やはり俺に彼女が出来るまでの道のりはまちがっている。 作:mochipurin
はは、バカな筆者ですよね。なんで当日、せめて次の日ぐらいには投稿しろって話ですよね。
ま、まあ? エイプリルフールがつい最近あったとか関係ないし? つい突然、急にエイプリルフールネタが書きたくなっただけだし?だけだしっ?!
「ねーねーお兄ちゃん。明日って何の日だか知ってるー?」
春休みの昼下がり、ソファーで春の陽気に当てられながらぬベーってしていると、同じくぬベーっと寝転んで雑誌を読んでいた小町がふとそんなことを聞いてきた。
お兄ちゃん、そんなどうでもいいことより、その偏差値の低そうな雑誌を読まないで欲しいな......。もう受験近いんだから勉強してください......
「明日......四月一日だろ? そりゃお前、綿抜ーー」
「だよねー。流石のお兄ちゃんでも知ってるよねー。あのエ・イ・プ・リ・ルフールだもんねー」
しょうもないことで話の腰を折るなと流し目で睨まれた。すんません......
「ということで! エイプリルフールパーティを開こうと思います!」
どういうことで?
「おいおい待て小町。ひな祭りとかならまだわかるがエイプリルフールでパーティってなんだ。ろくなパーティになる気がしないんだが」
エイプリルフールズなの? 参加者みんな嘘つきなの?
「だいじょぶだいじょぶー。参加者間で嘘を交えつつトークするだけだから〜」
「参加者間て、一体誰が参加するんだ?」
「えっとねー、優香さんと、雪乃さんと結衣さんとー......いつもの人達に声はかけてるよ」
「波乱万丈の予感しかしないんだが」
陽乃さんが我が家に、しかもエイプリルフールという矛を持って突撃してきた日にゃ、大惨事大戦が勃発しちゃうんですがそれは。
「残念! 陽乃さんは学校の方で忙しいんだって。よかったね」
「残念なのかよかったのかどっちなんだよ」
でも、よかった.......本当によかったよぅ......
「まあいつもの人達といっても、今言った三人にいろはさんが来れるかどうかなんだけどね〜」
「あ、そなの」
コミュ力の塊である小町のことだから、てっきり俺の知り合い全部呼んでるのかと思った。
「ま、そういうことだからとっておきの話考えておいてね」
「やっだよ。なんで俺がそんなことしなきゃらん」
「えー、なんでさー」
「なんでって言われても俺は参加しないんだから何とも」
「うっわぁ......いい加減にその思い込みどうにかしないと、優香さんに愛想尽かされるよ......小町的にポイント低い」
「愛想も何も愛されるような間柄じゃねえだろ......」
というかなんでそこで的前出てくんだよ。そっちこそそうやって毎度毎度的前ネタで弄ってくるの、いい加減やめないと八幡的にポイント低いぞ。
「じゃ、明日の十時ごろに来るだろうからよろしくねー」
「十時? 昼からじゃないのか」
「無知だなー。エイプリルフールってのは午前に嘘ついて午後にネタばらしするものなの」
「悪かったな。そういうリア充絡みのイベントはあんまり知らねえんだよ」
というか無知って......お兄ちゃん、小町にだけは言われたくなかったよ......
「まったくリア充関係ないんだけどね......」
呆れ切ったため息をつかれる。ため息つきたいのは俺のほうだよ。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「やっはろー! こんにちは小町ちゃん!」
翌日、十時頃にリビングでくつろいでいると、玄関から一瞬で誰かわかる声が聞こえてきた。予定通り家に着いたようだ。
あの、由比ヶ浜さん? ご近所さんに変な(頭の子が遊びにきていた)噂立てられるとあれなんで、そのいかにも頭悪そうな挨拶はちょっと遠慮してくれませんか?
「あ、雪乃さんといろはさんも一緒だったんですね。全員一緒にくるって言ってくれれば迎えに行ったんですけど」
へぇ、一色も一緒なのか。珍しい。
「いえ、一色さんとは途中で会っただけよ。小町さんが気負うことはないわ」
「そうですよ〜。それに私もちょっと迷わないから心配だったから助かりました〜。ありがとうございます」
「そ、そう。あら? そういえば的前さんはどうしたのかしら。家が近所同士と伺っているけれど......」
あ、話逸らしやがった。
でも確かに雪ノ下の言う通り遅いな、的前。
「まあ電話もできますし、いざとなれば家に行ってみますから。とりあえず立ち話も何ですし上がってください」
「「「おじゃましまーす」」」
数名の足音が近づいてくる。
......お茶でも入れとくか。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「ではではー、第一回エイプリルフールパーティをここに開催したいと思います。ぱふぱふ〜」
「ぱふぱふ〜」
さっと小町がカーテンを閉め、照明をつけていない部屋が一気に薄暗くなる。
そして小町と由比ヶ浜の気の抜けそうな掛け声と共に謎のパーティ、エイプリルフールパーティなるものがついに開催されてしまった。私、どうなっちゃうの?!
「えー、ルールはメールでお伝えしていますが、軽くおさらいしておきますね」
......は?
「ちょっと小町たん? 私ルールのルの字も聞いてないんだけど?」
「あれー? そうだっけー? じゃあおさらいするからそれで理解してねー」
最近小町の俺へ対する扱いが雑なんですがそれは。
「じゃあもう一回説明しますね。えーっとーー」
画して、おさらいという名のルール説明を受けるのであった。俺マジ不憫。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「じゃあ十分後に始めますねー」
「はーい」
ふむ。説明を聞いた限りでは、小町が考えたにしては意外としっかりしていて、かつ単純なルールだ。
まず、各々が話したい話題を提示し、決めた順番に沿って気がすむまで話す。
しかし条件として、嘘を最低一つ、最高でも三つ織り交ぜて話さなければならない。
その後、小町が考えた独特の採点が入るらしく、これが中々に駆け引きを要求される。
その採点というのが、自分が隠し通せれた加点と、相手の嘘を看破した加点で最終結果を競う、というものだ。
自分がついた嘘が隠し通せると加点一。バレると減点二。
逆に他人の嘘を見破ると加点二。見誤って真実を嘘と述べると減点一。
これだけのシステムを短期間で仕上げた小町には驚かされたが、それよりもその集中力を是非勉強に生かして欲しかった。
「そういや小町。未だに的前が来てないが連絡はしたのか?」
集合時間であった十時からすでに半時間ほど経過しているがインターホンに音沙汰はない。
「あー、うん。連絡したらどうしても外せない用事が出来ちゃったから、お昼からの参加にするんだって」
「外せない用事ならしゃあな......ん? 小町、お前いつの間に連絡とってたんだ。俺の見た限り携帯をいじってる姿なんて一度も見てないんだが」
「うぇ? ほ、ほら。お兄ちゃんには死角になって見えてなかったかもだけど、説明している内にメール送ってたんだよー」
「そ、そーだよー」
由比ヶ浜がすかさず相槌を打つ。
「あ、そなの」
怪しい。いや、怪しいどころか確信犯だろ。こいつら絶対何か隠してる。
現状怪しいのは由比ヶ浜と小町だけだが......
確認をとるため雪ノ下と一色に軽く視線を送る。
「............」
雪ノ下はだんまり。ふむ、普段ならここで憎まれ口の一つでもたたいてくるんだが......恐らく黒だな。
じゃあ一色は......
「......?」
白......なのか? 白っぽいな。というかなんで知らないの。お前こいつらにハブられてんなら相談しろよ......? どうしようもできないけど。
「じゃ、優香さんには悪いですけど、時間も時間なんで始めますねー」
とりあえずこいつらはよく観察しとかないとな。変なこと企んでなきゃいいんだが......。特に雪ノ下は注意だな。あいつの嘘を見破るのは確実に骨が折れる。
逆に雪ノ下が落ちれば俺の勝ちだ。さすがに小町は長年兄をしてるだけあって、ある程度行動も心も読める。そして由比ヶ浜は論外だ。
と、そうこう考えている内に、小町が懐から割り箸を取り出した。
「じゃあ、くじで順番決めるんで一つ選んでくださーい」
こうして、雲行きの怪しさに顔をしかめつつも、嘘にまみれたトークパーティが始まった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「頼む......もう、もうやめてくれ......」
頭を抱え込み、うわ言のように繰り返し懇願する俺の姿がそこにはあった。
そして目の前には、俺の状態なんて露知らず、澄ました顔で言葉を紡ぎ続ける悪魔、比企谷 小町がいた。
「そこで顔を真っ赤にした優香さんが言ったんですよ! 私、八幡くんのことが好きかもしれないって! もー小町もノックアウトしちゃうところでしたよー。あ、それとですね。これもまた優香さんがお兄ちゃんに対して言ってたことなんですけど」
......経緯を説明しよう。
くじを引いた結果、雪ノ下、俺、由比ヶ浜、小町、一色という順番になった俺たちは、すぐさま雪ノ下のトークを聞き始めた。
正直、いきなりラスボスかよ。ゲームの主人公じゃねえんだから負けイベントとかいらねえんだよ。と、心から神を恨んだものだが、これがびっくり、最近読んだ本で面白かった、興味深かったことをつらつらと数分述べただけで終わったのだ。最後の最後に爆弾でも投下してくるのかと身構えていたのだがそれも杞憂に終わった。
そして俺の番。もちろん特段面白みのある話などするわけもなく、様々な時事ネタを数分にわたって述べただけだ。
小学生でも知っているような内容でも、へぇ〜っと妙に納得した声を上げる由比ヶ浜を見て涙したが。
そんな、由比ヶ浜を馬鹿にしていた俺に天罰が下ったのかもしれない。
そこからは地獄だった。
「前ねー、夜に優香ちゃんから電話がかかってきてさー。気になる人がいるから、その人の好きなものとか、いろいろ教えてほしいって言うんだ」
最初は、男子の俺がいることを除けば至って普通の、普通のガールズトークのような切り出し方だった。俺がいることを除けば。......まあここまではいい。問題はその次のセリフ。
「誰かわからないのに好きなものもわからないからさ。だれー? って聞いたの、そしたら......結衣ちゃんと同じ部活の男子、って言ってたんだよ! いやー、ねえ?」
以下、同じような話題が繰り返されたわけだ。だがこの話は三回まで嘘をついていい。つまりこれらの話は嘘、と思いたかった。明らかに三回を越える量を話しやがったのだ、こいつは。それは由比ヶ浜の話したエピソードのうち、いくつか真実であることを表している。
その答えに行き着いた俺は、悶々としたものを心に抱えたまま、小町の番へ突入......
「で、小町がそう言ったら優香さん、顔を真っ赤にして呻き始めちゃって! もういっそお兄ちゃんより先にもらっちゃいそうになりましたよー。いやはや」
「死にたい......いっそ殺してくれ......」
した結果、冒頭のようになった。
もういじめって言ってもいいと思うんだ、これ。
「まだまだ話し足りないんですけどこれ以上話したら、いろはさん待たせちゃうんでこれくらいにしておきますね。ではいろはさん、お次どうぞ〜」
「わっかりましたー」
ああ、やっと終わった......。抵抗しようと口出ししても全て無視られる地獄は終わったのだ。
そして予想だと一色は白。ようやく息を
「では私も由比ヶ浜先輩と小町ちゃんに便乗しましてー」
......あんだって?
驚愕の表情を浮かべ、一色を見つめる俺に、
ぺろっ
お前舌出してれば可愛く見えるとか思うなよ。絶対に許さんからな。なんだよその騙して悪いが、みたいな表情。気に食わねえ。だかそれも後の祭り。
「ああ......無理矢理にでも出かけてればよかった......」
そう消え入りそうな声で呟いたのだった。ふざけんなまじで。
時は過ぎて時計の針が示すのは午後、エイプリルフールではついた嘘を告白する時間となった。
「はーい。結局優香さんは来なかったけど、全員終わったということで採点始めようと思いまーす! どんどんぱふぱふー!」
「どんどんぱふぱふー!」
ああ? 何がどんどんぱふぱふだ。しばき回すぞ。
一色の話が終わる頃には、俺の心は完全に荒んでいたわけで。心労で明日倒れないか心配です。
「ではでは今言ったとおり採点、もとい誰が一番うまく嘘を隠し通せてるか決めたいと思います! そしてなんと! 見事、嘘のつき方見破り方の頂点をとった人には、小町からプレゼントを用意しているのでお楽しみに!」
ええ、なにそのまったく嬉しくもない頂......。そしてプレゼントって聞いても嫌な予感しかしないから不思議。
「嘘かどうか尋ねる順番は、話した逆からですから......いろはさん、小町、結衣さんに、お兄ちゃん、最後に雪乃さんですね。まずはいろはさんどうぞ! あ、ちなみに回答は最低でも一回。全員がパスした時点で終了なんでご理解を」
なるほど、嘘さえ見抜ければ見抜いた奴の独壇場になりうることもある、ってことか。いや、おまえ、独壇場とか俺絶対無理じゃん。言うの小っ恥ずかしすぎて無理じゃん。
ちなみに俺がついた嘘は二つ。時事問題とは言え、嘘だと見抜かれるのは癪なので引っ掛け問題的なものも含めておいた。雪ノ下にはバレバレだろうが由比ヶ浜に気づかれなければそれでいい。
一色は、んーと顎に人差し指をつけて、THEあざとい仕草をした後、
「雪ノ下先輩の、この本のイラストを書いた人はドイツ人って言った点なんですけどこれ、ドイツ人じゃなくてフランス人ですよね?」
「......は?」
一色、お前そんな投げやりな回答はさすがにーー
「正解よ」
「......は?!」
「やった!」
「いやいや、まて、待ってくれ。なんで一色おま、そんなクソ難しいのがわかって......あー、いや、なんでもない。なかったことにしてくれ」
そーでしたぁ! こいつら組んでるんでしたぁ! 忘れてましたぁ!!
「えー? 先輩急にどうしたんですかぁ? いろは、結構そういったのにも知識あるんですよねー、残念でした!」
「はいはい」
うぜぇ......あざとさが相乗効果生んでよりうぜぇ......
まて。こいつらが組んでるってことは......まさか
「はい次は小町ですね。じゃあ私も雪乃さんに。著者が十六歳だと言ってたましたけど十五歳ですよね?」
「ええ、さすがに小町さんね。正解よ」
まってまってまってまってまってまってまってまってまってまってまってまって
「では、次は由比ヶ浜さんですね。どうぞー」
「うん。ゆきのんが言ってた一文。私は彼にどうしようもないくらい恋をし、そして愛を求めた。ってとこ、たいげん......体言止めだったよね? だから彼にどうしようもないくらい恋をし、そして愛を求めた、私は。だよね?」
もうやだっ! 八幡お家帰る!!!
そろーりとリビングから脱出
「どこにいこーとしてるのかな、お兄ちゃん?」
できるわけないですよね。知ってます。
「次はお兄ちゃんの番だよ? お兄ちゃんも雪乃さんに、あー! 雪乃さんはもう三回とも嘘がバレちゃったから無理なのかー。残念だねっ」
勉強はからきしなのに、悪魔のようなことを考えるのだけは天才な小町の頭が俺は残念だよ。
「あと答えられるのは、小町、結衣さん、いろはさんだね。頑張って!」
「ヒッキー、ここまできたら腹を括って、ね?」
「そうね、男なら腹を括りなさい」
腹を括れって、お前らそれもう確信犯じゃねえか。
ま、まあこの一回さえ耐え抜けばあとはパスできるんだし? どうにかなるだろ。
「お兄ちゃんがさっさと答えないので、さっきのプレゼントの中身発表しちゃいますねー」
答えない俺にしびれを切らしたのか、プレゼントの内容を言うようだ。由比ヶ浜の作ったクッキーとかじゃなければいいが......
「中身はー......中学の時にお兄ちゃんが大切にしてたなぜか真っ黒に染め上げられたノート、でーす!」
「はぁ?!」
小町の手には黒く塗りあげられたノートがひらひらと揺れている。まじか......全部捨てたはずなのに、俺の目をかいくぐって生きてたというのか......
というか絶対しびれ切らしてないよこの子! ここぞというばかりに切り札発動してきたよ!!
「え、ほんとですかー? うわー中学時代の先輩がどんなことしてたのか興味あるなー。頑張っちゃおうかなー」
「ま、まてまて一色。あれはだな、そう、中学時代の俺が書いた日々の苦労がひたすら綴られてるだけだから。見てもこれっぽーっちも面白くないから。な?! な?!」
「ちょ、ちょっと必死すぎてきもいです......あと顔近いです離れてください」
「今回ばかりは引き下がるわけにいかないんだよ。な? 頼むから!」
脇目もふらず土下座。これしかない。
「えー、どうしましょうかー」
あえなく躱されて撃沈。こうなったらいっそ小町から奪い取るって手も......
「比企谷くん。一色さんに見られない、いえ、誰にも見られないようにするなら簡単な方法があるじゃない」
「なに?!」
まさか雪ノ下、ここで俺を助け......てくれるわけねえよな。さすがにここまであげて落とされてたら騙されんわ。
「他の人の嘘を全部見破って一位になればいいのよ」
ね?
「あー、とことん俺を殺す気ですか。いいでしょう。相手して差し上げます」
「うわぁ......ヒッキーが薄気味悪い笑み浮かべてる......」
「なんだか口調も変になってますし......由比ヶ浜先輩、これ本当に大丈夫ですか? 先輩があとで復讐でもしてこないか不安でしょうがないんですけど」
「そだねー......頃合い見て退出しちゃおっか」
「ですねー」
「はははははは」
無だ。心を無にすればどんな傷も負わない。なんで最初からこうしておかなかったんだろう。
振り返ったら結局心に大ダメージを負うことになるのを、その時の俺は知らなかった。(後日談)
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「終わった。言い切ったぞ俺は......」
景品の黒歴史ノートを大切に抱いて、フラフラ、フラフラと扉へ向かう。
俺があまりも痛々しく感じられたのか、果てまたもう用済みなのかは知らないが、もう呼び止める声はかからなかった。
しかしなんという、なんという痴態を晒してしまったのだろう。明らかに俺を意識している的前のエピソードについて、嘘だのなんだの言い放ちまくったのだ。
時間は今十三時を回ったところだが、結局的前が来ずに終わったのが唯一の救いだな。
ガチャ
もう自室にこもって寝よう。寝ればこの気持ちも幾分マシになるかもしれない。
そう思ってリビングを出る。......ん? ふと視界の端に物陰が。
「「あ......」」
的前さん、いらっしゃぁーい。
「あ、あの、付かぬ事をお尋ねいたしますが的前さん。いつからここに?」
聞かれていても最だけだろうから大丈夫だろうが、念には念を、だ。
「え、ええっと......いろはちゃんが話してる途中から......かな?」
Why?
「あの、ほんとになんで? 十二時頃に来るって言ってなかったっけ?」
「え、私そんなことは一言も......」
「............」
おんのれあいつらぁぁぁ!! エイプリルフールをこの上なく活用しやがってええええええ!!!
「それに」
的前はいかにも不思議そうな顔で、
「まだ十一時だよ?」
..................は?
「いやいや、的前さん。知ってます? 午後になったら、エイプリルフールはネタバラシの時間なんですよ? 嘘はついちゃあいけない」
「その、嘘じゃないんだけど......ほら」
そう言ってポケットからスマホを取り出し俺に見せてくる。液晶に表示されている時間はもちろん、じゅう......じ......
......なんで? さっきだってリビングの時計が十三時を指してるのはっきり見てるし、廊下の時計だって......
「こまちぃいいいいい!!」
バンと勢いよく扉を開け放つ。
「あ、まず」
俺がもう部屋に戻ってくると思ってなかったのか、心底驚いた顔をする面々の中、小町の手には例の時計。どうやら読みは当たってしまったようだ。
「小町ちゃーん。なんで君は時計の針をいじくってるのかなー。お兄ちゃん不思議でならないなー」
俺が朝起きた時点ですでにこいつらの企みは実行されていたのだ。
まず目覚まし時計をいつもより早く設定し、家中の時計の時間もそれに合わせてずらす。あろうことか俺のスマホの時間まで変えてやがった。どうりで朝がいつもよか眠かったわけだ。
あとは的前に十一時から開始すると嘘をつけば、俺をいじり倒す場の完成。
「え、や、あの、お兄ちゃんこれはその......」
「言い訳が通用するとでも? 散々いじり倒したくせして、まだ言い逃れしようってのか?」
「はい......すいませんでした......」
しゅんとその場に正座する小町。よろしい。
「お前達もだ」
三人もまた正座し始める。さすがの雪ノ下もいまの俺の気迫に押されたのか、何も言わず正座した。
「さぁーて、罰を受ける準備は、出来てるんだろうな?」
「「「「すいませんでした......」」」」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「あー、すっきりしたすっきりした」
伸びをしてジュースを煽る。いやぁ、仕事してからの一杯てのはいいものですなぁ!
え? なんの仕事かって? そりゃあ悪い子達をひたすら真顔で見つめ続ける仕事さぁ?
「は、八幡くん。一体どれをどうしたらここまで精神を追いつめられるの......?」
女子四名が正座したまま顔をうな垂れさせる、という異常な光景に青ざめる的前。散々好き勝手やったんだ。やられ返されて当然だ。
「てか的前も被害者じゃねえか。こいつらに有ること無いこと、いや、無いことしか言われてないんだから反撃してもいいんだぞ?」
「や、ここで追い打ちかけると命断っちゃいそうな勢いだし......そもそもそこまで怒ってないし」
「でも、あそこまで酷い嘘作られてるんだしちょっとぐらいはいいんじゃないか?」
「あー、うん、そうだね。嘘だもんね」
「え、なんでそんなに歯切れがわるーー」
「八幡くん」
顔を真っ赤にした的前に、声を遮られる。え?
「あのね、その、みんなが言ってたこと......全部ほんとなんだよ......?」
え......的前、こいついま、なんて......ええ?
「......はっ」
「え?」
あぶねえ、どれだけ馬鹿なんだ俺は。今日はエイプリルフール。最後にとんだ伏兵だったが、いまの俺はさながら歴戦の戦士。もう引っかからないぜ。
「さすが的前だ。最後の最後で俺に嘘をついてくるとはな。朝一言われてたらあっけなく騙されてたぜ」
「あ、そうそう! もー、ちゃんと見破れるようになってるか試したのにまだまだだなー、八幡くんは」
「最終的には騙されてないんだからいいだろ」
「そだねー。えへへ」
現在時刻 12:05
最近気付いたら文字数が結構な数言ってるんですよねぇ。
この分だと次回も期待できますね! 頑張ってください!(まだ1000文字くらいしか書けてない顔)
追記.
作中では春休み中の4/1と書いていますが、関係は変化していません。ご注意ください
追記2.
4/1なのに小町が受験前とは何事。エイプリルフールネタということでスルーしてくださいお願いします。