花は色づき落ちてゆく 作:馮河
「……ちょっと
「聞いてる聞いてる」
「嘘。絶対聞いてなかったでしょ」
「聞いてなかったら電話切ってるわよ」
「……」
「ほんと、変わらないわね
「なにそれ、褒めてくれてるの?」
「半分」
「半分って」
「恋の悩み、なんて女子高生みたいで若々しいなと思ってね」
「若々しいって、私たちまだ21じゃん」
「ふふ……こないだ弟の友達が来ててね、ちょうどこんな会話してたと思って」
「ちょっと、それって私たちが子供だって言いたいの?」
「あら、珍しく分かってるじゃない。私たちは余計だけど」
「遊ちゃんの弟って確か小学生の……」
「今年で17よ」
「えええっ、17?17って、高校生?」
「そう今度の4月で2年よ」
「そ、そうなんだ」
「あんたの記憶じゃ小学生どまりでしょうけど」
「う、うん、確か
「そ。いっちょまえに恋愛相談してたわよ」
「へー、彼女いるんだ?」
「さあ、知らない」
「随分あいまいな返事ね」
「こないだ実家帰ったときに隣の部屋からちょろっと会話が聞こえてきただけから」
「そっか。源君もそんな歳なんだねぇ」
「ふふ、おばさんみたい」
「ちょっと、おばさんって失礼……」
「ふふ、はいはい、で?」
「あーやっぱり聞いてなかったんでしょ?」
「もう、いいじゃないそれは」
「だから
「ごめん、やっぱ聞いたわ」
「絶対絶対浮気だよね?ね?」
「あーはいはい」
「あ、ちょっとちょっと遊ちゃん聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「……」
「ふふ、このままじゃ埒があかないわね」
「うう、からかってるの?」
「加藤のやつ、問い詰めてやんなさい」
「だってもし別れる事になっちゃったら」
「それはそれで仕方ない。諦めなさい」
「む、無理だよ、もうお母さんにも話してあるんだよ?私とその……」
「えっ、あんたらもうそこまでいってんの?まさか結婚?」
「へっ……?違うよ!結婚とかそういうのじゃなくて」
「ふふ、相変わらずね」
「も、もう!面白がってるでしょ」
「でも、あの学年一の秀才で堅物で生真面目な加藤が浮気、ねぇ……」
「でしょ?考えられないよね?」
「まあね、でも理由も聞いてないのに浮気って決めつけるのは良くないよ」
「そうだよね……どうしよう」
「ふふふ、ホント変わらなくて安心するわ」
「もう、面白がってるんでしょ?」
「いやいや、うじうじは相変わらず治ってないなあって、ふふ」
「やっぱり面白がってる……」
「あはは、ごめんごめん」
「……もう」
「椿」
「……」
「加藤、逃がしたくないんでしょ」
「…………うん」
「じゃあ、理由ちゃんと問いただしなさい」
「でも」
「でもじゃなくて」
「うっ」
「あんたは根が優しすぎるからダメなのよ、もっと当たって砕けるぐらいぶつからないと、結婚なんてきっともっと大変よ」
「けっ、結婚ってそんな……遊ちゃん、気が早いよ」
「恋人に隠し事はない。そうなんでしょ?」
「え、なんで遊ちゃん知ってるの?」
「……あんたが散々言いふらしてたわよ、彰一君がそう言ってくれたのーってね」
「えぇ、そうだったっけ、あはは」
加藤彰一。その人が私の恋人。
告白されたのは高校3年生の春。
『ずっと好きでした』
塾帰り、突然の告白だった。
私が通っていた高校は県内でも1,2を争う進学校で、その中でも成績上位の人だった。
大人しい印象しかなかったけど祖父に相談したら笑顔で
『僕は紀乃さんが好きだった。だから一緒になったんだ。
大切なのは自分の気持ち。椿の気持ちはどうなんだい?』
そう言われた。
その後は祖父のひたすらのろけ話を聞かされたけど。
私の気持ち。
そう言われても気持ちを持つ、持たない以前に、あの時の私は彼のことをよく知らなかったし、告白されていなければ多分ずっと無関心のままだっただろう。
だから告白を保留にして、彼のことをよく観察して気持ちを生み出そうとした。
そういえば、去年も同じクラスだった。
意外と背が高いなとか、友達同士だとあんな風に笑うんだなとか。
観察しているうちに彼の横顔が少しだけわかった。
クラスで目立った存在ではないけれど穏やかで利発な彼は意外と人気がある、と遊ちゃんから聞かされた。
けれど、決心したのは遊ちゃんの一言から。
『加藤、医大目指してるんだって』
その言葉を聞いた日の夕方。
私は彼に返事をした。
『私も好き……てす』
そう、嘘をついた。