パラオの曙   作:瑞穂国

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今回は会話多めです(当社比)

ここから、この小説の設定みたいなのが、色々と語られていきます


閉海ノ探索者

朝が、海上にやってきた。水平線まで澄み切った海面に、朝陽が顔を見せる。波頭をオレンジ色に染める光景に、榊原は目を細めた。

 

「朝、ね・・・」

 

呟いた曙の視線は険しい。その目線は、緩やかに波を切り裂く艦首の先を向いていた。

 

そこには、三隻の艨艟が、“曙”たちを誘導するかのように、静かに航行している。特に、正面の艦影が印象的だった。細く絞られた艦体に、どっしりとした連装砲塔が乗っている、見るからに速そうな戦艦だ。スッキリとまとまった艦橋は、パラオ泊地に所属する“大和”に似ている。

 

“雲仙”型超巡洋艦、一番艦の雲仙。彼女はそう名乗った。

 

超巡洋艦と言えば、マル五計画で建造が予定されていた艦艇だ。B65型とも呼ばれる。条約型重巡洋艦を圧倒しうる砲力を求められ、三〇サンチ砲を搭載する予定であった。最終的な艦型は、おそらく米海軍の“アラスカ”級大型巡洋艦に近いものとなっただろう。

 

ただ、目の前の“雲仙”は、超巡洋艦というにはあまりにも強力だ。三六サンチ砲搭載の巡洋艦など聞いたことがない。それはもはや、巡洋戦艦や高速戦艦と呼ぶべき代物だ。

 

―――想像以上に、とんでもない艦だ。

 

鋼鉄をきらめかせる“雲仙”を、榊原もまた見つめる。丁度その時、“雲仙”から通信が入った。

 

『タウイタウイ泊地まで五海里です。入港の準備を』

 

「了解」

 

入港準備の指示を受け、曙が精神同調に入る。入港時の細かな作業は、艦と一体になった艦娘にはお手の物だ。

 

太陽が昇ったことで、近づいてきた島の形がはっきりし始めた。そこに設けられている港湾施設もよく見える。この数年間、船舶の出入りがなかったとは思えないほど、整備の行き届いた施設だった。

 

あれが、謎の艦隊―――『T・T独立艦隊』が拠点とする、港湾施設なのだろう。

 

「停泊中の艦船を確認」

 

曙が報せる。榊原も双眼鏡を覗き込んだ。第四埠頭への入港を指示された“曙”の進路に、邪魔になる船がないか確かめる。

 

「・・・デカいな」

 

真っ先に浮かんだ感想はそれだった。

 

港湾施設の沖に、錨を打っている艦船。その中で、一際大きな艦体を持つBOB。

 

「泊地まで三海里」

 

港湾施設が近づいてくるにつれ、その艦影もはっきりとして来る。同時にそのあまりに巨大な艦体も際立つ。

 

天までそびえるような艦橋。要塞がごとき主砲塔からは、極太の砲身が突き出している。針鼠のような高角砲は、遥かなる高空を睨む。それらの艤装類を支える艦体は、巨躯と呼ぶに相応しい。

 

それだけではない。泊地には何隻ものBOBが停泊していた。

 

同型と思しき大型空母が二隻、仲良く寄り添うようにして錨を下ろしている。

 

高角砲を満載した巡洋艦。

 

艦型のよく似た重巡洋艦と軽巡洋艦。

 

“雲仙”の同型艦と思われる戦艦も見えた。

 

そのどれもが、日本海軍―――否、世界のどの海軍の艦型識別表にも記載されていない軍艦たちだ。

 

タグボートが近づいてくる。“曙”を第四埠頭に横付ける手伝いをしてくれるようだ。後ろの“瑞穂”と“漣”にも、同じようにタグボートが付き従っている。

 

―――全ては、これから明らかになる、か。

 

憶測を並べる必要はない。答えは目の前にあるのだから。自ら真実を解き明かすことができるのだから。

 

この艦隊の目的。そして、存在しないはずの軍艦たち。

 

第四埠頭に待つ人影を見つけた時、“曙”が着岸作業に入った。

 

 

 

「ようこそ、タウイタウイ泊地へ」

 

舷梯から降り立った榊原と相模を、朗らかな笑みの少女が敬礼で出迎えた。

 

着ているのは海軍の白い第二種軍装だ。年の頃は十六、七といったところだろうか。まだ幼さの残る顔に、深みのある瞳が印象的だった。

 

その隣には、長身の女性が立つ。いわゆる巫女服を着た彼女は、きりりと引き締まった表情のまま、少女の横に立っていた。

 

少女の敬礼に、二人も応える。手を下げた後、少女が名乗った。

 

「タウイタウイ泊地提督、磯崎舞特務大尉です」

 

内心の衝撃は言うまでもない。これほどの規模を持った艦隊を預かっているのが、明らかに年端もいかぬ少女だったのだから。

 

「パラオ泊地提督、榊原広人中佐です」

 

「ルソン警備隊提督、相模篤少佐です」

 

それぞれに名乗った後、握手を交わす。舞の手は手袋越しでもわかるくらい温かく、こちらをしっかりと握り返してきた。彼女の信念のようなものを、感じた気がした。

 

「応接室の方へ、ご案内します」

 

巫女服の女性―――紀伊と名乗った『T・T独立艦隊』の秘書艦の案内で、二人と曙、瑞穂、漣は庁舎の方へ足を向ける。その間、隣を歩く舞が、『T・T独立艦隊』の概要について軽く説明を入れてくれた。

 

「私たちの艦隊は、戦艦一隻、空母二隻、超巡洋艦二隻、重巡洋艦一隻、軽巡洋艦三隻、駆逐艦六隻で構成されています。創設はおよそ二年前。私は二人目の提督になります」

 

「二人目?」

 

「前任者に会ったことはありません」

 

舞がチラリと紀伊を窺う。

 

「調べることは可能だと思いますけど、正直この半年間、それどころではなかったので」

 

「それは・・・そうでしょう」

 

半年間。この、誰にも知られることのない、秘密の艦隊を、一人で指揮してきたということか。余裕なんてないであろうことは、同じように一人でパラオ泊地を切り盛りしていた時期がある榊原にもわかった。

 

「ここの艦娘たちとは、どのように邂逅を?」

 

「皆建造だそうですよ。まあ、私が着任するよりも前の話なんですけど」

 

―――この艦隊を育てたのは、その前任者ということか。

 

きっと、舞自身も、まだまだ答えを探している途中なのだろう。

 

応接室は、決して大きな部屋ではなかった。榊原と相模はともかく、曙たちが座るスペースはない。三人には待っているように指示をして、二人だけが舞と紀伊と共に中に入った。曙たちについては、奥入瀬と名乗った気の優しそうな軽巡洋艦娘が、レクリエーションスペースへ案内してくれた。

 

応接室のこじんまりとした机に、榊原と相模、舞と紀伊が向かい合って座る。机にはすでに全員分のお茶が用意されていた。

 

「わざわざお越しいただいて、ありがとうございます」

 

「いえ、こちらこそ、無理を言ってしまいました」

 

彼女たちとの接触のために、多少強引な手を使ったことは、榊原も聞いている。二人は揃って頭を下げた。

 

「本題に入る前に、お聞きしてもいいですか?榊原中佐と相模少佐は、どうして私たちの存在に辿り着いたのですか?」

 

「正確には、気づいたのは我々ではなく、横須賀に所属している提督です。トラック沖海戦の精査をしていた際に見つけた矛盾点を洗い出した結果、同海域にもう一つの艦隊が存在した可能性を導き出しました。彼自身は、直接調査をできる身の上になかったので、自分と相模少佐が調査を引き受けました」

 

「・・・まあ、そうですよね。あれだけ、派手にトラックを攻撃しましたし」

 

舞は苦笑気味に頬を掻いた。それから咳払いを一回挟み、本題を話し出す。

 

「さて、まずは何からお話ししましょうか」

 

「皆さんの目的について、お聞きしたい」

 

「そうですね。では、そこから話を始めましょう」

 

榊原の問いに頷いて、舞は湯呑みに口を付け、話を始めた。

 

「私たちの目的は、大きく分けて二つあります。一つ目に、Z海域における深海棲艦の動きの監視。二つ目に、深海棲艦と艦娘の存在の探求」

 

舞は二本の指を立てる。

 

「Z海域の監視は、タウイタウイ泊地創設時から変わらない目的です。お二人もご存じの通り、Z海域は深海棲艦の行動が活発な、危険海域です。さらに言うと、深海棲艦全体の性能も練度も、他の海域のものより高い」

 

その点に関しては、榊原も身を持って体験していた。

 

「・・・それに加えて、Z海域内には、ここにしか存在が確認されていない、未知の深海棲艦が展開しています」

 

「それは、ハワイ沖の・・・暫定呼称が『鬼』や『姫』とされているものとは違うのか?」

 

手を上げて尋ねたのは相模だ。舞は首を横に振る。

 

「場合によっては、それよりもさらに、タチの悪い存在です。性能はもちろん、練度も異様に高い。例えば戦艦で言えば、初弾命中は日常茶飯事です」

 

二人は息を飲む。戦艦の砲撃において、理想とされる初弾命中であるが、いざ成そうとした時に実現するのがいかに難しいことかは、深く考えずともよくわかる。

 

「通常のBOBでは、まず太刀打ちできない深海棲艦。私たちは“イレギュラー”と呼んでいます」

 

「“イレギュラー”・・・」

 

「これらの深海棲艦が、Z海域外に出て行ってしまうことは、非常に危険です。今のところそのような兆候はありませんが、Z海域内での深海棲艦の動きには、注意を払っていかなければなりません」

 

「・・・もしかして、皆さんがトラック沖で作戦行動を行っていたのは、その“イレギュラー”が確認されたからですか?」

 

「その通りです。先ほどもお話ししましたが、私はこの艦隊の提督としては二人目になります。ですが、前任者から直接引き継いだわけではありません。私が着任するまでの一か月ほど、提督不在によりこの艦隊の活動が停滞していた時期がありました。おそらくその間に、警戒線を抜けたものと思われます」

 

「それで、わざわざトラック沖へ出撃を?連合艦隊に任せるという判断はなかったのですか?」

 

舞は静かに首を横に振った。

 

「まず第一に、“イレギュラー”の存在を公にするわけにはいきませんでした。それに、トラック沖の“イレギュラー”―――コードネーム“コマツグミ”と呼ばれている戦艦は、連合艦隊が戦うにはあまりにも強力過ぎます。“イレギュラー”との戦闘に慣れている私たちが相手取るべきだと判断しました」

 

筋は通っている。“イレギュラー”というのがどのような深海棲艦なのか、榊原は実際に見たわけではないから、何とも言えない。逆に言えば、何も知らないのだ。そんな相手と戦うのは危険すぎる。であるならば、すでにそうした経験のある『T・T独立艦隊』に任せるのが上策というものだ。

 

まあ、終わったことをあれこれ考えても仕方がない。

 

「では、皆さんの第二の目的、深海棲艦と艦娘の存在の究明については?」

 

「これも、“イレギュラー”の存在が大きくかかわっています」

 

そこで舞は、隣に控えていた紀伊に目配せをした。紀伊が頷いて、巫女服の袖から一枚の紙を取り出す。大きさや紙質からして、写真の類であると思われた。

 

差し出された写真を受け取り、榊原と相模は覗き込む。

 

映っているのは、三人の女性だ。一人は舞。もう一人は、衣装は変わっているが紀伊であるとわかった。

 

最後の一人は、夜の海を思わせる漆黒のドレスを纏っている。黒のリボンをした深い艶のある銀髪は長く、風になびくのを白い手が押さえていた。瞳は深紅。不思議な佇まいの女性だった。

 

さらに、写真を取られた場所も不可思議だ。おそらくは船の甲板上。しかし、その甲板は所々煤汚れ、被弾のような跡も見える。

 

「この写真は・・・?」

 

「“アマギゴエ”という“イレギュラー”との戦闘後に撮ったものです」

 

―――まさか・・・!

 

榊原の背中を、雷に打たれたかのような衝撃が走った。

 

「彼女は、“アマギゴエ”の『艦娘』、アスチルベです。“イレギュラー”には・・・いえ、全ての深海棲艦には、彼女のように『艦娘』と同じ役割を果たす存在がいます」

 

それはつまり―――

 

「私たちと深海棲艦は、限定的ですが、意思疎通を図ることが可能です」




いきなりの衝撃発言!

深海棲艦と艦娘、二つの存在の違いとは!?

作者も気になる、次回に乞うご期待!
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