やはり俺に彼女が出来るまでの道のりはまちがっている。 作:mochipurin
プロローグを遡って、八幡と的前 優香の出会いから本編始まります。
八幡は激怒した。
7月、そう、夏。灼熱地獄を連想させるこの季節に、ある部長は、部員(俺)をまるで私物のように扱い、それでいて自身は部室で優雅に紅茶をすすっているというのだ。だから八幡は、かの暴虐の部長、雪ノ下雪乃を排除しなければならないと心に誓った。
「ってあいつそういや、俺が出て行く前にホットティー淹れてなかったか......?」
依頼を済ませて帰ったら、「あら、お疲れ様、いつもならこんなことはしないのだけれど、紅茶、淹れておいてあげたわよ」とか変な気を起こしていないよね? そうでないことを願うばかりである。
「ちょっとー比企谷くーん? 見てくれてるー?」
「あ、すいません。もう問題解決したんですか? お早いですね。では、俺はこれにて......」
「いやいやいや! まだここにきて10分経ってないからね?! そんなすぐに治るのなら比企谷くんに頼ってないよ!」
それもそうですね。八幡いまとっても帰りたくてウズウズしてるから早とちりしちゃったよ......早く家に帰って小町たんに会いたい......
「すいません、ちょっと考えてごとしてました」
「もー最初からそう言えばいいのに。なんでそう捻くれてるのかなぁ......」
うるさいやい、捻くれてなにが悪いんだっての。
「捻くれ者ってのも案外いいものですよ、なにせ他人のことを気にせず過ごせますからね」
「いや、それ、比企谷くんが友達いない原因のうちのひとつではあるかもだけど、捻くれ者=友達いない、っていう等式は成り立たないと思うよ......」
ボッチって言ってもないのに、ボッチ決めつけられちゃったよ......いやまあ、事実だから否定するつもりはないけど......
「まあ所詮は結果論です。どうでもいいからもう一回引いてみてください」
「強引に流されちゃったよ......いいや、じゃあもう一回引くからちゃんと見ててよね」
数秒後、依頼主の的前 優香が放った矢は、的を勢いよく貫いた。
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「あ〜だめだぁ〜また3秒前後だ......どうしよう......やっぱりあの引分けを変えたのがダメだったのかなぁ......いや、それならむしろ会のほうも......」
弓道着姿で椅子にうなだれる的前。手にあるのは俺が先ほどの弓を射る姿を録画した際に用いたスマホである。
何故こうなったのかを的前が自己反省モード中なうちにかいつまんで説明すると、
ある日突然、奉仕部の扉が勢いよく開かれる
→弓道部の部長である2年生的前 優香が現れた!
→的「早気っていうのが治らないから、素人の人にどんなでもいいから感想をもらいたい!!」
→(雪ノ下が二つ返事で)依頼を受ける
→雪「では比企谷くん明日からいってらっしゃい」
→......は?
あと由比ヶ浜も最初は行くと断言していたのだが、武道系に関わるとロクでもなさそうだと感じた雪ノ下がやんわりと抑えていた。俺も抑えてくれて......良かったんだよ......?
それでも磨き上げられた社畜精神で、1日である程度の予習、そして何よりこの炎天下の中、この俺が、校舎外に出て来たのだ。信じられない。明日に雹でも降りそうなまである。まあ? 結局その素人目からすると、もうすでに完成された形にしか見えなくてさっぱりわからないんですけどね? 八幡、予習役に立たないの巻。ニンニン!
ちなみに、早気というのは、弓を引ききってから、矢を打ち出すまでの時間が早い症状の事を指すらしい。主に3秒台を下回るものを早気というのだそうだ。
「はやけ、ですよね?
「よくないよーそれにもし今は当たってても、早気を気にせず打ち続けてたら、いずれ当たんなくなっちゃう人も多いもん。あと素人って聞こえは悪いけど、見たまんまの意見を聞かせてもらえるから、今の私の症状改善のためにはぴったしかなーって」
「そういうもんなんですかね」
武を嗜むっていうのは、精神的なものも関わってくるらしいし、そんなものなのかもしれない。
「というかさ、比企谷くん。け・い・ご!」
「的前さん。比企谷くんは、けいごじゃないんですよ?」
「違うよ!そうじゃないって! 敬語! やめにしない?」
「いやー......えっと......」
「同級生相手に敬語使ってるの私ぐらいなんじゃないの?」
「いやぁ......まあ......はい」
「だよね、普通に雪ノ下さんとか由比ヶ浜さんにはタメ口だったもんね。それでなんで私にはタメ口じゃないの?」
「......言わなきゃダメですか?」
「当たり前でしょ。私が納得いかないもん」
それ自己中心的な理由やん......
「ほーら! 白状して!」
「......もと.........からです......」
「もと......から.......? え? なんて?」
うんごめん、今のは俺ですら聞き取れなかった。
「......的前さんの家が、家元だからです......」
「......へ? 確かに昨日自己紹介した時にそんなことを口に出した気はするけど、敬語と一体どこに関係が?」
「.......だって家元の娘に男が気安く話しかけでもしているのが知られたら、抹消されそうで......」
おう、にいちゃんうちの可愛い娘になに気安く話しかけてくれとんじゃい! ってな感じで東京湾に埋められそう。
「はへ......? ......っ! く......くっくっく......あっはっはっは!!! ひ、比企谷くん......抹消......抹消って!! 世紀末でもそんなことなかなかないよ。あっはっはっは!!」
「............」
おいてめえ何笑ってんだ。こちとら結構真剣に悩んでたんだぞ。
「あのねぇ、比企谷くん(笑)うちの家はそんなのまっっったく気にしない家柄だし、むしろ両親からは高校生2年生にもなって彼氏1人出来たことない私に心配してるぐらいなんだよ? それを......抹消って......くっくっく、あーダメだ変にツボはいちゃった」
だからと言って、いくらなんでも笑い過ぎじゃないですかね? 八幡泣いちゃうよ?
「あー面白い......ということだから、比企谷くん、け・い・ご止めようね。むしろー敬語使ってた方が抹消されるかもね〜」
「冗談でもやめてくださいよ......」
「む......」
え、なにそのふくれっ面可愛すぎやしません? 以前の俺なら告白して見事振られてるよ? 振られちゃうんだ......
あ......
「......冗談でもやめてくれ」
「ん、よろしい」
なにこのラノベでよく見るテンプレ。俺じゃなけりゃ軽くハーレムルート突入寸前だね。
「よし! 比企谷くんがちょこっとだけ素直なったところでまた頑張りますかー!」
「さっさと解決して俺を帰らせてくれ」
「はいはい、そーゆーこといわないのー」
久しぶりに濃密な放課後を校内で過ごすことになりそうだ。
いかがでしたでしょうか!
八幡の通う高校に弓道部があるという設定で書いておりますがご了承ください。
それと的前 優香という名前、名字で察した方もいらっしゃったかもしれませんが、弓道用語からきてます。
あと弓道着姿の女子......イイ......!!
では、また次回お会いしましょう