ソードアートオンライン~剣士達のensemble~ 作:宮橋 由宇
一部に原作のセリフ、及び説明を使用しています。セリフについては話の展開上どうしても入れなければならないため、ご了承ください。
序章一節『Sword Art Online』
生きたいと願った命があった。
帰りたいと叫んだ命があった。
戦うと覚悟した命があった。
守り通すと誓った命があった。
楽しもうと笑った命があった。
助けようと泣いた命があった。
彼らは確かに、その世界で生きていた。
その命は輝いて、希望が花開くように
世界の闇を照らしていた。
──────────────
ピピピピ……ピピピピ……
「……ん……」
朝、
頭の中に鳴り響く電子音を聞きながら僕はゆっくりと瞼を開けた。
思考はすぐにクリアになり、今自分が置かれている状況はすぐに把握した。
上半身だけを起こし周囲を確認する。部屋の中は簡素で、机.ベッド.イス以外には何もない。住むのではなく、一日、二日泊まるだけの”宿”だった。
「……」
……まあ、そんなことは起きたときから分かっている。別に朝起きたら知らない場所にいた、何てことは無い。きちんと、この宿に泊まった経緯は思い出せるし、その点においては現状なんの問題もない。
問題点は別にある。
「やっぱり……夢じゃ……ないんだよな……」
そう、今問題にすべきは近代化が進むこの時代に、こんな時代遅れの宿に泊まっていることそのものであり、
今、自分がゲームの中にいることに対してだ。
何を話すにしてもとりあえず、ゲームの中にいると言うことについて説明しなければならないだろう。
ゲームの中にいるといっても、別にゲーム画面に吸い込まれたり、ゲームキャラに転生したり、妄想世界に逃げて来たりしたわけでは無い。
『ナーヴギア』が電磁波に乗せて流してくる情報を脳が、目や耳の代わりに見、聞いているのだ。
『ナーヴギア』
それは僕たちが今居るゲーム。VRMMORPG『ソードアートオンライン』を動かすゲームハードの名前だ。
ナーヴギアは今までの携帯ゲーム機やテレビゲーム機とは根本から大きく異なる。
平面のモニタ装置と、手で握るコントローラーと言う二つのマンマシン・インターフェースを必要とした旧ハードに対して、ナーヴギアのインターフェースは一つだけだ。頭から顔までをすっぽりと覆う、流線型のヘッドギア。
その内側に埋め込まれた無数の信号素子が発する多重電界により、ギアはユーザーの脳と直接接続する。
それにより、ナーヴギアは聴覚や視覚だけでなく、味覚、嗅覚、触覚を加えた所謂五感全てにアクセスできる。
≪リンク・スタート≫
その開始コマンドを口にした瞬間、意識は途切れ視界は暗転し、次に気がついたときには既にデジタルデータで構築された仮想空間の中にいることだろう。
半年前、2022年5月に発売されたこのマシンは、ついに完全なる《
しかし、完全ダイブと言う新時代のゲーム環境を実現したナーヴギアだが、その機能の斬新さ故に、肝心のソフトリリースはパッとしない物が続いた。どれもがこじんまりとしたパズルや知育、環境系のタイトルばかりで、ナーヴギアの『真の仮想世界を造る』と言う特性を十分にいかしきれないで居た。
そんな中に満を持して発表されたのが、VRMMOという新ジャンルを冠したゲーム、《ソードアートオンライン》通称SAOだった。
SAOのゲームの舞台は、百にも及ぶ階層を持つ巨大な浮遊城、《アインクラッド》。
草原やら森やら街、村までが存在するその層を、プレイヤー達は武器一本を頼りに駆け抜け、上層への通路を見出し、強力な守護モンスターを倒してひたすらに城の頂上を目指す。
ファンタジーMMOでは必須と思われていた《魔法》の要素は大胆に排除され、代わりに《
スキルは戦闘用以外にも、鍛冶や革細工、裁縫と言った製造系、釣りや料理、音楽などの日常系まで多岐にわたり、プレイヤーは広大なフィールドを冒険するだけでなく、文字通り《生活》することが出来る。望み努力すれば、自分専用の家を買い、畑を耕し羊を飼って暮らすことだって可能なのだ。
どれほどの人間が、このゲームを待ち望んだことか、想像に難くないだろう。
「なんて、全部雑誌の受け売りなんだけど」
苦笑しながら右手の人差し指と中指を掲げ下に振る。
するとチリリンという鈴の音のようなサウンドを響かせて半透明のメニューウインドウが現れた。
そのまま装備メニューに移動し、通常時の装備に着替える。そして最後に現実ではけしてあり得ないもの、武器を腰に吊った。
新たに現れた重みを感じながら部屋のドアを開け外に出た。
数部屋続く廊下を渡り階段を降りる。一階は食堂となっており、既にちらほらと人影が見えた。
しかも彼らはNPCではない。全員が自らの意思を持ったプレイヤー、本物の人間なのだ。
彼らもまた僕と同様にこのゲームに魅了されたゲーマーであり、
茅場晶彦の手によってデスゲームと成り果てたSAOに囚われた囚人達なのだ。
2
時間は今から12時間前、昨日の午後5時にまで遡る。
開始と同時にログインし、SAO世界を堪能していた僕は夕食のために一度ログアウトしようとし、その異変に気づいた。
「ログアウトボタンが……無い?」
この世界に来た時は確かにあった、ログアウトボタンが消えていたのだ。
場所を移動したのかと思いメニューウインドウをくまなく探してみるも、それらしきアイコンはない。
バグだろうか?そう思い、メニューウインドウを消した。どちらにせよ時間が来れば母が無理矢理はぎ取るだろう。
自分が今居る草原には他にも何人かプレイヤーの姿が見える。モンスターと戦っている者も居れば、同じようにメニューウインドウを出しログアウトボタンを探しているものも見える。
それらの人々をぼんやりと眺めていたとき、不意に二人の男達が目に入った。
何てことは無い。この世界ならどこにでも居そうな男達だ。イケメンではあるがあくまでアバター。ここではそれほど珍しくもない。
だが二人の男達の片方、黒色の少し長めの髪をした男の方に何かを感じ僕は目をとめた。
剣気……とでもいうのだろうか。普通に生活したのではけして身につかない、ある種異質な空気を纏っていた。
剣道や剣術、それらの武道を経験したことがある者は、多かれ少なかれこのような空気を纏い、感じるようになる。
達人の域にもなるとそれらの気配を感じることで目をつむっていても斬り合えるらしい。
しかし、今居るのはゲームの中なのだ。なので本来ならそのような気配、感じることもないはずなのだが……
「いや、とりあえず接触してみるか……」
百聞は一見にしかず。一度斬り合ってみれば分かることだ。
幸いにしてここはゲームの中。刀を吊っていても、果たし合いを申し込んでも捕まることはない。
何て考えながら男の元へ向かおうとして
突如として、世界が反転した。
「……え?」
先ほどまでいた広々とした草原の景色は跡形もなく消え去り、代わりに人々でごった返した、ログイン時に見た始まりの町の景色が目に飛び込んできた。
「これは……いったい……」
ログインした時にも、多くの人々を見て驚いたものだが、今居るプレイヤーの数はゆうにその三倍、いや四倍はあろう。
広場に集められたプレイヤー達は運営のログアウトボタン消失に対する事だと思っているようで、
「どうなってるの?」
「これでログアウトできるのか?」
「早くしてくれよ」
などと口々に叫んでいる。そして、時間が経つにつれその声は、
「早くしろよ!」
「GM出てこい!」
という苛立ちを内包した喚き声になっていった。
しかしいっこうにGM、ないしはアーガスの関係者は出てこない。プレイヤー達の苛立ちが頂点に達するかというその時、
「おい!上を見ろ!」
どこからかそう声がして、全てのプレイヤーは一斉に上を見た。
そうしてそれを見た。
天蓋に浮かぶ真っ赤な文字。それはそれぞれ「Warning」「System Announcement」と見える。
周りのプレイヤー達がやっとログアウトできると安堵する中、僕はいいようのない恐怖を覚えていた。
そしてその恐怖を具現化するかのように、ある一つの現象が続いた。
真っ赤な文字の中央がどろりと溶け、血のような雫を垂らした。しかし、下まで落ちることはなく空中で止まり、ゆっくりとその形を変え始めた。
やがて雫は2mはあろうかという真っ赤なローブへと変化した。だがその中は空洞で、顔に当たる部分には底知れぬ闇が広がっている。
プレイヤー達がしんと静まりかえる中、赤ローブは低く落ち着いた、よく通る男の声でこういった。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
茅場晶彦。その名前は知っている。僕たちが今ダイブしているこのゲーム、SAOの開発ディレクターでありまたナーヴギアの基礎設計者でもある人物だ。このゲームをするならば必ず一度は目にする名前だろう。
このゲームの開発者である彼がこの事態に出てくるのは普通に考えたら当たり前だ……だが、彼は今自分を、「この世界をコントロールできる唯一の人間」だといった。
それはつまり、
ログアウトができない今、僕たちの命はこの男に握られているという事ではないのか
「そんな馬鹿な事……」
うすら寒い感覚を覚えるが、そんなはずはない。結局はログアウトができないだけなのだ。こちら側からアプローチできないとしても、外側からコードを抜くなり、ナーヴギアを引きはがしたりすればそれですむ話だ。
『プレイヤーの諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。コレは不具合ではなく《ソードアートオンライン》本来の仕様である』
「なんだって……?」
聞き間違いではない。だが、自分の耳を疑う程度には、その言葉は信じがたいものだった。
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』
『……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない』
『もしそれが試みられた場合──』
限りなく長い一瞬の静寂。重苦しい空気の中、その言葉はゆっくりと発せられた。
『ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
その言葉を聞いたとき僕が抱いた感情は、大きな驚愕と、それを上回る絶大な恐怖だった。
脳を破壊し生命活動を停止。それはつまり死ぬ、ひいては殺すということだ。もちろん、そう簡単に信じられる話ではない。
現に周りのプレイヤー達はざわざわと騒ぎはするものの叫んだり暴れたりはしない。
本当か、悪質な冗談か計りかねているのだろう。
「はは……何言ってんだアイツ、おかしいんじゃねえのか。そんなこと出来るわけねぇ、ナーヴギアは……ただのゲーム機じゃねぇか。脳を破壊するなんて……んな真似が出来るわけねぇだろ。そうだろキリト!」
プレイヤーの内の誰かが、かすれた声でそう叫ぶ。
そこにキリトと呼ばれたプレイヤーが声を返す。
「原理的には、あり得なくもないけど……でも、ハッタリに決まってる。だって、いきなりナーヴギアの電源コードを引っこ抜けば、とてもそんな高出力の電磁波は発生させられないはずだ。大容量のバッテリでも内蔵されてない……限り……」
キリトと呼ばれたプレイヤーは話している途中で絶句した。
少し考えて僕もその理由に思い至る。
「内蔵……してるぜ。ギアの重さの3割はバッテリセルだって聞いた」
そう、キリトの言う条件をナーヴギアは満たしているのだ。
「でも……無茶苦茶だろそんなの!瞬間停電でもあったらどうするんだよ!」
その声に返すかのように、茅場の声が再度響く。
『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み──以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は既に外部世界では当局及びマスコミを通して告知されている。因みに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果──』
いんいんと響く金属質の声は、そこで一呼吸入れ、
『──残念ながら、既に二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
どこからか小さな悲鳴が聞こえた。
『諸君が、向こう側においてきた肉体の心配をする必要は無い。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。
諸君のナーヴギアが強引に除装される危険は既に低くなっていると言って良かろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま2時間の回線切断猶予時間の内に病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護体制の元に置かれるはずだ。諸君には、安心して....ゲーム攻略に励んで欲しい』
そう言いきって茅場は一呼吸入れる。
「何を言ってるんだ!ゲームを攻略しろだと!?ログアウト不能の状況でのんきに遊べってのか!?」
「こんなの、もうゲームでも何でも無いだろうが!!」
キリトと呼ばれたプレイヤーが叫ぶ。しかし茅場は意にも介さず告げる。
『しかし十分に留意して貰いたい。諸君にとって《ソードアートオンライン》は、既にただのゲームではない。もう一つの現実というべき存在だ。……今後ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
「くそっ……!」
悪態をつく。が、それでどうにかなるわけでもない。
状況は最悪だ。ノーコンティニューの
そんなクソゲー、誰だって進んでやろうとは思わない。
だが、やらなければ終わらない。始めなければ進めないのだ。
「どうしろってんだよ……」
どれだけ悪態をつこうとも、罵声を浴びせようとも、茅場の元へは届かない。
それを証明するかのように茅場は淡々と話を進めていく。
『それでは最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』
いくつもの鈴の音のようなサウンドが鳴り響く。メニューウインドウの出現サウンドだ。僕も同じようにアクションコマンドを入力しメニューウインドウを出現させた。
アイテムストレージに移動すると、入っていたのは《手鏡》と言う名のアイテムだった。
「何だってこんなもの……」
茅場の意図が理解できないまま、手鏡をオブジェクト化させる。
しかし鏡の中に自分のアバターの顔が映り込むだけで、何も起こらない。
「何なんだ……?」
訳が分からず首をひねっていると、突然、視界が白に染まった。
「なんだ!?」
攻撃かと思い警戒するもののダメージはない。
2、3秒してから視界が戻ったとき僕は今日何度目になるか分からない驚愕に包まれた。
「なっ!?」
光が収まった後、華奢な手鏡に写っていたのは先ほどまで見ていたアバターの顔ではなかった。
現実世界の自分自身の顔だったのである。
「……まさか!」
はっとして辺りを見回す。そこにいたのもファンタジー世界にありがちな顔の美男美女の群れではなく、現実世界でよく見るようなありふれた顔ぶれだった。鎧や剣を装備しているのが、ものすごい違和感を感じさせる。
そして驚くことに男女比も大きく変わっていた。半々ぐらいの比率だったのが、ほとんどが男のプレイヤーに変わっている。見渡せる範囲だけでも、女のプレイヤーはごく少数だ。
(……状況から見るに、プレイヤーは現実世界の顔に変えられたって事なのか?……性別も元に戻されたなら、この男女比の変化も頷ける……)
しかし理由が分からない。何故このようなことをする必要があるのだろうか。そして、茅場の目的は何なのか。
『──諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は──SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんな事をしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と』
と、僕の心を読んだわけではないだろうが、まさにピンポイントに僕の考えていたことを茅場は語り出した。今までと同じ機械的な声ではあるが、どこか感情を感じさせる声で茅場は語り続ける。
『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、既に一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を作り出し、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』
そのまま一気に言い切って、茅場最後にこう告げる。
『……以上で《ソードアートオンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の──健闘を祈る』
わずかな残響と共に深紅のローブが音もなく消える。
天上に浮かんでいた赤文字も、一つだけの波紋を残して消滅した。
そして、ここまできてようやく、一万人のプレイヤー達は本来とるべき行動をとった。
つまり、自らの全身全霊の叫びで、現実を否定する言葉を並べ立て始めたのである。
「嘘だろ……何だよこれ、嘘だろ!」
「ふざけるなよ!だせ!ここからだせよ!」
「こんなの困る!このあと約束があるのよ!」
「嫌ああ!帰して!帰してよおおお!」
最早何もない中空に向かって、あらゆる罵詈雑言を浴びせかける。しかし、茅場の元に届くわけもなく、虚しい残響を響かせて、言葉は虚空に消えていった。
「……っは……!」
驚愕と、混乱と、恐怖と。
洪水のように溢れる感情が自分の足を止め、思考を堰き止める。
落ち着け、落ち着けと自らに言い聞かせる。ここで泣き喚いて、進むのをやめれば確かに楽だろう。だが今ここで止まったら、恐らくもう二度と現実世界に戻ることはない。今は諦めるんじゃなく、どうにかしてこの世界から出るために動くときだ。
「……スゥ……ハァ……」
何度か深呼吸を繰り返し、煩く鳴り響く心臓を落ち着かせる。
落ち着け、
今は泣き叫んでいる場合じゃない。
今は罵り合う時じゃない
今は絶望している暇なんかない。
ただ、戦え。戦って生き残れ。
それだけで良い。
「……よし」
躊躇いは10秒とかからずに済ませた。
プレイヤー達の間を抜け、迷いなき足取りでゲートをくぐる。
それは、ある意味で思考停止の現実逃避だったのかもしれない。
けれど、確かに必要な一歩だった。
視界の端に表示される警告は、モンスターの出るフィールドに出た証拠。
この境界線を抜けたからには、これからずっと死がつきまとってくるだろう。
だが、それで良い。
覚悟を決めろ。
うじうじ悩むのは、心に余裕ができてからでいい。
「……今はただ、進もう」
現実は分からないことだらけだ。けど、やるべき事は見えている。
第百層の攻略。最終的な目的が分かっているのなら、後はそれに向かってどうすれば良いかを考えれば良い。
絶望の中、か細い希望の光に向かって、剣士ハクアはこのデスゲームの攻略に向けての最初の一歩を踏み出した。
3
ハクアがゲートをくぐる少し前、一人の男が茅場の居た今は何もない空間を見つめていた。
「……」
男は何も喋らない。
だが、その目には確かな光が宿り、その口元は愉悦を隠しきれないというように小さく嗤っていた。
絶望から来る諦めの笑いではない。
さりとて、希望から来る物でもない。
男は、ただ純粋に、このゲームを
しばらくした後、男はまるで興味を失ったように視線を戻し、周囲の阿鼻叫喚などまるで聞こえていないかの如く、口元に獰猛な笑みを浮かべたまま、広場を後にした。
そして、ゲートをくぐった所で小さく、誰にも聞こえないような声でぽつりと呟く。
「……どんな物かとやってみたが……予想以上だ。……いいぜ、これから──」
「面白くなりそうだ」