ソードアートオンライン~剣士達のensemble~ 作:宮橋 由宇
剣士達のensemble次話投稿しました。楽しんでいただけると幸いです。
「ただいまー」
アルゴとの密会(やましい意味はない)を終え、暫定的ホームの酒場兼宿に帰ってくる。
「ん、おかえりー」
すると部屋の奥から聞きなれた少女の声が聞こえてきた。その声の方に向かって歩いていき、目視できる距離になってから、言葉を紡ぐ。
少女、ユウキは一発で部屋着とわかるようなラフな格好でソファに座り、何かの本を読んでいた。
「ただいま、ユウキ。ごめんね遅くなっちゃって」
「んーん。いいよ別に。ボクも色々考えることがあったしちょうどよかったから」
ユウキは嫌な顔することもなく、僕の言葉にはにかんでそう返した。僕のことを気遣っての言葉だとわかるが……考えることがあったという言葉も嘘ではないのだろう。ユウキがこの世界で生きてく意思を固めてから、ほんの数時間しか経ってないのだから。
「そういってくれると助かるよ。……でも、やっぱり迷惑かけたのは確かだからね。だから……ほら」
そういいながら、メニューウィンドウを操作し、とあるアイテムをオブジェクト化する。
それはシュンッという特徴的なサウンドエフェクトを響かせながら、テーブルの上に現れた。
「あ!これって!」
ユウキもそれに見覚えがあったらしく、驚きと期待の入り交じった反応を返してくる。
「トレンブリングショートケーキだ!」
「うん。そうだよ。ちょうど持ち帰りできるみたいだったから。ユウキ前から一度食べてみたいっていってたしね」
オブジェクト化されたのは、巷で美味しいと評判なちょっとお高い、件のトレンブリングショートケーキだった。持ち帰りが不可能であれば諦めるつもりだったが、残念というべきか幸いというべきか持ち帰りは可能だった。……しかも、店で食べるより値段が一増しと言うオプション付きで。
「わー!ありがとハクア!」
「どういたしまして。そんなに喜んでくれるなら奮発したかいもあったかな」
子供のように無邪気に喜びを表現するユウキを見て、自然と笑みがこぼれる。この笑顔を見れただけでも、こいつを買ってきた意味は十分にあったと言えるだろう。やはりユウキには、涙より笑顔が似合う。
「でもまぁ、日持ちはあまりしないからね。今日か……明日には食べちゃおう」
「今!今食べる!」
待ちきれないといった様子でそう言うユウキ。
「けど、ユウキもう晩御飯は食べてるでしょ?その上ケーキまで食べれるの?」
「甘いものは別腹だもん!」
女の子らしいその言葉に呆れと感嘆の両方を抱く。僕にはとても晩御飯を食べた後でケーキを食べるなどという暴挙はできそうにない。もともと軽食なのもあるが。
「それじゃあ、少しだけ食べて、あとは明日においておこうか」
「うん!そうする」
そう言うが早いかユウキは、読んでいた本をストレージにしまって、さらにウィンドウを操作して皿とナイフ、フォークを取り出した。そしてナイフでケーキの一部を切り取って、器用に自分の皿に移していく。その作業を見つつ、ついでとばかりに自分の装備も室内用に変更しておく。もろもろの作業を終えて一人用の椅子に腰かけたところで、ユウキを見ると、ちょうどケーキを取り終わったようだった。
「じゃあ後は置いておいてハクア。……いただきまーす」
「うん。どうぞ、召し上がれ」
ケーキの残りをまたストレージに戻す。ユウキは切り取ったケーキの5分の一程度を豪快に一口で食べた。
「んー!!!美味しい!」
そして、歓喜の声を上げる。全身で美味しさを表現しました。と言わんばかりにオーバーリアクションをして、ユウキは二口、三口とどんどん食べ進めていった。
「そんなに美味しい?」
「うん!ハクアも食べる?」
「んーん。僕はいいかな。今はお腹減ってないし。明日の朝にもらうよ」
「なら明日は一緒に食べよーね!」
笑顔で、そう告げるユウキには、ただ幸せの色だけが見てとれた。
前を向いて、いや。前を見据えて生きていくことを決めたユウキだが、まだ迷いや葛藤があるのではないか。……少し、そんな風にも思っていたけど、その表情を見て杞憂だったとわかった。
(明日への希望を語れるなら、ユウキはもう大丈夫……かな)
そう、幸せそうにケーキを食べているユウキを見ながら心で呟く。
「……ん?」
そんな僕の視線に気づいたユウキが小さく首をかしげるけど、僕はそれに苦笑いしながら手を振って返した。
「おいしかったー!」
そして、ケーキを食べ終えたユウキは、そう声を上げた。
「ごちそうさまでした!……ありがとね!ハクア」
「どういたしまして」
食べ終わった食器をストレージにしまっていく。
しまいおえたユウキはソファに横になって深く息を吐いた。
「はー……美味しかったけど、ちょっとお腹苦しいかも」
「だからいったのに」
苦笑し、椅子から移動して、ユウキの横に腰かける。ユウキはなにも言わずにそのまま、だらーっとした格好で、余韻を味わっているようだった。
──話を切り出すなら、そろそろかな
共に往くと誓った直後で、アルゴと一緒に行動するからしばらく別行動になる……なんて、こんなことを言い出すのは心苦しかった。なので、少し尻込みしていたが……流石に言わないわけにもいかないだろう。
覚悟を決めて、ユウキに話しかける。
「ねぇ、ユウキ。ちょっと話があるんだ」
2.
結論から言うなら、ユウキは快く僕の申し出、と言うか報告を許してくれた。
特に機嫌を損ねたり、ということもなかったため僕としてはひと安心である。
そして、今何をしているかというと、
「それじゃ、アインクラッドの攻略に向けて、まずは二層攻略に向けての、会議を始めようか」
「うん!」
──とまぁ、そういうことである。
「とはいっても、攻略に関する情報の大半はこの本に書かれてるから、攻略そのものにはあんまり話し合うこともないんだけど」
そう言って僕が取り出したのは、小さなパンフレットのような冊子。先ほどユウキが読んでいたのと同じものだ。
題名は「アルゴの攻略本~二層編~」
「ほんと、すごいよね。アルゴさん。この本には色々助けられてるなぁ」
「攻略に必要な情報がこれでもかってぐらい詰め込まれてるからね。仕事も早いし……僕もいつも助かってるよ」
アルゴとはつい先ほど代金を支払う代わりに仕事の手伝いをする。という契約を結んできたところだが、これを結ぼうと思い至った理由のひとつにこの攻略本をどう作っているのか、と言うよりこれだけの情報をどう集めているのか。と言うのが気になったからと言うのもある。
「まぁそんなわけで、攻略情報に関して言えば話し合うことはないんだ。だから、
この会議で話し合いたいのは、僕らはこの二層でどう動くかってことだね」
「って言うと?」
「このまま二人で攻略を続けるのか、キリト達と組むのか、どこかのギルドにはいるのか……って感じかな」
「キリト達はともかく……ギルドかぁ……」
ユウキは机にペタりと顔をつけて、ウンウンと唸り始める。そしてはたとなにかに気づいたのか顔をあげた。
「そういえばさ、ギルドが設定できるクエストって三層からのはずだからまだ正式なギルドじゃないよね?」
「うん、そうなるね。一層ボス戦の時も、あくまでレイド止まりだったし。……とはいってもシステムとしてギルドがあるかどうかの話だから、いずれ作るのが決まってるならあまり関係のない話だと思うけどね。……ギルドがどうかしたの?」
「んー……なにか明確にどうこうって訳じゃないんだけど………何て言うのかなぁ、細部が見えないのが怖いと言うか……」
「?」
どういうことだろう。ユウキの言いたいことがいまいち見えてこない。
「ようするにね、ボクは怖いんだ。ギルドに入ることで色々しがらみが増えたり、縛られたりするんじゃないかって」
「!」
あぁ、そう言うことか。やっとわかった。
つまり、
「まだ仮ギルドで、ギルド設定もなにもないから、本当のギルドの設定の詳細がわからないのが怖い、ってこと?」
「うん」
少し強張った顔でユウキが小さく頷く。
「今はまだ、仲良し集団みたいな感じで通ってるけどさ、ほんとのギルドにしたら、例えば月何コルギルドに払え、とかこの討伐戦には絶対に参加しろ、だとか自分の行動を制限されるんじゃないかなーと思って」
「ユウキは、制限されるのが嫌なの?」
「んー……そうなるのかなぁ……あんまり束縛されるのは好きじゃないかも」
渋い顔でそう言って、ユウキはまたペタリと机 に突っ伏した。
「うーん、となるとギルドに入るって言うのは無しかな。まぁ実際僕も束縛されるのはあまり好きじゃないしね」
「でしょ?」
それと言葉にはしなかったが、行動を制限されるとユウキを守れなくなる可能性がある。個人的にもそれは避けたかった。
「ギルドがダメとなると、じゃあどうしようか……」
「ねぇ、ハクア」
また、思考の中に沈もうとしていた僕に、ユウキが声をかけてくる。
「ボク、二層ではキリトたちと一緒に行動しようかなって思ってたんだけど……ダメかな?」
「ダメじゃないさ。僕も誰かと行動するならキリトかエギル達だと思ってたから、ちょうどいいよ」
うん、実際ちょうどいい。キリトとアスナの二人は信用できるし、何より二人とも強い。ある意味、ギルドにはいるより心強いぐらいだ。
「なら、二層では僕はアルゴと、ユウキはキリトとアスナの二人と行動する。……ってことでいいかな」
「うん!」
よし、行動方針は決まった。キリト達に断りはまだいれてないが……まぁ大丈夫だろう。あの二人がユウキを拒否することもない。
何かしらの問題があって行動できないようなら、その時はエギルさんとか、他の人に頼めばいい。
「と、じゃあそろそろお開きにしようか。行動方針は決まったし……それにそろそろ遅い時間だしね」
現在の時刻は11時50分。そろそろ寝る準備をする頃合いだろう。
「ほんとだ!もうこんな時間だったんだ」
ユウキもあわてて立ち上がる。
「それじゃハクア!また明日!」
そしてそのまま元気に自分の部屋に戻っていった。
「うん、また明日」
僕もそう挨拶を返して、自分の部屋に戻っていった。