来週辺りまで、投稿に遅れが生じるかもしれません・・・すみません
マリアナ編が終われば、物語はいよいよ終盤・・・なのですが
果たして、いつ終わることやら・・・
「撃ち方始め」
「てーっ!」
清水の声に応えた摩耶の絶叫。次の瞬間、“摩耶”艦上の四か所に、めくるめく閃光が走った。接近する敵艦隊に向けて、三救艦が応戦を始めた瞬間だった。
敵艦隊の方も砲戦を始める。上空の零水偵から確認された編成は、重巡二隻、軽巡(雷巡)一隻、駆逐艦三隻。先頭の旗艦と思しき重巡、及び駆逐艦の一隻はeliteであることが確認されていた。
彼我の距離は八千メートル。
『おい、清水提督』
第一射の結果を確認する“摩耶”艦橋の清水を呼んだのは、すぐ後ろにつく木曾だった。
『そろそろ仕掛けてもいいか?』
“摩耶”を除いた三救艦の各艦は、お世辞にも砲戦能力が高いとは言えない。駆逐艦ならまだしも、重巡と撃ち合う力はなかった。
その代わりに、彼女たちは魚雷の搭載数が多い。中でも“木曾”は圧倒的だ。大規模改装によって重雷装巡洋艦へと変貌した彼女には、五連装魚雷発射管が片舷四基計八基も据えられている。片舷ニ十射線。
彼女の姉にあたる“北上”と“大井”は、五連装魚雷発射管を片舷五基計十基と“木曾”よりも多いが、代わりに“木曾”には、艦隊全体の雷撃戦を指揮することが可能な統合雷撃戦指揮所が設けられている。水雷戦隊全体で見た時の雷撃能力は、姉二人よりもむしろ上だ。
木曾としては、“摩耶”が砲戦で敵重巡を引き付けている間に、雷撃戦を仕掛けるつもりなのだろう。砲戦を行いつつ、航跡の見えない酸素魚雷の大群に意識を向けるのは、いくら深海棲艦でも無理難題というものだ。それだけ、雷撃の成功率は高くなる。
摩耶が誤差修正を行う中、清水がマイクを取った。
「任せる。暴れてこい」
『任された。行くぞお前ら!』
清水の許可を受けた木曾が、ニヤリと笑った雰囲気がした。彼女に呼ばれた駆逐艦娘たちが、口々に答える。
『掛け声はいいから、さっさと転針しなさい、キャプテン・キッソ』
『あんたが指示しないと始まらないでしょうが、キャプテン・キッソ』
『眠いんだけど、キャプテンキ・キッソ』
『うーちゃんここまで口悪くないぴょん、キャプテン・キッソ』
相変わらず、適当というか、口の悪い駆逐艦娘たちであった。
『・・・なあ、摩耶』
その先に続くであろう木曾の言葉を察して、摩耶は口を開く。
「大事な駆逐艦たちを頼んだぜ、キャプテン・キッソ」
『・・・了解』
諦めに似た返答をしても、次の瞬間にはその声を張る。凛とした、一本筋の通った声色だった。
『針路〇九〇、我に続け!』
木曾の掛け声と共に、快速重雷装の水雷戦隊が突撃を開始する。鍛え上げられたその腕を、今こそ示す時であった。
摩耶も負けていられない。空振りに終わった二射を踏まえて、修正第三射が放たれた。交互撃ち方の各砲塔から一発ずつ計四発の二〇・三サンチ砲弾が撃ち出され、迫る敵重巡に向けて飛翔していく。十数秒後の弾着を、摩耶はジッと待った。
吊光弾に照らされた敵重巡の周囲に、四本の水柱が上がった。キラキラと怪しい光を放つ海水の塊に、摩耶は拳を握る。遠二、近二。夾叉だ。
「次より斉射!」
摩耶が宣言した直後、今度は敵重巡の八インチ砲弾が到達した。急速に飛翔音が迫ったかと思った直後、艦の両舷で海面が割れ、崩れ去る水柱がバラバラと甲板を叩く。
タイミングから見て、一番艦のリ級eliteであろうか。あちらも“摩耶”と同じく、第三射で夾叉を得ることができたのだ。
―――さて、どうするかな?
チラリと隣の清水を窺う。戦艦よりも速力があり、小回りがきく重巡であれば、何も馬鹿正直に砲戦を行うことはない。戦いようはいくらでもある。
清水は摩耶と視線を合わせることなく、真っ直ぐに敵艦を見据えたままだ。暗闇の中、その口元だけが、鋭く動く。
「撃て。撃ち倒せ」
その言葉に込められた意味に、気づかない摩耶ではなかった。
斉射の準備が整った。尾栓から砲弾が込められた二〇・三サンチ砲が鎌首をもたげ、敵一番艦に向けてギラリと砲身をきらめかせる。
「てーっ!」
“摩耶”右舷へと指向した八門の主砲から、紅蓮の炎が沸き起こった。反動が艦体を横に揺らす。
数秒後、敵一番艦にも主砲発射の炎が踊った。その量は先ほどまでよりも明らかに多い。斉射に移行したのは明白であった。
条件は五分。後はどちらが先に音を上げるかだ。
“摩耶”の第一斉射が敵一番艦を包み込む。敵艦の装甲にぶち当たった砲弾が信管を作動させ、真っ赤な火炎となるが、すぐに水柱がカーテンとなって戦果を覆い隠す。被害のほどは窺い知れなかった。
「観測機より、命中弾二」
上空の目を務める零水偵が報告を寄越す。零水観と違って弾着観測専門の機体ではないが、滞空時間が長く、任務に就くことは十分に可能であった。
零水偵の報告と入れ替わるようにして、敵一番艦の第一斉射が降り注ぐ。至近弾の爆圧が艦底を突き上げた。命中弾の衝撃は後方から伝わってくる。
艤装を通して痛みが伝わることはない。多少チクリとした程度だ。被害は大したことはない。
数秒遅れで、二番艦につけるリ級の通常型からも砲撃が届く。こちらはまだ精度が高くない。
『摩耶!』
第二斉射を放った“摩耶”の艦橋に、木曾の声が割り込む。
「なんだ?」
『投雷距離を四〇にする!それまで牽制を頼んだ!』
「了解!」
木曾はまさしく、敵艦隊を一網打尽にするつもりだ。そのための肉薄雷撃。その間、木曾たちの突撃を妨害させないのも、摩耶の役目だ。
その“木曾”たちは、接近を阻もうとするチ級と撃ち合っている。チ級の砲戦能力は低い。低下した“木曾”の砲撃能力でも、十分に渡り合うことが可能だった。
現在の“木曾”たちと敵艦隊の距離は、七千メートルを切ったところ。三〇ノット超で接近しているから、単純計算で三分と少しといったところだろうか。
―――支えてみせる・・・!
敵弾落下の衝撃に耐えながら、摩耶は敵艦隊を睨んだ。
景色は違えど、想いは同じ。あの日守れなかったものを守るという決意。
この夜を超えることが、摩耶に与えられた試練なのか。
気負いは不思議とない。想像していたよりもずっと、心は軽い。
早くも第四斉射の咆哮が上がる。斉射間隔は戦艦の半分であり、砲戦のテンポも早い。艦体は幾度となく撃ち震える。
零水偵の報告を合計すると、“摩耶”は三度の斉射で四発の命中弾を与えている。一方の敵一番艦は、三度の斉射で三発の命中弾を“摩耶”に与えていた。
両者共に目立った被害がないまま、“摩耶”第四斉射が落下する。
瞬間、立ち上る火柱の中に、木の枝のような細い物体が舞った気がした。しかしそれを確かめる暇もなく、水柱が敵一番艦の手前にそそり立つ。
敵一番艦の被害は、零水偵が確認していた。“摩耶”と入れ替わりに到達した敵一番艦の八インチ砲弾が降り注ぐ中、報告が上げられる。
「観測機より、命中弾一。第一砲塔を破壊した模様」
暗闇の中での観測であるから、全面的に信頼することはできない。ともかく、次の敵一番艦の射撃を見てみないことには。
新たな被弾に耐えた“摩耶”が、五度目の斉射に踏み切る。咆哮から衝撃波が生じて海面にぶつかり、さざ波を綺麗に打ち消す。硝煙の匂いは、艦橋にまで漂っていた。
“摩耶”から数秒遅れて、敵一番艦の艦上にも主砲発射の炎が確認できた。真っ赤な火球が艦の前後で生まれ、ガッシリとした艦上構造物を照らす。
しかしながら、その量は、先の第四斉射よりも明らかに少なかった。具体的には、艦前部第一砲塔の砲炎が確認できない。
「敵艦、第一砲塔沈黙!」
これで優位に立てる。一気に畳みかけ、勝利をこちらのものにする。第五斉射が再び一発の命中弾を得たのを見届けて、摩耶は第六斉射の準備を急がせた。
敵一番艦から放たれた第五斉射は、一発が“摩耶”の前甲板に命中した。非装甲区画に当たったのか、暗闇の中でも確認できるほどの破孔が穿たれ、そこから火柱が生じる。艤装を通して痛みを感じるが、致命的な個所への被弾ではない。艦は問題なく航行を続けている。
『距離六〇!』
木曾がそれだけ報告する。見ると、チ級が炎を上げて海面を漂っていた。多数の命中弾を受けて、戦闘航行不能に陥ったのだろう。“木曾”たちはなおも三隻の駆逐艦と戦闘を続けているが、優勢に戦いを進めているらしかった。
が、その“木曾”の周囲に、新たな水柱が立ち上った。
―――しまった・・・!
摩耶は内心で歯噛みする。間違いなく、あれは敵重巡二番艦の射撃だ。先ほどまで“摩耶”を目標としていたその主砲は、接近する水雷戦隊へとその矛先を転じたのであった。
通常型とはいえ、重巡は重巡。八インチ砲を搭載し、装甲もそれなりだ。脆弱な“木曾”や駆逐艦たちが相手取るにはいささか荷が重い。それに“木曾”は、一発でも被弾すれば魚雷が一時に誘爆し、大損害を被りかねない。
方法はただ一つ。“木曾”たちが回避運動でやり過ごしている間に、摩耶が敵一番艦を撃破し、砲撃の目標を二番艦へと転じることだ。
第六斉射が放たれた。“摩耶”の主砲は、いまだ全てが健在であり、二〇・三サンチ砲八門の猛々しい咆哮を轟かせている。
敵一番艦も新たな射弾を放つ。沈黙している第一砲塔を除いた六門の主砲から砲炎を吐き出し、“摩耶”に対抗してくる。あたかも、手負いの龍が怒りにまかせて、荒々しい炎を噴いているかのようであった。
先に飛翔を終えた“摩耶”の砲弾が、敵一番艦の頭上から降り注ぐ。二〇・三サンチ砲弾は甲板に突き刺さって盛大に爆ぜ、大穴を穿ち、爆風で周囲のものを薙ぎ払う。これで、与えた命中弾は十発。
数秒遅れで迫った飛翔音が途切れると、敵一番艦の第六斉射が弾着する。襲ってきた衝撃はそれまでで最も大きかった。艦橋基部に命中したらしい八インチ砲弾は、そこに据えられていた一二・七サンチ連装高角砲をずたずたに引き裂いてスクラップに変えていた。
「てーっ!」
だが、“摩耶”から戦闘能力を奪うまでには至らない。摩耶の闘志をくじくこともない。装填が終わった第七斉射は、裂帛の摩耶の声と共に、厳かに放たれた。
八発の二〇・三サンチ砲弾は、夜の空気を切り裂いて飛翔していく。上空に緩やかなアーチを描いた砲弾は、やがて重力に任せるまま、敵一番艦に降り注ぐ。
摩耶が目視で確認できた火柱は一本。それ以外は全て海面を叩き、海水を沸騰させる。
その水柱が崩れる頃、敵一番艦からの砲撃が降り注ぐ。その飛翔音に、摩耶は違和感を抱いた。
それまでよりも、遠い気がしたのだ。
八インチ砲弾が落下する。しかしその水柱は、まるで見当違いの方向に立ち上っていた。命中弾どころか、“摩耶”には至近弾すらない。
先の第六斉射が敵一番艦に与えた被害を、摩耶は悟った。命中した二〇・三サンチ砲弾のうち一発が、敵一番艦の射撃指揮装置を破壊したのだ。統制のとれた射撃が不可能となった敵一番艦は、砲塔からの各個照準による砲撃を行ったのだろうが、その結果は見ての通りだ。
さらに、敵一番艦の様子に変化が訪れる。突然明後日の方角へと舵を取り始めたのだ。
砲撃を一時止める。取舵を切っている敵一番艦は、回頭を止めることなく、大きな円を描き始めた。主砲射撃指揮装置に続いて、今度は舵をやられたらしかった。
敵一番艦は、最早脅威とはなり得ない。
「目標を変更。新目標、敵二番艦」
清水が淡々と指示する。“摩耶”の測距儀が旋回し、今も“木曾”に向けて主砲を放っている敵二番艦を指向した。
敵二番艦の頭上に、新たな吊光弾が投下される。暗闇に浮かび上がったその姿への諸元算出を終えた“摩耶”が、再び主砲を放つのに、さして時間はかからなかった。
このペースだと、来年の二月ぐらいに完結となりそうです
マリアナ編が書き終わった時点で、一時投稿を止めさせていただき、他作品も含めた整理作業を行おうと思っています
あ、秋刀魚集め終わりました。阿賀野大漁旗(能代作)、なかなかいいですね