やはり俺に彼女が出来るまでの道のりはまちがっている。 作:mochipurin
そして感想で更新待ってます、の何気ない言葉が胸に刺さる......っ!
と、今回で、林間学校編は終了です!1万3000文字と文字数は過去最高かな?
期間明けすぎて、構想忘れるやら、プロットの紙消失するやら、いろいろしでかしたんで、支離滅裂な部分があるかもしれませんが、許してください!
では、16話です。どうぞ!
......ォ......
......?
......ォーン......
あれ......私どうしたんだろう。
辺りを見渡してみるがどこも真っ暗な世界が広がっていて、なにも見えない。ああ、なるほど。私はどうやら、夢の中にいるようだ。
確か八幡くんと喧嘩してたんだんよね。それをみんなに、しかもそこだけじゃなく、もっと恥ずかしいところまで見られてて......
なるほど、納得納得。現実であんな大胆な行動出来るわけないもん私。あれは夢、夢だったんだ。良かった〜......あんなの現実で起こったら、恥ずかしさのあまり気絶しちゃってたよ〜。
......ドォーン......
......ドォーン? なんだろこの音。爆発、じゃないよね。うーん?
それになんだかとても大事なことを忘れてるような......
......まぇ......
って夢の中なんだから大事も何も関係ないか。
で、夢の内容は、なんだったっけ......確か私が花火を打ち上げたいって提案したんだよね。そしたらみんな、賛成どころか準備まで手伝ってくれて。
...とまぇ......
それからみんなは肝試しのお化け役もしないとだから、そこで八幡くんと二人きりになったんだ。んー、よく出来てる夢だなー。
......まとまぇ...
花火は......そうだ、美咲ちゃんに見てもらいたくて。......美咲ちゃん? 美咲ちゃんと会ったのは昨日の出来事じゃ......花火を打ち上げるの計画したのも昨日のことだし......もしかして、
「まとまーー」
「花火打ち上げなきゃ!!」
「がはっ」「あだっ」
がばっと起き上がると、視界に煌びやかな光が差し込むと同時に、頭に鈍い衝撃。うぅー頭がチカチカする......
「的前、お前な......急に起き上がんなよ。俺の顎が危うくケツ顎になるところだったぞ」
「あたた......八幡くん? え、嘘。私寝てたのになんでここに......はっ! まさか寝込みを襲いに......。ちょ、ちょっと?! 私達高校生にはまだ早いと思うな?! .......するならまず付き合ってから......ごにょごにょ」
あぅ......まさか八幡くんがこんな大胆だなんて知らなかったよ......。せめて私の想いを伝えてから......
「は? 何言ってんだお前。気絶した時に頭がショートでもしたのか?」
む......なんでだろう。すごくバカにされてる。ん? 気絶?
「え? え? 気絶って、私はバンガローで寝てたはず......」
「うわー。こりゃ本格的にダメなやつだ。僅か十数分のうちに一体脳内でどんな処理が行われたんだか」
「......ちょっと待って。まさか、夢だと思っていたのは。みんなに見られて恥ずかしい思いしたのは、現実?」
「あ、ああ。ちなみにその件は、罪悪感だかなんだか知らんが、あいつらはこれ以上言及もしないし、掘り下げもしないとさ。よかったな」
八幡くんも恥ずかしかったのか、顔を逸らして素っ気ない態度を取ってくる。
っていやいや!
「よ、よよよ、よくないよ! あれって夢じゃないの?! うわぁ......穴があったら埋まりたいぃ! なんであんなこと言ったの、私のばかぁ!」
ガバッと頭を覆い唸る私。どうやら私の脳が都合よく夢と思い込んで、現実逃避してただけだったようだ。
「あー、自己嫌悪してるとこ悪いんだが。ほれ」
八幡くんが苦笑いしつつ、夜空を指差す。次の瞬間ーー
ドォーン......
あ、打ち上げ花火......
「きれい......」
市販のものとはいえ、夏の風物詩である花火が夜空に映えるその光景に思わず息を漏らす。その下には、導火線に火をつけるもう顔も見知った面々。
そっか、気絶してた私の代わりにみんなが打ち上げてくれたんだ。
「あはは、準備どころか最後の最後までみんなに任せちゃったなぁ......」
「別に気に病むことなんかねえよ。誰も不満に思ってないし、的前も気にすることもない。むしろ戸部に至っては嬉しがってたし。まあ、おまえがいないと締まらないってのはあるが」
すっと顔を横に向けた八幡くんの視線を追うと、
「あ......」
ぽつんと立てられている、一本の打ち上げ花火。
私が最初に打ち上げる予定だったものだ。
「これって、もしかして」
「ああ」
微笑を浮かべて頷きながら、私にライターを渡してくれた。
どうやら私が打ち上げる花火を、最後の締めとして置いていてくれたらしい。
「ありがとう」
「礼なら考えた他の奴に言えよ」
「......それちゃんと考えてから言ってる?」
「ああ?」
何言ってんだこいつって目で見られる。自分の発言が完璧だとでも思っているのだろうか。
......ほんと、嘘が下手というかなんというか。
「はぁ......」
「な、なんだよ」
「私がこの花火を最初に打ち上げるって言ったの、八幡くんだけだよ?」
「おぅ......そういやそうだった......」
「もー、お礼言われるのが恥ずかしいといっても、ちょっとぐらい素直になればいいのにー。ふふっ」
ほんと、こういうところが憎いんだよね、八幡くんって。
そしていっつも懲りずにドキドキさせられる私も私なんだけど。いい加減耐性ついてもらわないと、心臓に悪い。
「うっせ。それよりもう花火も打ち切りそうなんだ。的前もさっさと準備入ってくれ」
「あ、そうなんだ。まだ火のついてないのあるけど。それは私がやらなくていいの?」
「その点は大丈夫だ。葉山がローテ決めてくれてるから」
「あ、そうなんだ。そこまでしてもらっちゃったかー。お礼言っとかないと」
「葉山に礼言う暇があるんならちゃっちゃと待機についてくれ。誰かさんが気絶したせいで俺が指揮とる羽目になってんだから」
「あはは、やっぱりいじわるだよ。今日の八幡くん」
「いつもこんなもんだろ。それに礼、もちろん謝る必要なんてないのは本当だからな。小町を始め的前が気絶するまで追いやったことにみんな責任感じてんだか、ら......な」
墓穴を掘って自爆する八幡くん。もう、そこで顔を赤くしないでよ。なんだか私も恥ずかしいじゃん......
「あ、あー。もうそろそろだね! 位置についてくる!」
「お、おう。そうだな。頑張ってくれ」
思い返すと今日の私、何回大胆発言したかわからないな。一回クールダウンでもしないと八幡くんと一緒にいれる自信ないし、脱出脱出。
......火照った顔、見られなかったよね?
「あ、優香ちゃーん。もう大丈夫?」
待機していると、すぐに結衣ちゃんが手を振りながらやって来た。雪ノ下さんも一緒にいるので、どうやら二人とも打ち上げ終わったみたい。
「うん。いろいろ迷惑かけちゃってごめんなさい。それに打ち上げてもらってありがとう」
「う、ううん。その、私たちも野暮なことしちゃったなー、って反省してるしこっちこそごめんね......まさか気絶するだなんて思わなくて」
「そうね。出るタイミングを完全に失っていたとはいえ、覗き見ていいようなものではなかったし、大人しくその場を去らなかったこちらが一方的に悪いのよ? 的前さんが謝る必要なんてないわ。ごめんなさい」
「わわ、そんな、こっちは全然気にしてないから! ね、私も代わりに謝らないから顔上げて?」
本当のこと言うと、アレを見られたのは怒ってはないけど、ちょっとねー......。もう思い出すだけで顔から湯気が出そう......
「ええ、ありがとう。私たちが終わったから、そろそろみんなもここに来るんじゃないからしら。彼らもあなたのこと心配していたし」
「えー? もー、ただの気絶なのにみんな心配性だなー」
心配してもらっているのは素直に嬉しいのだが、理由が理由なだけに恥ずかしいんだよねぇ。
「羞恥だけで気絶するのは結構なものだと思うのだけれど......」
「初心なんだよー」
「う、初心とか言わないでよー。あの時はもう頭が真っ白で何も考えてなかったんだから。気付いたら意識なかったし......」
実際、私自身あそこまでああいうのに耐性がないとは思ってなかった。他人に見られるのってあんな恥ずかしいもんなんだね。
「それだけヒッキーのことに夢中だったてことなんじゃない? あそこで小町ちゃんが、喧嘩を止めに出てなかったらもしかして、ねー?」
「あれこそ恋は盲目、と言うんでしょうね。見ていていい勉強になったわ」
「もぉー!」
今日って八幡くんに限らずみんな意地悪なの? 私ってそんなにいじり甲斐あるのかなぁ......?
「あ、的前さん目覚ましたんだ。よかった」
不意に後ろから声をかけられ振り向くと、そこには葉山くんを始めとしたボランティア組のみんなが歩いてきていた。
どうやら、打ち上げる花火が残っているのは八幡くんと私だけのようだ。
「的前さんごめんね。なんだかいろいろと迷惑かけちゃって......」
「あ、ううん。大丈夫だよ戸塚くん。さっきも言ったけど全然気にしていないから」
「そう? よかったー」
ほっと胸をひと撫でする戸塚くん。うーん、ほんと戸塚くんって男子なのかわからない時あるんだよねー。仕草に違和感ないし。
「あ、そうそう。葉山くん」
「ん? なんだい?」
「なんだかいろいろと段取りしてくれたみたいでありがとう。どちらかというとこっちが感謝したいぐらい」
でも私が気絶してから程なくして打ち始めたっていうし、ほんと葉山くんってリーダー気質あるなー。
「............」
「ど、どうかした?」
「いや、あー、なるほどヒキタニくんならやりかねないな。しかしなんでそんなわかりやすい嘘を......」
「え、えーっと」
独り言を喋ってるけどどうかしたのだろうか。葉山くんらしくもない。
「的前さん。その、言いにくい、ってわけでもない、か。包み隠さず言うとね、僕は一切なにもしてないし、無論段取りなんてしていない」
「んん??」
えっと、それってつまり
「ヒキタニくんが、たぶん照れ隠しなんだろうけど、嘘をついてたってことさ」
「ええ?!」
「やー、あの時の先輩すごかったんですよー? 的前先輩が倒れた時はもちろん、その後もずーっと心配してたんですから。たぶん起きた時も近くに先輩いたと思うんですけど」
「ね、ヒッキーの慌てっぷりが珍しすぎて私たちがニヤニヤしてたら、見られたのが恥ずかしかったんだろうけど、捲したてるようにローテーション決めちゃったし」
「ほんっと」
「「「「「愛されてるねー」」」」」
「もー、からかわないでよー。八幡くんって誰にでも優しいから私にも良くしてくれるだけだってー」
というかさっきからかったの反省してないよね、みんな。
「「「......は?」」」
「あの、的前さん。それ、本気で言ってる?」
「......? うん」
女性陣が一様に疑問の声をあげ、葉山くんが顔をやや引きつらせながら尋ねてきた。
って本気な訳ないでしょ! さすがに気づくよ! でも依頼人として特別視してるだけの可能性だって十分あるからどうしようもないし、あと単純に恥ずかしい!
「まあそこが似てる分、あのお兄ちゃんと相性いい部分があるんでしょうけどねぇー」
「「「あー......」」」
すっごいわかる、とでも言わんばかりの顔されたんだけど。八幡くんと似てるって言われるのは嬉しいけど、それは似てるものによるんだよね......。さすがにあそこまで鈍感なのはちょっと......。少しぐらい気づいてくれてもいいのに。
「そんなに不安がらなくてもだいじょぶですってー」
「あら、もうそろそろ比企谷くんの分が打ち終わりそうよ。あと三発程度かしら」
「わわ、ほんとだ。ライターライター」
慌ててポケットからライターを取り出す。私が打ち上げるのはこの一つだけ。みんなのものと変わらない、ただの花火だけど、美咲ちゃんに込めた思いは一番の自信がある。
ドォーン......
でもこれは彼女が望んだからやっていることではない。
両親共に、亡くなってるなんて状況、小学生にはあまりにも辛く、苦しい。この花火も見てくれているかすら怪しいのだ。
それでも何かせずにはいられない。偽善者と言われようがどうでもいい。ただ少しでも彼女の心を動かせるなら。
ドォーン......
と、八幡くんがもう一発打てば私の番だ。あと数秒もない。うまくいってくれるかなぁ......。
なんて弱気なことを考えていると、ポンと、後ろから肩に手が置かれる。
「大丈夫だよ。どうせヒッキーのことだもん。優香ちゃんのためならどうにかしちゃうって」
「結衣ちゃん......ありがとう」
どうやら顔に出てしまっていたらしい。結衣ちゃんってこういう時やけに鋭いなー。部長として是非見につけたいものである。
「その言葉は私じゃなくてヒッキーに言ってあげなよ。きっと顔を赤くしてあたふたするから」
そしたらからかっちゃおー、といたずらっ子のように、にひひと笑みを浮かべる結衣ちゃん。うーん、悪いけど結衣ちゃんの場合、むしろ返り討ちに遭いそうな気がする。
ドォーン......
「あ! ほら! 最後の一発打ち上がったよ! 優香ちゃん、着火着火!」
「うん!」
導火線に火をつけ、さっと後ろに退がる。数秒後には、筒から夜空に向かって一つの閃光が飛び上がるだろう。
この想い、美咲ちゃんにーー
「たーま、ってほらほらみんなも一緒に、せーの!」
届け!
「「「たーまやー!」」」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「やあ、比企谷。お疲れだな」
小学生達がキャンプファイアできゃっきゃとはしゃいでいるのを視界の端に収めつつ、木の幹にもたれかかりながらボケーっとしていると、不意に冷たい物体が頬に押し付けられた。
「どうした。準備にかける時間がそれほどなかったとはいえ、そこまで疲弊するほどのものではないだろう。あの小学生達とまではいかんが、若いのだからもう少しはシャキッとしたらどうだ」
「なんかあれっすね。すごく親戚のおじさん臭が、しなくないです。とっても優しい近所のお姉さんみたいです許してください」
「まったく。最近君と顔をあわせる度に、失礼なことを考えられている気がしてならん。仮にも先生と生徒なんだ。もう少し目上の人間を敬ったりできないのか、ほれ」
「......どもっす」
缶ジュースとため息をありがたく受け取り、プシュっと栓を開け一気に煽る。渇いた喉に通る液体、サイダーが心地良い。キンキンに冷えてやがる......!
「ふぅ。で、どうしたんですか。もう仕事は全部片付いたんです?」
「片付いてはいない。といっても既に終わったと言っていいほど片してはいるがね。少し教え子と一緒に休憩を取ろうと思ってな」
「だったらあっちで話せばいいじゃないですか。ほら、俺以外は集まってますし」
楽しそうに打ち上げ花火の成功を祝っている集団を指差す。べ、別にうらやましくなんてないんだからね!
「まあまあそう言うな。私は君と話がしたいんだ」
「......そっすか」
このいつになく真剣な表情......うーんアレのことか?
「ふむ、君も気づいているだろうから単刀直入に言う。今回の的前を中心に行った計画、比企谷、あと雪ノ下もだろうが、あれではぬるい、何の解決にもならない、そう考えているはずだ。解決はもちろん、下手をすれば何の進展を得られないことに」
「......はぁ、なんですかいきなり。......確かにあれじゃ、どうしようもないでしょうね。でもそれは俺と雪ノ下だけじゃない、あいつら全員そう思ってますよ」
「ほう。それはまたどうして」
「はぁ、別に大したことじゃないですよ。人って生き物は、自分より不幸な人を見ると同情する、その上高校生なんて年頃は特に」
「なるほど。つまり上手くいかないと分かっていても、何かしらの行動を起こしておかないと後味が悪いと」
「端的に言えばそうですね。というか、あなたならわかりきってることでしょうが」
「そう怒るな。別に君たちのしたことが無意味だの言うつもりはない」
と一拍置いて、
「ただ君が、何をしたのか聞きたいだけだ」
「............」
教師というものはみんながみんな、教え子の行動が読めるものなのか。正直反則だと思います。
「そんなわけないだろう。誰もが人の心境など読み解くことはできないさ、むしろ、行動することが予想できた君だからこそ分かったようなものだ」
ついでに行動どころか心まで読まれる始末。
......俺ってそんな単純なやつなのん?
「結果的にはな。逆に道程は複雑で、読み切れないの極みだ」
「そんなこと言うぐらいだったらもう心読むの、やめてくれません?」
もう口を開かなくても、立派に会話成立しそうな勢いなんですがそれは......。
あ、それはそれで楽かもしれない。
「そうしたら君は心置きなく失礼な、と話を戻そう」
「で? 君は何をしたんだ」
「......大したことじゃないですよ。最低でもプラスの成果が得られるようにしただけです。変なことはしてませんよ」
これは紛れもない真実だ。次に会ったら軽く睨まれるかもしれないが、決して嫌われることはしていな、いかもしれない。あれ......不安になってきた。
「そうか。その言葉を信じよう。良ければ何をしたか......言うつもりはなさそうだな」
「先生だったら俺の考えていること、分かるんじゃないんですか?」
「馬鹿を言え。普通? 何それ? おいしいの?みたいな常識知らずの思考が、そうホイホイと読めてたまるものか」
「ははは、酷い思考の持ち主もいるもんですね」
「まったくだ。困る生徒だよ」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「あ......」
花火が終わった。と判断出来るものはないけど、不思議とそう感じられた。
「何だったんだろ、あの花火」
しおりに書かれていた日程に、打ち上げ花火なんて項目はなかったはずだ。
先生達の書き忘れ? それともサプライズ的な何かなのか。まあどちらにせよ、私には関係ないことか。
本来この時間に行われていたキャンプファイアの設置場所へと向かう。林道を抜けると、ごうごうと巻き上がる炎があった。どうやら既に着火されていたらしい。
「ほんと、無駄に元気」
数分前に終わった打ち上げ花火の跡は何処へやら。キャンプファイアの周囲には、キャッキャとはしゃぐ同級生と下級生の集団。自分もその小学生だが、正直あそこまで体力が持つとは思えない。
「ふぅ......」
木を背もたれに、体育座りをする。あ、この草のクッション座り心地、結構気持ちいい。
「............」
うとうと......
だめだ、微かに届くキャンプファイアの熱気のせいで眠くなってきた。
さすがに今寝ちゃうのは迷惑かけるし、何より恥ずかしい。何かで気を紛らわせないと。
「あ、そういえば......」
あの花火、打ち上がっている最中は高校生の人達を見なかったな。中学生の人はいたけど。あの人達が打ち上げてたのかな。となると、計画したのも彼らなのかも知れない。
......何にせよ、今日で林間学校は終わり。おじさんの好意は嬉しいけど、正直こういったイベントにはもう参加したくないな......。ただただ疲れるだけだっーー
「あ、ああ、あの、灯崎さん!」
「............あ、なに?」
頭上からかけられた上ずった声の方を見ると、三人の女子が目の前に立っていた。全員、少し顔が赤かったり、目を泳がせている。なんだろう、私何かしでかしたっけ......? あ、よく見ればクラスメイトだった。
というか危ない危ない。今完全に私が呼ばれたことに気づいてなかった......。
「あ、えっと、ねえ、どうしよう......」
「えぇ?! そこで私に振らないでよ!」
「普通に話しかけるだけでいいんじゃないかな」
「............?」
話しかけてきたと思ったら、三人揃って密談を始めてしまった。いや、密談って言えるほど声小さくないけど。
「ほら、むしろ変に意識するとかえっておかしいからさ。自然に話しかけちゃいなよ」
「う、うん。わかった」
なんなんだろう。罰ゲーム......なんてする子達じゃないし、させそうなクラスメイトもいないし......。まあ、関わりをもってたらもったで、私の過去のせいでお互い気まずくなるだけだろうし、いつも通り断っとこ。
「あの、わ、私、私たちと一緒に、は、花火してくれませんか!」
そう言って、ばっと、袋に包装された花火を出してきた。一体どこでそんなものを。
あー、なるほど。チラッと視線を女の子の背後へ向けてみると、そこには花火を配る先生達、それに群がるみんながいた。
「えっとその、ごめんなさい。私一人でいたいの」
「あ......」
まるで好きな人に告白して、振られたような顔をされる。ごめん。こうでもしないと気まずくなるだけだから。
「ダメだよ、ここで諦めちゃ。お兄ちゃんも言ってたじゃん。灯崎さんは優しいからそう言ってるだけだって」
「そ、そうそう。諦めちゃダメだよ!」
「う、うん」
......お兄ちゃん? お兄ちゃんって誰だろう。
「あ、あの! せめて、せめて一本だけでいいから......どうかな?」
う......そういう涙ぐんだ目で言ってこないで欲しい。いや、でもここで折れては、
「ごめーー」
「だめ、かな......?」
............
「一本、だけなら」
「ほ、ほんと?! やった! やったよ! ほんとにお兄さんの言った通り! あ、私ね!春木野 沙兎って言うの、よろしくね!」
「......ねえ、誰なの? そのお兄ちゃんて人」
この子たちを操ってる黒幕がいるような気がしてならない。
「え、ボランティアに来てる高校生さんだけど。黒髪で、ちょっと猫背の。その人に相談したら、灯崎さんは私達のこと嫌いじゃないから、こっちから一歩近づいてあげろ、って」
「ちょ、ちょっと沙兎ちゃん! それは秘密だって......!!」
「あっ!」
もしかしなくても、春木野さんって天然なのだろうか。
しかしこの特徴を聞く限り当てはまる黒幕は一人しかいない。八幡め、余計なことを。あとで恨みごとの一つでも言ってやる。
「ほ、ほら、灯崎さん! お兄ちゃんのことは忘れて花火しよ! あっちの方に空いてるスペースあるから!」
「う、うん」
そう言って、私の手を握ってきた春木野さんにされるがまま、歩き出す。
っていやいや、このままじゃダメだ。
「待って、みんな。聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「うん、なんでもいいけど......」
「どしたのどしたの」
「なにかな」
三人ともすぐに立ち止まり、私の言葉に耳を傾けてくれた。ゔ、こうやって静かな状況作られると辛い。
「その、私って親とかいないし、おじさんに面倒見てもらってるから、関わり辛くないのかなぁって。だから同情とか、哀れみで話しかけて来てるんだったら、今のうちに」
「......ふふ、優しいなぁ、灯崎さんは」
「なっ!」
や、やさしい? こっちは突き放すようなこと言ってるのに?
「私たちもうお兄さんから全部聞いてるんだからー。実は灯崎さんが友達欲しがってることから、全部知ってるんだよー」
「は?」
八幡!! あいつ絶対許さない!!
「でもね。少なくとも私たちは、そんなことで気まずく思わないし何より、灯崎さんと、ずっとずっと友達になりたいと思ってたんだもん。そっちの方が気まずさなんて上回ってるんだから。ほーら、いこ?」
「あ......」
私の手を握り、再び歩き出す春木野さん。
初めてだ。こんなことを言われたの。いや、それもこれも私が周りのみんなを遠ざけていたからなのかな。
「あっ! 灯崎さんが笑ってる!」
「わ! 本当だ!」
「えぇ......私だって笑いくらいするよ」
「あ、そうだよね。ごめんごめん。でも灯崎さんが笑ったの初めて見たから」
「もー、ひどいなー。あはは」
......ちょっとくらいは、あの男子高校生に感謝してやってもいいかもしれない。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「くっそ、なんでこんなクソ重いコンロを一人で運ばなきゃらねぇんだ」
翌日の朝、本日の予定は朝食を取った後、すぐに帰る準備をすることになっているため、皆が皆、荷物の運搬をしていた。
なお、俺がバカみたいな重量のバーベキューコンロを一人で運んでいるのは、圧倒的な男手不足からであって、いじめられているわけでは断じてない。というか真面目な話、腕が引きちぎれそう。よし、必殺! 違うことを考えて痛みを感じなくさせる技! ネーミングセンスの無さを恨みたい。
そっと目を閉じ、五感を機能させなくするべく、脳内で思考を始める。
とりあえず、家に帰って文明の利器に癒される妄想を......。
エアコン、扇風機、吸引力の変わらないただ一つの掃除機、冷蔵庫でキンキンに冷やされたマッ缶、ああ、最高やんけ!
よーし、いい感じに腕の痛みが和らいできたぞ。この調子で残りの道のりをーー、刹那、横腹に衝撃が走る。
「ぐはぁっ!」
コンロをその場に設置!その反動で俺は吹っ飛ぶ!己より、BBQコンロを優先する俺まじ人間国宝。
「ってぇな。誰だよタックルかましてきたの......」
恐らくタックルであろうものを受けた横腹よりも、ろくな受け身も取れずにしたたかに打った腰をさすりながら立ち上がる。
先ほど俺が立っていた場所に目を向けるとそこには、
「仕返し」
ニッ、と悪い笑顔をする少女、灯崎美咲が立っていた。
的前が望んでいた彼女の笑顔を、俺は思わぬ形で見ることとなった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「やっぱり八幡が黒幕だったんだ。おかしいと思った、誰にでも冷たく接してた私に、あの三人が突然声をかけてくるんだもん」
「おい待て、黒幕ってなんだよ。その感じだと、その三人組とも昨日は仲良く出来たんだろ? 初めて会った時とは、声のトーンがやけに違うし、歩調も軽やか、何より表情が豊かになった。お互い幸せなら結果オーライじゃねえか。むしろ感謝してほしいぐらいだね」
「うわぁ、どれだけ私のこと見てるの......さすがにひく......」
十分ほど前、俺にタックルをかましてきた少女、サキサキこと灯崎美咲は、俺に昨晩の件について言及してきた。
ボランティアとは言え、BBQコンロを運搬する使命を負っていた俺は、再認識した腕の痛みに鞭打って、コンロを運びながら彼女の言及にしぶしぶ応じた結果、今に至る。
しかし、人間は一晩でここまで変わるものなのだと、つくづく驚かされる。
この目の前にいる少女の、足取りの軽やかなことよ。一昨日会ったときなど、両足に足枷でもつけているのかというぐらいには、無気力に満ちていたというのに。
「俺をひくのは正直勝手にしろって感じだがな、サキサキ。お前は一つ勘違いをしているぞ」
「サキサキゆーな。なに? 実は黒幕じゃなくて殺人犯だったり?」
「誰も殺されてないし、平和この上ないよね?! 俺はあの子らを誘導してなんかないってことだよ!」
「......? じゃあ脅したの?」
「.............」
絶句。この子はどれだけ、自身が他人を遠ざけることに成功している、と信じ込んでいるのだろうか。
「根本的に違う。俺が言いたいのは、あの子たちが、お前と、仲良くなりたくて、自ら行動していたってことだ。俺はあくまで相談に乗ってやっただけ」
まあ、彼女らの相談が無ければ、今頃違う手段を投じていただろうが。恐らく、いや確実に、平塚先生にため息をつかれる類のものを。
「ええっと、つまり......」
「お前に、灯崎美咲と、友達になりたかっただけってことだ」
「じゃ、じゃあ八幡は、黒幕でも、真犯人でも、参謀閣下でもなかったってこと?」
「君は一体俺をなんだと思ってるの? まあいい、ちゃんとあの子らに接してやれよ。勇気振り絞っての行動だったんだから」
昨日の昼間、話しかけてきた時の彼女らの怯え様よ、俺のメンタルを木っ端微塵にするのに数秒もかからなかったぜ、はは。
「うん、あ、ありがと」
「おう。できればその言葉、的前にも、いや的前には必ず言ってほしいところだけどな。知らないだろ? あの花火、サキサキのために的前が打ち上げる計画したんだぜ? まあ今回はもう時間もないし、次会う機会があったら、ってことになるが」
「え、しおりの予定に書いてなかったあの花火って、私のため、なの?」
心底、なぜ自分にそこまでしてくれるのか、微塵も理解出来ていない顔だ。無理もない、協力した俺ですら的前の考えは完全に読みきれてないのだから。
「心身財布ともに投げ打って、計画してたからなぁ。優しいやつだよ、ほんとに。おっと、もうすぐ着くぞ。さすがに小学生のサキサキが付いてきたら、俺が怒られるから、ほれ、帰った帰った」
「で、でも!あのお姉ちゃんに、お礼!」
「もう集合時間ギリギリだろう? 単独行動は集団で動く中でタブーだ。どうせ、いつか会えるさ。世間は意外と狭いからな」
「そんな適当な......っ!」
「これでも人生の先輩だ。ちょっとは信じてみろ。損はさせないから、な」
「あ、ちょっ!」
コンロを足元に置き、サキサキの小さい肩に手を置き、来た道の反対、小学生が集合する方へ向き直させる。
「俺たちは友達じゃない。ただのボランティアだ。そんなものより、今は出来立ての友達のことを考えろ。もしかしたら、一生の付き合いになるのかもしれない。ほれ、このままだとみんなに迷惑かけることになるぞ?」
「......っ!.......うん」
悔しそうな顔をして歩き出すが、その足元はおぼつかない。......これだけ的前に感謝したいのなら、いいか。
ポケットから、メモ帳とペンを取り出し、ささっと数字を書く。
「おい、サキサキ」
「......サキサキゆーな。なに、このままだと私、遅れちゃうんでしょ?」
「時間はとらせねえよ。ほれ、これでも持っとけ。俺の電話番号だ。やったな、俺の電話番号を知る十本指の中に入れたぞ」
「えっと、怪しい人に関わっちゃダメだって、先生が......」
「別に怪しくもないし、嫌なら電話かけてこなけりゃそれで済む話だろ。かけてきたら、どうにかして的前と引き合わせてやるから」
「!! うん! ありがとう!!」
再び、今度はきちんとした足取りで、向こうへかけていくサキサキ。的前の名前を出しただけでこれなのだ、電話がかかってくることは確実だろう。
「ヒッキー? なにしてるのー、ヒッキーのコンロ待ちだよー?」
「あんな大口叩いといて、俺が迷惑かけてるとか死んでも言えねえな......」
「??」
持ち直したコンロは重いはずなのに、彼のその歩みは、三人の女子小学生に駆けていった少女の様に、弾んだものだった。
あ、タグに遅筆の二文字、追加しました。
というか更新してなかった間にUA10万いってた!ありがとうございます!
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