ソードアートオンライン~剣士達のensemble~   作:宮橋 由宇

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一章『勇猛なる戦士のrondo』
一章一節『第一層攻略会議』


 ボクは、生きると言うことについて誰よりも理解している自信があった。

 

 それは確かに過剰な物ではなくて、確かな確信があってのことだった。

 今までボクが生きてきた人生。そんなに長いものでは無いけれど、誰よりも人の生死について関わってきたと言える物だった。

 

 誇れることでは無いのかも知れないけれど、ボクは生きることを諦めたり、死にたくなったり、そんな感情に振り回されることは無いと思ってた。

 

 けどそれは、

 

 あの世界に入るまでの物だった。

 

 

 生きようとは思った。

 

 死なないようにしようとは思った。

 

 けど、

 

 生きたいと、

 

 死にたくないと、

 

 そう思えなかった。

 

 何を考えても、まるで小説を見て共感しているみたいな感じで、自分の感情がついてこない。

 

 生きようとはしても、死ぬなと言われたから生きているみたいで、自分の意思で生きている感じがしない。それでも死のうとしてるわけでも無い。死にたいと思っているわけでも無い。

 

 ただ、実感が無い。

 

 自分がどうしたいのか、分からなくなってしまった。

 

 

(ボクは……どうしたいんだろう……)

 

 ここに来て、何度そう自問したか分からない。

 不安で押しつぶされそうな中、それでも回りにはそんな姿は見せたくないと、とにかく明るく振る舞ってきた。希望を信じて進んで行こうと、ゲーム攻略に向けてフィールドに出た。

 もしかしたら自分がどうしたいのか分かるかも知れないと、そんな気持ちも抱いてモンスターと戦ったりしてみたけれど、やっぱりそこだけもやがかかったみたいに認識できなかった。理解できなかった。

 

 不安はある。けどそれは死ぬかも知れないことに対しての、自分の人生がここで終わるかも知れないことに対しての不安ではなかった。

 ただ、理解できないことが恐い。認識出来ないことが恐い。

 自分が自分でなくなっていくような、どんどん自分が見えなくなっていく。自分という物がなくなっていくような、そんな恐怖だった。

 

(恐い……恐いよ……ボクは……何のために……)

 

 今自分は何のために生きていて、何をするために生きようとしているのか。

 それを知るために、ボクはこのゲームで戦うことを決めた。

 

 

 それは、酷く歪で、今にも壊れてしまいそうな、小さな少女の抱いた一つの物語──

 

 

 

 

2

 

 

「……ん……」

 

 朝。

 まぶしさを感じて、目を覚ます。

 目を開けて一番に飛び込んできたのは、木目が刻み込まれた綺麗に整った、いや、整いすぎた天上。リアルではあるが、やはり現実と比べるとどこか違和感を感じてしまう……そんな光景だった。

 

「……んっ……!」

 

 ベッドの上に起き上がり、大きく伸びをする。

 そのまま手足の運動を軽くして、首をこきこきと2、3度鳴らしてからやっとベッドから降りて立ち上がった。

 

 そこで、コンコンと、ドアを叩く音が鳴った。

 

「ユウキ、おきてる?」

 

 ドア越しから聞こえてくる声は、このデスゲームを始めた次の日にパーティーを組んで、一ヶ月という長い期間、共に戦ってきた少年の物。視界の端に見えるHPバーは2本。下のバーにはきちんとhakuaの文字が刻まれていた。

 

「うん、起きてるよ。着替えるからちょっと待ってね」

 

 さすがにパジャマ姿のままで対面するわけには行かない。彼には悪いが少し外で待っていて貰おう。

 

「うん、分かった。急がなくても良いよ」

 

 彼は気にすることも無く、ボクの言葉に素直に従ってくれる。せめてそんなに待たせないようにしようと、素早くウィンドウを操作していった。

 

 と言っても、ここでの着替えはそもそもそれほど時間がかかる物でもない。一ヶ月という期間を経て既にだいぶ慣れた人差し指と中指を揃えて下に振るというアクションコマンドでメニューウィンドウを呼び出して、装備画面に移動。後はそれぞれの部位に対応する欄に装備を付けていけば良いだけだ。

 服をわざわざボタンを外して着る必要も無いし、ソックスもわざわざ履く必要も無い。ボタン一つでシュンという特徴的な音と共に自動で装備されるのだ。

 

「……これでよし……」

 

 全ての装備を付け終わって、メニューウィンドウを閉じる。勿論腰に剣を吊るのも忘れない。この世界では、コレが自分の力で生き抜くために必要なたった一つの命綱なのだから。

 

「もう良いよ、ハクア!」

 

 装備のつけ忘れが無いことも確認して、扉の外で待機している筈の彼を呼ぶ。

 返答は数秒もしない間に返ってきた。

 

「終わった?じゃあ開けるね」

 

 そして、この部屋唯一の扉がガチャリと音を立てて開く。

 入ってきたのは、私と同じ簡素な服を纏った、どこか幼さを感じさせる顔をした白髪の少年だった。

 

「おはよう、ユウキ。けっこう早いんだね」

 

 少年、ハクアは柔らかな笑みと共にそう言葉をかけてきた。その笑顔は優しげな、と言う言葉が似合うような笑顔だった。背も男にしては低く、青年と言うよりかは少年と言った方がしっくりくる。実年齢が何歳かは知らないが、イメージとしては中学生ぐらいだろうか。その童顔と相まって女の子のような雰囲気すら感じられた。勿論、怒られそうなので本人には言わないが。

 

「うん、おはよう。ハクア。それを言うならハクアもだよ。ボクより早かったんじゃない?」

 

 今の時刻は5時12分。起きてから、着替えて入ってくるまでに10分ぐらいは経ってるはずだから、私が起きたのはだいたい5時ぐらい。もう完璧に用意も済ませてるハクアはもっと早く起きていただろう。

 

「そうかもね、僕はいつも4時には起きるようにしてたから……」

「それはちょっと早すぎない?」

 

 どうやら、予想以上に早く起きていたらしい。起きてから今まで、何をしていたのだろうか……

 

「現実世界で早く起きる習慣が付いちゃってて……アラームは6時にセットしてるんだけどね」

 

 少し自嘲気味に笑うハクア。

 ハクアの顔に影を見て、ボクは何も言えなくなる。どうやら、現実世界に対して何か思うところがあるらしい。それはボクも同じだからハクアの気持ちはよく分かる。

 現実世界での習慣をふとした瞬間にしてしまって、現実世界のことを思い出してしまったときは、何とも言えない気持ちになる。

 

「……それはそうとさ、ユウキ。今日はどうする?」

 

 ハクアが、誤魔化すようにボクに問いかけてきた。

 先ほどのことには触れずにボクも思ったことをそのまま返す。

 

「うーん……どうしようかな……レベル上げに行っても良いけど……」

 

 正直言って、もうレベルはそれなりに上がって第一層ではこれ以上上げるのは厳しい。今のボクのレベルは10。ハクアが11で、第一層では十分戦えるレベルではある。武器にしても、ボクのアニールブレードや、ハクアの曲刀(名前は知らない)はこの第一層では最高ランクの武器だ。新調するにしても、強化するにしてもこれ以上は難しい。

 と、そこまで考えていたところで、ハクアが「じゃあさ、」と言う言葉と共に声をかけてきた。

 

「今日の四時からトールバーナの街で一層攻略会議が開かれるらしいんだ。それに参加してみないか?」

 

 

 

 

3

 

 

 

「ここが……トールバーナ……」

 

 喧噪溢れる街の風景を見て、ボクは感嘆の声を上げた。

 街のそこかしこから人々の声が聞こえてくる。聞こえてくるのは、笑い声、叫び声、呼び声、様々だ。

 

「ユウキは来たこと無かったよね。トールバーナは最前線の街だから、他のとこと比べたら人は多い方だと思うよ」

 

 ハクアの言葉通り、今まで通った街や村は、プレイヤーは多くても数十人程度で、このトールバーナほどの賑やかさは無かった。始まりの街には確かに何千にと言う人々がいるが、あそこはしんと静まりかえって、まるで廃村のような雰囲気を漂わせている。こことは正反対だ。

 

「凄いねー……こんなにSAOをクリアしようってプレイヤーが居たんだね……ボク知らなかったよ……」

「まぁ、全員が攻略組プレイヤーって訳じゃ無いだろうけどね。それでも確かに凄い数だよ。これほどの人が立ち上がってくれたんだって思うと何だか嬉しくなるよ」

 

 ハクアの言うことに、ボクも共感する。

 確かにこれだけいれば、百層攻略も夢じゃ無いかも、そんな気さえしてくる。

 

「けどまあ、そう簡単にはいかないんだろうけどね。今日の攻略会議も何人来てくれるか……」

 

 ハクアは不意に厳しい顔になって、そう呟いた。

 

「そこまで心配しなくても良いような気がするなあ……これだけ居ればけっこう来てくれる人も多いと思うけど……」

「どうだろうね。確かにフィールドに出てくれる人は増えたけど、ボスはそこら辺のモンスターとは根本的に違う。より死ぬ危険の高いボス戦に来てくれる人は少数だとおもうよ。……そうだね。多くて50人くらいじゃ無いかな……」

「そんなに少ないかなぁ……」

 

 頭に疑問符を浮かべながらも、ハクアの言葉を信じることにする。

 こういうことに関してはボクよりハクアの方が詳しい。て言うか、いろんな事で頼り切っちゃってるなぁ……

 

「まあ、行ってみれば分かるか。時間もちょうどいいしいこうか、ユウキ」

「うん!」

 

 いっこうに止む気配のない喧噪の中、ハクアと共に会議の開かれる広場に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 ハクアの睨んだとおり、第一層攻略会議に出席していた人数はボクの予想よりずいぶん少なかった。

 

 その数、ボクたちを合わせて46人。

 

 1レイドの上限が6×8の48人なので、二人少ない計算になる。

 中にはちょくちょく見知った顔も見えて、全くの初対面な人ばかりではないと知って少し安心した。まあ、ハクアが居るから一人も居なくても大丈夫だったとは思うけど。

 

(って、早速頼ってる……気をつけないと……)

 

「ん。始まるみたいだよ、ユウキ」

 

 ボクが自己嫌悪に陥っていたところにハクアが小さな囁き声でぼそっと呟いた。

 その声で現実に引き戻される。

 広場の中央にはいつの間にか一人の男の人が立っていた。立っていたのは髪を鮮やかな青色に染めたセミロングの青年。少なくとも、今までに見たことは無い。青年はボクたちを一瞥するとはきはきとした良く通る声で喋り始めた。

 

「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!知ってる人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!オレは《ディアベル》、職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」

 

 その自己紹介を聞いて広場に集まった一団の一部がどっと沸いた。「ほんとは《勇者》って言いてーんだろ!」などと言った声も聞こえてくる。

 

「面白い人だね」

「そうだね。人をまとめる才能を持ってる。あの人がリーダーなのも納得かな」

 

 ハクアと二人そう言い合う。

 

「さて、こうして最前線で活動してる、言わばトッププレイヤーの皆に集まって貰った理由は、もう言わずもがなだと思うけど……」

 

 ディアベルは、その言葉と共に、人差し指を天高くそびえる迷宮区に向ける。

 

「今日、俺たちのパーティーが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くってことだ。第一層の……ボス部屋に!」

 

 どよどよとざわめくプレイヤー達。

 けれどボクは、それほどの驚きはなかった。事前にハクアからそのことを聞いていたからだ。

 ……どうやってその情報をつかんだのかは知らないけれど。

 

「一ヶ月。ここまで、一ヶ月もかかったけど……それでも、オレたちは、示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、はじまりの街で待ってる皆に伝えなきゃならない。それが、今この場所にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

 

 再び広がる拍手喝采、ハクアも拍手しているのを見てボクも同じように手を叩いた。

 

 けど、ディアベルの言葉を聞いて、ボクの心の中には葛藤にも似た何かの感情が渦巻いていた。

 

(いつかきっとクリアできる……か……そうだといいな……)

 

 何を今更って感じだけど、やっぱり誰も死にたくない。いつかこのゲームがクリアされて、現実世界に生きて帰れるのを望んでる。それはボクも同じで、生きてるうちに、このゲームをクリアして、早く家族の元に返りたい。

 けど、ボクは──

 

(……クリア……出来るのかな……いつか……いや、ボクがこの世に生きてるうちに)

 

 体が微かに震える。手をぎゅっと握って震えが収まるのを待つ。恐い、怖い、コワイ。

 死ぬのが恐い、戦うのが怖い。……生きているのがコワイ。

 

(……姉ちゃん……っ!)

 

「ユウキ」

「っ!……あ……」

 

 何も言わずに、ハクアがボクの手を取る。

 

「大丈夫だから。きっと、クリア出来る」

 

 自信と信念を持って、しかし表情は優しけで。ハクアの手は、何故かとても暖かく感じた。データが作り出すポリゴンの塊の筈なのに、なぜか、人のぬくもりを感じた気がした。

 

「……」

 

 ハクアは何も言わない。ただ、ボクの震えが収まるのを待ってくれてる。分かってくれてる。ああ、それのなんて心強いことだろう。

 

(……そうだ……一人じゃ、ない。一人じゃ、ないんだ)

 

 なら焦らなくていい。少しの間でも、誰かがそばに居てくれるなら、それだけでとても心強い。

 地道に進んでいこう。ゆっくり歩いて行こう。

 一人じゃないなら、急ぐ必要なんて無い。

ハクアの手を握ったまま、スーハースーハーと何度か深呼吸を繰り返す。それで動機は収まった。

 

「……もう、大丈夫……」

「そう?」

 

 まだ心配そうな目を向けながらも、ハクアはすんなりと手を離す。それを何故か、名残惜しいと思ってしまった。

 

「……ありがとう」

「どういたしまして」

 

 蚊の鳴くような小さな声で、お礼の言葉を紡ぎ出す。ハクアは聞き逃すこともなく、笑顔で返してくれた。

 

 終わった後で、少し恥ずかしくなる。

 顔から火が出る……とまでは行かなくても、確実に赤くなっているだろうことは容易に想像できた。

 

(うう……また迷惑かけちゃった……)

 

 気をつけようと、さっき誓ったばかりだろうに。

 内なる自分の声が、そう呆れているのが聞こえた。

 

(だってしょうが無いじゃん……家族ののことを考えると、いつもああなっちゃうんだから)

 

 最早誰に反論しているのかも分からないまま。ぐるぐると渦巻く思考がまとまらない。

 

 落ち着け、落ち着けとまた2、3度深呼吸を繰り返し、やっと、現実に目を向けることが出来た。

 ボクが内なる葛藤を繰り広げていた間に、会議は進んでしまっているようだ。

 

 何か、いがぐりみたいな人とスキンヘッドおじさんが増えてる。

 何やら物騒な会話をしているみたいで、皆一様に難しい顔をしていた。

 ……栗食べたくなってきた。

 

「……ベータテスターについて、話してたんだ。あそこのキバオウさんが、ベータテスターが情報を隠してたせいで、2000人もの新規の人が死んだって」

「それは……」

 

 あまりにも暴論ではないだろうか。全てが全て、情報不足が原因ではないと思うけれど。

 

「うん……死んだ2000の中には、少なからずベータテスターの人たちも混ざってるはずだ。僕らはベータテスターではないから分からないけど、ベータテストからの小さな変更点で死んじゃった人がけっこういるみたい。事前知識があるが故の死……その点で言うなら、彼らもこのゲームの被害者だ。一概に彼らだけが悪いんじゃない」

「そう……だよね」

 

 キバオウと呼ばれたいがぐり頭の人の気持ちも分かる。情報不足が原因で命を落とした人も確かにいるし、その点は情報をひた隠しにしてきたベータテスターに非があるのかも知れない。

 

「難しいね……こう言うのって……」

「うん。難しくて……そして悲しいよ」

 

 認め合って、助け合うことが出来れば、もっと攻略は進むのに。

 

「みんな、それぞれに思うところはあるだろうけど、今だけはこの第一層を突破するために力を合わせて欲しい。どうしても元テスターとは一緒に戦えない、って人は、残念だけど抜けてくれて構わないよ。ボス戦では、チームワークが何より大事だからさ」

 

 ディアベルは、そんな言葉でベータテスターのいざこざを終わらせた。反論する者は居なかったし、出て行く者も居なかった。あのキバオウさんも、「…………ええわ、ここはあんさんに従うといたる。でもな、ボス戦が終わったら、きっちり白黒つけさしてもらうで」そんな風に言って大人しく元の場所に座ってくれた。

 とりあえずは一安心だ。

 

 それからは、何事もなく会議は進んでいった。

 特に、何かが進んだと言う物でもなかったけれど、プレイヤー達の心を一つにして、チームワークを高めるという意味では重要な物だったのかも知れない。

 

 と、会議が終わって、解散しようとしたときのことである。

 

 ガタンッ

 

「おわっ!」

「おっと」

 

 ハクアが、一人の片手剣使いとぶつかった。片手剣使いはバランスを崩し、地面に倒れてしまった。

 

「ごめん、大丈夫?」

「とと……あ、ああ、悪い」

 

 ハクアが片手剣使いに手を伸ばす。片手剣使いはその手を取って、立ち上がった。

 ボクと同じ、アニールブレードを背負ったその片手剣使いの顔は、ハクアに負けず劣らず童顔で、同様に女装したら女の子に見えるレベルだ。

 

(何でこんなに女顔の男の人が多いんだろう……)

 

 謎である。

 

「……へぇー……」

 

 と、片手剣使いは驚いたというように僕とハクアを一瞥して声を上げた。

 

「何か?」

「あぁ、いや、女性プレイヤーがいたのかと思ってな。俺がいたとこからじゃああんたらは見えなかったから」

 

 そう言いながら、片手剣使いはちらりと僕を見据える。

 

「あぁ……そう言えば他には居なかったね……」

 

 ボクもその光景を思い出しながら、同調する。

 確かに、ぱっと見たかぎりでは女性プレイヤーはいなかったように思える。

 

「いなかった……わけではないみたいだけどね」

「え?」

 

 ハクアが、意味深な言葉を紡ぐ。そして、片手剣使いの傍らに無言で佇んでいたフードケープの人物を指さしこう告げた。

 

「そこの人。女性プレイヤーだろう?」

 

 フードケープがぴくりと震える。

 

「……ああ、よく分かったな」

 

 片手剣使いは、少しの警戒を滲ませた声でそう答えた。

 

「何で分かったんだ?」

「そのブーツ。どう見ても女物じゃないか」

 

 その答えに、片手剣使いは目を丸くする。

 

「よ、よく分かったな……そんなこと……」

「……家族が、ファッションに煩くてね……そういう知識が嫌でもついちゃったんだよ……」

 

 少し疲れを滲ませた声で返すハクア。片手剣使いは「なるほどね」と言って警戒を解いた。

 

「と、そう言えばまだ自己紹介もしてなかったな」

 

 片手剣使いが今しがた思い出したというようにそう言った。

 

「そう言えばそうだね。じゃはこっちから。僕はハクア。こっちはユウキ。よろしくね」

「ああ、俺はキリトだ。んで、こっちは──」

「アスナよ」

 

 キリトが紹介しようとしたのを遮るように、女性プレイヤー、アスナは短く告げる。

 

「あ、ああ、よろしく」

 

 そして、互いに握手を交わす。

 ボクも、同じようにキリトとアスナと握手をした。

 それから、幾つか談笑をして、ボク達は二人とフレンドになった。

 次の会議の時に、また顔を合わせることもあるだろう。

 

「それじゃあまた」

「じゃあね!キリト!アスナ!」

「ああ」

「……また」

 

 そして、今度こそ本当に解散する。空はすでにあかね色に染まり、夕日が沈みかけていた。

 

「それじゃあ僕らも帰ろうか」

「うん!」

 

 ハクアと二人帰路につく。

 何だか、今日は楽しかった。会議の時は確かにいい気分ではなかったけど、キリトとアスナ。あの二人に会えたのは、これから先、とてもいいことだった気がする。

 あの二人となら、いい友達になれそうだ。

 

 そんなことを考えながら、ボクは夕焼け小焼けに染まり行く道を歩いて行った。

 

「今日の晩御飯はなんにする?」

「うーん……栗!」

「……何で?」

 

 

 

 

 

 

4

 

「あいつら……なんだったんだ……?」

 

 プレイヤーホームの中、《アルゴの攻略本》を逆さにして読みながら、俺は会議の時のことを思い出しそう小さく呟いた。

 あいつ、とは会議の後にあった二人、ハクアとユウキのことである。

 

「悪い奴らではなさそうだけど……」

 

 名前を聞いたことはなかった。あの会議に参加するぐらいだからそれなりの実力はあるのだろうが──

 

「なーんか危ういんだよなぁ……」

 

 特に、ユウキと名乗ったあの少女。彼女からは最初会ったときのアスナと同じ雰囲気を感じる。

 このデスゲームに似つかわしくない明るい少女だったけど、それが逆に不安にさせる。

 なんか、無理して明るく振る舞ってるような……

 

「まぁ……俺が考えてもしょうが無いか」

 

 少女のことはあのパートナーに任せよう。

 そう決めて、キリトはアルゴの攻略本に改めて目を向けた。

 

 相も変わらず、逆さまだったけれど。

 

 




少しわかりにくかったかも知れないので補足説明。この一章からはSAO始まってから一ヶ月後……ぶっちゃけて言うとプログレッシブの一巻からの話になります。このssでは、プログレッシブは二層までする予定なので、一章も二層までの話になります。あとハクア、ユウキのボス戦での立ち位置はキリト、アスナとパーティーと言うことになります。
それではまた次回。楽しんでいただけたら幸いです。感想、評価出来ればよろしくお願いします。
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