこからSM-2が飛び出した。飛翔を始めたSM-2は、CICが定めた目標に向け、誘導の通り向かっていく。今回は五発のSM-2が発射されていた。

 

十秒とせず、空中で爆発が巻き起こる。生じた火球は五つ。“はぐろ”は全弾の迎撃に成功していた。

 

『F-2四機、目標上空へ侵入します』

 

CICから報告が入る。上空を見れば、両翼灯を点滅させるF-2の姿が見えた。腹に抱えたイ号弾は二発ずつ、敵旗艦の煙突を狙っている。

 

四機は編隊を保ったまま、敵旗艦上空を艦尾から艦首にかけてフライパスした。肉眼で確認はできないが、すでにイ号弾は放たれたはずだ。今頃は熱源誘導が始まり、その突入コースを微妙に調節していることだろう。弾着までそれほど時間はない。

 

第一護衛隊群にできるのはここまでだ。あとはイ号弾の弾頭が、うまく敵旗艦の煙路防御を突破してくれることを、祈る他ない。

 

現在使用可能な火器の大部分を使っても、現代艦船では深海棲艦の足止めすら叶わない。悔しいがそれは、今まで嫌というほど味わってきた事実だ。だがそれでも、取り得る作戦は取ったし、最善を尽くした。

 

敵旗艦の煙突から炎が噴き出した。先と同じだ。イ号弾は確かに敵旗艦を捉え、その煙路内で炸裂した。後はそれが、機関部まで到達していたか否かの問題だ。

 

―――どうだ・・・!

 

暗闇の向こうへ目を凝らす。単縦陣を形成する敵艦隊の、その先頭へ意識を集中する。

 

『・・・敵旗艦、速力低下!敵艦隊、隊列乱れます!』

 

報告はCICから飛んできた。敵旗艦の速力が衰え、単縦陣を維持できなくなっているとのことだ。落伍する旗艦を避けるべく、後続の二戦艦も回避運動を取り、陣形が乱れる。

 

「やった、か」

 

安堵の息が各所で漏れた。イ号弾は見事敵旗艦の煙路防御を貫き、機関室を破壊したのだ。これで一時間は稼げる。

 

当初の予想通り、敵艦隊の進行は止まっている。やはりあの旗艦が動けるようになるまでは、足止めが利くようだ。

 

海空軍共同の足止め作戦は、見事成功したのだ。

 

当てつけのように、三戦艦が砲撃を放つ。正真正銘、これが最後の砲撃だ。これさえ凌げば、任務は完了する。

 

VLSからは、最多の六発が放たれた。高空へ昇ったSM-2は、定められた目標へ飛翔していく。

 

命中、そして空中での爆発。誰もが戦闘の終結を予感していた。

 

だが。

 

『敵弾一発、迎撃失敗!本艦へ向かってくる!』

 

“はぐろ”の艦内は一気に緊張感に包まれた。

 

距離二万を切った砲撃だ。SM-2で迎撃できなかった時点で、できることはほとんど残っていない。

 

CIWSが迎撃を始めるが、効果があるとは思えない。鋼鉄を食い破るために造られている戦艦主砲弾を、たかが二〇ミリの銃弾で破壊できる道理がなかった。

 

初めて経験する感覚。頭上へ迫る威圧感。

 

伊藤が認識したのはごくわずかな事象だ。金属の狂騒を引き連れ、何かが天井を食い破る音。何かが床を貫く音。

 

次の瞬間、“はぐろ”は浮かべる地獄へと変貌した。




前書きに長々と言い訳を書いたので、ここからは近況と今後をば。

前書きにも書いた通り、小説自体は書き続けています。創作意欲も無くなったわけではありません。時間の許す限り、パソコンで文字を打っています。

本作については、もちろん、当初考えていた終わりまで、書き続けるつもりです。
ただ、以前のような三日ごとの投稿は、とても厳しいと考えています。

不定期投稿になるとは思いますが、可能な限り、二週間に一回程度は投稿していきます。

今後とも、どうぞ曙たちのお話に、お付き合いください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。