ソードアートオンライン~剣士達のensemble~ 作:宮橋 由宇
なので、文章や展開が分からなかった場合には、予めお詫びしておきます。申し訳ありません。
「……終わった……か……」
独り、ぽつりと口にした独白は、誰の耳に届くことも無く虚空へと消えていく。
それもそのはず、この大地を揺るがすほどの大歓声のなかで、囁き程度の小さな呟きなど聞こえるはずも無い。
雌雄は決した。
第一層ボス、《イルファング・ザ・コボルドロード》との決戦は、僕達プレイヤー側の勝利で終わった。
結果的に見てみれば、ほぼほぼベストな結果だと思う。こちらの被害も少なく抑えられた。
(でも……最小ではない……)
そう。結果は良かった。それは紛れもない事実だろう。だが、それはあくまで結果の話。その過程において、僕達はけして忘れ得ぬ傷を負った。
ディアベル。
それが、この戦いにおいての唯一の殉職者の名である。
常に前線に立ち、この残る45人のプレイヤー達を支えてきた、勇敢なる戦士にして、聡明なる指揮官。
彼はリーダーとして僕等を指揮し、確実な勝利へと導こうと奮闘した。
彼のリーダーとしての力は本物だったし、僕達もそれを疑うことは無かった。
だが、現実として、彼はその命を落とした。
彼の指揮に問題は無かった。問題があったとすればそれは、深刻なまでの情報不足。そして、その情報を集めるだけの時間と人員不足だった。
ボスである《イルファング・ザ・コボルドロード》は本来、骨斧、皮盾、そして
HPゲージの3段目までは骨斧と皮盾で戦い、4段目に入ってから腰の湾刀を引き抜き戦う。事前情報ではそうなっていた。そして実際、イルファングの動きは途中までは情報通りだった。
だがHPゲージが4段目に入り、本来湾刀に切り替える場面で、イルファングは予想外の行動に出た。
いや、イルファングの動きそのものには違いは無かったか。違うのは、その引き抜いた獲物。
イルファングが腰に吊っていたのは骨斧でも湾刀でもなく、紛れもない漆黒の刀だった。
勿論、湾刀ではないのだから攻撃方法もまったく違う。
その刀の標的にされたディアベルは、ろくな対処も出来ないまま切り裂かれ、その儚い命を散らした。
指揮官を失い恐慌に陥るプレイヤー達だったが、僕等H隊の暫定リーダー、キリトの指揮により何とか立て直し、苦戦しながらもその後の被害を出すことは無くボス戦を勝利で収めた。
キリトの指示は、ディアベルとは方向性が違う物の、引けを取らぬ的確さだった。
そして攻略本にも書かれていない、ベータテスターさえ知り得ぬ情報を持って、キリトは戦いを勝利へと導いた。
──だから、必然だったのだと思う。怒りの、悲しみの矛先が彼に向かうのは。
2
「────なんでだよっ!!」
大歓声に包まれていたボス部屋に突如として響く悲鳴じみた叫び声に、あたりは一瞬にして静寂に包まれた。
「────なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」
続けるようにそう叫んだシミター使いの目は、真っ直ぐにエギルと拳を合わせようとしていたキリトを捉えていた。
「見殺し……?」
「そうだろ!!だって……だってアンタは、ボスの使う技を知ってたじゃないか!!アンタが最初からあの情報を伝えてれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!!」
訳が分からないといったふうにオウム返しに聞き返すキリトに、シミター使いは尚もその激情をぶつけるように叫び続ける。
その声に呼応するように、「そういえばそうだよな……」「なんで……?攻略本にも書いてなかったのに……」といった言葉と動揺が広がっていった。
だんだんと広がっていく動揺に、小さくない不安を感じる。このような憎しみから来る言葉は、良い結果をもたらさない。
確かにシミター使いの言う通り、キリトがその情報をディアベルに伝えていれば、死なずに済んだ可能性もあるだろう。だがその行動によってディアベルが死ななかった保証はないし、伝えなかったことが直接的に作用したとも限らない。責任の全てがキリトにあるわけではない。
「…………ハクア……」
「ユウキ……」
同じように不安を感じているのだろう。横で静かに行く末を見つめていたユウキが、僕の服の裾をぎゅっと握る。
僕はそんなユウキの頭をそっと撫でる。そして、その小さな手を取って、握った。
と、互いに無言で居たシミター使いとキリトの間に、一人の男が入り込んできて、金切り声でこう言った。
「オレ……オレ知ってる!!こいつは、元ベータテスターだ!!だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ!!知ってて隠してるんだ!!」
男の言葉は、驚くほどあっさりとプレイヤー達の間に浸透した。シミター使いの居るC隊の面々の顔にも驚きの感情は無く、ただ深い憎しみが渦巻いているのが見て取れた。
シミター使いは三度何かを口にしようとしたが、エギルの居る隊のメンバーの一人が右手を挙げたのを見て口を閉じた。
「でもさ、昨日配布された攻略本に、ボスの攻撃パターンはベータ時代の情報だ、って書いてあったろ?彼が本当に元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本と同じなんじゃないのか?」
「そ、それは…………」
押し黙る面々、だが怒りで冷静な判断が出来ていないのか、シミター使いはすぐにエギル隊のメンバーの言葉にさらなる憎しみを込めてこう言い放った。
「あの攻略本が、ウソだったんだ。アルゴって情報屋がウソを売りつけたんだ。あいつだって元ベータテスターなんだから、タダで本当のことなんか教えるわけ無かったんだ」
それは、ただしく呪いだった。
怒りだった。憎悪だった。
溜まりに溜まった水が、留めきれずに溢れるように。高まった悪意は呪いを形作る。
振りまかれた
ただ焦燥ばかりが膨れ上がり、何も出来ない自らに歯痒い思いをしながら、俯き何も喋らない剣士の姿をただただ見つめる。
今ここで口を出すのは簡単だろう。だがそうして彼らの怒りの矛先をキリトからそらしたところで、今度は他の誰かに向かうだけだ。それはアスナかも知れないし、エギルかも知れない。僕かも知れないし、はたまたユウキかも知れない。
(それだけは……それだけは避けないと……)
自分がどうなろうと構わない。それだけの覚悟は持ち合わせている。だが、このか弱い少女にだけは、そんな思いをして欲しくなかった。
(どう……すれば……!)
時間が経てば経つほど
(……あるいは…………殺人すらも罰と成る……)
人が人を罰するために必要なのは、一個体の意思からなる神罰では無く、複数人の意思の統合である人罰である。
同じ意思で構成される複数人の決定は、一人のそれと同義だ。
そして、今この場所で行われているのは、人罰では無く、神罰だった。シミター使いの言葉に引っ張られ、その憎悪に流された人々はそれを是とし、キリト含めたベータテスター達を悪とした。
彼らとて、最初からベータテスターを憎んでいたわけではないだろう。ただ、現状がそうさせた。感情の流れに飲まれ、思考し、判断することを放棄した。
それは人としては当たり前の選択であったし、周りと合わせようとするのは日本人なら誰でも持つ価値観だろう。一概に「何も知らないくせに」と彼らを罵ることなど出来ない。もとより、
(僕が……彼の、キリトの何を知ってるって言うんだ……)
彼との関係はただのパーティーメンバーでしかない。共に行動したのも数回。彼のことについて、知っていることなど底が知れている。
「………くそっ……!」
だれにも聞こえないように、小さく悪態をつく。だが、聞こえたわけではないのだろうが、不穏な空気を肌に感じたのかユウキが小さく震え、自らの体をぎゅっと抑えた。
心配しなくて良いと、ユウキを安心させるためにより一層の力を込めて握る。
しばらく静寂に包まれていたボス部屋は、だがしかしその均衡が長く続くはずも無く、シミター使いの再度の言葉によって崩れ去った。
「どうした!何か答えろよ!!卑怯なベータテスターが!!!」
その声は半ば裏返り、半乱狂しているような感じだった。
「おい、お前…………」
「あなたね…………」
その攻撃的な、暴力的な言葉に、エギルとアスナの二人が耐えかねるとばかりに反抗の声をあげようとし、
「元ベータテスター、だって?……俺を、あんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」
その、嘲笑混じりのキリトの言葉に遮られた。
「な……なんだと……?」
「いいか、よく思い出せよ。SAOの
挑発的で、侮蔑の混じったキリトの言葉に、ボス部屋に集まっていたプレイヤー達はしんと静まりかえった。鋭いナイフのような研ぎ澄まされた怒りがキリトに向けられているのが判る。
そして同時に、キリトがやろうとしていることも理解してしまった。アスナ、エギルも同じように理解したのか、苦虫を噛みつぶしたような顔で、尚も見下したような表情と声音で続けるキリトを静かに見据えている。
「……《ビーター》、良い呼び方だなそれ」
そして、ベータテスター時代の最前線で培った技術と知識は、他のベータテスター達も知り得ないレベルの物だと自ら暴露したキリトに、降りかかるベータテスターとチーターの文字。誰かがぽつりと言ったその複合体のような言葉に、キリトは言い得て妙だと頷く。
「そうだ、俺は《ビーター》だ。これからは、元テスター如きと一緒にしないでくれ」
そして、そう大仰に名乗りを上げ、メニューウインドウを操作し、ボス限定ドロップ品であるコート・オブ・ミッドナイトを翻しながら装着する。
「二層の転移門は、俺が
最後にそう言い放ち、キリトはカツカツと足音を響かせて、第二層へ続く階段のある、巨大な玉座の後ろへと歩いて行った。
キリトは去り際に、アスナ、エギル、そして僕達へ、視線を投げかけた。アスナとエギルは全て判っているというように、僕は君の判断を信じると、その思いを込めてキリトを見返した。少しほっとしたような表情で二層へと歩いていくキリト。その黒い背中を見つめていると、黒の剣士と、ふとその言葉が頭をよぎった。
バタン。
階段への大扉が閉まる。それまでボス部屋に限界ギリギリまで張られていた緊張の糸が少し緩むのを感じた。
「…………」
然りとて、プレイヤー達の間に交わす言葉は無い。否、言葉を交わせるだけの余裕が無い。
特にシミター使いの彼は、得も言われぬ感情の渦に飲み込まれそうになり、必死にその悲しみを、憎しみを、怒りを制御しようとしているのが垣間見えた。他のディベルの隊の面々も各々に思うところがあるのだろう。ある者は俯き、黙して語らず、またある者は嗚咽と共に涙を流している。
それ以外のプレイヤー達も皆、気持ちの整理がつかないのか多種多様な行動をしている。
そして僕もまた、このままではダメだろうとユウキの手を取って動き出そうとした。……が、
「…………ユウキ?」
その手を引いても、ユウキは俯いたままで動き出そうとしない。不思議に思いその顔をのぞき込もうとして、その変化に、いや、異常に気付いた。
「っ、ユウキ!?」
「……ぁ、……ハクア……」
ユウキはその体をガタガタと震わせ、焦点の定まらない目で止め得ぬ涙を流していた。
何故気付かなかったのか不思議なほどに、少女は怯え、恐怖に囚われていた。
「……どうしたのユウキ。怖いことでもあった?」
何を馬鹿なことを。理由など分かりきっている。それでも尚関係ないと言い張ろうとする自らにお前はいつまで逃げているつもりだ、と叱責する。
「……やっぱり、……キリトのこと?」
そう聞いたとたんに、ユウキの体の震えが一際強くなる。だが、ユウキは首を横に振り自らの体を先ほどと同様に抱いた。
「…わから、ない……何も、わからないよ……ただ……」
怖い、と。何かが怖い、分からないことが怖い、──怖いことが怖いと、自分でも理解の及ばぬまま少女はただ恐怖に怯え、小さく今にも消えてしまいそうなまま呟く。
「──っ!…………取り敢えず、ここを離れよう」
今この場で、彼女の介抱をするのは難しいと言わざるを得ない。だが下に降りたとしても向かうべき場所が同じな以上、結局彼らとはち合わせる。
(となると……)
上しかないと、一瞬の躊躇いもなく、僕はユウキを連れて二層へと上がる螺旋階段へとその小さな手をつかんで歩いた。
「もう少しだけ、我慢してて」
「……ぅん……」
この場所から離しただけてどうにかなる物でも無いだろうが、それでもやらないよりはマシと思い、少女のか細い声にチクリと胸を穿たれながら、ゆっくりと、だがなるべく早く少女を階段へと連れて行く。幸いにも皆自らのことに精一杯で、ユウキと僕に気付く者は居なかった。
3
「……ユウキ、もう大丈夫?」
「……うん、大丈夫だよ……」
螺旋階段を上りきり、小高い丘の上に出た僕とユウキはそこで休息を取ることにした。モンスターの警戒も必要だが、恐らくここはモンスターの発生しない安全地帯なのだろう。モンスターが入ってくることも無い。
(……安全も確認できたしとりあえず……)
聞かねばならないだろう。図々しいのは承知している。お節介なのは火を見るより明らかだ。これはユウキだけの問題だ。部外者の自分が突っ込んでいって、どうなる物でも無い。いや、あるいは、悪化させることさえあるだろう。
だが、それでも助けたいんだ、と。
身勝手なのを理解の上で、だがそれがどうしたと。助けることに義務が無いように、助ける権利に制限など無い。身勝手というのは、お節介というのは、終わってから初めて分かる物だと、そう自らの思いを免罪符で塗り固めて、ユウキに慎重に問いかけた。
「ユウキ、……あの時、なにがあったの?」
なるべく優しく、彼女の心を傷つけないように声音を慎重に選び取りながら話しかける。
だがそれでも、ユウキの体は否応なしに震えが始まる。だから、ユウキの背中を優しくさすりながら、ユウキから答えてくれるのを静かに待った。
「…………本当に、……分からないんだ……キリトを見てたら……だんだん胸が苦しくなって、気づいたら……」
「……体が震えて、泣いていた?」
コクリと頷く。言葉少なくともユウキの言葉はちゃんと僕の耳にも届いた。ユウキ自身は分かっていないようだが、ユウキが感じていた感情は、詰まるところ……
(同情……なんだろうな……)
可哀想だと思う、程度の物ではない。彼女が大切だと思う人物が自らと同等の価値を持つように、彼女が大切にしている人間の感じる感情は彼女にとって自らのそれなのだ。
たとえば僕が嬉しいと思えば自分もそう思う。悔しいと思えば同じように自分も思い、悲しいと思えば同じように悲しいと思う。
その上に、ユウキは自らの感情も付加されるのだから、あの憎悪に対する負担は二倍になる。
なんて、なんて歪な生き方だろう。
だが、彼女はそれだけの生き方しかしてこなかったし、それ故にその生き方以外を知らないのだ。
勿論、これは全て推測に過ぎない。本当はもっと幸福な生活をしてきて、この生き方は性格のような物なのかも知れない。全てが自分の勘違いで、ただのお節介なのかも知れない。
(けど僕は、それを是とした)
なら、最後まで貫き通そう。彼女の本当が何処にあるとしても、今自分の目に見えているのは、一人のか弱い少女なのだから。
「ユウキ…………」
「……っ!?」
そっと、ユウキの体を抱きしめる。ユウキは驚いたように目を見張り、硬直した。ドクンドクンと、か細い少女の体から、鼓動の音が聞こえてくるような錯覚を感じる。体温などあるはずも無いのに、それでもほのかな暖かみを感じた気がした。
そして、ユウキの硬直が溶ける前に、ゆっくりとした声音で語りかける。
「ユウキ…………無理しなくて、良いんだ」
分かっている。ユウキは無理をしているのでは無いことを。ただそれ以外の方法を知らないだけなのだと言うことを。だが、それでも他に言うべき言葉も無かった。ユウキが例え無理をしているわけではないとしても、それでも端から見てユウキの生き方は苦しい物だ。やっている本人よりも、見ているこちらの胸が痛む。
「な……にを…………」
言ってるの、と。続ける言葉は出なくても何が言いたいかは判った。ユウキは困惑して、現状を把握しきれずにいる。僕の言葉の、半分も理解していないだろう。
なら、それはそのままで良い。わからないなら、分かるまで語りかけるのみだ。
「ユウキ……ユウキは自覚無いのかも知れないけど、君の生き方は酷く歪で、僕には、無理をしてるように見える」
「ボクが……無理をしてる……?」
「うん。ユウキさ……誰かに頼った事って、ある?」
僕のその言葉に、ユウキは少し考えてそして首を振った。
「自分から頼ったことは…………ないかも……」
頼られたことはあるけど、と。付け加える。
「……やっぱり…………ユウキ…………ちょっと、無理しすぎなんじゃないかな?ユウキにそのつもりは無いのかも知れないけど……でも現にほら、今ユウキは、こんなにも弱ってる。誰かの支えがなきゃ、立ってられないほど衰弱している」
「それ……は……………」
自分でも思う節があるのだろう。ユウキは僕の腕の中で俯き、その表情を曇らせる。
「……僕に全部任せろなんて……そんな大仰なことは言えないよ……僕だって一人の人間だ、誰かの支えが無いと生きていけない」
無責任なことは言えないんだ。それだけは分かって欲しいと前置いて、
「けど、でもさ──それでも君を……助けたいと思ったんだ」
「!!」
だが、それでも、助けると言った誓いにウソは無いのだと。正面からユウキの目を見据え、告げる。
「僕に……頼ってよ」
君を守るから。言葉にせずとも届く思いはある。そう信じてユウキの体をより一層の力を込めてその腕の中に抱く。
──無謀にも程がある。お前に何が守れる。そう内なる自らが責め立てる。何が出来る?何をしてきた?守るだけの力がお前にあるのか?────そんなこと初めから分かってるんだ。大仰だと、世迷い言だと。
助けるなんて言葉、それ相応の力を持った奴だけが告げて良い言葉だ。たかが学生に出来ることなどほとんど無い。
(でも、そんなこと関係ないんだ)
助けたいと思った。それで十分だ。後はそれを履行するために、今から力をつければ良い。──それが導き出した答えだ。
「僕には力が無い。どれだけ足搔いても、今の僕じゃこの世界から出ることは出来ない」
「…………」
「だから、せめてこれだけは約束する。────絶対に、この世界から出るまで、君を死なせはしない」
「……!」
僕には次の扉を開けるだけの力は無いから。だからせめて、誰かが空けてくれるまで君を害から護り通そう。
それが、誓いだった。自らに課した、けして外し得ぬ枷。
重荷、ではない。この小さな一輪の花を守り通すのが、自らの役目だと自然に思えた。
(恋人だとか、家族だとか、友達だとか、そんな枠組みは関係ない。大切なのは意思だ。この小さなパートナーを守り通すと誓ったのなら、それを命を賭してでもやり通すんだ!)
「ユウキ──僕を頼ってくれ」
もう一度、今度は少し強く。少女の心が揺れるのを感じた。ボロボロと、その鉄の仮面が崩れていく。笑顔の中に隠した真実が、仮面の奥から顔を覗かせる。
「……ぅ……あぁ………ひっ、ぐすっ……!」
ボロボロと泣き崩れる体を抱き留めて、ぽつりぽつりとシャツを濡らしていく涙を人差し指ですくい取る。
「ぐすっ!……ボク、ボク……うわぁぁ………!」
ユウキの涙は今まで溜めてきた物全て洗い流すように、止めどなく溢れ出る。自らでも止める術を知らないのだろう。ユウキは湧き出る衝動を自らでも抑え切れていないように思えた。
「うわぁぁぁん!!!!」
そして、大声を上げ僕の服にしがみついてくる。服をぎゅっと握りしめ、必死に耐えている感じだった。
(ユウキにとっての強さは、弱さだ)
どんなに強い武器でも仲間が居なければ烏合の衆に敵わないように、どんなに強い防具でも、攻撃する者が居なければ何も出来ないように。人に頼ると言うことをしなかったユウキの孤高な強さは、生きるという意味では弱さで、欠点だった。
(なら、それを埋めるのが……)
自分の役目だろう。誓いは成った。違えるわけにはいかない。
「うくっ、あぁぁ!!うぁぁ………!!!」
ユウキの嗚咽は留まるところを知らない。数秒後には乾く筈の涙の後が、その量故に中々乾かない。
「……うん……溜め込んだもの、全部吐き出して。僕の服は気にしなくて良いから」
ユウキの涙は、そのまま流れ続けた。それでも数分のことではあったが、とても長く感じられた。
「……ごめんね…………」
それから少しして、泣き止んだユウキがそう謝ってきた。
「何が?」
何を謝られているのか分からずにそのまま聞き返す。
「服汚しちゃったこと……それと……」
ユウキはそこで口をつぐんだ。だが、言おうとしたことは何となく分かる。
「……うん、服のこともそうだけど、ユウキが気に病む必要は無いよ。これは僕がやりたくてやったことだ」
「でも!!」
「……辛いんだよ。誰かが苦しんでいるのを間近で見るのは……もう見たくないんだ」
「!……」
僕の言葉に、表情に何かを言いかけたユウキは口をつぐむ。それに何も言わずに笑いかけて、そしてまた、ユウキに向き直る。
「改めて、これからもよろしくね。……僕の手の届く範囲で、君を護る」
最初、ホルンカで会ったときのように、ユウキに右手を差し出す。最初は躊躇っていたユウキも、最後には笑顔でその手を取った。
「……うん、ありがとう…………よろしくね」
そしてまた握手が、そして誓いが交わされる。
その瞬間──
「あっ、あれ……」
ユウキが、二層の主街区の方を指す。その街の門はここからでも見えるほど、眩い光を放っていた。
「あれは……
二人で、小高い丘の上。一層へ続く階段の門を背にその光を見つめる。
それはまるで、新たな冒険の幕開けを予兆するかのような、荘厳な風景だった。
おそらく、前後で話がほとんど別物、だとかユウキからの流れが唐突、だとかユウキが何であそこまで怯えていたのかが分からない、などと言った不満があるだろうと思います。私もです(汗)
ただ私の文章力ではこれが限界なのです……この話はいずれ重要になってくる(かもしれない)ので、取り敢えず今回だけは、細かいことは流しておいて楽しんでくれると嬉しいです。