花は色づき落ちてゆく   作:馮河

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Page.3 花の蕾

『彼』に初めて会ったのは私が中学2年生の時。

 

 彼は小学生で、友達の弟で、小さくて無口な子。

 

 そんな印象しか無かった。

 

 最後に会ったのはもう随分前だ。

 

 

 

「おっきくなったねぇ」

 

「椿さんはあまり変わらないですね」

 

「えっと、それっていい意味で?」

 

「もちろんです」

 

 そう言うと彼がニコッと笑った。

 

 

「……」

 

「椿さん?」

 

「……はっ!」

 

 こんなことで何ときめいてるの私。

 

 相手は年下で、遊ちゃんの弟さんなんだから。

 

「ううん、何でもないの……何で源君がここに?」

 

「実は姉に呼ばれて」

 

「えっ、そうなの」

 

 

 

 私が来るって知っていて源君を呼んだ?

 

 いや、約束したのは昨日の昼だ。

 

 遊ちゃんは何で今日に指定したんだろう。

 

 源君を今日呼んでいるなら鉢合わせることも予測できるはず。

 

 あの遊ちゃんの事だ。なにも考えてえない訳がない。

 

 

 

「はい。聞いてませんでした?」

 

「聞いてないよ、というか、服着て……下さい」

 

「あ、ほんとだ」

 

「もう、着てないこと気づいて無かったの?」

 

「……ふふ」

 

「な、何?」

 

「何でもないです」

 

「その笑い方、私を馬鹿にしてるでしょ」

 

「違いますよ」

 

「遊ちゃんと同じだもん。分かるよ」

 

「ははっ、さすがに服着てないことぐらい気づきますって」

 

 

 

 そう言い残すと、彼は私の腕を放して踵を返した。

 

 

「姉弟揃って私をからかうんだから」

 

 

 掴まれていた手首がじんじんと痛む。

 

 17歳……若いな。

 

 私が彰一さんに出会った歳。

 

 まだ恋に憧れていた歳。

 

 あの頃の私は、どんなだったかな。

 

 ちゃんと笑えていたかな。

 

 大きくなった源君の背中を見ながら、そんなことをふと考えた。

 

 

 

 

「……椿さん?」

 

「あ、ごめんなに?」

 

「ブラックコーヒーって大丈夫ですか」

 

「うん」

 

「良かった、クリープ切らしているみたいで」

 

「遊ちゃんコーヒー好きだよね」

 

「僕も好きです」

 

「そうなんだ、やっぱり姉弟だからかな」

 

「ははっ、好みぐらいしか似てないですけどね」

 

 

「似てるよ」

 

 

「えっ?」

 

「何でもない、ごめん」

 

「そうですか?変だな椿さん、ははっ」

 

 

 似ている。

 

 笑い方だけじゃない。

 

 コーヒーを淹れる仕草も。

 

 纏っている空気も。

 

 最後に会ったのはもう何年も前のはずなのに。

 

 居心地がとても良く感じる。

 

 恐るべし、宮田家。

 

 

「……あ、そうだ遊ちゃんに頼まれた事って何なの?」

 

「モデルです」

 

「それって今度のフォトコンの?」

 

「それが急に呼ばれたんで、俺もよく分からないんです」

 

「遊ちゃんらしいね」

 

「あんたにモデル頼みたいんだけど東京来てって、ほんと人使い荒いですよ」

 

 

「……その連絡いつ来たか分かる?」

 

「多分夜の7時頃です」

 

「7時……」

 

「どうしたんですか、考え込んで」

 

「いや、まさかね……」

 

 

 

 源君が何かを言おうとしたその時、玄関の扉が勢いよく開いた。

 

 

 

「ただいま、源と椿いるわね」

 

 

 

「遊ちゃん、ちょっとどういうことなの」

 

「あーごめん、説明は後でするから」

 

「遊……」

 

「源ファインダー持ってきて、椿なにぼけっとしてんの行くわよ」

 

「行くってどこに……」

 

 

 

 遊ちゃんが妖しく笑った気がした。

 

 

「いーとこ」

 

 

 怪しい人には付いて行きたくないんですけど。

 

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