パラオの曙   作:瑞穂国

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久々の砲撃戦でやる気マックスの作者です

でも勝てる気がしない・・・

応援よろしくお願いします


マリアナ沖ノ砲火

吊光弾の白い光が淡く照らす海面に、きらめく光の塔が林立した。白光を受けてキラキラと反射する水柱が四本、敵戦艦の手前に現出し、その姿を覆い隠す。まるで一撃のうちに敵戦艦を撃沈したかのような錯覚に捕らわれるが、実際には命中弾が生じていないことは、すぐに観測機から知らされた。

 

「全弾近。諸元修正」

 

比叡が淡々とした声で射撃指揮を執り続ける。今ので第二射。命中弾はまだない。

 

「どうしたのかな、比叡ちゃん?そろそろ当ててくれないと」

 

「もう、わかってますから。少し黙っててください、修正の邪魔です」

 

おどけて言った角田に、比叡は頬を膨らまして反論する。そんな彼女の様子に薄く笑って、角田は再び敵戦艦を見遣った。

 

丁度その時、敵一番艦が新たな射弾を放った。吊光弾の下で真っ赤な炎が生まれ、高速の火矢が飛び出す。これが四射目だ。

 

距離一万二千メートルの夜戦とはいえ、そろそろ至近弾が出だす頃だ。実際、先の第三射では、弾着時の衝撃が大きく“比叡”を揺すっていた。

 

「修正完了。てーっ!」

 

比叡が号令をかけ、各砲塔の右砲が咆哮した。四一サンチ砲の反動は大きく、細く絞られた高速戦艦の艦体を大きく動揺させる。

 

その砲声が収まらないうちに、敵一番艦の第四射が降ってきた。衝撃はそれまでで最も大きい。暗闇の中でも、間近に丈高い水柱が確認できた。

 

―――やっぱり、厳しい相手だねえ。

 

背中を冷たいものが伝う。

 

ル級改flagshipの性能は、基本的にル級flagshipの上位互換であるとみられている。ハワイ艦隊自体の観測結果がそれほど豊富ではないために断定はできないが、推定排水量で四万トンを超え、主砲は長砲身の一六インチ砲が九門、装甲も相当なものであると見積もられていた。本来、“比叡”が面と向かって戦える相手ではない。

 

しかしながら、今は夜。いかに電波の目があろうとも、必然的に砲戦距離は短くなり、装甲を撃ち破れる可能性は高くなる。十分に戦えると、角田は判断していた。

 

その判断が間違いではなかったのか。一瞬そんな考えがよぎるほど、激しい衝撃が“比叡”を揉みしだいていた。

 

「だんちゃーく!」

 

今度は“比叡”の第三射が敵一番艦に到達する。派手な水柱が立ち上るが、命中弾炸裂の炎は見えない。“比叡”第三射は、再び空振りに終わったのだ。

 

「敵艦隊取舵!さらに接近してきます!」

 

比叡が報せた。

 

「針路は?」

 

「三五〇!」

 

それまでの針路が三五八、“比叡”たちが〇〇二であるから、より急角度で接近を図ってきたことになる。距離を詰め、力で押し切るつもりであろうか。

 

敵一番艦が第五射を放つ。相対位置はほとんど変わらないため、新しく諸元を導き出す必要はなかった。“金剛”と砲火を交えている敵二番艦(タ級通常型)も、新たな砲炎を瞬かせる。

 

“高雄”、“愛宕”と二救艦も交戦を始めている。こちらは高速艦らしい急機動を繰り返して、敵軽艦艇部隊とやり合っていた。“比叡”たちよりも一回りほど小さい砲炎が多数見える。

 

戦場の様子をすばやく確認した角田は、意識を目の前の砲戦に戻す。丁度、“比叡”の第四射が準備を終えたところだった。

 

四一サンチ砲が四度目の咆哮を上げる。鎌首をもたげた左砲の砲口から炎が湧き出し、真っ黒い煙を吐く。硝煙の香りが艦橋まで漂ってきていた。

 

敵一番艦の第五射が迫る。砲声に混じって聞こえる甲高い飛翔音に、角田は若干の違和感を感じていた。

 

弾着の瞬間、その違和感の正体を悟る。強烈な衝撃と何かが押しつぶされるような音が、艦橋の後方から襲ってきた。“比叡”が被弾したのだ。

 

「損害軽微、戦闘航行に支障なし」

 

真っ先に比叡が報告するが、その額には痛みを堪えるような皺が刻まれていた。“比叡”の艦体に食い込んで炸裂した敵弾による破壊が、痛みとなって彼女を襲ったのだろう。

 

気丈な彼女の表情に無言で頷いて、角田はたった今放たれた第四射の結果を見守る。先手を取られたとはいえ、これで当てれば五分だ。まだ戦いようはある。

 

「だんちゃーく!」

 

比叡が時間を報せた。四発の巨弾が敵一番艦の頭上から降り注ぎ、白い巨塔となる。

 

―――ダメか・・・!

 

奥歯を噛み締める。水柱はその全てが敵一番艦の手前に生じていた。夾叉も命中もない。“比叡”の砲撃は再び空振りに終わったのだ。

 

諸元修正と第五射の準備が急がれる。その間、敵一番艦は不気味な沈黙を保っていた。斉射の準備をしているのだと、角田も比叡も理解している。その沈黙が破られる時が、破壊の始まりだと。

 

重苦しい時間は、やがて終わりを迎えた。“比叡”が諸元修正を終えた時、敵一番艦がそれまでとは比べ物にならないほどの光に包まれる。一瞬辺りを昼間のように染め上げたその光が、敵一番艦の第一斉射によるものだと、二人は瞬時に悟った。

 

九発の一六インチ砲弾が迫る。その気配をひしひしと感じながらも、比叡が声の限りに叫んだ。

 

「てーっ!」

 

第五射。そろそろ当てたいところだ。

 

砲撃の反動で左舷に仰け反る“比叡”に、敵弾が容赦なく襲いかかってきた。金属の上げる悲鳴が聞こえる。衝撃はやはり後ろから来たが、先ほどよりも小さい。どうやら後甲板に命中したらしかった。

 

被害が報告される間に、第五射が到達する。当たれ。二人分の願いを乗せて、四発の四一サンチ砲弾が弾着した。

 

立ち上る水柱の合間に、今度こそ紛うことなき火炎が見て取れた。ついに“比叡”も命中弾を得たのだ。

 

「次より斉射!」

 

各砲塔で斉射の準備が進められる中、敵一番艦が二度目の斉射を放った。斉射の間隔は三十秒。大質量物が大気を切り裂き、“比叡”の頭上を圧迫する。そのプレッシャーが最大限に達した時、新たな命中弾が生じる衝撃に、艦橋が大きく揺さぶられた。よろけた角田は、何とか艦橋のへりに掴まって激震をやり過ごす。

 

「負けるかあああっ!」

 

比叡が絶叫し、次の瞬間、第一斉射が咆哮を上げた。八門の四一サンチ砲は、発砲遅延装置によって若干の時間差をつけられ、連続的な砲声を響かせる。それまでに倍する衝撃が艦上を走り抜け、被弾の炎と煙を吹き飛ばした。

 

“比叡”の第一斉射弾八発が、十数秒の飛翔を終えて、敵一番艦に襲いかかる。非常に小さくまとまった散布界のおかげで、敵艦を覆うカーテンのように水柱が立ち上り、その内側に命中弾炸裂の火柱を生じる。数は二つ。

 

敵一番艦が堪えた様子はない。被弾から数秒とせずに、平然と第三斉射を放った。

 

“比叡”の各砲塔でも次弾装填作業が行われているが、その装填装置では次の斉射を放つのに四十秒を要する。手数の多さは敵一番艦に譲らざるを得ない。

 

“比叡”に勝機があるとすれば、散布界の狭さを生かして、一度に多数の砲弾を命中させ続けることだ。

 

敵一番艦からの第三斉射に耐えた“比叡”が、第二斉射を放つ。四基八門の主砲は全てが健在であり、先と変わらずに猛々しい咆哮を上げた。イカスミのように艶のある海面が、衝撃波で円形に抉れる。

 

ほとんど同じタイミングで、敵一番艦が四度目の斉射を放った。いかにも頑丈そうな艦上構造物がハッキリと照らし出され、威圧的にこちらを睨む。巨大な怪物か何かのように、その存在感は圧倒的だった。

 

お互いの砲弾が落下する。一六インチ砲弾が艦体に突き刺さり、衝撃が伝わってきた。比叡が歯を食い縛っている。艦が苦悶に震えていた。

 

妖精たちのダメージコントロールチームが、被弾箇所で忙しなく動き回る。すでに二か所で火災が発生し、その鎮火作業にも追われていると報告が上がってきていた。

 

対する敵一番艦には、これといって被害は見受けられなかった。小規模な火災は見てとれたが、それすらもすぐに鎮静化されている。まるで何事も無かったかのように、第五斉射が放たれた。

 

被弾の衝撃が足元から角田を揺さぶる。激しい縦揺れに何かが軋むような異音が混じり、容赦なく耳朶を打った。

 

「ぐう・・・っ!」

 

比叡が呻く。精神同調によって繋がれた艦体の被害が、激痛となって彼女を襲っているのだろうか。

 

「比叡ちゃん、速力上げられる?」

 

痛みを堪えつつ第三斉射を放った比叡に、角田が尋ねる。

 

「機関は、まだ何ともありません。行けますよ」

 

「了解。相手の頭を押さえよう。最大戦速、針路〇一〇」

 

角田の指示により、“比叡”と後続の“金剛”が速力を上げ、同時にわずかに面舵を切った。増速によって敵戦艦の頭を押さえる位置に回ることができるが、反面命中率は下がる。お互いの速力差が大きくなれば、それだけ相対位置の変化が大きくなるからだ。

 

“比叡”たちの狙いを見極めるように、敵戦艦はしばし沈黙する。この転舵によって、相対位置が大きく変わった。お互いに観測射からやり直さなければならない。

 

「敵一番艦、速度、針路変わらず」

 

「諸元算出急げ。最初から斉射で行くよ」

 

角田がさらに指示を出したとき、丁度吊光弾が燃焼を終え、敵戦艦は再び闇夜に飲まれた。数十秒後、二発目の吊光弾が投下され、再び敵戦艦を照らし出す。青白い光の下で、ギラリと輝く砲身が、鎌首をもたげていた。

 

「諸元算出完了!全砲塔射撃準備完了!」

 

「撃ち方始め!」

 

「てーっ!」

 

両戦艦部隊の砲撃再開は同時だった。夜の海を真昼のように照らす炎が、およそ一万メートルの距離を隔てて沸き起こる。十数秒後には、お互いの主砲弾が海水を沸騰させ、白濁の巨壁のごとくそそり立った。

 

艦底部から突き上げてくるような衝撃が“比叡”を襲う。敵一番艦もまた、“比叡”と同じく初弾から斉射を繰り出してきており、至近に弾着した一六インチ砲弾が海面下で遅延信管を作動させた。四万トン近い“比叡”の艦体がその威力に弄ばれ、艦底を痛めつけられる。

 

初弾からこの精度だ。やはり恐るべき相手である。

 

“比叡”の砲撃も至近弾を叩き出している。早ければ次には命中か夾叉が得られそうだ。

 

再装填は敵一番艦の方が早い。敵艦上三か所から爆発的な閃光が生じたかと思うと、次の瞬間には真っ黒い雲になって後方へ流れていった。

 

「てーっ!」

 

負けじと比叡も叫ぶ。右舷を指向した八門の主砲口に火球が生まれ、一トンの巨弾を吐き出す。音速の火矢が放たれたまさにその時、敵一番艦の砲撃再開後二度目の斉射が到達した。

 

瞬間、艦上からすべての音が消え失せる。水柱が視界を奪い、暗夜の中に純白に輝く。

 

襲ってきた衝撃は、それまでで最も大きかった。




比叡の戦いは次かその次くらいで決着が着きそうです

今日からなか卯コラボの第二弾ですが・・・

お姉さまを取りに行かなくちゃ(使命感)
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