パラオの曙   作:瑞穂国

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大和さんの建造から着任までで三話使ってしまった・・・

そろそろトラック攻略したいんですけど・・・

あ、まだですか、そうですか


黒鉄ノ城

彼女は彷徨っていた。

 

深い、深い眠りの中を。

 

それはまるで、封印されていたような感覚。

 

孤独と、安らぎ。

 

悲しみと、決意。

 

絶望と、祈り。

 

永遠とも思える闇。

 

否、光あっての闇であり、光のなかった彼女にとって、そこは闇ではなく、ただ自分の居場所でしかなかった。

 

けれども、彼女は気づいた。

 

ある時差し込んだ、一筋の光によって。

 

光が教えたのだ、今いる場所が闇であることを。

 

彼女は手を伸ばす。

 

呼びかける、温もりに溢れた光に。

 

私を呼ぶ光に。

 

わたしはだあれ?

 

わたしはだあれ。

 

私は。

 

私は、大和。

 

戦艦、大和。

 

その瞬間、時間と記憶の奔流が、彼女を押し流した。

 

長大な時間の体験が、彼女に使命を授けた時。

 

彼女は、闇の中で眠っていたことを忘れていた。

 

 

鋼鉄製の浮き城は、ドックから引き出されたことでその威容をさらに際立たせていた。空はすでに夕焼けと言って差し支えない色であり、それがまたその艦に差す後光のようで存在を主張する。しかしその凶暴なまでの魅力には、隠しようのない工学的な美しさと、深窓の令嬢を思わせるたおやかさがあった。

 

戦艦“大和”。誰もが知る、世界最大の戦艦だ。

 

「いや待て。大和だって断定するのは、早計じゃないか?」

 

呆気に取られている中、まず初めに口を開いた摩耶は、そう指摘した。

 

「確かに、それもそうだな」

 

数ある日本戦艦の中でも、“大和”型の二隻は特に見分けるのが難しい艦として有名だ。機銃等の増設をしていない建造当時の艦影は、正に瓜二つである。

 

ドックから引き出されたのは、両舷に一五・五サンチ三連装砲を備えている、建造当時のものだ。これでは、大和か武蔵か見分けるのは無理である。

 

さて、どうしたものか。

 

「直接訊くしかないな」

 

「直接訊くしかないわね」

 

「直接訊くしかねえな」

 

くしくも、榊原、曙、摩耶の三人の意見は一致した。幸い、甲板へと上がるためのラッタルは出ている。乗り込むことは可能だ。

 

「内火艇を出す。ちょっと待ってくれ」

 

長波が着任してから、摩耶はBOBを埠頭ではなく少し沖に泊めていた。そのため、相互に行き来するための艦載艇―――内火艇を、常に埠頭に着けている。これなら、すぐに接近できるはずだ。

 

妖精さんの手で操作される内火艇はすぐに動かせた。

 

「木曾、しばらく待っててくれ。俺と曙、摩耶で挨拶に行ってくる」

 

「わかった。その間は預かる」

 

主に自由奔放な駆逐艦―――というか、陽炎と長波のことだ。

 

寄せられた内火艇に摩耶、曙の順で乗り込み、最後に榊原が足を踏み入れる。すぐに内火艇が動きだし、埠頭を大和型戦艦の方へと離れていった。

 

「しかし、なんて大きさなんだ」

 

内火艇で接近したことにより、その大きさはより一層感じられた。まるで山だ。海上にそびえる山。遥かなる頂を見つめる目は、自然と細くなった。

 

“摩耶”も大きいと思った。だがこの戦艦に比べれば、その艦体などまるで子供のようにしか見えないことだろう。それほどまでに巨大で、ボリュームを感じさせる存在感があった。

 

「接舷してくれ」

 

摩耶の指示に、内火艇を操る妖精がコクコクと頷く。摩耶によく似た、愛らしい妖精だった。

 

ゆっくりと巨大戦艦の舷側に接近した内火艇の前に、ラッタルが迫る。完全には接舷できないので、この先は飛び移るしかない。

 

まずは榊原だ。上手くラッタルの一段目に飛び移り、数段を登って次を待つ。

 

「曙、先行け」

 

次は摩耶が来ると思ったが、彼女は曙に先を譲った。榊原は曙に手を差し出す。

 

「ひ、一人で登れるから!」

 

なぜかムキになった曙は、榊原の手を掴むことなく、内火艇から飛び移り―――

 

「っ!」

 

損ねた。左が上手く一段目に乗らず、バランスを崩す。

 

「危ない!」

 

とっさに手を伸ばしたのは、榊原も摩耶も同じだ。なんとか曙の右手を掴んだ榊原は、思いっきり引っ張る。背中側から、摩耶も押してくれたらしかった。

 

ドスッ。尻もちをつくと、引き寄せた曙の体が圧しかかる。曙の体は華奢で、そして軽い。それでも柔らかで甘い香りのする少女の体に、改めて艦娘というのがどういう存在なのか、気づかされた気がした。

 

「大丈夫か?」

 

「だ、だいじょう」

 

ぶ、と言い切る前に、曙の動きが止まった。というか固まった。至近距離の彼女の頬が、みるみる朱に染まっていった。

 

「い、いつまでくっついてんのよ、このクソ提督!」

 

受け止めた―――というか下敷きになったのに、ひどい言われようである。

 

慌ただしく榊原から離れた曙は、顔を真っ赤にしたままそっぽを向いてしまった。それを可笑しそうに見ながらも喉元まで出かかっている感想を口にしない摩耶を、曙は軽く睨んだ。

 

「ほらほら、さっさと行こうぜ」

 

目線だけで榊原を急かす。勾配の急なラッタルを、ほとんどよじ登るようにして、海面からかなりの高みにある甲板へと、三人は上がっていった。

 

夕陽に照らされてオレンジに染まった舷側を上りきると、開けた甲板に出る。丁度第一砲塔の辺りだ。呆れたほどに巨大なそれを、榊原はしばし見つめていた。

 

少し遅れて、曙も甲板に顔を出す。再び榊原が差し出した手は、さっきの件もあったのだろう、遠慮がちに掴まれた。彼女が最後の数段を上るリズムに合わせて、そっと引き上げる。

 

「あ、ありがと・・・」

 

上りきった彼女の言葉は、微か過ぎてやっと聞き取れる程度だった。

 

「摩耶も」

 

曙が甲板に立つと、最後に上ってくる摩耶にも手を差し出す。目を見開いて驚いた様子だった彼女は、照れたようにしながら手を取り、甲板へと上がった。

 

「はー、でっけえな」

 

甲板をぐるりと見回し、天高くそびえる艦橋を見上げた摩耶が、感嘆の声を上げた。

 

見るからに頑丈そうな艦橋だ。基部には司令塔があり、構造物の中段辺りに第二艦橋、トップは第一艦橋と露天の防空指揮所、さらに射撃指揮装置一式。相当な大きさと太さがあるにもかかわらず、その外観はかなりすっきりとまとまっている。高層ビルを思わせる構造だ。

 

「目覚めた艦娘は、どこにいるんだ?やっぱり、艦橋なのか?」

 

しばらく感傷に浸っていた榊原であったが、ようやく用件を思い出して曙に尋ねる。上を見上げたままの彼女は、無言で首肯した。

 

―――これを、上るのか・・・。

 

エレベーターはあったはずだが、機関が動いていない今、稼働しているかどうか。とすると、最頂部まで上る方法はただ一つ。艦橋に張り付いているラッタルを使うことだ。

 

一度、東京タワーを階段で上ったことを思い出して、榊原はげんなりとした。

 

艦橋背面のラッタルに向かおうとした榊原であったが、その必要がなくなったことにすぐ気が付いた。艦上構造物群の基部、鋼鉄製の小さな扉がおもむろに開き、中から女性が現れたからだ。

 

シャナリ。シャナリ。一歩を踏み出す度、そんな音が聞こえそうなほど、優美な歩き方だった。一目で、彼女がこの艦の艦娘なのだと思い至った。

 

背は高い。目測では摩耶より頭一つほど抜けているだろうか。ヒールが高い靴を履いているとはいえ、榊原といい勝負だ。すらりとしたプロポーションと、足元まで届きそうな長い髪。夕陽には不釣り合いな番傘。

 

三人の背筋が伸びる。甲板をこちらまで歩いてきた彼女は、夕焼けの中で花のように微笑んだ。

 

「お初にお目にかかります」

 

言葉の端々に、気品が溢れる。

 

「始めまして。俺は、パラオ泊地で提督をしている、榊原広人少佐だ。貴艦の名前を伺いたい」

 

榊原の言葉を黙って聞いていた彼女は、目を閉じて呟くように「榊原、広人少佐」と反芻した。それから再び目を開き、微笑を湛えてこう名乗った。

 

「始めまして。私は、超弩級戦艦“大和”型、一番艦のやまひょです」

 

場の空気が凍り付いた。

 

誰も、身じろぎ一つしない。

 

急速に傾いていく夕陽は、すでに三分の一が水平線の向こうに消えている。

 

沈黙に耐えかねた榊原は、左隣の曙の方へ体を傾けると、微かな声で囁いた。

 

「・・・噛んだよな」

 

「・・・噛んだわね」

 

「・・・噛んじまったな」

 

やまひょ―――もとい、大和と名乗った彼女は、さっきまでの淑やかさはどこへやら、顔を真っ赤に染めて、何かを堪えるように肩を震わせている。十数秒の後、

 

「・・・だからイヤだって言ったのにっ!!」

 

決壊した。両手で顔を覆って、その場にしゃがみ込んでしまう。大和撫子はどこへ行ってしまったのか。手から落ちた番傘が、ハタリと音を立てた。

 

「し、初対面の殿方の前で、とんだ醜態をっ!大和は・・・大和はっ!!」

 

まるで少女のように泣き出してしまった大和に、榊原はただただ困惑するだけだった。

 

「・・・おい、殿方。ちゃんと責任取れよ」

 

「俺のせいか!?」

 

摩耶はしれっとした顔をして逃れた。

 

「何泣かせてんのよ、このクソ提督」

 

ちゃっかり、曙も責を逃れている。

 

頬を掻いた榊原は、崩れ落ちている大和のそばに寄る。落ちた番傘を拾い上げ、それを片手に、自らもしゃがみ込む。目線は、大和と同じ高さだ。

 

「大和」

 

妹たちをあやした時のことを思い出す。時々喧嘩をしていた、小さい妹たちを宥めていたのは、いつも榊原だった。

 

声を掛けるときは、優しく。彼女の心に、届くように。

 

目元にうっすらと涙を浮かべていた大和は、それでも榊原の声に顔を上げてくれた。その双眸に、柔らかく微笑みかける。

 

「大丈夫。皆、君のことを歓迎しているよ」

 

ほんとですか。そう呟いた彼女の目元を、そっと白手袋で拭い、それから頭をポンと叩いたのは、ついいつもの癖が出てしまったからだ。

 

「もちろんだ。会えて嬉しい。これから、よろしく頼む」

 

片膝をつき、右手を差し出すと、大和は小さく頷いてその手を握り返した。戸惑いながらも、その瞳に笑顔が浮かんだ。

 

「はい・・・。よろしくお願いします、榊原提督」

 

立ち上がった榊原は、握った大和の手を引き上げる。姿勢よく立つ彼女は、やはり榊原と同じくらいの背丈があった。番傘を手渡す。

 

「彼女たちは、曙と摩耶」

 

一緒に乗り込んだ二人を紹介する。摩耶はイタズラっぽい笑みで、曙はそっぽを向いて「よろしく」と言った。

 

「さあ、今夜は歓迎会だ。他の皆も待ってる」

 

そう言って促し、先ほど乗り込んできた内火艇へと向かう。摩耶が先頭でラッタルを勢いよく下っていき、それに大和が続く。榊原は最後だから、三番目は曙だ。

 

先に降りる曙が榊原の前を通るとき、チラリとこちらを流し見た。

 

「・・・さっきの。女性の口説き方としては〇点」

 

「・・・そりゃどうも」

 

若干不機嫌な気がしたが、それを確かめる間もなく、曙はさっさとラッタルを駆け降りてしまう。まだ慣れない榊原は、一歩一歩気をつけながら、急勾配を降りていった。

 

「遅い!クソ提督!」

 

まるで先任伍長のようなことをのたまう曙に苦笑して、榊原は少しペースを早めた。

 

その日の夕食は、食堂部が腕によりをかけた料理の数々が並ぶこととなった。




ぼのたんに恋のライバル出現k(カットイン)

大和さんのキャラ、崩壊してなかったですかね・・・?気のせいですかね?

早く一式徹甲弾ぶっぱなしたいです
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