パラオ防空戦、後二話くらいかな?
現代戦闘機とレシプロ機の戦いって・・・一方的すぎる
レーダーに映る多数の敵機の影。それをチラリと確認しながら、菅野は防空指揮所からの指示を待っていた。
『防空指揮所より各機。敵編隊へのミサイルによる攻撃を許可する。以後は管制機の指示に従え』
パラオ上空には、早期警戒と防空隊誘導としてE-2Cが展開している。防空戦闘時の細かなデータは、このE-2Cから送られることになっていた。まさに“ホークアイ”―――鷹の目である。
「了解」
各機から返事がある。戦闘機隊の先頭を飛ぶ菅野は、不敵な笑みを浮かべて、管制機からの指示を待った。
『“ホーク”より各機。マーク“アルファ”を攻撃』
六十機からなる敵編隊第一波。その鼻っ面をガツンと叩くイメージだ。
選択したミサイルが、目標をロックオンする。敵一機に付き、ミサイルも一機。過去の戦訓から、深海棲艦の機体性能では、ミサイルの追尾能力をかわすことができないと判断されていた。
操縦桿と一体化したスイッチのカバーを外し、押し込む。胴体下のステーションからミサイルが脱落し、数瞬後に推進器が点火、ロックオンした目標へと真っ直ぐに飛翔していった。ミサイルの数は八機。
使用したのは、AAM-4九九式空対空誘導弾。中距離戦闘用のミサイルだ。今回の出撃では、F-15とT-4改造機が搭載している。F-15は四機ずつ、T-4は二機ずつ、計二十四機。
―――大人しく、餌食になれ!
レーダーで捉えている敵編隊とミサイルの動きを確認しながら、菅野は次発の用意をしている。敵編隊先頭集団は、何とかこのミサイルを回避しようともがいているようだが、そんなものが通じるはずもなかった。
菅野機から伸びていった輝点が、敵機を示す輝点と交錯し―――お互いが消える。同じようなことは、八回続いた。敵編隊先頭の八機が、ミサイルによって撃墜されたのだ。
なんとも味気ないようだが、これが現代戦闘機と深海棲艦航空機の戦いだ。レシプロ機と変わらない性能しか有さない深海棲艦艦載機は、現代戦闘機の攻撃にはなす術もない。また、母艦のような回復能力も有さない(これはBOB側の航空機も同じだが)ようで、言ってしまえばいい鴨だ。
ただそれでも、多すぎる鴨は手に余る。攻撃能力と防空能力の飛躍的な向上により、大編隊を組んでの空襲というのが現実的ではなくなった現代航空機は、基本的に数よりも質を重視した戦いと言っていい。数こそ命の第二次大戦級航空戦術とは相容れない存在だ。すなわちその物量は、防空能力の許容量を超えている。
―――さあ、ここからが腕の見せ所だ。
二射目のAAM-4を放ちながら、菅野は内なる血潮が滾るのを感じる。どうも自分は、ドッグファイトというのが好みでいけない。
この二射目が終わった時点で、四機のT-4改造機は搭載ミサイルを撃ち切った。元はと言えば練習機改造機であるから、搭載量はそこまで大きくない。それに、そもそもパラオ防空隊の弾薬事情からして、参加全機にフル装備というのが無理な話なのだ。こういう最新鋭装備は、どうしても本土やフィリピンといったところに重点配備されがちだ。
T-4改造機は、そのまま少しばかり高度を稼ぐ。この後の上方からの襲撃に備えたものだ。
“イーグル”隊の四機は、いまだにAAM-4を二機ずつ残している。その二機を用いてさらに八機を撃墜したところで、戦闘は短距離と言える距離まで近づいた。菅野機以下、全機が使用ミサイルを切り替えた。次の出番は、AAM-5四式空対空誘導弾。短距離での対空戦闘を考慮したミサイルだ。
翼下のパイロンから、ミサイルが放たれる。F-15四機、F-4六機の計十機から一機ずつだ。
常人よりもいい菅野の目は、遥かの空に人工的な光を認めていた。未だ距離はあるが、恐らくはあれが敵編隊だ。すでに半数近くを撃墜されているにもかかわらず、敵編隊は速度も進路も変えずに、パラオを目指していた。
知っているのだ。こちらのミサイルが、いつか尽きることを。
―――上等。
酸素供給マスクで覆われた口元を歪める。フルフェイスヘルメット越しに敵機を睨む。
―――すぐに叩き落としていやる。
管制機の指示の下、AAM-5の第一射が放たれた。
*
防空指揮所とリンクした液晶パッド上、敵編隊第一波が半数以上の機体を失ってもなお、進撃を続けている状況を、清水は確認していた。
―――やはり、引き返すことはないか。
あらかじめ予想されたことだ。おそらく深海棲艦は、第一波攻撃をミサイルへの盾として使い、第二波以降の攻撃に託すつもりである。
液晶パッドでは、各機の残弾の状況も確認することができる。AAMー4はすでに全機が撃ち尽くされ、戦闘は短距離と呼べる範囲にまで近づいた。各機が残しているミサイルの残弾は、残存の第一波を十分に迎え撃てるが―――
「・・・第二波以降は、厳しいか」
ポツリと呟き、液晶パッドを置いている海図室よりも前の艦橋を見遣った。祥鳳は航空隊の発艦指示にいつでも対応できるよう、席を外しており、舵を握っているのは艦橋要員の妖精の一人だ。
その時、敵第一波全滅の報告が液晶パッドに示された。続いて、パラオ泊地艦隊に戦闘機の応援要請。
「来たか」
ここからは、古典的なやり方だ。“祥鳳”の戦闘機隊で、敵編隊を襲撃し、戦力を削ぐ。力と力、技と技。
「戦闘機隊、全機上げろ。発艦始め!」
清水のよく通る声をもってしても、発動機の轟音が鳴り響く発艦指揮所に、指示は届かない。間を取り持つ妖精が手振りで発艦を伝え、祥鳳がその弓を唸らせる。カタパルトに設置された零戦が、急速な加速を得て、甲板から飛び出した。
全二十四機の発艦が続く。カタパルトを使用しているが、そもそも一基しか設けられておらず、全機の発艦には十分近くがかかる。そこから高度を稼ぐのに、さらに十数分。
その間、第二波に向かうのはパラオ防空隊の機体だ。ミサイルをほとんど撃ち切ってはいるが、機関砲で応戦するつもりらしかった。
―――少しだけ持たせてくれ。
液晶パッドの画面、敵編隊へと向かっていく現代戦闘機の輝点を見つめるのを止めて、清水は艦橋に戻る。発艦指示を終えた祥鳳が戻り、丁度精神同調に入るタイミングだった。
「ブレイン・ハンドシェイク」
機関の上げる調べがわずかに高鳴った気がした。“祥鳳”の指揮権は、再び彼女に託されたわけだ。
全機の発艦が完了した零戦が、編隊を組んで高度を稼ぎにかかる。
パラオ防空戦、その第二ラウンドが始まろうとしていた。
*
「来るなら来やがれ!相手してやる!」
前方に迫りつつある敵編隊を睨んで、菅野は意気込んだ。第一波六十機全機を撃墜した第一二航空戦闘団のうち、菅野機と僚機の岩本機だけが、AAM-5を残している。そのため、迫りつつある敵編隊第二波正面に位置取り、注意を引き付ける役を引き受けたのだ。
残りの機体は、それぞれに分かれて、雲間に身を隠している。菅野たちが最後の空対空ミサイルを撃ち切り次第、突入する手はずだ。
―――距離十分!
外すわけもない距離で、菅野は残りのミサイルを全て放つ。岩本機も同じくだ。最後の矢を使い切ると、二機はエンジンを吹かして上昇する。
直後、ミサイルが敵機を捉えた。しかし、撃破したのは六十数機の第二波のうち四機に過ぎない。残りの機体は、無傷のままパラオへと迫る。残り距離は百キロを切ろうとしている。
次の瞬間、上空から音速の矢が飛び出し、敵編隊を貫いた。二機が火を噴き、フラフラと高度を落とす。第一二航空戦闘団の機関砲による攻撃が始まったのだ。
先陣を切ったのはF-4だった。二機ずつ三隊に分かれた彼らは、菅野機によって前方に注がれていた敵編隊の隙を突き、上方の雲間から襲いかかったのだ。
ジェット機の射撃タイミングは一瞬だ。まして、上空からの急降下攻撃ともなれば、尚更。その瞬間をいかに逃さないかが腕の見せ所だ。
F-4に続くのは、T-4の改造機だ。こちらは奇襲とはいかず、敵編隊から迎え撃つような火箭が伸びてくる。それをものともせずに、T-4は敵編隊下方へと抜けた。しかしながら、撃墜はない。
『隊長、行きましょうぜ』
合流した赤松が急かすように言った。まとまった四機のF-15も、急降下にベストな位置につけた。頃合いだ。
「っしゃあ、やるぞテメェら!赤松小隊は右端の奴を狙え!アタシらはその隣を狙う!」
三つの「了解」が重なるや否や、菅野は操縦桿を倒して翼を翻す。ロールした機体は、そのまま機首を敵編隊に向けて、真っ逆さまに降下し始めた。
対爆撃機の基本戦術、真上からの急降下だ。本来現代戦闘機がやるような戦い方ではないが。
菅野機たちの動きに気付いたのだろう。敵編隊から、機銃が飛んでくる。曳光弾のシャワーが、四機のF-15を包み込んだ。
―――っ!!
思わず仰け反りそうになるのを、ぐっとこらえる。曳光弾の量が尋常ではない。これまで深海棲艦の爆撃機や攻撃機が装備しているのは、後方に一挺か二挺の機銃のみだった。それが今回は、明らかにそれどころではない数の機銃弾が飛び交っている。まるで機体そのものが、無数の機銃で覆われているかのようだ。
そしてもう一つ、菅野は気づいたことがあった。
敵機の形状が、既存のそれと大きく違う。
最初に接触したスクランブルのF-4から、情報だけはあった。しかしこれは、あまりにも形が違い過ぎる。深海棲艦艦載機独特の、炎を引きずるようなマークがなければわからない。
風船のように膨らんだ機体は、ほとんど球体だ。その横に、まるで悪魔のように羽が生えている。機銃は、その球形の機体の各所から、菅野たちへと伸びてきていた。
そしてなにより、大きさだ。既存の三機種の三倍はあろうかという大きさをしている。
―――こいつは・・・艦上機じゃねえな。
こんな機体を、航空母艦の甲板で扱うことはできない。おそらくは陸上機。
深海棲艦も、進化するということか。
だが。
「その程度じゃ、アタシは落とせないぜ・・・っ!」
機銃の動きは、完全にF-15に追いつけていない。弾量は凄いが、その照準は明らかに、F-15の後方へと流れて行ってしまっている。当たるはずがない。
射撃タイミングは一瞬。その瞬間を、菅野の目は逃さなかった。
―――今!
トリガーを一瞬だけ弾く。バルカン砲の連射音が響いたころには、菅野機は敵編隊を抜けていた。そのまま降下を続け、頃合いを見て操縦桿を引く。部下たちはしっかりとついて来ていた。
そこで初めて、自らの上げた戦果を確認した。翼をもがれた球形の悪魔が、不安定に機体を揺らして墜落していく。赤松たちが狙った機も同じだ。“イーグル”隊は、二機を撃墜したのだった。
だが、これで四機。菅野と岩本がミサイルで落とした機体を合わせても八機。敵機はまだ五十機以上残っている。
『防空指揮所より各機。帰投し、燃弾補給せよ。以後はパラオ泊地艦隊航空隊が受け持つ』
見ると、敵編隊上空、陽光を反射する明灰白色の腹が見えた。パラオ泊地艦隊の“祥鳳”に所属する零戦隊だ。菅野たちが迎撃をするうちに、高度を稼ぐことができたらしい。
―――厳しいな。
敵第二波の侵入高度は、高度六千と第一波よりも若干低い。しかしそれよりも高度を取ろうと思ったら、レシプロ機の零戦には厳しいはずだ。
今は任せるしかないのか。ミサイルは撃ち切ったが、機銃はまだある。そんな菅野の思惑を知ってか知らずか、防空指揮所の源田が釘を刺す。
『燃弾補給は“イーグル”隊を優先します。“イーグル”隊は速やかに帰投すること』
完全に思考を読まれていたことに軽く舌打ちをして、菅野は翼を翻した。何だかんだと、あの大佐とは付き合いは長いのだ。
背後で新たな戦闘が始まる気配がした。今は彼らに任せ、第三次以降の襲撃に備えようと、菅野は気持ちを切り替えた。
というわけで、なぜか機関砲まで使って迎撃する現代戦闘機
段々作者もわからなくなってきた
次回は零戦とパラオ泊地艦隊の出番です