パラオの曙   作:瑞穂国

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どうもです

すみません、作戦開始まで後二話ほどお待ちいただきたく・・・

摩耶様のトラウマに少し触れておきたく


過去ノ影

連合艦隊司令部と各提督の最終打ち合わせは、多少白熱したものの、滞りなく終了した。結果、参加する艦艇と編成は以下の通り。

 

・第一制圧艦隊

 

東郷源八郎大将直率

 

“長門”、“陸奥”、“金剛”、“大和”、“曙”、“霞”

 

・第二制圧艦隊

 

塚原二四郎大佐

 

“赤城”、“加賀”、“飛鷹”、“隼鷹”、“五十鈴”、“秋月”

 

・第三直衛艦隊

 

近藤信忠中佐

 

“摩耶”、“祥鳳”、“瑞鳳”、“満潮”、“陽炎”、“長波”

 

・第四水雷艦隊

 

吹石雪花少佐(吹雪)

 

“川内”、“白雪”、“初雪”、“深雪”、“叢雲”、“磯波”

 

・第五遊撃艦隊

 

角田治美大佐

 

“比叡”、“高雄”、“愛宕”、“鳥海”、“綾波”、“敷波”

 

・第六潜水艦隊

 

板倉光希中佐

 

“伊一六八”、“伊五八”、“伊一九”、“伊八”

 

この他、本土防衛艦隊より、第一潜水隊群所属第一潜水隊“みちしお”、“まきしお”、“いそしお”、“じんりゅう”の四隻が、艦隊の海中の守りとして展開する。

 

第一潜水隊の保有する通常兵器ではブルーアイアンを無効化できず、深海棲艦を撃沈できないが、こと潜水艦が相手なら話は変わってくる。ブルーアイアンが艦体を再構築する間に、浸水と内殻の破壊によって、敵潜を圧壊沈没させることができた。これなら、敵潜を長時間行動不能にできるし、運が良ければ撃沈も可能だ。対潜水艦に限れば、旧自衛隊が保有していた最新鋭兵器は非常に有用だった。

 

さて、当の榊原はというと、“大和”に乗り込むこととなった。これは、東郷長官直々の要請によるものだ。

 

「一制艦(第一制圧艦隊)所属の戦艦三隻は、横須賀所属だ。だが、大和と護衛の駆逐艦はパラオ所属であり、特に大和と他艦の連携を考えると、補佐となる人間が必要だ。この役目は榊原少佐に任せるのが妥当であろう。それに、これが初陣となる大和も、気心知れた榊原少佐が一緒なら多少なりと緊張も和らぐはずだ」

 

東郷はそう言った。泊地に残って、後方の守りを任されると思っていた榊原は、一も二もなく承諾した。やはり、パラオ泊地を預かる者として、前線で艦娘たちと共に戦いたい気持ちが強かった。

 

打ち合わせが終わり、いよいよ本格的に、作戦が始まろうとしていた。艦隊がパラオを発つのは、一週間後の予定だ。

 

そしてその前に。榊原には、やはりどうしてもやっておかねばならないことがあった。

 

夜も更けていく泊地。風呂上がりの榊原は、湯冷めしないように気を付けながら、ある人物が出てくるのを待っていた。

 

大浴場前の休憩スペースには、大きな窓がある。空になったコーヒー牛乳のビンを片手に、そこから見える空を眺めていた榊原は、目的の人物が出てきたのに気づいた。

 

「出たぜ、提督」

 

風呂上がりの髪をタオルで乱雑に拭きながら、摩耶が榊原の方へとやって来る。しなやかな髪に水滴が絡まり、艶やかに輝く。風呂上がりで上気した顔から、ほかほかと湯気が立っていた。

 

「わざわざ呼び出してすまなかった」

 

「いいっていいって。こっちこそ、風呂先にさせてもらって悪かったな」

 

「さっぱりしたか」

 

「ああ。いい湯だな、パラオは。星も綺麗だしよ」

 

「同感だ」

 

摩耶は冷蔵庫に入ったコーヒー牛乳を一本取り出し、蓋を開ける。榊原の横に腰掛け、一気に呷った。美味しそうに息を吐く。

 

「それで、話ってのは、なんだ?」

 

一息で空になったビンを榊原と同じように弄びながら、摩耶は話を促した。榊原はチラッと摩耶を見遣り、その目を見つめる。普段には見れない不安を孕んだ瞳は、これから榊原が話そうとすることの内容を、ある程度予想しているのかもしれなかった。

 

「単刀直入に言おう」

 

泊地の姉御分に、誤魔化しは利かないだろう。

 

「摩耶に、艦隊旗艦の話が来ている」

 

瞬間、摩耶の表情が苦悶に歪んだように見えた。

 

「第三直衛艦隊の旗艦として、艦隊を守ってほしい」

 

これはあくまで榊原の希望だ。答えを出すのは、摩耶であると思っている。

 

重苦しいほどの沈黙が流れる。冷蔵庫の上げる低い音だけが、休憩室内に不気味に響いていた。

 

「・・・ダメだ」

 

それから絞り出すように、摩耶は言った。

 

「艦隊旗艦は受けられない」

 

「なぜなんだ?近藤中佐は防空戦闘の経験が豊富だし、十分に摩耶の能力を引き出してくれるはずだ」

 

「ダメなものはダメなんだっ!」

 

低く、苦しいまでの拒否だった。ビンを握る手に力が入り、今にも割ってしまうのではないかとさえ思えた。

 

「あたしは・・・あたしは、もう人間を乗せるつもりはない」

 

―――前には、乗せたことがあるのか。

 

ただ単純に、旗艦が嫌ということではないようだ。何かもっと、大きく深い理由で、彼女は艦隊の旗艦になることを―――自らに人間を乗せることを拒んでいる。それは、きっとすぐに克服できるようなものではないのだろう。

 

「そうか」

 

「悪い、提督。わがままだってのは、わかってるんだ。けど、あたしは旗艦はやらない」

 

摩耶は、榊原と目を合わせようとはしない。顔を下に向け、目を伏せて足元を見ている。横顔で、辛うじて唇を噛んでいることがわかった。垂れた前髪から、小さな滴がしたたる。

 

「・・・わかった」

 

「・・・え?」

 

榊原の言葉に、摩耶は驚いたように顔を上げた。その目端に見えた光るものは、果たして風呂上がりの水滴だったのか、あるいは・・・。

 

―――ダメな提督だな、俺は。

 

これ以上、彼女を苦しめるわけにはいかない。摩耶の葛藤がなくなるわけでなくとも、少しでもその心労を減らしてやることができるのならば。

 

「旗艦は別の娘にしてもらおう。近藤中佐には、俺から話しておく」

 

「け、けど、提督。お前・・・」

 

困惑したように、摩耶は言い淀んだ。言葉を探すように、答えを求めるように、榊原の顔を覗きこもうとする。だから榊原は、そんな摩耶に少しでも優しく見えるよう、表情を柔らかくして微笑む。

 

「摩耶は、やりたくないんだろ?どんな理由かはわからないけど、摩耶のやりたくないことを、強要はしたくない。選択権は摩耶にもあるんだからな」

 

摩耶の瞳が大きく見開かれ、またその顔を伏せてしまう。

 

「たく・・・甘いんだよ、お前は・・・」

 

そう呟いたように聞こえた。

 

「話はそれだけだ。風邪引かないように気を付けて」

 

立ち上がった榊原は、空になった摩耶のビンをヒョイと取り上げる。すでに力は入っていなかったらしく、いとも簡単に取れた。それを冷蔵庫横のビン入れに差し込む。

 

「提督!」

 

休憩室を立ち去ろうとした榊原を、摩耶の声が引き留めた。振り向いても、摩耶の顔はこちらを向いていない。それでも、彼女の意識が、しっかりと榊原のことを捉えているのがわかった。

 

「わがまま言って、ごめん。あたしを・・・信じてくれて、ありがとう」

 

息を吐く間があった。

 

「今は無理だけど。そんなあたしで、ごめんだけど。・・・いつか、絶対に話すから」

 

だから、待っててほしい。消え入りそうな声に、榊原ははっきりと答える。

 

「摩耶が待ってほしいなら、俺は待つよ」

 

その時。榊原の右手が自然と摩耶の頭に伸びたのは、染みついた癖だった。乗せた手で、湿った髪を撫でる。

 

「・・・子ども扱いするなよ」

 

再びの小さな言葉は、端がわずかに震えた。榊原は手を離す。

 

おやすみ。お互いにそう言って、榊原は今度こそ休憩室を後にした。

 

 

翌日。早朝にもかかわらず、近藤はすぐに捉まった。軽装の彼はランニングをしていたらしく、わずかに早くなった呼吸を整えながら、庁舎に戻ってきた。榊原は、それを庇の下で待つ。

 

近藤が、着けていたイヤホンをはずした。

 

「おはようございます」

 

「おはよう。何か用か、榊原少佐?」

 

「近藤中佐に、意見具申があります」

 

意見具申という言葉に、近藤が怪訝な表情となる。整理体操を取り止め、真っ直ぐに榊原の方を向いた。

 

「聞こうか」

 

「第三直衛艦隊の旗艦を、摩耶ではなく祥鳳にしてはいかがでしょうか」

 

「・・・理由はなんだ?」

 

額の汗をタオルで拭い、近藤は榊原の話を聞く姿勢を作ってくれた。ありがたい。

 

「防空戦闘において、摩耶は最後の砦―――対空射撃の要です。当然、戦闘の最前線に出ますし、被弾覚悟で艦隊を守ります。摩耶はそういう艦娘です」

 

榊原の言葉を、近藤は黙って聞いていた。合間に納得するように頷く。

 

「近藤中佐は、対空戦闘全体を指揮する提督です。でしたら、対空射撃において前線から距離を取れる祥鳳が、旗艦には適任かと」

 

すでに、祥鳳に了承は取った。摩耶が旗艦を拒む理由については詮索されなかったが、旗艦を引き受ける代わりに作戦後の一日デートを約束させられた。

 

「・・・わかった」

 

榊原の言を聞いた近藤は、全てを了承して強く頷いた。

 

「少佐の意見具申を入れよう。三直艦(第三直衛艦隊)の旗艦は、祥鳳にする」

 

「ありがとうございます」

 

礼を口にする榊原に、近藤は微笑を浮かべて首を振る。

 

「礼には及ばない。むしろ、少佐の意見具申に感謝したい。三直艦はほとんどパラオ所属艦だから、私としてもわからないことだらけだ。これからも、何かと助言をお願いするよ」

 

なんでも、近藤配下の艦隊は、『IF作戦』と同時に実施されるインド洋攻撃作戦に引き抜かれてしまったらしい。「どうせなら、私もそっちに連れて行ってくれればいいのだが」と、榊原より二、三ほど年上の顔が苦笑いを浮かべた。口元が爽やかな好青年だ。

 

「長官には私から言っておこう」

 

近藤はそう言って戻っていった。その背中に深々とお辞儀をする。

 

―――大丈夫だ。あの人なら、艦隊を守ってくれる。

 

榊原はそう確信していた。

 

このまま庁舎に戻ろうかとも思ったが、清々しいパラオの朝が、榊原を強く引き留めた。泊地を照らす朝陽を、手をかざして見上げる。混じりっけのない空気に、太陽光線がまっすぐに浸透していた。

 

「・・・提督?」

 

背後から声がかかった。大和だ。

 

「おはよう」

 

「おはようございます。どうされたのですか、こんなところで?」

 

柔らかい所作で榊原の横に立った大和も、榊原と同じように手を庇にして、朝陽と、そして光に満ちる海面を眺めた。その相好が、緩く綻んだ。

 

「綺麗な朝ですね」

 

何も混じらない、素直な感嘆が、大和の口からこぼれ出た。心に染み入る言葉に、榊原も頬を緩めて頷く。

 

「ああ。いい朝だ」

 

余計な言葉などいらないのだ。感じたまま、この風景を美しいと思えれば。

 

「もう二か月もいるのに、改めて思った」

 

なぜ、いまさらそんなことを思ったのだろうか。理由はよくわからなかった。それでも構わない。本当に、美しいのだから。

 

「・・・あの、大丈夫ですよ、提督」

 

「?どうした、急に」

 

こちらを窺うようにしていた大和は、わずかに頬を染めながら、視線を惑わせてこう言った。

 

「大和は、これが初めての実戦ですけど。必ず、提督のことをお守りします」

 

―――ああ、そうか。

 

この娘も、だ。俺のことを信じてくれている。

 

―――俺は、まだまだダメだな。

 

大和にまで、気を遣わせてしまうようでは。本当は長官が言ったように、俺が彼女の緊張を和らげる側なのだから。

 

なぜなら俺が、彼女たちの提督なのだから。

 

「ありがとう」

 

彼女たちには、感謝してもしきれない。

 

―――だから俺も、彼女たちを守ろう。

 

彼女たちと共に戦う者として。

 

榊原は右手を差し出して、大和に握手を求める。共に戦う、提督と艦娘として。

 

その手の意味を理解したのか、大和は恥ずかしそうに朱を強くして、そっと手を握り返した。

 




今回は、現代潜水艦群が登場しました

各国の現代兵器群は、基本的に自国の防衛のみに回っています

どこかでその辺りも触れられるといいのですが

それと、やはり旧海自艦隊と連合艦隊では、色々と確執があります。潜水隊を一個しか出してくれなかったのも、そのせいらしいですよ
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